第五十七話 魔導剣士ロイ、試し、試される ―前編―
ハイプライド邸の一角にある書斎に、俺ら、卿、副騎士団長、そしてクッコロさんが集まっていた。
「卿、失礼ながら、これは......? 私の予想していた模擬戦と、ずいぶん異なるようですが」
「これから始めるのは、戦略眼を見るためのものだよ。ロイ君、君らの中に、兵法を学んだ者は?」
一同を見回すが、皆、首を横に振る。
「自分も含めて、心得はありません」
「ならば結構、ちょうどいい。クッコロの戦略が、素人以下であるかどうか。それを測ろうと思う。君には、失礼な話になってしまうが」
「いえ、実際素人でありますから」
まあ、事前に話を通しておいてくれと思わなくはないが、元はといえば、急に模擬戦とか言いだしたの、俺だしな。
「では......」
おお。作戦会議に使う、赤と青の凸駒。実物は初めて見たぞ。それが、地図の上に置かれていく。
「地図は、王都西の森林地帯。赤軍のロイ君が、地図のこちら側......王都側に到達したら、クッコロの負けとする。駒一つが、兵五百。両軍一万ずつとしてくれ。季節は九月。天候は、晴れ。条件は以上。始めてくれ」
いやはや、なんとも。
「父上、ロイ軍はまだ動かぬ様子。サロス山に登り、陣を張ります。まず、高所を取るのが定石です」
「ふむ」
王都への街道沿いにある山に陣取るクッコロさん。その表情からは、卿がそれをどう受け取ったのか、伺いしれない。
「卿。我らの目的は、王都を奪うことでしょうか。破壊することでしょうか」
「破壊、と考えてくれたまえ」
「ならば、少数の斥候を走らせ、アロナの泉に毒を流します」
クッコロさんが陣を張った山の麓に、駒を一つ動かす。
「なっ!? 毒だと! 汚いぞ、ロイ君!!」
「そういう設定ですから。いかがでしょう、卿」
「うむ。全く問題ない。クッコロ、これでお前の兵五百は倒れ、日干しになった。どうする?」
卿が、青い駒を一つ取り除く。唸るクッコロさん。
「かような卑劣な行いをする相手に、待つ必要などなし! 全軍、突撃です!」
一気に、青駒が動く。
「敵の動きは、わかるものでしょうか」
「約一万の軍だからな。わかる」
「ならば、左右の森の、こことここに、兵五百ずつを先行させ、伏兵として配置します。本隊はゆっくりと進軍を。さらに、足の速い者で編成した特殊部隊五百を、森に隠れさせつつ、回り込ませます」
赤駒を、動かす。
「父上。それはわかりますか?」
「わからぬだろうな。赤軍の伏兵も、特殊部隊も、絶妙に数が少ない。難しいだろうな」
「むう......ならば突撃です!」
やむなく、駒を進めるクッコロさん。
「今です! 三方向から挟撃! さらに、特殊部隊で、後方の補給部隊を襲撃します!」
「ふむ。そこまでだな。赤軍、ロイ君の勝ちだ」
「くっ......!」
悔しさを隠さない、クッコロさん。
「ロイ君、兵法素人というが、筋がいいな」
「いえ。目的が王都破壊だからこそ、毒からの流れはできたことですよ。それより、これはあくまでも前座でございましょう?」
「うむ。クッコロには、このあと、実際の模擬戦をしてもらう。合否はそれ次第だ」
「クッコロさん、頑張れ」と、心の中でエールを送る。
「では、訓練場に向かおう」
かくして、我々は王城に隣接する訓練場へと向かうこととなった。
◆ ◆ ◆
おうおう。広~い場で、騎士や兵士たちが、鍛錬に勤しんでいるな。
「注目! 兵士はこちらへ! 騎士たちは、そのまま訓練を!」
副騎士団長の号令で、兵士たちが駆けてくる。
「整列! ......これより諸君らには、二手に分かれて模擬戦をやってもらう! 私より左の者は、ダディーノ様、右の者は、クッコロ様の指揮下で戦ってもらう。作戦時間は、太陽が真上に来るときまで! 以上!」
兵士たちから、ざわめきが起こる。特に、右軍。クッコロさん、一般兵士の間でも、腕前の評判は悪いようだ。
それぞれ円陣を組んでいるところに、左軍には赤、右軍には青の布が回されていき、各自それを身につける。
そこで、思いつきを口にした。