ホーム›私の幸せなインテリア・パレット›第10話 スクール・レイアウト(1)
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第10話 スクール・レイアウト(1)

 あたしは自分で描いた紙を見て、頷いた。

「素晴らしい! これぞ!」

 紙を広げる。

「マイ・ガーデン!」

 美しい理想の庭が描かれている。

(昨日ジョーイさんから頂いたお金で種を買って、色んな薬草を育てよう! それに、観葉植物も購入したい!)

 あたしがお財布を見ていると、後ろからイヴリンが覗き込んできた。

「出かけるのか?」
「うわ! びっくりした!」
「ふふ、お前が財布を覗いてるなんて、珍しいと思って、つい」

 イヴリンがあたしを抱きしめ、頬にキスをしてきた。......でへへ!! 顔がにやけちゃうじゃーん!

「うん。観葉植物と種を買いに行こうと思って。そろそろリビングも完成させないと」
「ルセ・ ルートに行くなら、途中まで乗せていこうか?」
「え、行くの?」
「今日の現場の通り道だ」
「えー! それなら......あの!」

 振り返り、イヴリンに首を傾げる。

「甘えても......いい?」

 イヴリンが胸を押さえて跪いた。ぐはぁ!

「上目遣い!!」
「イヴ! 大丈夫!? 急にどうしたの!? 胸が痛いの!?」
「ああ......昔からの発作が出たようだ......。お前が優しく抱きしめて、頭を撫でてくれたら治るかもしれない」
「イヴ! イヴ! しっかりして! うわーん! イヴー!」

 というわけで、イヴリンを迎えに来た馬車でルセ・ルートの入口まで送ってもらった。馬車の中で、イヴリンにキスをする。

「ありがとう。イヴ......♡」
「感謝を言いたいのはわたくしの方だ。お前がいてくれたお陰で、とても有意義な時間だった。これはその感謝の印」
「ん?」

 イヴリンから......金貨を貰い、顔を青く染めたあたしは首を振った。

「イヴ、イヴ、あたし何か悪い事した......?」
「買い物をするのだろう? 足りなかったらどうする」
「盗まれたらどうするの!」
「犯人を捕まえる」
「......あ、はい......」
「お小遣いだ」

 イヴリンが優しい笑みを浮かべ、あたしの頬を撫でる。

「折角だ。美味しいランチでも食べると良い」
「何から何までごめんね......? あたしのために......」
「パレイ、......謝罪は、自分に非がある時に使うと言っただろ?」
「だけど......あたし、ずっとイヴに頼りっぱなしで......」
「わたくしがしたくてしている。金の管理もわたくしの方できちんとして、無理のない範囲で渡しているだけのこと。だから......お前はなんというべきだ?」
「......ありがとう。イヴ」

 愛を込めてイヴリンを抱きしめる。

「大好きだよ」
「わたくしも愛してる」
「......今月のお小遣いとして頂いておくね。絶対、無駄遣いしないようにするから!」
「パレイ、貴族だったお前ならわかるはずだ。金というのは無駄遣いしてこそ経済が回る。わたくしには資産がありすぎる。だが使う暇が無い。......お前が代わりに使ってくれ」
「......今度デートしたい」
「ああ。時間を作ろう」
「愛してる。イヴ」

 これ以上いたら、下りれなくなる。最後にもう一度キスをして、馬車から下りる。そして、馬車がいなくなるまで見送った。

(せっかく貰ったし、経済回すためにも使っちゃおう。よーし!)

 走り出す。

(思う存分、種見るぞー!)

 あたしは目をつけていた雑貨屋に入って、種のコーナーを眺める。良いのがあったら購入する。また別の雑貨屋に入り、また購入し、また別の店に入っては、種を買う。他の店にも入ってみた。あ! 何あれ! 観葉植物の苗がある!

「すみません、この苗と......ジョウロくださいな!」

 あたしは大きな紙袋を持ち、よたよたと道を歩く。

(はーあ! 買い物しすぎちゃった! でも満足! ......ん?)

 あたしはドレスショップ――の隣りにある家具屋のショーウィンドウから見えた、ショールームに釘付けになった。

(きゃあああ! 何あれーー!!)

 ショーウィンドウにべったりくっつき、家具の置かれた参考部屋を眺める。

(綺麗なリビング! あのソファー素敵! あ! ああいう棚もありかも! なるほどなるほど〜! そういう手があるのかぁ!)
「......ん?」

 中にいた男があたしを見て、ビクッ! と肩を揺らした。そして、大股で出入口まで歩き、扉を開けてあたしに向かって怒鳴ってきた。

「おい! 冷やかしなら帰りやがれ! 商売の邪魔すんな!」
「ひゃあ! ごめんなさい! ショールームが素敵で、つい!」
「お......おお、そうか? あれは......俺が設置したんだ」
「えー! そうなんですか! 素敵ですね!」
「ま、まぁな!」

 男が大きく扉を開けた。

「何だったら見ていくかい? サービスするぜ」
「まあ、なんて親切な方! ぜひお願いしますわ!」

 あたしは言われるがままに家具屋に入り、ショールームを眺めた。ゆったりしたい人のために造られた参考部屋。ソファーに触れてみる。......ああ、これもいい......。

「このソファーはうちの商品だ! 今ならこの金額!」
(あー、良い値段するなぁ......。......ん?)

 あたしは値札が貼られた額縁の絵を見る。

「これは......」
「お! 嬢ちゃん! お目が高い! この絵は世界一の画家! クローディアの作品だ!」
(偽物だな......)
「オークションで買い取ったんだ!」
(そうだよなぁ......。わからないよなぁ......。明らかに塗り方が違うんだけど......わかんないよなぁ......)
「これはいつなくなるかわからない代物なんだ! 気に入ったならすぐ買った方がいいぜ!?」
(いくら経済を回したくても、これを買ったらクローディア様と仲の良いイヴに愛想つかされそう......)

 ――外に町の人々が歩いている中、リュックを背負ったダンが歩く。

「あーあ! 今日こそ学校行かなきゃ先生に怒られちまう! でも、パレットといる方がずっと勉強になるんだよな。あいつ、間の抜けた顔してるくせに、意外と何でも知ってるし」

 チラッ、と家具屋を見る。

「ぼったくり家具屋よりも、ずっと優良店だぜ。パレットは」

 そのまま家具屋を通り過ぎるが――すぐに戻ってくる。

「なんか今見えたな?」

 ショーウィンドウから中を覗くと、見覚えのある女がいた。

「おいおいおい! あいつ! ぼったくり家具屋と仲良く話してやがる!」
「この棚素敵ですね」
「お目が高い! 今日の目玉商品さ!」
(でも、これ釘が緩い。すぐ壊れそう。......合成すればいい感じになるかも......)
「目玉商品だからこの価格だ!」
「あー......いい値段......」
「目玉商品だからな!」
「ただのぼったくりだ!!」

 あたしと店主が振り返ると、扉を開けたダンが立っていた。その顔を見て、店主が怒り顔に切り替わる。

「げっ! またテメェか! ダン!」
「あ、ダンだ。おはよー」
「パレット! この店は入っちゃ駄目だよ! ただのぼったくり店で、すぐ壊れるものを高い値段で売ってるだけなんだから!」
「うるせえ! クソガキ! 客じゃねえ客は帰りやがれ!」
「こんな商売してるクソ野郎に何も言われたくないね! 出るぞ! パレット!」
(あー、でもあの棚の形、素敵......)

 ダンに引っ張られ、店から出される。店に出る前に、店主が舌打ちする音が聞こえた。そこから公園の前まで歩き、ようやくダンが止まった。

「ここまで来りゃ大丈夫だ!」
「ダンが前に言ってた家具屋さんって、あそこのこと?」
「そうだよ。ここらへんじゃ有名なぼったくり店だ。町に引っ越してきて間もない奴らを狙って商売してるんだ。嫌な奴だよ」
「よく潰れないね」
「仕方ねえさ。この町には家具屋があそこしかないんだ。だから知ってる皆は南の町のT.Rデジタルか、北の町のロペまで行って買い揃えるのさ。もしくは、大工に頼んでオーダーメードしてもらうか、自分で作るか」
「誰かやればいいのに」
「あのぼったくり店に酷い嫌がらせされるから、結局みんな辞めて、町を出ていく」
「そんなことするの?」
「そこまでして金がほしいんだろ」
「あれま。大変だ」
「あ! やっべ! 学校遅刻しちまう!」
「え? 学校?」
「ずっとサボってたから今日こそ行かないとケツ叩かれちまう! じゃあな! パレット!」

 走り出したダンのリュックから、巾着袋が落ちた。

(あ、落とし物)
「ダン、なんか落とし......」
「うおー! やっべー!」
「あれま、大変だ」

 あたしは袋を抱えたまま巾着袋を拾い、ダンを追いかける。

「ダン〜」
「うおー!」
(あれ、あそこが学校かな?)

 一階建ての小さな建物に、ダンが全力疾走で走り入った。古い時計が鐘を鳴らす。

「はあ! やべえ! ギリギリセーフ!」
「あ! 来たな! ダン!」
「今日もサボると思ったぜ!」
「後ろの姉ちゃん誰?」
「は?」

 ダンが振り返ったと同時に、巾着袋を差し出した。驚いたダンが後ろに倒れる。

「うぎゃあ!」
「落としたよー?」
「お前、なんでここまでついてきてるんだよ!」
「いや、だって、ダンが巾着袋落としたから!」
「ちょっと、みんな、何騒いでるの」

 眼鏡をかけた若い女性の先生が廊下を歩いてきて、あたしを見て、きょとんとする。

「あら、お見かけしない方ですが......保護者の方ですか?」
「あ、いえ、ダンの友達です」
「先生! 俺悪くないから!」
「ダンが巾着袋落として、届けに来たんです」
「まあ、そうでしたか!」

 先生がダンを見た。

「ダン、お礼は言ったの?」
「いいよ、こいつとは毎日会ってるんだから」
「ダン?」
「......ありがとう」
(すごい! ダンを言い聞かせた!)
「あなた......この町の人?」

 先生に訊かれ、あたしは首を振る。

「最近、町の外れに引っ越してきたんです。パレットです」
「ローラです。どうぞよろしく。年齢は?」
「19」
「年齢が近いと思った! 私は20。嬉しいわ!」
「ひぇ! 20歳で先生!?」
「この町は田舎だもの。子供が少なくて、人手も少ない。良かったら見学していく?」
「え、でも......関係者でもないのに?」
「ダンの友達なんでしょ? 1時間くらい見ていけば?」
「えー! それなら! ぜひ!」
「ちょっと待った! 勝手に決めんなよ!」

 ダンがふんぞり返ってローラを睨んだ。

「そんなの駄目だよ! パレットはもう大人なんだから、授業を受けなくたって平気だろ!」
「先生だってたまには助手がほしいの。それに、ダンの友達だって言うし。関係者でしょ?」
「関係者じゃ......確かにそう考えたら関係者だ......」
「席に座りなさい」
「はーい!」

 教室の後ろに椅子を置き、そこに座って見学する。うわー! 子供の教室だー! すごーい!

「それでは授業を始めますよ。みんな、教科書を開いて」

 みんな教科書を開いて、今日勉強するところを眺める。後ろの席に座っていた少女がチラッとあたしを見たと思ったら、椅子をあたしの隣に引き、教科書を見せてくれた。あたしは声を潜めてお礼を言う。

「ありがとう。あたしはパレット。貴女は?」
「マリア」
「マリア。可愛い名前」
「パレットはダンの彼女なの?」
「まさか。ただの友達だよ」
「良かった。私、ダンが好きなの」
「え、ダンが好みなの?」
「だって、かっこいいんだもん」

 頬を赤く染め、輝く瞳でダンを見つめる彼女は――何も知らず、純粋に真っ直ぐクリス様に恋をしていた......あたしのようだ。

「実るといいね」
「応援してくれる?」
「もちろん。ダンにマリアをPRしておく」
「PRってなに?」
「マリアの良いところを伝えるってこと」
「本当? じゃあ私がんばる!」
「そこ、居眠りしない!」

 ローラが寝ていた少年の頭を教科書で叩いた。

「問1答えられる人いる? はい、手を挙げて」
「ダン、お前行けよ。サボってたんだから」
「嫌だよ!」
「こら、お喋りしない。ダン。答えてごらん」
「なんで俺なんだよ!」
「そうね。最近学校をサボってたから?」
「これだから正義の味方は辛いぜ!」

 ダンが黒板の前に立ち、12×6を前に悩み出す。えーと、6×9が54だから......えっと......10で......60だから......そこから......6を足して......足して......うーん......。

「83?」
「残念」
「わかんねーよ」

 ダンがあたしに振り返った。

「パレット、わかる?」
「計算式使いなよ」
「なんだよ。計算式って」
「あのねー」

 あたしはマリアの背中をトントンと叩くと、マリアがはっとして立ち上がった。

「私、わかるよ!」

 ダンの隣に移動し、チョークで計算式を書いていく。

「あのね、ダン、6と2を掛けて、12でしょ? それと、6と1を掛けたら6。だから、72」
「あー、すげー」
「わかんなくなったら、計算式だよ」
「マリアは頭いいな。ありがとう。助かったよ」

 お、ダン。今のは好感度上がるぞ!? マリアが目をキラキラさせてあたしを見てきた。ああ、子供の恋する姿はとても微笑ましい。

(ただ......気になるな)

 机の角が、尖ってる。

(危なくない?)
「じゃあ10分あげるから、問2から問5まで解いてみて」
「10分じゃ足りないよ!」
「先生の鬼!」
「計算するだけでしょ! ゆっくりやっても5分で終わるから!」
(あの机だと、拾い物して頭上げた時に、怪我しちゃうよ)
「うちの教室はどう?」

 ローラがあたしに声をかけてきた。

「賑やかでしょ」
「見ててすごく楽しいです」
「ああ、敬語はいいわ。一つしか変わらないし」
「それなら......ねえ、ローラ。ちょっといいかな?」
「ん? ええ。少しなら」

 ローラと共に教室を出て、廊下で話す。

「机なんだけど、角があるでしょ? あれ、怪我とか大丈夫?」
「なるべく気をつけてはいるけど、やっぱり危ないわよね。テープを貼り付けて丸くしたり工夫はしてるんだけど、子供たちがふざけて剥がしちゃうのよ」
「他に机があると思うんだけど、予算の問題?」
「それがね、あの机、最近買い替えたのよ。校長先生がカタログを見て、家具屋から仕入れたんだけど、届いたらカタログと違って......」
「あー......」
「屁理屈言われて、返品出来なかったみたいで......予算が用意できるまで使ってくれって言われたけど、でも、あれで頭打って怪我した子たちは何人もいるの」
「んー......」
「ごめんなさい。そろそろ戻らないと」
「ローラ」

 ローラが振り返る。

「人数分、机を用意出来るとしたら、してもいいかな?」
「......それは......もちろん、助かるけど......机って高いのよ?」
「この教室の子供の人数は何人?」
「12人よ」
「12人ね。わかった」

 ローラが教室に戻った。

「放課後にまた来るね」

 呟いてから、あたしは廊下を歩き出す。――窓からダンが覗き込んだ。

「......。先生! 俺! なんかお腹痛くなってきたから、早退する!」
「え? ちょ、ちょっと!」

 リュックを背負い、ダンが教室から走り去った。

「こら! ダン!」

 マリアが眉を下げて振り向く中、ダンが廊下を全力疾走で掛けていく。
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私の幸せなインテリア・パレット作者:石狩なべ
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第10話 スクール・レイアウト(1)

 あたしは自分で描いた紙を見て、頷いた。

「素晴らしい! これぞ!」

 紙を広げる。

「マイ・ガーデン!」

 美しい理想の庭が描かれている。

(昨日ジョーイさんから頂いたお金で種を買って、色んな薬草を育てよう! それに、観葉植物も購入したい!)

 あたしがお財布を見ていると、後ろからイヴリンが覗き込んできた。

「出かけるのか?」
「うわ! びっくりした!」
「ふふ、お前が財布を覗いてるなんて、珍しいと思って、つい」

 イヴリンがあたしを抱きしめ、頬にキスをしてきた。......でへへ!! 顔がにやけちゃうじゃーん!

「うん。観葉植物と種を買いに行こうと思って。そろそろリビングも完成させないと」
「ルセ・ ルートに行くなら、途中まで乗せていこうか?」
「え、行くの?」
「今日の現場の通り道だ」
「えー! それなら......あの!」

 振り返り、イヴリンに首を傾げる。

「甘えても......いい?」

 イヴリンが胸を押さえて跪いた。ぐはぁ!

「上目遣い!!」
「イヴ! 大丈夫!? 急にどうしたの!? 胸が痛いの!?」
「ああ......昔からの発作が出たようだ......。お前が優しく抱きしめて、頭を撫でてくれたら治るかもしれない」
「イヴ! イヴ! しっかりして! うわーん! イヴー!」

 というわけで、イヴリンを迎えに来た馬車でルセ・ルートの入口まで送ってもらった。馬車の中で、イヴリンにキスをする。

「ありがとう。イヴ......♡」
「感謝を言いたいのはわたくしの方だ。お前がいてくれたお陰で、とても有意義な時間だった。これはその感謝の印」
「ん?」

 イヴリンから......金貨を貰い、顔を青く染めたあたしは首を振った。

「イヴ、イヴ、あたし何か悪い事した......?」
「買い物をするのだろう? 足りなかったらどうする」
「盗まれたらどうするの!」
「犯人を捕まえる」
「......あ、はい......」
「お小遣いだ」

 イヴリンが優しい笑みを浮かべ、あたしの頬を撫でる。

「折角だ。美味しいランチでも食べると良い」
「何から何までごめんね......? あたしのために......」
「パレイ、......謝罪は、自分に非がある時に使うと言っただろ?」
「だけど......あたし、ずっとイヴに頼りっぱなしで......」
「わたくしがしたくてしている。金の管理もわたくしの方できちんとして、無理のない範囲で渡しているだけのこと。だから......お前はなんというべきだ?」
「......ありがとう。イヴ」

 愛を込めてイヴリンを抱きしめる。

「大好きだよ」
「わたくしも愛してる」
「......今月のお小遣いとして頂いておくね。絶対、無駄遣いしないようにするから!」
「パレイ、貴族だったお前ならわかるはずだ。金というのは無駄遣いしてこそ経済が回る。わたくしには資産がありすぎる。だが使う暇が無い。......お前が代わりに使ってくれ」
「......今度デートしたい」
「ああ。時間を作ろう」
「愛してる。イヴ」

 これ以上いたら、下りれなくなる。最後にもう一度キスをして、馬車から下りる。そして、馬車がいなくなるまで見送った。

(せっかく貰ったし、経済回すためにも使っちゃおう。よーし!)

 走り出す。

(思う存分、種見るぞー!)

 あたしは目をつけていた雑貨屋に入って、種のコーナーを眺める。良いのがあったら購入する。また別の雑貨屋に入り、また購入し、また別の店に入っては、種を買う。他の店にも入ってみた。あ! 何あれ! 観葉植物の苗がある!

「すみません、この苗と......ジョウロくださいな!」

 あたしは大きな紙袋を持ち、よたよたと道を歩く。

(はーあ! 買い物しすぎちゃった! でも満足! ......ん?)

 あたしはドレスショップ――の隣りにある家具屋のショーウィンドウから見えた、ショールームに釘付けになった。

(きゃあああ! 何あれーー!!)

 ショーウィンドウにべったりくっつき、家具の置かれた参考部屋を眺める。

(綺麗なリビング! あのソファー素敵! あ! ああいう棚もありかも! なるほどなるほど〜! そういう手があるのかぁ!)
「......ん?」

 中にいた男があたしを見て、ビクッ! と肩を揺らした。そして、大股で出入口まで歩き、扉を開けてあたしに向かって怒鳴ってきた。

「おい! 冷やかしなら帰りやがれ! 商売の邪魔すんな!」
「ひゃあ! ごめんなさい! ショールームが素敵で、つい!」
「お......おお、そうか? あれは......俺が設置したんだ」
「えー! そうなんですか! 素敵ですね!」
「ま、まぁな!」

 男が大きく扉を開けた。

「何だったら見ていくかい? サービスするぜ」
「まあ、なんて親切な方! ぜひお願いしますわ!」

 あたしは言われるがままに家具屋に入り、ショールームを眺めた。ゆったりしたい人のために造られた参考部屋。ソファーに触れてみる。......ああ、これもいい......。

「このソファーはうちの商品だ! 今ならこの金額!」
(あー、良い値段するなぁ......。......ん?)

 あたしは値札が貼られた額縁の絵を見る。

「これは......」
「お! 嬢ちゃん! お目が高い! この絵は世界一の画家! クローディアの作品だ!」
(偽物だな......)
「オークションで買い取ったんだ!」
(そうだよなぁ......。わからないよなぁ......。明らかに塗り方が違うんだけど......わかんないよなぁ......)
「これはいつなくなるかわからない代物なんだ! 気に入ったならすぐ買った方がいいぜ!?」
(いくら経済を回したくても、これを買ったらクローディア様と仲の良いイヴに愛想つかされそう......)

 ――外に町の人々が歩いている中、リュックを背負ったダンが歩く。

「あーあ! 今日こそ学校行かなきゃ先生に怒られちまう! でも、パレットといる方がずっと勉強になるんだよな。あいつ、間の抜けた顔してるくせに、意外と何でも知ってるし」

 チラッ、と家具屋を見る。

「ぼったくり家具屋よりも、ずっと優良店だぜ。パレットは」

 そのまま家具屋を通り過ぎるが――すぐに戻ってくる。

「なんか今見えたな?」

 ショーウィンドウから中を覗くと、見覚えのある女がいた。

「おいおいおい! あいつ! ぼったくり家具屋と仲良く話してやがる!」
「この棚素敵ですね」
「お目が高い! 今日の目玉商品さ!」
(でも、これ釘が緩い。すぐ壊れそう。......合成すればいい感じになるかも......)
「目玉商品だからこの価格だ!」
「あー......いい値段......」
「目玉商品だからな!」
「ただのぼったくりだ!!」

 あたしと店主が振り返ると、扉を開けたダンが立っていた。その顔を見て、店主が怒り顔に切り替わる。

「げっ! またテメェか! ダン!」
「あ、ダンだ。おはよー」
「パレット! この店は入っちゃ駄目だよ! ただのぼったくり店で、すぐ壊れるものを高い値段で売ってるだけなんだから!」
「うるせえ! クソガキ! 客じゃねえ客は帰りやがれ!」
「こんな商売してるクソ野郎に何も言われたくないね! 出るぞ! パレット!」
(あー、でもあの棚の形、素敵......)

 ダンに引っ張られ、店から出される。店に出る前に、店主が舌打ちする音が聞こえた。そこから公園の前まで歩き、ようやくダンが止まった。

「ここまで来りゃ大丈夫だ!」
「ダンが前に言ってた家具屋さんって、あそこのこと?」
「そうだよ。ここらへんじゃ有名なぼったくり店だ。町に引っ越してきて間もない奴らを狙って商売してるんだ。嫌な奴だよ」
「よく潰れないね」
「仕方ねえさ。この町には家具屋があそこしかないんだ。だから知ってる皆は南の町のT.Rデジタルか、北の町のロペまで行って買い揃えるのさ。もしくは、大工に頼んでオーダーメードしてもらうか、自分で作るか」
「誰かやればいいのに」
「あのぼったくり店に酷い嫌がらせされるから、結局みんな辞めて、町を出ていく」
「そんなことするの?」
「そこまでして金がほしいんだろ」
「あれま。大変だ」
「あ! やっべ! 学校遅刻しちまう!」
「え? 学校?」
「ずっとサボってたから今日こそ行かないとケツ叩かれちまう! じゃあな! パレット!」

 走り出したダンのリュックから、巾着袋が落ちた。

(あ、落とし物)
「ダン、なんか落とし......」
「うおー! やっべー!」
「あれま、大変だ」

 あたしは袋を抱えたまま巾着袋を拾い、ダンを追いかける。

「ダン〜」
「うおー!」
(あれ、あそこが学校かな?)

 一階建ての小さな建物に、ダンが全力疾走で走り入った。古い時計が鐘を鳴らす。

「はあ! やべえ! ギリギリセーフ!」
「あ! 来たな! ダン!」
「今日もサボると思ったぜ!」
「後ろの姉ちゃん誰?」
「は?」

 ダンが振り返ったと同時に、巾着袋を差し出した。驚いたダンが後ろに倒れる。

「うぎゃあ!」
「落としたよー?」
「お前、なんでここまでついてきてるんだよ!」
「いや、だって、ダンが巾着袋落としたから!」
「ちょっと、みんな、何騒いでるの」

 眼鏡をかけた若い女性の先生が廊下を歩いてきて、あたしを見て、きょとんとする。

「あら、お見かけしない方ですが......保護者の方ですか?」
「あ、いえ、ダンの友達です」
「先生! 俺悪くないから!」
「ダンが巾着袋落として、届けに来たんです」
「まあ、そうでしたか!」

 先生がダンを見た。

「ダン、お礼は言ったの?」
「いいよ、こいつとは毎日会ってるんだから」
「ダン?」
「......ありがとう」
(すごい! ダンを言い聞かせた!)
「あなた......この町の人?」

 先生に訊かれ、あたしは首を振る。

「最近、町の外れに引っ越してきたんです。パレットです」
「ローラです。どうぞよろしく。年齢は?」
「19」
「年齢が近いと思った! 私は20。嬉しいわ!」
「ひぇ! 20歳で先生!?」
「この町は田舎だもの。子供が少なくて、人手も少ない。良かったら見学していく?」
「え、でも......関係者でもないのに?」
「ダンの友達なんでしょ? 1時間くらい見ていけば?」
「えー! それなら! ぜひ!」
「ちょっと待った! 勝手に決めんなよ!」

 ダンがふんぞり返ってローラを睨んだ。

「そんなの駄目だよ! パレットはもう大人なんだから、授業を受けなくたって平気だろ!」
「先生だってたまには助手がほしいの。それに、ダンの友達だって言うし。関係者でしょ?」
「関係者じゃ......確かにそう考えたら関係者だ......」
「席に座りなさい」
「はーい!」

 教室の後ろに椅子を置き、そこに座って見学する。うわー! 子供の教室だー! すごーい!

「それでは授業を始めますよ。みんな、教科書を開いて」

 みんな教科書を開いて、今日勉強するところを眺める。後ろの席に座っていた少女がチラッとあたしを見たと思ったら、椅子をあたしの隣に引き、教科書を見せてくれた。あたしは声を潜めてお礼を言う。

「ありがとう。あたしはパレット。貴女は?」
「マリア」
「マリア。可愛い名前」
「パレットはダンの彼女なの?」
「まさか。ただの友達だよ」
「良かった。私、ダンが好きなの」
「え、ダンが好みなの?」
「だって、かっこいいんだもん」

 頬を赤く染め、輝く瞳でダンを見つめる彼女は――何も知らず、純粋に真っ直ぐクリス様に恋をしていた......あたしのようだ。

「実るといいね」
「応援してくれる?」
「もちろん。ダンにマリアをPRしておく」
「PRってなに?」
「マリアの良いところを伝えるってこと」
「本当? じゃあ私がんばる!」
「そこ、居眠りしない!」

 ローラが寝ていた少年の頭を教科書で叩いた。

「問1答えられる人いる? はい、手を挙げて」
「ダン、お前行けよ。サボってたんだから」
「嫌だよ!」
「こら、お喋りしない。ダン。答えてごらん」
「なんで俺なんだよ!」
「そうね。最近学校をサボってたから?」
「これだから正義の味方は辛いぜ!」

 ダンが黒板の前に立ち、12×6を前に悩み出す。えーと、6×9が54だから......えっと......10で......60だから......そこから......6を足して......足して......うーん......。

「83?」
「残念」
「わかんねーよ」

 ダンがあたしに振り返った。

「パレット、わかる?」
「計算式使いなよ」
「なんだよ。計算式って」
「あのねー」

 あたしはマリアの背中をトントンと叩くと、マリアがはっとして立ち上がった。

「私、わかるよ!」

 ダンの隣に移動し、チョークで計算式を書いていく。

「あのね、ダン、6と2を掛けて、12でしょ? それと、6と1を掛けたら6。だから、72」
「あー、すげー」
「わかんなくなったら、計算式だよ」
「マリアは頭いいな。ありがとう。助かったよ」

 お、ダン。今のは好感度上がるぞ!? マリアが目をキラキラさせてあたしを見てきた。ああ、子供の恋する姿はとても微笑ましい。

(ただ......気になるな)

 机の角が、尖ってる。

(危なくない?)
「じゃあ10分あげるから、問2から問5まで解いてみて」
「10分じゃ足りないよ!」
「先生の鬼!」
「計算するだけでしょ! ゆっくりやっても5分で終わるから!」
(あの机だと、拾い物して頭上げた時に、怪我しちゃうよ)
「うちの教室はどう?」

 ローラがあたしに声をかけてきた。

「賑やかでしょ」
「見ててすごく楽しいです」
「ああ、敬語はいいわ。一つしか変わらないし」
「それなら......ねえ、ローラ。ちょっといいかな?」
「ん? ええ。少しなら」

 ローラと共に教室を出て、廊下で話す。

「机なんだけど、角があるでしょ? あれ、怪我とか大丈夫?」
「なるべく気をつけてはいるけど、やっぱり危ないわよね。テープを貼り付けて丸くしたり工夫はしてるんだけど、子供たちがふざけて剥がしちゃうのよ」
「他に机があると思うんだけど、予算の問題?」
「それがね、あの机、最近買い替えたのよ。校長先生がカタログを見て、家具屋から仕入れたんだけど、届いたらカタログと違って......」
「あー......」
「屁理屈言われて、返品出来なかったみたいで......予算が用意できるまで使ってくれって言われたけど、でも、あれで頭打って怪我した子たちは何人もいるの」
「んー......」
「ごめんなさい。そろそろ戻らないと」
「ローラ」

 ローラが振り返る。

「人数分、机を用意出来るとしたら、してもいいかな?」
「......それは......もちろん、助かるけど......机って高いのよ?」
「この教室の子供の人数は何人?」
「12人よ」
「12人ね。わかった」

 ローラが教室に戻った。

「放課後にまた来るね」

 呟いてから、あたしは廊下を歩き出す。――窓からダンが覗き込んだ。

「......。先生! 俺! なんかお腹痛くなってきたから、早退する!」
「え? ちょ、ちょっと!」

 リュックを背負い、ダンが教室から走り去った。

「こら! ダン!」

 マリアが眉を下げて振り向く中、ダンが廊下を全力疾走で掛けていく。
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次の話第11話 スクール・レイアウト(2)
私の幸せなインテリア・パレット作者:石狩なべ
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