ホーム›心の剣を貴方に›盾3
目次前の話 →

盾3

 アヴリルは道標へと駆け寄り、行き先を確かめる。

「北はあっちだよ! さ、着いてきて」

 それが済むと、一人で先に歩いていってしまう。

「アヴリル、駄目! 一緒にいないと......貴女は武器を持ってないでしょ?」

 私が叫ぶと、アヴリルは足を止めて首を傾げた。

「武器ならあるよ? これ」

「えっ?」

 アヴリルが誇らしげに掲げたのは盾だった。

「これで殴ってボコボコにするんだー」

 意地悪そうに笑い、盾を縦横無尽に振るってみせる。そんな彼女に、リックスは顔をしかめた。

「おい、俺たちに当たったらどうするんだよ!」

「そんなに馬鹿じゃないって! ちゃんと距離は取ってるでしょ?」

 アヴリルは片方だけ口角を上げると、行くべき方向を見据える。

「早く行かないと、日が暮れるよ! 夜はモンスターが活発になるから、寝床だって確保しなきゃ駄目なんだからね!」

 再びアヴリルは一人で歩き出す。ノエルも私とリックスを見て、片手を大きく振る。

「俺たちも行こう。女の子に先頭は任せられないからな」

 アヴリルの後を追い、ノエルは前方へと駆けていく。取り残された私とリックスも、ようやく一歩を踏み出した。

「ノエルもよくやるよ」

「でも、あれがノエルなんだよ」

「......だな」

 リックスと二人でノエルを眺めながら苦笑いをする。
 幸いなことに、夕暮れまでモンスターには出会さなかった。前を歩く二人は、やはりアヴリルが盛り上げ役になっているらしい。明るく笑う彼女に、ノエルも微笑みながら頷いていた。リックスとは逆で、ノエルとアヴリルは相性がいいのかもしれない。
 夕刻になり、野営できそうな場所を探す。ちょうど小川が流れているところを見つけ、ノエルとリックスが木の枝を掻き集めてきてくれた。心で炎が出るように祈ると、薪が燻り始める。
 アヴリルは火の前でしゃがみ込み、暖を取り始めた。

「オフィーリアがいてよかったよー。火起こしが一番、大変だからさー」

 アヴリルが話す内容から察するに、彼女は旅に慣れているのだろう。アヴリルの過去が少し気になってしまった。

「アブリルは、どうして盾職になったの?」

 聞いてみると、アヴリルはつまらなさそうに目を細める。

「面白い話じゃないよ。また今度にしよ」

 完全にはぐらかされてしまった。しばらくは教えてくれる気はないのだろう。それでも仲良くはなりたくて、アヴリルの隣に座り込んでみる。すると、ノエルはアヴリルの隣に、リックスは私の隣に腰を下ろした。
 リックスは炎を見詰めながら、小さな溜め息を吐く。

「俺たち、野宿って初めてなんだよな」

「えっ? じゃあ、王都までどうやってきたの?」

「馬車だよ」

「でも、馬車なんて、そんなに安くないよ? 無駄金を叩いたの?」

 今頃になって、馬車のありがたさを知る。好意だったにしろ、悪意だったにしろ、助かったのには変わりない。あの町に行くことがあれば、絶対に礼を言おう。心に誓った時、リックスがアヴリルに返事をする。

「俺たちは金なんて払ってない。町の人が出してくれたんだよ」

「えー? ずるっ。あたしだって乗ったことないのに」

 アヴリルは私たちを視線で一舐めし、口を尖らせる。

「その町で、なんか人に役立つことでもしたんでしょ。じゃないと、馬車なんてねー」

「いや......」

 ノエルとリックスは顔を見合わせ、苦笑いをした。

「ゴーレムにのされて寝込んでた」

「えっ、やばっ! ドジすぎるんですけど!」

 アヴリルは片手で膝を何度も叩き、笑い転げる。今となっては笑い話にできるけれど、あの時は本気で死ぬかと思った。ゴーレムの赤い瞳を思い出すと身震いしてしまう。

「ドジって何だよ! 俺たちは本気で切りかかって――」

「じゃあ、リックスが弱い! かなり弱い!」

 アヴリルは真顔に変わり、リックスを指差す。確信を突かれたリックスは、眉間にしわを寄せて押し黙る。
 そこへノエルも小さく口を開いた。

「俺ものされたんだけど......」

「じゃあ、ノエルも弱い! 二人で弱々! よくオフィーリアを守りきれたもんだよ」

 アヴリルは腕を組み、大袈裟に溜め息を吐いてみせる。

「明日から、素振りをしながら歩くこと! これは決定ね!」

「は!? そんなの、すぐに体力が持ってかれちまうじゃんか!」

「それですぐにバテるんなら、護衛失格。故郷に帰りな」

 アヴリルはサラッと吐き捨てる。リックスも今度こそ何も言い返せずに、唇を噛んだ。
 夜は王都で購入したパンと、釣った魚で飢えをしのぐ。旅の疲れが出たせいなのか、今日はいつになく眠い。
 川辺で目を擦りながら星空を眺めていると、ノエルが隣へやってきた。

「オフィーリア、眠いのか?」

「うん......」

 小さく頷いてみせると、ノエルは背中を優しく撫でてくれる。

「ここは俺たちが見張ってるから。眠るなら今のうちだぞ」

「ありがとう......」

 立ち上がろうと腕に力を入れた――筈だった。膝に力が入らない。

「オフィーリア?」

 駄目だ。頭がぼんやりとする。腕からも力が抜けていき、身体は横へと傾いていく。

「オフィーリア!」

 返事をしたいのに、声が出ない。私はそのまま深い眠りへと落ちていく。
 夢に見たのは、またしてもあの人の記憶らしきものだった。
シェア
前の話 →
盾2
最新話です
目次に戻る
心の剣を貴方に作者:七宮叶歌
目次を見る
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません

盾3

 アヴリルは道標へと駆け寄り、行き先を確かめる。

「北はあっちだよ! さ、着いてきて」

 それが済むと、一人で先に歩いていってしまう。

「アヴリル、駄目! 一緒にいないと......貴女は武器を持ってないでしょ?」

 私が叫ぶと、アヴリルは足を止めて首を傾げた。

「武器ならあるよ? これ」

「えっ?」

 アヴリルが誇らしげに掲げたのは盾だった。

「これで殴ってボコボコにするんだー」

 意地悪そうに笑い、盾を縦横無尽に振るってみせる。そんな彼女に、リックスは顔をしかめた。

「おい、俺たちに当たったらどうするんだよ!」

「そんなに馬鹿じゃないって! ちゃんと距離は取ってるでしょ?」

 アヴリルは片方だけ口角を上げると、行くべき方向を見据える。

「早く行かないと、日が暮れるよ! 夜はモンスターが活発になるから、寝床だって確保しなきゃ駄目なんだからね!」

 再びアヴリルは一人で歩き出す。ノエルも私とリックスを見て、片手を大きく振る。

「俺たちも行こう。女の子に先頭は任せられないからな」

 アヴリルの後を追い、ノエルは前方へと駆けていく。取り残された私とリックスも、ようやく一歩を踏み出した。

「ノエルもよくやるよ」

「でも、あれがノエルなんだよ」

「......だな」

 リックスと二人でノエルを眺めながら苦笑いをする。
 幸いなことに、夕暮れまでモンスターには出会さなかった。前を歩く二人は、やはりアヴリルが盛り上げ役になっているらしい。明るく笑う彼女に、ノエルも微笑みながら頷いていた。リックスとは逆で、ノエルとアヴリルは相性がいいのかもしれない。
 夕刻になり、野営できそうな場所を探す。ちょうど小川が流れているところを見つけ、ノエルとリックスが木の枝を掻き集めてきてくれた。心で炎が出るように祈ると、薪が燻り始める。
 アヴリルは火の前でしゃがみ込み、暖を取り始めた。

「オフィーリアがいてよかったよー。火起こしが一番、大変だからさー」

 アヴリルが話す内容から察するに、彼女は旅に慣れているのだろう。アヴリルの過去が少し気になってしまった。

「アブリルは、どうして盾職になったの?」

 聞いてみると、アヴリルはつまらなさそうに目を細める。

「面白い話じゃないよ。また今度にしよ」

 完全にはぐらかされてしまった。しばらくは教えてくれる気はないのだろう。それでも仲良くはなりたくて、アヴリルの隣に座り込んでみる。すると、ノエルはアヴリルの隣に、リックスは私の隣に腰を下ろした。
 リックスは炎を見詰めながら、小さな溜め息を吐く。

「俺たち、野宿って初めてなんだよな」

「えっ? じゃあ、王都までどうやってきたの?」

「馬車だよ」

「でも、馬車なんて、そんなに安くないよ? 無駄金を叩いたの?」

 今頃になって、馬車のありがたさを知る。好意だったにしろ、悪意だったにしろ、助かったのには変わりない。あの町に行くことがあれば、絶対に礼を言おう。心に誓った時、リックスがアヴリルに返事をする。

「俺たちは金なんて払ってない。町の人が出してくれたんだよ」

「えー? ずるっ。あたしだって乗ったことないのに」

 アヴリルは私たちを視線で一舐めし、口を尖らせる。

「その町で、なんか人に役立つことでもしたんでしょ。じゃないと、馬車なんてねー」

「いや......」

 ノエルとリックスは顔を見合わせ、苦笑いをした。

「ゴーレムにのされて寝込んでた」

「えっ、やばっ! ドジすぎるんですけど!」

 アヴリルは片手で膝を何度も叩き、笑い転げる。今となっては笑い話にできるけれど、あの時は本気で死ぬかと思った。ゴーレムの赤い瞳を思い出すと身震いしてしまう。

「ドジって何だよ! 俺たちは本気で切りかかって――」

「じゃあ、リックスが弱い! かなり弱い!」

 アヴリルは真顔に変わり、リックスを指差す。確信を突かれたリックスは、眉間にしわを寄せて押し黙る。
 そこへノエルも小さく口を開いた。

「俺ものされたんだけど......」

「じゃあ、ノエルも弱い! 二人で弱々! よくオフィーリアを守りきれたもんだよ」

 アヴリルは腕を組み、大袈裟に溜め息を吐いてみせる。

「明日から、素振りをしながら歩くこと! これは決定ね!」

「は!? そんなの、すぐに体力が持ってかれちまうじゃんか!」

「それですぐにバテるんなら、護衛失格。故郷に帰りな」

 アヴリルはサラッと吐き捨てる。リックスも今度こそ何も言い返せずに、唇を噛んだ。
 夜は王都で購入したパンと、釣った魚で飢えをしのぐ。旅の疲れが出たせいなのか、今日はいつになく眠い。
 川辺で目を擦りながら星空を眺めていると、ノエルが隣へやってきた。

「オフィーリア、眠いのか?」

「うん......」

 小さく頷いてみせると、ノエルは背中を優しく撫でてくれる。

「ここは俺たちが見張ってるから。眠るなら今のうちだぞ」

「ありがとう......」

 立ち上がろうと腕に力を入れた――筈だった。膝に力が入らない。

「オフィーリア?」

 駄目だ。頭がぼんやりとする。腕からも力が抜けていき、身体は横へと傾いていく。

「オフィーリア!」

 返事をしたいのに、声が出ない。私はそのまま深い眠りへと落ちていく。
 夢に見たのは、またしてもあの人の記憶らしきものだった。
シェア
最新話です
目次に戻る
心の剣を貴方に作者:七宮叶歌
目次
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません