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盾2

 そうして辿り着いたのは、古風な喫茶店だった。窓には色付きガラスがはめられており、可愛らしい雰囲気だ。座席をワイン色のランプが照らしている。
 席に着くと、誰の意見も聞かずにアヴリルはストロベリーパフェを四つ注文した。そして、彼女は少し冷静になったらしい。

「あたし、あんたたちの名前を聞いてなかった」

 その視線はノエルとリックスを辿る。

「俺はリックスだよ」

「俺はノエル」

「ふーん。失礼なのがリックスで、無口なのがノエルっと」

 さらりと悪口を挟んだな、と思いながら、ノエルとリックスの出方を窺う。

「でも、どうしてアヴリルはオフィーリアのことを知ってたんだ?」

「あー、それは騎士に聞いたの。名前だけね」

 名前だけ、か。詳細は自分で見極めろ、との王の意思が働いたのだろうか。

「でも、オフィーリアが鼻につく子じゃなくてよかったーって思ってるんだよ? うるさいのはあたし一人でいいもん」

「うるさいの、自覚してたんだ......」

「何? なんか言いたいことあるの?」

「自覚があっても、直す気がないじゃん」

 リックスの指摘に、アヴリルは首を大きく横に振った。

「うるさいのがあたしなの! あたしの特色を勝手に消さないでくれる?」

 アヴリルがプイッとそっぽを向いた時、ようやくパフェと呼ばれる物が運ばれてきた。縦長のグラスに、ストロベリーアイス、ソフトクリーム、イチゴなどがふんだんに盛り付けられている。焼き菓子のようなものを想像したので、意表を突かれてしまった。

「やった! これだよこれ!」

 アヴリルは運ばれてきた途端にスプーンを手に取り、顔を綻ばせながら頬張る。

「早く食べないと溶けちゃうよー」

 アヴリルはちらりと私たちの様子を窺いながらも、手は止めない。せっかく注文したのだから、食べてみよう。ノエルやリックスと頷き合い、私もスプーンに手を伸ばす。
 頬張ってみると冷たくて、甘くて、酸っぱいソースも効いていて、何とも言えない絶妙な味だ。

「美味しい......」

 自然と言葉が零れていた。

「でしょ? これが都会の味ってやつ」

「てか、このパフェ、誰が払うの?」

「あんたたちに決まってるじゃん」

「は? 俺たちは、ただ巻き込まれただけなんだけど」

 不服そうな顔を見せるリックスに、アヴリルは財布を取り出してみせる。しかし、中は空っぽだったらしく、ひっくり返しても何も出てこなかった。

「こういうことだから。あんたたちが払ってくれなかったら、無銭飲食ね」

「はー!?」

 身を乗り出そうとするリックスの肩を、ノエルが叩く。

「落ち着け、リックス。こうなるのは分かってただろ?」

「分かんなかったから怒ってるんだけど!」

「下手に騒がない方がいい。余計に人の目を引くぞ」

 ノエルの言葉に、はっと我に返る。周りの席を見てみれば、ちらちらと私たちの顔を見ている客が多いことに気付かされた。
 リックスも今になって気付いたのだろう。バツが悪そうに目を伏せる。

「......アヴリル、分かっててやってるじゃんか」

「こういうところにも頭が回んないとねー。世間は渡っていけないよ」

 恐らく、アヴリルは反省していない。平然とパフェを食べ進めていく。これ以上、揉め事を起こしてくれなければいいな、と祈らずにはいられなかった。

 * * *

 ストロベリーパフェで、アヴリルは満足してくれたらしい。笑顔を振り撒き、鼻歌を歌いながら王都の外門を目指す。彼女の雰囲気のお陰なのか、私の気持ちにゆとりができたのか、向けられる視線は先ほどよりも気にならなくなっていた。
 怯えなくなった私に振り向き、アヴリルは微笑む。

「オフィーリア、その調子だよ。私はこういう奴なんだって開き直れば、何も怖くないって」

「......うん」

 視線なんて気にしなくていい。誰に何と言われようと、私は私なのだ。背筋も伸びた気がして、呼吸が楽になる。
 そんな私を見て、ノエルとリックスも顔を見合わせて笑ってくれた。

「......てかさ、オフィーリアの左手を見せれば、パフェの支払いなんてどうにでもなったんじゃない?」

 アヴリルは前を見据えたまま、呑気に言う。それにリックスが反論する。

「それじゃ、俺たちが納得できないんだよ。特別扱いはされたくない」

「ただの偽善じゃない? いつか、財力が底をついた時に痛い目を見ると思うけど」

 財力が底をついた時――私たちが考えていなかった視点だ。今の私たちには仕事がない。できることがあるとすれば、日雇いのモンスター狩り程度だ。でも、そんな仕事を引き受けてしまっては、いつまた誰が大怪我をするか分からない。

「......考えておくね」

 ただ、今は現実を受け止められそうにない。私が呟くと、アブリルはにこっと笑った。
 人通りを向け、門へと到着をする。

「ちょっと、外に出たいんだけど!」

 アヴリルが門番に向かって叫ぶと、ようやく彼らは私たちの存在に気がついたらしい。

「聖女様、ですよね? 外へ出られる分には許可は要りませんから」

「聖女はあたしじゃなくて、そっちのオフィーリアね! ちゃんと名前を覚えておくんだよー!」

 アヴリルは、わざとらしく私を指差す。門番に苦笑いをされながら、開けられた門をくぐる。
 そこにはやはり草原しかなかった。身を隠せそうなものは何もない。モンスターに遭遇してしまったら――狩るしかない。
 無意識にノエルとリックスを見てしまう。

「大丈夫だよ。そのためにアヴリルを仲間にしたんだろ?」

 周囲を警戒しながらも、二人の柔らかな瞳は変わらなかった。
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心の剣を貴方に作者:七宮叶歌
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盾2

 そうして辿り着いたのは、古風な喫茶店だった。窓には色付きガラスがはめられており、可愛らしい雰囲気だ。座席をワイン色のランプが照らしている。
 席に着くと、誰の意見も聞かずにアヴリルはストロベリーパフェを四つ注文した。そして、彼女は少し冷静になったらしい。

「あたし、あんたたちの名前を聞いてなかった」

 その視線はノエルとリックスを辿る。

「俺はリックスだよ」

「俺はノエル」

「ふーん。失礼なのがリックスで、無口なのがノエルっと」

 さらりと悪口を挟んだな、と思いながら、ノエルとリックスの出方を窺う。

「でも、どうしてアヴリルはオフィーリアのことを知ってたんだ?」

「あー、それは騎士に聞いたの。名前だけね」

 名前だけ、か。詳細は自分で見極めろ、との王の意思が働いたのだろうか。

「でも、オフィーリアが鼻につく子じゃなくてよかったーって思ってるんだよ? うるさいのはあたし一人でいいもん」

「うるさいの、自覚してたんだ......」

「何? なんか言いたいことあるの?」

「自覚があっても、直す気がないじゃん」

 リックスの指摘に、アヴリルは首を大きく横に振った。

「うるさいのがあたしなの! あたしの特色を勝手に消さないでくれる?」

 アヴリルがプイッとそっぽを向いた時、ようやくパフェと呼ばれる物が運ばれてきた。縦長のグラスに、ストロベリーアイス、ソフトクリーム、イチゴなどがふんだんに盛り付けられている。焼き菓子のようなものを想像したので、意表を突かれてしまった。

「やった! これだよこれ!」

 アヴリルは運ばれてきた途端にスプーンを手に取り、顔を綻ばせながら頬張る。

「早く食べないと溶けちゃうよー」

 アヴリルはちらりと私たちの様子を窺いながらも、手は止めない。せっかく注文したのだから、食べてみよう。ノエルやリックスと頷き合い、私もスプーンに手を伸ばす。
 頬張ってみると冷たくて、甘くて、酸っぱいソースも効いていて、何とも言えない絶妙な味だ。

「美味しい......」

 自然と言葉が零れていた。

「でしょ? これが都会の味ってやつ」

「てか、このパフェ、誰が払うの?」

「あんたたちに決まってるじゃん」

「は? 俺たちは、ただ巻き込まれただけなんだけど」

 不服そうな顔を見せるリックスに、アヴリルは財布を取り出してみせる。しかし、中は空っぽだったらしく、ひっくり返しても何も出てこなかった。

「こういうことだから。あんたたちが払ってくれなかったら、無銭飲食ね」

「はー!?」

 身を乗り出そうとするリックスの肩を、ノエルが叩く。

「落ち着け、リックス。こうなるのは分かってただろ?」

「分かんなかったから怒ってるんだけど!」

「下手に騒がない方がいい。余計に人の目を引くぞ」

 ノエルの言葉に、はっと我に返る。周りの席を見てみれば、ちらちらと私たちの顔を見ている客が多いことに気付かされた。
 リックスも今になって気付いたのだろう。バツが悪そうに目を伏せる。

「......アヴリル、分かっててやってるじゃんか」

「こういうところにも頭が回んないとねー。世間は渡っていけないよ」

 恐らく、アヴリルは反省していない。平然とパフェを食べ進めていく。これ以上、揉め事を起こしてくれなければいいな、と祈らずにはいられなかった。

 * * *

 ストロベリーパフェで、アヴリルは満足してくれたらしい。笑顔を振り撒き、鼻歌を歌いながら王都の外門を目指す。彼女の雰囲気のお陰なのか、私の気持ちにゆとりができたのか、向けられる視線は先ほどよりも気にならなくなっていた。
 怯えなくなった私に振り向き、アヴリルは微笑む。

「オフィーリア、その調子だよ。私はこういう奴なんだって開き直れば、何も怖くないって」

「......うん」

 視線なんて気にしなくていい。誰に何と言われようと、私は私なのだ。背筋も伸びた気がして、呼吸が楽になる。
 そんな私を見て、ノエルとリックスも顔を見合わせて笑ってくれた。

「......てかさ、オフィーリアの左手を見せれば、パフェの支払いなんてどうにでもなったんじゃない?」

 アヴリルは前を見据えたまま、呑気に言う。それにリックスが反論する。

「それじゃ、俺たちが納得できないんだよ。特別扱いはされたくない」

「ただの偽善じゃない? いつか、財力が底をついた時に痛い目を見ると思うけど」

 財力が底をついた時――私たちが考えていなかった視点だ。今の私たちには仕事がない。できることがあるとすれば、日雇いのモンスター狩り程度だ。でも、そんな仕事を引き受けてしまっては、いつまた誰が大怪我をするか分からない。

「......考えておくね」

 ただ、今は現実を受け止められそうにない。私が呟くと、アブリルはにこっと笑った。
 人通りを向け、門へと到着をする。

「ちょっと、外に出たいんだけど!」

 アヴリルが門番に向かって叫ぶと、ようやく彼らは私たちの存在に気がついたらしい。

「聖女様、ですよね? 外へ出られる分には許可は要りませんから」

「聖女はあたしじゃなくて、そっちのオフィーリアね! ちゃんと名前を覚えておくんだよー!」

 アヴリルは、わざとらしく私を指差す。門番に苦笑いをされながら、開けられた門をくぐる。
 そこにはやはり草原しかなかった。身を隠せそうなものは何もない。モンスターに遭遇してしまったら――狩るしかない。
 無意識にノエルとリックスを見てしまう。

「大丈夫だよ。そのためにアヴリルを仲間にしたんだろ?」

 周囲を警戒しながらも、二人の柔らかな瞳は変わらなかった。
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心の剣を貴方に作者:七宮叶歌
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