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第8章 本格始動編 - 第2話「謎解き」


「......そういえばさ」

美月が、ふと思い出したように声を上げた。

朝の光が差し込む広い台所。
その前では、つい先ほど恋人になったばかりの東あづまが、まだ夢でも見ているような顔で美月を見つめている。

「ん?」

美月はそんな東あづまを見上げた。

「私達、普通に触れ合えてるよね?」
「......?」

東あづまが首を傾げる。

美月の右手は、まだ東あづまの頬へ添えられたままだった。
東あづまの右手もまた、美月の頬へ触れている。

そこで美月は、今さらながら妙なことに気がついた。

東あづまの体温は低い。
海に生きる妖あやかしである以上、それ自体は不思議ではない。

だが、美月の体温は、東あづまよりずっと高い。

昨日の風呂事件では、人間にとって少し熱い程度の四十二度の湯が、東あづまにとっては火傷しかねない熱湯だった。

ならば。

「......私の体温って、東あづまには熱くないの?」
「ん?」

東あづまは、美月の頬へ触れている手を見た。

「そういや、シャワーの温度と六度くらいしか変わんねぇのに、全然熱くねぇな」
「だよね?」

美月は今度、少し離れたところにいる鳳ほうを見る。

「鳳ほうもそうだよね?」
「そういえば、確かにそうであるな」

鳳ほうも自分の手を見下ろした。

川を主な住処としていた鳳ほうも、人間より体温は低い。
それでも、美月の血を口にしている時ですら、熱さに苦しんだことは一度もなかった。

「......もしかして、これも福徳......?」

美月が小さく呟く。

座敷わらしとしての、美月の福徳。

危険に晒され、明確な拒絶を持ったまま行動すれば、相手を止めるために身体能力へ力が乗る。

料理を作る時には、食べる者達に美味しく食べてほしい。
元気になってほしいと願えば、その食事にはほんのわずかに妖力や魔力を回復させる力が宿った。

美月が何かを願えば、その願いへ沿うように力がついてくる。

ならば。

その力が、美月自身だけに作用するとは限らない。

「もしかして......」

美月は東あづまの頬から手を下ろし、自分の手のひらを見つめた。

「私が触れたいって思ってるから、お互いが傷つかないように福徳が作用してる......?」

東あづまも、ゆっくりと美月の頬から手を離した。

そして、美月が見つめていたその手へ、大きな自分の手をそっと重ねる。

「......じゃあ」

東あづまが、少しだけ声を落とした。

「すげぇ奇跡なんだな。俺ら」
「え......?」

美月が顔を上げる。

東あづまは重ねた手を見つめたまま、穏やかに笑っていた。

「俺の海に来る奴なんか、たかが知れてる」

魚や海の素材を求めてやってくる者。
時折、生態調査や環境調査のため訪れる管理所職員。
あとは、数少ない陸の妖あやかしと契約を結び、久しぶりに海へ帰ってくる同族くらい。

本来なら、美月と東あづまが出会う理由など、ほとんど存在しなかった。

けれど。

先に鳳ほうと美月が出会った。

食事から妖力を得る必要のない鳳ほうだったが、美月にとって食べることは大切な娯楽であり、生きていた頃からの楽しみだった。

畑で野菜は採れる。

しかし、肉や魚といったものも欲しくなる。

だから鳳ほうは、自分へ連絡してきた。

「鳳ほうが、美月を繋いでくれたんだ」
「......」

鳳ほうは何か言いたげに口を開いた。

しかし、結局は何も言わず、その口を閉じる。

東あづまは続けた。

「ただでさえ海の奴ら嫌う奴ばっかなのに、美月は最初から、俺に怯えなかった」

その言葉に、美月は出会った日のことを思い返した。

『......雌めす?』

美月に対しての第一声が、それだった。

そしていきなり長い魚体で、自分の周囲をぐるりと囲われた。

ジャジーを吹っ飛ばすと、抱え込まれ、首筋へ牙を立てられた。

今思い返しても、出会いとしてはひどい。

驚いた。
“何だこの人”、という混乱もあった。

それでも、不思議なほど恐怖で震え上がった記憶はない。

もちろん嫌なことは嫌だった。
連れていかれそうになれば抵抗した。
勝手に噛まれたことにも怒った。

けれど。

話せば、東あづまは聞いた。
言えば覚えた。
頼めば協力した。

「で、本来なら、俺らは直に触れ合えなかったかもしれねぇ」

東あづまが、再び美月の頬へ手を伸ばす。

今度は急がない。

美月の反応を見ながら、指先でそっと触れた。

「......うん」

美月は、その大きな手へ自分から頬を寄せる。

「......俺」

東は美月の頬をゆっくり撫でる。

「美月が座敷わらしで、よかった」

心の底から零れたような笑みが、美月へ向けられる。

「今、すげぇ幸せだ」
「......」

美月の胸が、ふわりと温かくなる。

恋人になったばかり。
触れても傷つかない。

本来なら交わらなかったはずの海と陸の二人が、今は同じ家の朝の光の中で、手を重ねている。

確かに。

奇跡と言われれば、そうなのかもしれない。

穏やかな空気が広がった。

その時。

「......ん?」

美月の眉が、ぴくりと動いた。

「どうした?」

東あづまが目を丸くする。

「......私、初対面で東あづまに抱えられたよね?」
「そうだな」
「......あの時は?」
「ん?」

東あづまは少し考えた。

「......あんま覚えてねぇけど、火傷はしなかったな」
「............」
「美月?」

美月の表情が止まる。

無理やり抱えられた。
甘噛みまでされた。

なのに。

あの時、美月は東あづまを弾き飛ばしていない。

もちろん、好きで大人しくしていたわけではない。
恐怖にすくんで動けなかったわけでもない。

では、なぜ。

「......」

美月はゆっくりと記憶を辿っていく。

初めて見た、東あづまの顔。
人の形から外れた姿。
すべてが荒々しく、明らかに治安のよろしくない見た目。

その顔を見ることへ、妙に意識を持っていかれていた。

「......まさか......」

美月の顔が、みるみる青ざめていく。

「初対面なのに、触れ合えてたってことは......」
「......なんか、嫌な予感がすんな」

ようやくジャジーが口を開いた。

鳳ほうも遠い目になる。

「うむ。なぜか結論が見えてきたでござる」

癒凪ゆなぎに至っては、すでに目を閉じ、ため息を吐いていた。

もちろん。

初対面の時点で、美月から“東あづまに触れたい”という願望があったわけではない。

だが。

触れられることそのものを、明確に排除したいとも思っていなかった。
東あづまを傷つけたいとも、遠ざけたいとも思っていなかった。

嫌なのは、勝手に連れていかれること。
勝手に番扱いされること。
噛まれること。

けれど。

東あづま本人へ触れること、触れられること自体は、嫌ではなかった。

そして何より。

初対面だというのに、東の顔を見て、『かっこいい』と言ったのも、紛れもない事実だった。

つまり。

「ふわぁぁぁぁぁぁぁぁあ......!!」

羞恥で引いていた血の気が、高波のごとく顔へ押し寄せた。

「美月!?」

東あづまの手元から、美月がすっぽ抜ける。

そのまま床へしゃがみ込み、朝食を作ろうとして用意していた白いエプロンを頭から被った。

そのまま丸まり、白く大きなダンゴムシが完成した。

「美月!?どうした!!」

東あづまが慌てて、美月だったものの前へしゃがみ込む。

「いや初対面だよ!?普通怖いでしょ!?」

エプロンドームの内部から声が飛んだ。

「でも私の福徳判定はさぁ......!」

一息。

「“いやかっこいいは正義ですとりあえず抱えられてる以上今弾いたらあなたの体が落下してそっちの方がダメージになるのでまぁこの怖い人話は通じるようですしとりあえず今は双方不快にならない程度に調整しときます”だよ!?」
「............」

美月の福徳効果翻訳が、長文となって出力された。

全員が黙る。

「つまり要約したら私が面食いで触れられること自体は完全拒否じゃなかったってことじゃんヴァァァァァァァァァァ!!」

本日二回目の絶叫が、新居の高い天井まで突き抜けた。
ジャジーと鳳ほうは、さらに遠い目になる。

癒凪ゆなぎは二度目の深いため息を吐いた。

「......ぶはっ!」

そして。

とうとう東あづまが吹き出した。

「笑わないでよぉ......!」

叫びすぎたせいか、美月の声はすっかり弱々しい。

「いや笑うだろ!」

東あづまは肩を揺らしている。

「恋人が羞恥で大魔王グソクムシみてぇになってんだからよ!」
「酷い例え!」

白い塊が抗議する。

「くくっ......。なぁ、美月」

東あづまは、美月が頭から被っているエプロンの端へ手をかけた。
そっと捲る。

「ふぇ......」

そこには、耳まで真っ赤になりながらごめん寝の姿勢になっている美月がいた。

「こっち、見ろ」

先ほどまで笑っていた声とは違う。

詰められるだけの甘さを詰め込んだ、低く穏やかな声。

美月が恐る恐る顔を上げると、そこにあったのは。

相変わらず治安の良くない顔。
鋭い牙。
赤い瞳。

けれど、その目には今まで見たことがないほど優しい熱が宿っていた。

東あづまは、満足そうにニッと笑う。

「俺、美月のかっこいい恋人になってるか?」
「っ......」

ようやく下がりかけていた美月の体温が、再び急上昇した。

「っ......かっこいいよムワァァァァァ......!!」
「なんで褒めた本人が叫ぶんだよ!」

美月は勢いよく立ち上がると、近くに置かれていた透明なゴミ袋をひっ掴んだ。

そして、ばさっと被る。

「おい待て」

そのままの体勢で、次はエプロンごと頭から被る。

透明な袋の中で、白い美月だったものがさらに梱包された。

「今度はなんだよ!」

ジャジーがとうとう腹を抱える。

鳳ほうも口元を押さえたまま肩を震わせている。

癒凪ゆなぎは数秒それを眺め。
「......個包装された酒饅頭だな」

静かに結論を出した。

「食いもんになった!」

東あづまが声を上げて笑う。

「食いもんなら残すわけにゃいかねぇ。食うか!」
「やめてぇぇぇ!!」

透明な袋の中から、美月の悲鳴が響く。

朝の新居には。

東あづまの大きな笑い声。
ジャジーの遠慮のない爆笑。
鳳ほうの堪えきれない笑い。
癒凪ゆなぎの以前よりずっと増えた、小さな笑い声。

そして。

個包装された和菓子となった、美月の羞恥に満ちた絶叫が。

いつまでも賑やかに響いていた。




第8章 本格始動編 - 第2話
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転生先は隠世!?〜属性過多の妖怪達に愛され過ぎて、念願のスローライフは享年1日で終了しました〜作者:桜桃
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第8章 本格始動編 - 第2話「謎解き」


「......そういえばさ」

美月が、ふと思い出したように声を上げた。

朝の光が差し込む広い台所。
その前では、つい先ほど恋人になったばかりの東あづまが、まだ夢でも見ているような顔で美月を見つめている。

「ん?」

美月はそんな東あづまを見上げた。

「私達、普通に触れ合えてるよね?」
「......?」

東あづまが首を傾げる。

美月の右手は、まだ東あづまの頬へ添えられたままだった。
東あづまの右手もまた、美月の頬へ触れている。

そこで美月は、今さらながら妙なことに気がついた。

東あづまの体温は低い。
海に生きる妖あやかしである以上、それ自体は不思議ではない。

だが、美月の体温は、東あづまよりずっと高い。

昨日の風呂事件では、人間にとって少し熱い程度の四十二度の湯が、東あづまにとっては火傷しかねない熱湯だった。

ならば。

「......私の体温って、東あづまには熱くないの?」
「ん?」

東あづまは、美月の頬へ触れている手を見た。

「そういや、シャワーの温度と六度くらいしか変わんねぇのに、全然熱くねぇな」
「だよね?」

美月は今度、少し離れたところにいる鳳ほうを見る。

「鳳ほうもそうだよね?」
「そういえば、確かにそうであるな」

鳳ほうも自分の手を見下ろした。

川を主な住処としていた鳳ほうも、人間より体温は低い。
それでも、美月の血を口にしている時ですら、熱さに苦しんだことは一度もなかった。

「......もしかして、これも福徳......?」

美月が小さく呟く。

座敷わらしとしての、美月の福徳。

危険に晒され、明確な拒絶を持ったまま行動すれば、相手を止めるために身体能力へ力が乗る。

料理を作る時には、食べる者達に美味しく食べてほしい。
元気になってほしいと願えば、その食事にはほんのわずかに妖力や魔力を回復させる力が宿った。

美月が何かを願えば、その願いへ沿うように力がついてくる。

ならば。

その力が、美月自身だけに作用するとは限らない。

「もしかして......」

美月は東あづまの頬から手を下ろし、自分の手のひらを見つめた。

「私が触れたいって思ってるから、お互いが傷つかないように福徳が作用してる......?」

東あづまも、ゆっくりと美月の頬から手を離した。

そして、美月が見つめていたその手へ、大きな自分の手をそっと重ねる。

「......じゃあ」

東あづまが、少しだけ声を落とした。

「すげぇ奇跡なんだな。俺ら」
「え......?」

美月が顔を上げる。

東あづまは重ねた手を見つめたまま、穏やかに笑っていた。

「俺の海に来る奴なんか、たかが知れてる」

魚や海の素材を求めてやってくる者。
時折、生態調査や環境調査のため訪れる管理所職員。
あとは、数少ない陸の妖あやかしと契約を結び、久しぶりに海へ帰ってくる同族くらい。

本来なら、美月と東あづまが出会う理由など、ほとんど存在しなかった。

けれど。

先に鳳ほうと美月が出会った。

食事から妖力を得る必要のない鳳ほうだったが、美月にとって食べることは大切な娯楽であり、生きていた頃からの楽しみだった。

畑で野菜は採れる。

しかし、肉や魚といったものも欲しくなる。

だから鳳ほうは、自分へ連絡してきた。

「鳳ほうが、美月を繋いでくれたんだ」
「......」

鳳ほうは何か言いたげに口を開いた。

しかし、結局は何も言わず、その口を閉じる。

東あづまは続けた。

「ただでさえ海の奴ら嫌う奴ばっかなのに、美月は最初から、俺に怯えなかった」

その言葉に、美月は出会った日のことを思い返した。

『......雌めす?』

美月に対しての第一声が、それだった。

そしていきなり長い魚体で、自分の周囲をぐるりと囲われた。

ジャジーを吹っ飛ばすと、抱え込まれ、首筋へ牙を立てられた。

今思い返しても、出会いとしてはひどい。

驚いた。
“何だこの人”、という混乱もあった。

それでも、不思議なほど恐怖で震え上がった記憶はない。

もちろん嫌なことは嫌だった。
連れていかれそうになれば抵抗した。
勝手に噛まれたことにも怒った。

けれど。

話せば、東あづまは聞いた。
言えば覚えた。
頼めば協力した。

「で、本来なら、俺らは直に触れ合えなかったかもしれねぇ」

東あづまが、再び美月の頬へ手を伸ばす。

今度は急がない。

美月の反応を見ながら、指先でそっと触れた。

「......うん」

美月は、その大きな手へ自分から頬を寄せる。

「......俺」

東は美月の頬をゆっくり撫でる。

「美月が座敷わらしで、よかった」

心の底から零れたような笑みが、美月へ向けられる。

「今、すげぇ幸せだ」
「......」

美月の胸が、ふわりと温かくなる。

恋人になったばかり。
触れても傷つかない。

本来なら交わらなかったはずの海と陸の二人が、今は同じ家の朝の光の中で、手を重ねている。

確かに。

奇跡と言われれば、そうなのかもしれない。

穏やかな空気が広がった。

その時。

「......ん?」

美月の眉が、ぴくりと動いた。

「どうした?」

東あづまが目を丸くする。

「......私、初対面で東あづまに抱えられたよね?」
「そうだな」
「......あの時は?」
「ん?」

東あづまは少し考えた。

「......あんま覚えてねぇけど、火傷はしなかったな」
「............」
「美月?」

美月の表情が止まる。

無理やり抱えられた。
甘噛みまでされた。

なのに。

あの時、美月は東あづまを弾き飛ばしていない。

もちろん、好きで大人しくしていたわけではない。
恐怖にすくんで動けなかったわけでもない。

では、なぜ。

「......」

美月はゆっくりと記憶を辿っていく。

初めて見た、東あづまの顔。
人の形から外れた姿。
すべてが荒々しく、明らかに治安のよろしくない見た目。

その顔を見ることへ、妙に意識を持っていかれていた。

「......まさか......」

美月の顔が、みるみる青ざめていく。

「初対面なのに、触れ合えてたってことは......」
「......なんか、嫌な予感がすんな」

ようやくジャジーが口を開いた。

鳳ほうも遠い目になる。

「うむ。なぜか結論が見えてきたでござる」

癒凪ゆなぎに至っては、すでに目を閉じ、ため息を吐いていた。

もちろん。

初対面の時点で、美月から“東あづまに触れたい”という願望があったわけではない。

だが。

触れられることそのものを、明確に排除したいとも思っていなかった。
東あづまを傷つけたいとも、遠ざけたいとも思っていなかった。

嫌なのは、勝手に連れていかれること。
勝手に番扱いされること。
噛まれること。

けれど。

東あづま本人へ触れること、触れられること自体は、嫌ではなかった。

そして何より。

初対面だというのに、東の顔を見て、『かっこいい』と言ったのも、紛れもない事実だった。

つまり。

「ふわぁぁぁぁぁぁぁぁあ......!!」

羞恥で引いていた血の気が、高波のごとく顔へ押し寄せた。

「美月!?」

東あづまの手元から、美月がすっぽ抜ける。

そのまま床へしゃがみ込み、朝食を作ろうとして用意していた白いエプロンを頭から被った。

そのまま丸まり、白く大きなダンゴムシが完成した。

「美月!?どうした!!」

東あづまが慌てて、美月だったものの前へしゃがみ込む。

「いや初対面だよ!?普通怖いでしょ!?」

エプロンドームの内部から声が飛んだ。

「でも私の福徳判定はさぁ......!」

一息。

「“いやかっこいいは正義ですとりあえず抱えられてる以上今弾いたらあなたの体が落下してそっちの方がダメージになるのでまぁこの怖い人話は通じるようですしとりあえず今は双方不快にならない程度に調整しときます”だよ!?」
「............」

美月の福徳効果翻訳が、長文となって出力された。

全員が黙る。

「つまり要約したら私が面食いで触れられること自体は完全拒否じゃなかったってことじゃんヴァァァァァァァァァァ!!」

本日二回目の絶叫が、新居の高い天井まで突き抜けた。
ジャジーと鳳ほうは、さらに遠い目になる。

癒凪ゆなぎは二度目の深いため息を吐いた。

「......ぶはっ!」

そして。

とうとう東あづまが吹き出した。

「笑わないでよぉ......!」

叫びすぎたせいか、美月の声はすっかり弱々しい。

「いや笑うだろ!」

東あづまは肩を揺らしている。

「恋人が羞恥で大魔王グソクムシみてぇになってんだからよ!」
「酷い例え!」

白い塊が抗議する。

「くくっ......。なぁ、美月」

東あづまは、美月が頭から被っているエプロンの端へ手をかけた。
そっと捲る。

「ふぇ......」

そこには、耳まで真っ赤になりながらごめん寝の姿勢になっている美月がいた。

「こっち、見ろ」

先ほどまで笑っていた声とは違う。

詰められるだけの甘さを詰め込んだ、低く穏やかな声。

美月が恐る恐る顔を上げると、そこにあったのは。

相変わらず治安の良くない顔。
鋭い牙。
赤い瞳。

けれど、その目には今まで見たことがないほど優しい熱が宿っていた。

東あづまは、満足そうにニッと笑う。

「俺、美月のかっこいい恋人になってるか?」
「っ......」

ようやく下がりかけていた美月の体温が、再び急上昇した。

「っ......かっこいいよムワァァァァァ......!!」
「なんで褒めた本人が叫ぶんだよ!」

美月は勢いよく立ち上がると、近くに置かれていた透明なゴミ袋をひっ掴んだ。

そして、ばさっと被る。

「おい待て」

そのままの体勢で、次はエプロンごと頭から被る。

透明な袋の中で、白い美月だったものがさらに梱包された。

「今度はなんだよ!」

ジャジーがとうとう腹を抱える。

鳳ほうも口元を押さえたまま肩を震わせている。

癒凪ゆなぎは数秒それを眺め。
「......個包装された酒饅頭だな」

静かに結論を出した。

「食いもんになった!」

東あづまが声を上げて笑う。

「食いもんなら残すわけにゃいかねぇ。食うか!」
「やめてぇぇぇ!!」

透明な袋の中から、美月の悲鳴が響く。

朝の新居には。

東あづまの大きな笑い声。
ジャジーの遠慮のない爆笑。
鳳ほうの堪えきれない笑い。
癒凪ゆなぎの以前よりずっと増えた、小さな笑い声。

そして。

個包装された和菓子となった、美月の羞恥に満ちた絶叫が。

いつまでも賑やかに響いていた。




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