ホーム›転生先は隠世!?〜属性過多の妖怪達に愛され過ぎて、念願のスローライフは享年1日で終了しました〜›第3章 近づく距離編 - 第5話「いつまで?」
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第3章 近づく距離編 - 第5話「いつまで?」


ジャジーが美月のもとを離れてから、すでに丸一日以上が経っていた。

「......クソ」

太い木の幹へ背を預けたまま、ジャジーは何度目かも分からない悪態を吐く。

まだ、腹は減っていない。
魔力も十分に残っている。

それなのに、胸の奥に開いた穴だけは、昨日よりも深くなっていた。

「...あいつ、ちゃんと食ってんのかな」

美月が同じことを思っているなど、ジャジーは知る由もない。

「...俺のこと思い浮かべるわけ、ねぇか...」

ジャジーは、美月の家を発つ前に放った言葉を思い出した。

『お前には、新しく守ってくれる奴が来たんだな』

自分で吐いた言葉が、頭の中を何度も廻り、自身を縛り上げていく。

「......何であんなこと言ったんだよ」

答える者はいない。
そのはずだった。

「.........で」
「......」

遠くから、妙に人間臭い声がした。

「......まで」
「......」

声は少しずつ近づいてくる。

「......いつまで......?」
「......」

とうとう頭上の枝が大きく揺れた。

「おい、無視するなよ」

人間臭かった声が、とうとうはっきりとジャジーに向いた。

「普通に話せよ!!」

ジャジーが顔を上げる。

枝の上から覗き込んでいたのは、大柄な鳥の妖だった。

ほとんど人型ではあるが、肌には爬虫類を思わせる細かな鱗。
口を開けば鋸のような歯が並び、脚の先には鋭い爪が生えている。
背には大きな翼。

その妖は枝から飛び降りると、ジャジーの隣へ降りた。

「種族特性なもんで」
「以津真天いつまでかよ......」
「正解〜」

以津真天いつまで。

放置された死者や餓死者の怨念が形を成した妖あやかし。
本来ならば、弔とむらわれぬ亡骸なきがらの上空を飛びながら、『いつまで』と鳴く存在である。

ジャジーは露骨に顔を顰しかめた。

「何が“いつまで”なんだよ。死体なんか隠世にねぇだろ」
「あぁ。だから最近、俺らも死体がなくたって普通に言うぞ」
「どういう意味だよ」

以津真天いつまでは首を傾ける。

「知らねぇけど、なんか放置してる奴のとこに身体が向いちまうんだよなぁ」
「......」

ジャジーの表情が止まった。

「そんで、そいつに向かって『いつまで?いつまで?』って言いたくなる」
「嫌がらせかよ!」

以津真天いつまでの口元が、にやりと歪む。

「......で、ビンゴ?」

ジャジーは一瞬だけ黙る。

「......リーチだ」

低い声で答えた。

以津真天いつまでは『ぶふっ!』と、吹き出す。

「なんだよ。じゃあ、あと一個ぶち抜けばビンゴじゃねぇか」
「......簡単に言うな」
「いや簡単だろ。答えが揃わねぇだけで、答えはぜってぇあんだからよ」

ジャジーは黙る。

美月が鳳ほうへ血を与えた時、腹が立った。
美月が鳳ほうを見て、『かっこいい』と言った時も。
『女子は普通に惚れる』と言った時には、胸の奥が焼けるようだった。

そして、鳳ほうに問われた。

『お主はこの方と、どのような関係でござるか』

答えられなかった。

「......」
「むしろ、答えが揃ってんのに、わざとぶち抜かねぇ奴もいるからな」

以津真天いつまでが、じっとジャジーを見る。
その目は、明らかに確信を持っていた。

ジャジーの眉間に皺が寄る。

「......」
「ビンゴ?」
「うるせぇなお前!」
「当たりじゃねぇか」
「当たりじゃねぇ!」
「じゃあ何を放置してんだよ」
「それが分かんねぇからここにいんだろ!」
「お前、“分かんねぇ”って便利な言葉使うなぁ」
「は?」

以津真天は近くの岩へ腰を下ろす。

「お前、家は?」
「もともとここだ」
「ちげぇよ。新しい巣はあんのかって聞いてんだ」
「......まだ巣になってねぇが、戻る場所はある」
「じゃあ、何で戻らねぇんだ?」
「......」
「戻りたくねぇの?」

反射的に口が動いた。

「戻りてぇ」

言った後で、ジャジー自身が固まった。

以津真天いつまでの顔が、また笑う。

「じゃあ戻りゃいいだけの話だろ。お前がお前自身放置してどうすんだ」
「......チッ」
「戻りてぇなら戻りゃいい。言いてぇことがあんなら言やぁいい。お前は便所行きてぇのに『いや、まだ』とかやんのか?」
「それは行くだろ!便所に例えんな!」
「同じ出すもんだろ。排出口が違ぇだけで」
「はっ倒すぞ!!」

ジャジーも岩へ腰掛けると、空を見上げた。

常夜とこよの森の空。
時間が止まっているかのような空は、何一つ踏み出そうとしない自分の心情を映し出しているようだった。

「......つーか、何て言って戻りゃいいんだよ」
「知るかよ。『戻った』でいいだろ」
「そんな簡単に―――」
「じゃあお前、自分が戻らねぇ間に放置できねぇ問題が起きてもいいのかよ」

その瞬間。

ジャジーの脳裏に、以津真天いつまでの告げた“放置できない問題”が、可能性として並んだ。

唯一の魔力補給源である美月が、補給させてくれなくなったら?
鳳との関係が進み、美月の笑顔が鳳ほうにしか向けられなくなったら?
美月が、自分を思い出さなくなったら?

浮かんだものは、それだけではなかった。
 
騒がしい声。
自分へ向けられる怒った顔。
短いキスの後、耳まで赤くなっていた顔。

全部、鮮明に浮かぶ。

「......」

以津真天いつまでがまた口を開いた。

「で、いつまでここで煮凝にこごりになってんだ?」
「誰が煮凝にこごりだ!」
「昨日から固まってんじゃねぇか」
「チッ......分かったよ......」

ジャジーは立ち上がり、黒い翼を大きく広げる。

「......じゃあ、戻るわ」
「おう」
「別に、答えが出たわけじゃねぇからな」
「はいはい」
「その顔やめろ」
「ビンゴ?」
「お前もう“以津真天いつまで”じゃなくて“ビンゴ”に改名しろ!」
「ぜってぇ名として受け入れたくねぇな」

そして、ジャジーの身体が一気に夜空へ舞い上がった。

以津真天いつまでは遠ざかる黒い翼を見送りながら、小さく笑う。

「......リーチまで来てんなら、最後の一個なんざ、ちょっとした衝撃で開くもんだ」

その声は、ジャジーには届かなかった。

彼はただ、美月のいる場所へ向かって飛んでいくのだった。




第3章 近づく距離編 - 第5話
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転生先は隠世!?〜属性過多の妖怪達に愛され過ぎて、念願のスローライフは享年1日で終了しました〜作者:桜桃
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ジャジーが美月のもとを離れてから、すでに丸一日以上が経っていた。

「......クソ」

太い木の幹へ背を預けたまま、ジャジーは何度目かも分からない悪態を吐く。

まだ、腹は減っていない。
魔力も十分に残っている。

それなのに、胸の奥に開いた穴だけは、昨日よりも深くなっていた。

「...あいつ、ちゃんと食ってんのかな」

美月が同じことを思っているなど、ジャジーは知る由もない。

「...俺のこと思い浮かべるわけ、ねぇか...」

ジャジーは、美月の家を発つ前に放った言葉を思い出した。

『お前には、新しく守ってくれる奴が来たんだな』

自分で吐いた言葉が、頭の中を何度も廻り、自身を縛り上げていく。

「......何であんなこと言ったんだよ」

答える者はいない。
そのはずだった。

「.........で」
「......」

遠くから、妙に人間臭い声がした。

「......まで」
「......」

声は少しずつ近づいてくる。

「......いつまで......?」
「......」

とうとう頭上の枝が大きく揺れた。

「おい、無視するなよ」

人間臭かった声が、とうとうはっきりとジャジーに向いた。

「普通に話せよ!!」

ジャジーが顔を上げる。

枝の上から覗き込んでいたのは、大柄な鳥の妖だった。

ほとんど人型ではあるが、肌には爬虫類を思わせる細かな鱗。
口を開けば鋸のような歯が並び、脚の先には鋭い爪が生えている。
背には大きな翼。

その妖は枝から飛び降りると、ジャジーの隣へ降りた。

「種族特性なもんで」
「以津真天いつまでかよ......」
「正解〜」

以津真天いつまで。

放置された死者や餓死者の怨念が形を成した妖あやかし。
本来ならば、弔とむらわれぬ亡骸なきがらの上空を飛びながら、『いつまで』と鳴く存在である。

ジャジーは露骨に顔を顰しかめた。

「何が“いつまで”なんだよ。死体なんか隠世にねぇだろ」
「あぁ。だから最近、俺らも死体がなくたって普通に言うぞ」
「どういう意味だよ」

以津真天いつまでは首を傾ける。

「知らねぇけど、なんか放置してる奴のとこに身体が向いちまうんだよなぁ」
「......」

ジャジーの表情が止まった。

「そんで、そいつに向かって『いつまで?いつまで?』って言いたくなる」
「嫌がらせかよ!」

以津真天いつまでの口元が、にやりと歪む。

「......で、ビンゴ?」

ジャジーは一瞬だけ黙る。

「......リーチだ」

低い声で答えた。

以津真天いつまでは『ぶふっ!』と、吹き出す。

「なんだよ。じゃあ、あと一個ぶち抜けばビンゴじゃねぇか」
「......簡単に言うな」
「いや簡単だろ。答えが揃わねぇだけで、答えはぜってぇあんだからよ」

ジャジーは黙る。

美月が鳳ほうへ血を与えた時、腹が立った。
美月が鳳ほうを見て、『かっこいい』と言った時も。
『女子は普通に惚れる』と言った時には、胸の奥が焼けるようだった。

そして、鳳ほうに問われた。

『お主はこの方と、どのような関係でござるか』

答えられなかった。

「......」
「むしろ、答えが揃ってんのに、わざとぶち抜かねぇ奴もいるからな」

以津真天いつまでが、じっとジャジーを見る。
その目は、明らかに確信を持っていた。

ジャジーの眉間に皺が寄る。

「......」
「ビンゴ?」
「うるせぇなお前!」
「当たりじゃねぇか」
「当たりじゃねぇ!」
「じゃあ何を放置してんだよ」
「それが分かんねぇからここにいんだろ!」
「お前、“分かんねぇ”って便利な言葉使うなぁ」
「は?」

以津真天は近くの岩へ腰を下ろす。

「お前、家は?」
「もともとここだ」
「ちげぇよ。新しい巣はあんのかって聞いてんだ」
「......まだ巣になってねぇが、戻る場所はある」
「じゃあ、何で戻らねぇんだ?」
「......」
「戻りたくねぇの?」

反射的に口が動いた。

「戻りてぇ」

言った後で、ジャジー自身が固まった。

以津真天いつまでの顔が、また笑う。

「じゃあ戻りゃいいだけの話だろ。お前がお前自身放置してどうすんだ」
「......チッ」
「戻りてぇなら戻りゃいい。言いてぇことがあんなら言やぁいい。お前は便所行きてぇのに『いや、まだ』とかやんのか?」
「それは行くだろ!便所に例えんな!」
「同じ出すもんだろ。排出口が違ぇだけで」
「はっ倒すぞ!!」

ジャジーも岩へ腰掛けると、空を見上げた。

常夜とこよの森の空。
時間が止まっているかのような空は、何一つ踏み出そうとしない自分の心情を映し出しているようだった。

「......つーか、何て言って戻りゃいいんだよ」
「知るかよ。『戻った』でいいだろ」
「そんな簡単に―――」
「じゃあお前、自分が戻らねぇ間に放置できねぇ問題が起きてもいいのかよ」

その瞬間。

ジャジーの脳裏に、以津真天いつまでの告げた“放置できない問題”が、可能性として並んだ。

唯一の魔力補給源である美月が、補給させてくれなくなったら?
鳳との関係が進み、美月の笑顔が鳳ほうにしか向けられなくなったら?
美月が、自分を思い出さなくなったら?

浮かんだものは、それだけではなかった。
 
騒がしい声。
自分へ向けられる怒った顔。
短いキスの後、耳まで赤くなっていた顔。

全部、鮮明に浮かぶ。

「......」

以津真天いつまでがまた口を開いた。

「で、いつまでここで煮凝にこごりになってんだ?」
「誰が煮凝にこごりだ!」
「昨日から固まってんじゃねぇか」
「チッ......分かったよ......」

ジャジーは立ち上がり、黒い翼を大きく広げる。

「......じゃあ、戻るわ」
「おう」
「別に、答えが出たわけじゃねぇからな」
「はいはい」
「その顔やめろ」
「ビンゴ?」
「お前もう“以津真天いつまで”じゃなくて“ビンゴ”に改名しろ!」
「ぜってぇ名として受け入れたくねぇな」

そして、ジャジーの身体が一気に夜空へ舞い上がった。

以津真天いつまでは遠ざかる黒い翼を見送りながら、小さく笑う。

「......リーチまで来てんなら、最後の一個なんざ、ちょっとした衝撃で開くもんだ」

その声は、ジャジーには届かなかった。

彼はただ、美月のいる場所へ向かって飛んでいくのだった。




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