プロローグ〜忘却の神々と移ろいゆく蝶〜
今年もまたこの季節が来たか。
「わっしょい。わっしょい」
神輿を担ぐ人間共の掛け声が夜空に響く。
「人間共め。我はここに居るというのに、何を担いでおるのだ。まさかまた、稲荷だけ担いでいるわけではなかろうな」
「安心しなさいな。私もあなたと共にいますよ」
長年連れ添った、旧友...いや、古女房のような口調で稲荷が言った。
「おったのか。我に構わず担がれて来れば良いものをなぜ帰ってきた?忘れ去られた我を笑いにでも来たか?さぁ、笑え。笑うが良いぞ」
ヤケクソだと思うか?そうもなろう。我とこやつの扱いが違い過ぎるのだから。
「あらあら。随分と僻みぽくなったものね。人間に期待するからいけないのよ。あれらは、花から花へと舞う蝶のようなものよ?」
稲荷は、どこか寂しげに笑った。
「そなたはまだ良いであろう?毎朝、毎夕手を合わせる人間がおろう?」
「あぁ。あの眼鏡のおばさんね。でも、もうあの人だけよ?昔は良かったわね。ねぇ、龍神?今日は昔の事を語り合いましょうよ。ほら、あなたの好きな日本酒もあるのよ?」
「すまぬな、稲荷。今夜だけは、お前と昔の夢を見させてくれ」
「もちろんよ。私もあのおばさんが居なくなれば、石像に戻るのだから」
その夜。
我らは、数百年ぶりに運命が動き出そうとしている事など知る由もなく笛や太鼓の音を聴きながら、夜通し語り合った。