第1話 転生ルーレット
あー。死んだ。
ろくな人生じゃなかった。
家はクソ平凡だったし、俺自身も何の才能もなかったし。
学生時代は何の実績も残せず普通の会社に就職して。
人生つまんねーなーって思ってたら起きた最大で最後のイベント。
通勤中に電車が脱線して爆発炎上、吹っ飛ばされた先が岩肌でごっつん頭パカーン。
痛いのが一瞬で終わったからよかったけど、それにしたって死に方酷くない?
人生全然短かったし。無為に生きるのは怠かったけど、それでも25年よ。あと何年残ってたのさ、寿命。
ワンピース見つかってないし、スバルはいつになったら死に戻りしなくてよくなるの?
好きな異世界転生作品だって当然完結してない。スライムになるやつは終わってたけど、実はまだ読んでなかった。
人生に心残りはない。でも、そっちの心残りは山ほどあるわけで。
「だから女神さん。せめてその辺教えてくれたりしませんか?」
「できませーん」
ケチがよー。
今、俺は黒い空間にいる。そして目の前にはケチというか必要以上に仕事をしたくなさそうな女神が浮かび上がって見えていた。
天女みたいな透明な羽衣をまとっているが、服はコンプラ重視の露出控えめの服。年齢も俺と同じくらいに見え、無表情というかクールというか、とにかくめんどくさそうな雰囲気を隠していない。
「というか、死んだというのに軽いですね。仕事が楽で助かりますけど」
そう言われると、まあ。
「なんか、死んだなー。って気分でしかなくて、特に感慨もなくてですね。なんか......"また"だなって。なんとなく」
既視感なのだろうか。死ぬ瞬間は覚えてないけど、その手前は「嫌だ」って気分は確かになってた気がする。一瞬だったが。
「あー。それはそうでしょうね。貴方、今回で1942576830回目の死亡になります」
「死にすぎじゃない!?」
俺の魂は死に慣れてるってこと!?
「ええ、はい。多分記録を見る限りこの死亡回数は歴代3位くらいなんじゃないですかね。大体の人はどっかで生きるのに飽きて魂の消滅を選ぶものなんですけど」
「今まで一度も選ばなかったんですか? 俺」
「みたいですねー」
他人事やんけ。
「で、今回はどうしますか? 珍しく自我があるみたいなので今度こそ消滅を選びますか?」
「......珍しくとは?」
「はい。貴方の前世......人間の前は蟻でした」
「蟻」
「はい。その前はミジンコ、さらに前は養豚場の豚、オスのカマキリ、鮭、アニサキス......」
アニサキスて。生物なのかそれ?
「......最後に人間だったのは1942576829回前......一番最初ですね」
「最初の俺はいったいどんな罪を犯したらそんな無限地獄に陥ったんです?」
「さあ? 古すぎて記録に残ってないですねー」
さっきからなんだよその「そこになかったらないですねー」みたいなテンション。女神って公務員なの?
「転生も何になるかは運なんで。貴方はずっと知性のない生物を抽選し続けたみたいです。知性がないから生きたいという衝動のまま転生を繰り返したっぽいですね」
「まともな解説ありがとうございます。で、今回久々の人間だったからってことか」
「はい。前例があまりないので私も対応に困ってましてー。サクッと消滅しません?」
「うーん......」
話を聞く限り、転生というのはいい物とは限らないようだ。しかし......。
「......転生先は決まってるんですか?」
「いえ、運って言ったじゃないですか。転生するって言われてから決まりますよ」
「じゃあ異世界でスライムになったりとかするのか」
「467852回くらい既になってますね」
マジかよ転生したらスライムになりまくりだった件。
これは......ギャンブルだ。
あらゆる多種多様な生物(?)に転生するガチャで、もう一度人間になるという幸運を得られるかどうか。
「......転生、します」
「えー。マジですかー?」
「なんでそんなすごい嫌そうな顔するんですか」
仕事増えるからやりたくないみたいな感じ?
しかし、これはチャンスだ。
何故なら......憧れの異世界転生ができるかもしれないからだ。
Web小説を読み続け、自分も異世界転生したいなとずっと思っていた。これは、まさにそれを叶える最大の機会というわけだ。
「えー、じゃあ転生ルーレット回しますね。えいっ」
そう言って女神はどこからともなくクソデカいカジノのルーレットを召喚して、思いっきり回し始めた。
「じゃ、貴方ここに乗ってください」
え?
「え?」
なんかパチンコの弾くところみたいな場所に案内された。
「はい、貴方が玉になります。魂なので」
「弾き飛ばされるんですか?」
「そうですが何か?」
「......」
絶句している間もルーレットが回り続けている。どんな仕組みなのかは知らないが女神パワー的な物だろうか。
「はい、早く乗ってください。飛、ば、し、ま、す......よっと」
ゴムっぽい物を引っ張って後ずさってる女神様がいる。それで吹っ飛ばされるの?
乗らないと始まらないっぽいので、俺は処刑台に足を踏み入れた。すると、途端に身体がなくなって球状の魂になった。
「では行きますよ! えいっ」
パチーン!
と勢いよく吹っ飛ばされる俺。勢いよく転がって回るルーレットの穴を飛び越えていく。
痛くはないが気分は全く良くない。
だが、これで人間を引き当てれば......念願が叶うのだ。
(どこだ......どこだ人間の穴)
回り続ける視界(どこに目がついてんの?)の中で必死に探す。そこに入ってしがみつけば良いだけなのだ。
......しかし、全くどこにもないままルーレットが失速してしまう。
まずい!
このままでは人間以外になってしまう!
早く、早く人間の穴を見つけないと!
「ふんぬぬぬ......」
あった!
だいぶ先にめちゃくちゃ目立つ金色で「人間」と書かれた穴がある!
しかし、今にもルーレットは止まりそうだ。
俺は必死になって魂を転がしていく。
あと少し......あと一歩というところでルーレットが停止してしまう。
このまま人間の手前の穴に入ると......そこに書いてあるのは。
ア ニ サ キ ス。
「またかよ!!」
絶対に嫌だ!!
何が嬉しくて魚に寄生して過ごさなきゃならんのだ!!
「ぐ、ぬぬぬぬぬ......と、どけえ」
アニサキスの穴に落ちそうになりながら、必死に魂を転がす俺。
しかし健闘虚しくアニサキスの穴に落ち......。
「まだだ!!」
そこで俺は魂の尻尾をバネにして勢いよく飛び上がった!
そして、アニサキスの穴を飛び越えて人間の穴にダイブした!
「......おー。なーんかズルしたような気がしますけど、まあ私は関係ないんで見なかったことにします。おめでとうございます、人間連チャンです」
女神様に拍手され、手を引っ張り上げられる。いつのまにか人間に戻っているようだ。
「良かった......これで人間に転生できるんですよね?」
「はい。どこの世界に転生するかはわかりませんが、少なくとも人間がいる世界に人間として転生することが決まりました」
待って。
「どこの世界に転生するか分からない?」
「はい。貴方が元いた世界に転生することもあります」
「待って、俺は異世界転生したいんですよ。現実に帰りたくないです」
なんであんな平凡でくだらない現実世界に帰らないといけないんだ。漫画や小説読むくらいしかやりたいことねえよ。確かに続き気になるけど!
「あー、でしたら転生ボーナスで”異世界に転生する”をチェックしてください」
「......なんて?」
転生ボーナス?
「はい。えー貴方は通算......もういいや、膨大な数転生してて転生時のスキル振り分けサービスがカンストまであります」
「なんか転生モノでありがちなゲームっぽい設定だ!」
「実はゲームの方が後なんですけどね。あれ、転生者が作ったんですよ」
「そうなの!?」
「そうです。......と、女神界隈では言われてます」
眉唾かいっ。
「で、貴方は99999pt転生ボーナスを振り分けられます。そのうち20000pt使えば異世界に確実に転生できます」
「めっちゃかかりますね」
「最近異世界に行きたがる人が増えたのですよ。貴方の世界を中心に」
多分異世界モノが流行ったせい。
「で、残りのポイントは好きなスキルや能力に振り分けられます」
なるほど。これは気軽に無双できるぞ。
「......ちょっと待ってください。なんで俺は人間の時このボーナスの効果なかったんですか?」
「蟻に考える能力はありませんでした」
「............」
それ、実質知性を持つ生物しか活かせないってことじゃないか。システムの欠陥では?
「まぁいいや。じっくり決めさせてもらいます」
「はい、できたらお呼びください」
そうして、俺は異世界転生で無双するためのスキルをチェックしていくのであった。