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プロローグ

 瀬川修司せがわしゅうじは、出版社勤務を経て独立したフリーランスのルポライター。
 彼は、ソーシャル・ネットワーキング・サービスで、トランス障害の罹患者りかんしゃとコンタクトを取り、取材を行っている。

 取材相手との待ち合わせ場所に指定したカフェで、テーブルに置いた資料に目を通していた。

 *

 トランス障害の病態と社会的影響に関する概説

 トランス障害(Trans Disorder)とは、VRMMO(Virtual Reality Massively Multiplayer Online)において、現実の身体とは異なる性別や体格を有するアバターを長時間使用することにより、現実空間への復帰後に身体認識の乖離が生じる神経精神医学的障害である。

 本障害は、仮想空間における身体感覚への持続的な適応が、現実の身体認識に影響を及ぼすことで発症すると考えられている。
 主な症状として、身体寸法や四肢の位置に関する認識の誤差、運動時の距離感覚の異常などが挙げられる。また、稀ではあるが、現実の自己身体に対する強い拒絶反応を呈する症例も報告されている。

 トランス障害の罹患者数は、日本国内だけでも約2,000万人に達すると推計されており、深刻な社会問題となっている。

 こうした事態を受け、VRMMO関連機器およびソフトウェアの製造・販売、ならびにサービスの運営は全面的に禁止され、既存のサービスもすべて終了した。

 しかし、VRMMOの全面禁止後もトランス障害の罹患者は多数存在しており、根本的な治療法は現在に至るまで確立されていない。

 そのため、本障害は世界的な公衆衛生上の課題として認識され、発症機序の解明と治療法の確立に向けた研究が続けられている。

 *

 彼は資料をテーブルの脇に置き、腕時計で時間を確認した。

 そこへ一人の青年が来店し、瀬川に会釈した。

「遅れて申し訳ありません。ハルです」

 瀬川は立ち上がり、彼に名刺を手渡した。

「ルポライターの瀬川修司です。本日はお忙しい中、御足労いただき、ありがとうございます」

 二人は椅子に腰を下ろす。

 ハルは瀬川の資料を一瞥した。

「取材なんて初めてで、少し緊張します」

 ぎこちなく笑った。

「何か注文されますか。代金は私が持ちます」

「それではお言葉に甘えて」

 ハルは、カレーライスとブラックコーヒーを注文した。

 瀬川はボイスレコーダーをテーブルに置いた。

「記事に名前を書かないことを約束します。取材を始めてもよろしいでしょうか?」

 ハルは頷いた。

「はい」

 瀬川はボイスレコーダーのスイッチを入れた。
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第1話 罹患者H・S
VRMMO後遺症作者:虚空小白
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 瀬川修司せがわしゅうじは、出版社勤務を経て独立したフリーランスのルポライター。
 彼は、ソーシャル・ネットワーキング・サービスで、トランス障害の罹患者りかんしゃとコンタクトを取り、取材を行っている。

 取材相手との待ち合わせ場所に指定したカフェで、テーブルに置いた資料に目を通していた。

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 トランス障害の病態と社会的影響に関する概説

 トランス障害(Trans Disorder)とは、VRMMO(Virtual Reality Massively Multiplayer Online)において、現実の身体とは異なる性別や体格を有するアバターを長時間使用することにより、現実空間への復帰後に身体認識の乖離が生じる神経精神医学的障害である。

 本障害は、仮想空間における身体感覚への持続的な適応が、現実の身体認識に影響を及ぼすことで発症すると考えられている。
 主な症状として、身体寸法や四肢の位置に関する認識の誤差、運動時の距離感覚の異常などが挙げられる。また、稀ではあるが、現実の自己身体に対する強い拒絶反応を呈する症例も報告されている。

 トランス障害の罹患者数は、日本国内だけでも約2,000万人に達すると推計されており、深刻な社会問題となっている。

 こうした事態を受け、VRMMO関連機器およびソフトウェアの製造・販売、ならびにサービスの運営は全面的に禁止され、既存のサービスもすべて終了した。

 しかし、VRMMOの全面禁止後もトランス障害の罹患者は多数存在しており、根本的な治療法は現在に至るまで確立されていない。

 そのため、本障害は世界的な公衆衛生上の課題として認識され、発症機序の解明と治療法の確立に向けた研究が続けられている。

 *

 彼は資料をテーブルの脇に置き、腕時計で時間を確認した。

 そこへ一人の青年が来店し、瀬川に会釈した。

「遅れて申し訳ありません。ハルです」

 瀬川は立ち上がり、彼に名刺を手渡した。

「ルポライターの瀬川修司です。本日はお忙しい中、御足労いただき、ありがとうございます」

 二人は椅子に腰を下ろす。

 ハルは瀬川の資料を一瞥した。

「取材なんて初めてで、少し緊張します」

 ぎこちなく笑った。

「何か注文されますか。代金は私が持ちます」

「それではお言葉に甘えて」

 ハルは、カレーライスとブラックコーヒーを注文した。

 瀬川はボイスレコーダーをテーブルに置いた。

「記事に名前を書かないことを約束します。取材を始めてもよろしいでしょうか?」

 ハルは頷いた。

「はい」

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