第四話 理想のフロート
美咲は俺の思ってた以上に麻雀が上手だった。手つきこそ俺と同じでおぼつかないが......
「チー」
その判断力や決断の速さは素人レベルではなかった。
「ロン!」
美咲があっという間にクイタンをアガる。開局早々の初アガリだ。
(すげえなコイツ。とても牌を初めて触った人間とは思えない)
「えへへっ、やっぱり麻雀って楽しい〜。タンヤオのみだけどアガれただけでこんなに嬉しいもん〜」
「やるなぁ、妹ちゃん。センスあるよ」
「えへへ、トッププロに褒められちゃった。美咲って呼んで下さい〜」
さすが、アプリの麻雀とは言え段位取得まで行ってるだけのことはある。十級から始まるものを初段まで行っているのだ。それはつまり黒帯ということ。
その後も新顔の美咲を中心にワイワイとトークは弾み、賑やかにゲームは進行された。
美咲、犬飼、メタのメンツはなんというか、全員が基本おしゃべりなので会話が途切れることがなかった。俺はそれを聞いてはウンウンとうなずいたり、面白い時は笑ったり、たまにあやのさんも話に加わるのでそれもちゃんと聞いてたり。少し騒がしいが、それが俺には心地良かった。
(ここの人たちはみんな明るいな。......そっか、俺は明るい人たちが好きだったんだ。今わかった)
「ねえ、お兄ちゃん。コーヒーフロート頼んでいい?」
「いいよ。そしたら俺もメロンクリームソーダ頼もうかな」
「メロンクリームソーダ? お子様っぽいなー」
「結局それが一番美味えんだよ」
「はーい、コーヒーフロートとメロンクリームソーダね。ご注文ありがとうございます!」
注文はまだしていないが......。なんせ店内が狭いしBGMも無いのだ。注文をする前から厨房に聞こえている。
「はい! コーヒーフロートとメロンクリームソーダです。お待たせしました」
前回注文した時も思ったのだが、ここのフロートは俺の理想のフロートだ。
メロンソーダに大きめの氷が2個入っていて、その上にバニラアイスが乗っている。しかも今日はさらにホイップクリームにサクランボもあるではないか。完璧なメロンクリームソーダだ。
フロート系の飲み物はソフトクリーム乗せじゃなくてアイスクリーム乗せにして欲しいし、氷は小さいのをザラザラ入れるのではなく2個だけ大きい氷が入れてあるのが好きだ。というのも、ソフトクリームだとアイスクリームのような『氷で冷やされた接着面のシャーベット化』が無いからだ。そのシャーベット部分が俺の大好物なわけだから。
また、氷が小さくないと助かる理由は、小さい氷はアイスに埋もれて一体化しようとするからだ。夏場などあっという間にアイスと氷が一体化する。ハッキリ言って邪魔である。フロートを頼んでいるのにわざわざ氷をガリゴリ食べるつもりはない。
アイスクリーム用に細長いスプーンが差してあるのもポイントが高い。
(ちょっとした点が気になる事ってあるよな。でも、その気になる部分を全部この店は良い方にしてくれている。最高だな)
ちなみに、美咲のコーヒーフロートにはちゃんとシロップピッチャーとミルクピッチャーも添えられていた。その心づかいも『もてなし』だなと感心する。
コーヒーフロートは甘いアイスがあるから甘さ充分のイメージはあるかもしれないが入っているコーヒーは大抵ブラックだ。つまり苦い。それに対して『ご自分でお好きな程度お使い下さい』という意味でシロップとミルクをピッチャーで出してくれるのは本当に優秀な店だけだ。ありがたい。
フロートひとつとってもこの実力。やはり『あやの食堂』は素晴らしいなと思った。