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挿絵AIで作った挿絵

鍵

「その鍵は、あんたをむしばんでいる虚しさから解放する扉を開けるものさ。」
 ポストに封筒が落ちる、コトン、という音を聞いて、私は再び歩き出した。

 北の町にあるポストは、円筒形の、古いタイプのポストだった。
 こういうポストは観光客向けの演出として残されているものだと思っていた。偏見なのは分かっているけれど、街が持つ歴史とポストが持つ歴史にズレがあるような感覚を覚え、どうも好きになれなかった。
 でも私の目の前にある赤い円筒形のポストは、ひっそりとした立ち姿をしていて、北の町とともに同じ時を過ごした気配を持っていた。
 誰かに見てもらうためじゃない、生活の一部として立っているポストと向かい合い、私は、ここでしばらく暮らしてみよう、と思った。

 自動販売機で缶コーヒーを買って、小さな公園のベンチに腰をかけ、缶を両手で包み込んだ。
 ふと、気配を感じて右を見ると、隣のベンチにおばあさんが座っているのが見えた。
 さっきまで、公園には誰もいなかったような気が......。
 おばあさんは、帽子を目深まぶかに被っていて、顔はよく見えなかったけれど、やわらかな微笑みが湛えられた口元だけはかろうじて見えた。 その口元に、なぜか私は懐かしさを覚え、おばあさんに声をかけた。 そして――、

 北の町で、こんな話を聞いた。

 満月が煌々こうこうと公園を照らす深夜、私は、老婆から受け取った鍵の束をにらみつけていた。鍵は、古い物から新しい物まで大量にあり、リングで一つにまとめられている。

「その鍵は、あんたをむしばんでいる虚しさから解放する扉を開けるものさ。」

 昼間、この公園で老婆に言われた言葉を、ひとつひとつ、一言一句いちごんいっくゆっくりと思い返す。

「これから言うことは、絶対に守るんだ。いいね。」
 老婆はそう言うと、突き刺すような目で私の目をのぞき込んだ。
「一、扉ひとつにつき鍵はひとつで、一度しか使えない。二、古い物から順に使う。三、満月の深夜、この公園、この場所で、おまえさん一人で扉を開けること。決して他の人と一緒に扉に入ってはいけない。」
 老婆は、探るように私の目を見て、フフッと笑った。
「いいかい、一つでも間違うと、帰って来れなくなっちまう。まあ、あんたがそれを望むなら、あたしは止めないがね。」

 いつからか、私の心にはぽっかりと穴が空いたような虚しさが棲すんでいて、どんどん心を蝕むしばんでいった。
 今の自分を変えたい!
 わらにもすがる思いで一番古い鍵を握りしめると、月明かりの中から、かなり古い木製の扉が目の前に現れた。覚悟を決めて鍵を差し込むと、ガチャリという音とともに扉が開いた。

 玄関から中に入り、奥へと歩みを進める。
 昭和レトロなガラス障子を開けると、見覚えのある若い女性がロッキングチェアに座り、子守唄を歌っていた。すやすや眠る赤ん坊を胸に抱くその人は、よく見ると若かりし頃の母だった。

 まさかこの鍵は......。

 母の向こうに、少し新しい扉が見える。私は鍵の束を握りしめ、次の扉へと向かって歩いた。

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北の町で、こんな話を聞いた。作者:福子
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「その鍵は、あんたをむしばんでいる虚しさから解放する扉を開けるものさ。」
 ポストに封筒が落ちる、コトン、という音を聞いて、私は再び歩き出した。

 北の町にあるポストは、円筒形の、古いタイプのポストだった。
 こういうポストは観光客向けの演出として残されているものだと思っていた。偏見なのは分かっているけれど、街が持つ歴史とポストが持つ歴史にズレがあるような感覚を覚え、どうも好きになれなかった。
 でも私の目の前にある赤い円筒形のポストは、ひっそりとした立ち姿をしていて、北の町とともに同じ時を過ごした気配を持っていた。
 誰かに見てもらうためじゃない、生活の一部として立っているポストと向かい合い、私は、ここでしばらく暮らしてみよう、と思った。

 自動販売機で缶コーヒーを買って、小さな公園のベンチに腰をかけ、缶を両手で包み込んだ。
 ふと、気配を感じて右を見ると、隣のベンチにおばあさんが座っているのが見えた。
 さっきまで、公園には誰もいなかったような気が......。
 おばあさんは、帽子を目深まぶかに被っていて、顔はよく見えなかったけれど、やわらかな微笑みが湛えられた口元だけはかろうじて見えた。 その口元に、なぜか私は懐かしさを覚え、おばあさんに声をかけた。 そして――、

 北の町で、こんな話を聞いた。

 満月が煌々こうこうと公園を照らす深夜、私は、老婆から受け取った鍵の束をにらみつけていた。鍵は、古い物から新しい物まで大量にあり、リングで一つにまとめられている。

「その鍵は、あんたをむしばんでいる虚しさから解放する扉を開けるものさ。」

 昼間、この公園で老婆に言われた言葉を、ひとつひとつ、一言一句いちごんいっくゆっくりと思い返す。

「これから言うことは、絶対に守るんだ。いいね。」
 老婆はそう言うと、突き刺すような目で私の目をのぞき込んだ。
「一、扉ひとつにつき鍵はひとつで、一度しか使えない。二、古い物から順に使う。三、満月の深夜、この公園、この場所で、おまえさん一人で扉を開けること。決して他の人と一緒に扉に入ってはいけない。」
 老婆は、探るように私の目を見て、フフッと笑った。
「いいかい、一つでも間違うと、帰って来れなくなっちまう。まあ、あんたがそれを望むなら、あたしは止めないがね。」

 いつからか、私の心にはぽっかりと穴が空いたような虚しさが棲すんでいて、どんどん心を蝕むしばんでいった。
 今の自分を変えたい!
 わらにもすがる思いで一番古い鍵を握りしめると、月明かりの中から、かなり古い木製の扉が目の前に現れた。覚悟を決めて鍵を差し込むと、ガチャリという音とともに扉が開いた。

 玄関から中に入り、奥へと歩みを進める。
 昭和レトロなガラス障子を開けると、見覚えのある若い女性がロッキングチェアに座り、子守唄を歌っていた。すやすや眠る赤ん坊を胸に抱くその人は、よく見ると若かりし頃の母だった。

 まさかこの鍵は......。

 母の向こうに、少し新しい扉が見える。私は鍵の束を握りしめ、次の扉へと向かって歩いた。

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