
⑨ 恵の回想⑵
「しばらく一人にして」 アタシがそう頼むと、英二さんは静かに病室を出て行った。 英二さんは、さっきまで付きっきりで、アタシを元気づけようとしていたのだった。 12月25日。アタシは精霊病院のベッドの中にいた。 アタシは泣いていた。いつまでも涙が止まらなかった。 初めての子は早産だった。予定日より二か月も早い。「2月まではぎりぎり冬だから名前は雪子にしようか。何かの都合で出産が早まってもそれでいいし」 以前、そう英二さんと話をしていた。 もしかして彼は、予感していたのかな。 未熟児で生まれた彼女は、一声も泣きもせずこの世を去ってしまった。 全てアタシが悪いのだ。アタシの体が小柄だから出産に向いてないのだ。 アタシのせいだ!アタシは自分を責めた。もうそうするしかなかった。 しばらく泣いていると、背後に人の気配を感じた。「英二さん、戻ってきたのかな」 ベッドの中で振り返ると、そこにセーラー服の少女が立っていた。「そんなに泣かないで。貴女はなにも悪くないわ」 ゆっくりとその場にしゃがんで、ベッドの中のアタシに目線を合わせると、優しい顔で彼女はそう言った。「どうか安心して。この世ではないところで、雪子はちゃんと存在しているから」「......そんな気休め言わないで!あの世で幸せなんて言われても悲しいだけよ!」「そうじゃないのよ」 彼女は話し続ける。「貴女、私のこと覚えてないのかしら?」 アタシは少し考えて......ハッとした。「ああっ、アナタは名護屋駅の......!?」「あれから3年かしら。お久しぶりね」 彼女は静かにほほ笑んだ。「私、歳をとってないでしょう?」 そう彼女は言う。「つまりそういう事なのよ。私が雪子なの。貴女の世界では生まれなかった存在。もっとはっきり言うとね、貴女の世界だけには生まれなかった存在なの。」 アタシには彼女が何を言っているのか理解できなかった。 ただ、彼女がウソをついていないのは分かった。 そしてどこか本能的にこの子が雪子であることを受け入れていた。 もうそうでもしないと、心が壊れてしまいそうだった。「いいこと。よく聞いて」 彼女は続ける。「しばらくは落ち込むだろうけど、これに懲りず、また子どもを作りなさい。大丈夫、次は元気に生まれるから」「ホントに?」 アタシは涙ぐみながら尋ねる。「ああ、必ず。3人は産めるぞ。私にはキミの未来が見えるのだ」 彼女は急に男前な口調になる。「そんなに要らない。」とアタシ。「少しは元気出たかな?」 アタシの左肩に手を添えて彼女は言った。「......ありがとう。気休めでも何だかアナタの言葉には説得力があるわ」「念のために来たかいがあったわ。それじゃあそろそろ帰るわね」 彼女はそう言うとゆっくりと立ち上がり......その場で消えてしまった! 今のは幽霊? この世でもあの世でもないところって、いったいどこなのかしら? アタシの可愛い雪子。 漆黒の髪。白い肌に褐色の瞳。勝気そうな細い眉。 また会えるのかしら? ......などと考えながら、すっかり泣き疲れたアタシは、そのまま眠ってしまったのだった。

⑨ 恵の回想⑵
「しばらく一人にして」 アタシがそう頼むと、英二さんは静かに病室を出て行った。 英二さんは、さっきまで付きっきりで、アタシを元気づけようとしていたのだった。 12月25日。アタシは精霊病院のベッドの中にいた。 アタシは泣いていた。いつまでも涙が止まらなかった。 初めての子は早産だった。予定日より二か月も早い。「2月まではぎりぎり冬だから名前は雪子にしようか。何かの都合で出産が早まってもそれでいいし」 以前、そう英二さんと話をしていた。 もしかして彼は、予感していたのかな。 未熟児で生まれた彼女は、一声も泣きもせずこの世を去ってしまった。 全てアタシが悪いのだ。アタシの体が小柄だから出産に向いてないのだ。 アタシのせいだ!アタシは自分を責めた。もうそうするしかなかった。 しばらく泣いていると、背後に人の気配を感じた。「英二さん、戻ってきたのかな」 ベッドの中で振り返ると、そこにセーラー服の少女が立っていた。「そんなに泣かないで。貴女はなにも悪くないわ」 ゆっくりとその場にしゃがんで、ベッドの中のアタシに目線を合わせると、優しい顔で彼女はそう言った。「どうか安心して。この世ではないところで、雪子はちゃんと存在しているから」「......そんな気休め言わないで!あの世で幸せなんて言われても悲しいだけよ!」「そうじゃないのよ」 彼女は話し続ける。「貴女、私のこと覚えてないのかしら?」 アタシは少し考えて......ハッとした。「ああっ、アナタは名護屋駅の......!?」「あれから3年かしら。お久しぶりね」 彼女は静かにほほ笑んだ。「私、歳をとってないでしょう?」 そう彼女は言う。「つまりそういう事なのよ。私が雪子なの。貴女の世界では生まれなかった存在。もっとはっきり言うとね、貴女の世界だけには生まれなかった存在なの。」 アタシには彼女が何を言っているのか理解できなかった。 ただ、彼女がウソをついていないのは分かった。 そしてどこか本能的にこの子が雪子であることを受け入れていた。 もうそうでもしないと、心が壊れてしまいそうだった。「いいこと。よく聞いて」 彼女は続ける。「しばらくは落ち込むだろうけど、これに懲りず、また子どもを作りなさい。大丈夫、次は元気に生まれるから」「ホントに?」 アタシは涙ぐみながら尋ねる。「ああ、必ず。3人は産めるぞ。私にはキミの未来が見えるのだ」 彼女は急に男前な口調になる。「そんなに要らない。」とアタシ。「少しは元気出たかな?」 アタシの左肩に手を添えて彼女は言った。「......ありがとう。気休めでも何だかアナタの言葉には説得力があるわ」「念のために来たかいがあったわ。それじゃあそろそろ帰るわね」 彼女はそう言うとゆっくりと立ち上がり......その場で消えてしまった! 今のは幽霊? この世でもあの世でもないところって、いったいどこなのかしら? アタシの可愛い雪子。 漆黒の髪。白い肌に褐色の瞳。勝気そうな細い眉。 また会えるのかしら? ......などと考えながら、すっかり泣き疲れたアタシは、そのまま眠ってしまったのだった。
