ep13 火の音だけが聞こえる日
ぽぷらんは、今日は火を小さくくべた。
ぱち、ぱち、と静かに燃える音だけが
森の奥に響いている。
風もなく、鳥も鳴かず、
ただ、火と、ぽぷらんと、
そして、苔の精霊モスリィだけがそこにいた。
「......なんだか、今日は静かすぎるね」
ぽぷらんがそう言うと、
モスリィはぽふっと震えて、
火のそばに小さな影を落とした。
「風が、止まってる。
でも、止まるってことは、
また吹くってことだよ」
ぽぷらんは、しっぽで灰をならしながら、
遠くの空を見上げた。
―――
火のそばには、朝から誰かがいたような気配があった。
灰の上に、見慣れない足あとがいくつも残っている。
それは、ぽぷらんのものでも、モスリィのものでもない。
「......誰か、来てたのかな」
ぽぷらんは、火のそばに転がっていた小石を拾った。
「......あれ? こんな数字、書いたっけ?」
石には、うっすらと“208”と刻まれていた。
誰かが書いたのか、それとも、
火が勝手に刻んだのか。
モスリィがぽふっと震えて、
ぽぷらんの肩に乗った。
「今日は、にぎやかだったね」
「え? そうかな......?」
ぽぷらんは、しっぽで火をかき混ぜながら、
もう一度、空を見上げた。
―――
火は、静かに、でも確かに、
ぽぷらんの言葉に応えるように揺れていた。
その揺れの奥に、
ぽぷらんは“遠くの水音”を聞いた気がした。
波の音。
まだ遠いけれど、確かに近づいてくるような、
そんな気がした。
「......風、吹くかな」
ぽぷらんは、火のそばに座りなおして、
そっと目を閉じた。
火の音だけが聞こえる。
でもその奥に、何かがある気がしてならなかった。