ホーム町の小さなお守り魔女と、言葉を紡ぐ金の犬〜不老幼女の大魔女、人間の言葉を喋る魔犬たちと暮らしていたら、魔法都市ができていました~第五話 世話役の初仕事と、賑やかな芽吹き
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第五話 世話役の初仕事と、賑やかな芽吹き

 深い静寂に包まれるはずの山の館が、その日に限ってはまるで蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。


「わっ、ちょっと待て! 順番だ! 一気に押し寄せるなってー!」


 館の広いロビーで、レオンは押し寄せる毛並みの波に揉みくちゃにされていた。

 町に結界を張る代償として、大魔女モルガナから「町に降りる魔犬たちの世話役、そして人間との調整役」という生涯の任務を命じられたレオン。さっそく意気揚々と希望者を募るべく館を訪れたのだが、結果はご覧の有様だった。

 ブランやクゥが下界で過ごし、少年たちの相棒となって暮らしている噂は、館の魔犬(クーシー)たちの好奇心をこれでもかと刺激していたのだ。


「人間たちの町ってどんなところだ!?」


「美味しい食べ物があるって本当か!?」


「僕も行く!」「私も連れていって!」



 艶やかな黒、銀、褐色、金色、多彩な毛並みを持った無数の魔犬たちが、尻尾をちぎれんばかりに振りながら「僕も!」「私も!」とレオンの足元に群がり、膝に前脚をかけ、あるいは肩に飛びつこうとしてくる。人間慣れしていない魔犬たちの純粋すぎる熱量に、レオンは今にも押しつぶされそうだった。



「だーかーら! 一度に全員連れて行けるわけねえだろ! 落ち着けって!」


「レオン、落ち着くのはあなたの方です」


 混乱の渦の中、呆れたような、涼しげな少年の声が響いた。

 レオンの足元からひょっこりと顔を出したのは、白銀色の毛並みを誇る相棒の魔犬・クゥだった。クゥはすっと前脚を踏み出すと、周囲の興奮する同胞たちへ静かに視線を走らせた。その優雅で落ち着きのある佇まいに、子魔犬たちが少しだけ勢いを弱める。



「クゥ......! たすけてくれ、このままじゃ俺、もみくちゃにされて踏みつぶされる......」


「情けない声を上げないでください、世話役でしょう。......ですが、この子たちの気持ちも分かります。彼らの多くは、単に『町という場所がどんな景色なのか知りたいだけ』なのでしょう。本当に人間と暮らしたいのか、それともただの物珍しさなのか、本人たちも分かっていないはずです」


 クゥはレオンを見上げ、賢げな瞳を細めた。


「まずは、魔女様から『景色を記録する魔道具』をお借りしてはどうでしょう。以前、山のなかで使用されているのを見たことがあります。私たちが町の様子を映し取ってきて、ここで上映するのです。それを見た上で、それでも本当に『町に行きたい』と望む子だけを選抜すればよいかと」


 その提案に、レオンの目が丸くなった。そしてポンと手を打つ。


「それだ! クゥ、お前マジで頭いいな!」


「当然です。誰の相棒だと思っているのですか」


 誇らしげに鼻を鳴らすクゥに、レオンは破顔した。

――――――――――――――――――――――――――――――

「すっげえ......本当に景色が固まって見えてる......!」


 モルガナから借り受けた魔道具――水晶玉に銀の枠が嵌められた不思議な道具を手に、レオンとクゥはベイスの町へと降りていた。水晶玉の焦点を街並みに合わせると、まるで水面に映った鏡像のように、目の前の風景が魔法の力で水晶内部に記録されていく。


「しっかりと頼みますよ、レオン。揺れると見ている子たちが酔ってしまいますからね」


「分かってるって! よーし、元気いっぱいの町を撮るぞ!」


 レオンが水晶玉を掲げて石畳の通りを歩いていると、通りの店々から住民たちが顔を覗かせ始めた。「山の魔女への生贄にされた哀れな少年」とレオンを噂し、腫れ物に触るように遠巻きにしていた人々だったが、今のレオンの表情には陰りなど一切ない。


「なにやってるんだい、レオン?」


 香ばしいパンの匂いが漂うパン屋の前を通りかかると、腕捲りをした大きな店主が声をかけてきた。


「おじさん! これさ、魔女様にお借りした魔道具なんだ! 世話役の最初の仕事として、山の魔犬たちに町の様子を見せてやるんだよ!」


「へえ! 魔女様の犬たちに見せるのかい。じゃあ、うちの店も映るのか?」


「おう! あとでじっくり撮りに来るからな!」


「おいおい、じゃあ急いで棚を綺麗に掃除して、一番上手に焼けたパンを並べとかなきゃな!」


 店主は豪快に笑い、奥へと引っ込んでいった。そのやり取りを、路地裏で洗濯物を干していたおばちゃんが見ていて、くすくすとおかしそうに笑う。


「あんた、『生贄になった』なんて噂されてたから心配してたけど......案外、楽しそうにやってるじゃないの」


「生贄なんかじゃねえよ! 俺は魔女様から大事なお役目をもらったんだ! 町と山をつなぐ、立派な世話役なんだからな!」


 胸を張るレオンに、おばちゃんは目を細め、温かい眼差しを向けた。


「そうかい、そうかい。あんたが辛くないんなら、それでいいんだよ。町のみんなも安心したさ......あ! ちょっと待ちな!」


 おばちゃんが急に声を張り上げ、レオンの手元を指さした。


「そこにはあたしの下着が干してあるんだから、そんなもん魔女様の犬に見せるんじゃないよ!」


「うわっ!? 撮ってねえよ! 誰が見るかよ、そんなもん!」


 真っ青になって水晶玉を逸らすレオンに、通り全体からどっと笑いが巻き起こった。かつて教会が植え付けた魔女への恐怖や、レオンに対する悲壮感に満ちた偏見は、明るい陽光とオレンジ色の街灯の下で完全に溶け去っていた。

――――――――――――――――――――――――――――――

 撮影を続けながら市場の広場へと差し掛かると、果物屋の店主や買い物をしていた住民たちが自然とレオンの周りに集まってきた。クゥはレオンの隣で優雅にお座りをし、しっぽをゆったりと揺らしている。


「ねえレオン、さっきの話だけど......山の魔犬たちが、これからたくさん町に降りてくるのかい?」

 近所に住む若い女性が、興味津々といった様子で尋ねてきた。


「うーーん、たぶん! 山には行きたいって言ってる子が山ほどいたからな!」


「そうなんだ......。でもさ、それなら専用の居場所とか、町の中での『決まりごと』が必要なんじゃないかい?」


 その言葉に、周りの大人たちも頷き始めた。


「そうだねえ。人間が食べているものをそのままあげていいのか分からんし」


「肉屋の商品を勝手に食べちゃったり、売り場に飛び込まれたら困るしな」


「入っちゃいけない場所とか、粗相をした時の掃除のルールとか......お互いに気持ちよく過ごすためのルールがあった方が、受け入れる側も安心だよ」


 矢継ぎ早に出される前向きな提案に、レオンは頭をかきむしった。


「えーーー、そっかあ......。俺、そういう難しいこと考えるの苦手なんだよなあ......。クゥ、やってくれよ!」


 レオンはあっさりと足元の相棒に丸投げした。

 クゥはハァと大きな溜息をつき、前脚で自分の額を押さえるような仕草をした。


「丸投げですか、レオン......。世話役の肩書が泣きますよ。仕方ありませんね、後で私が骨組みを考えます」


「あっはっは! 相変わらず賢い犬だねえ! まぁ、がんばりなよ、小さな世話役さん!」


 住民たちの温かい笑い声に見送られながら、レオンとクゥは決まりごと――『町のルール』の必要性をしっかりと胸に刻むのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――

 町での撮影を終えたレオンは、「まずは子魔犬たちを深く知らなきゃ、ルールも作れない」と考え、山の館に数日間泊まり込んで子魔犬たちを観察することにした。

 だが――現実は甘くなかった。


「わあああ! 焦げる焦げる! 魔法でじゃれつくなー!」


 館の庭で、レオンの悲鳴がこだました。

 人間に興味津々な子魔犬たちは、まだ加減というものを知らない。嬉しさのあまり気分が高揚すると、体内の魔力が暴走し、小さな風魔法や火魔法をうっかり放ってしまうのだ。
レオンのズボンの裾から小さな炎が上がり、慌てて手で払うと、今度は別の場所で起こった小さな竜巻がレオンの履物を吹き飛ばした。


「ほら、風魔法で靴を飛ばさない! 火は危ないだろ!」


「キャンッ!」「クゥン!」

『たのしいね!』『レオンおもしろーい!』


 注意しても、子魔犬たちにとっては単なる楽しいお遊びだ。靴を追いかけて走り去る子もいれば、レオンが困っている姿を見てさらに喜ぶ子もいる。

 さらに、夜になれば「無邪気な襲撃」が待っていた。

 レオンが疲れ果てて絨毯の上に横になると、わらわらと3頭、4頭の子魔犬たちが群がってくる。


「んむ......冷たい鼻を首筋につけるな......うわっ、顔を舐めるな! 毛づくろいはいらん!」


 ざらりとした舌で顔中を舐めまわされ、髪の毛を引っ張られ、レオンは休む暇すらない。可愛い。文句なしに愛らしい。だが、あまりにも元気すぎるのだ。


「駄目だ......」


 頭を抱えるレオン。髪の毛はボサボサで、服は焦げ跡と唾液でシワシワだった。


「可愛いけど......このまんま何の準備もなしに町に連れて行ったら、絶対にお店の商品をひっくり返したり、食べ物を奪ったりして大惨事になるぞ......!」

――――――――――――――――――――――――――――――

 限界を迎えたレオンは一度山を下り、実家へと戻った。幼い頃からクゥと一緒にいた両親に教えを乞うためだ。


「父さん、母さん! クゥがうちに来たばかりの頃って、どうやってしつけたんだ!? 館の子魔犬たちが暴れまわって大変なんだよ!」


 居間で温かいスープを飲んでいた母親は、ポカンとした顔でレオンを見た。


「しつけ? うーん......クゥはあんたよりよっぽどいい子だったわよ? 粗相なんて一回もしなかったし。ただ、ものすごい量を食べたけどね。みんなクゥみたいにお利口じゃないの?」


「そうだぞ」


 隣でパンを嚙みちぎっていた父親も頷く。


「なんなら、クゥはお前の面倒をつきっきりで見ていたくらいだ。お前がハイハイで外に出ようとしたら襟首をくわえて戻してくれたしな。まあ、とにかくよく食う犬だったが」


「......お二人とも、一言多いですね」


 すかさず横から割り込んできたのはクゥだった。半目になって両親を睨む。


「......まあ、確かに食べましたけれど。あ、お母さん、パンとスープを大皿に下さい」


「全然参考になんねえ!!」


 レオンは頭を抱えて叫んだ。


「クゥが最初から特別すぎただけじゃねえか! 普通の犬......いや、魔犬の子供はもっと暴れるんだよ!」


「まあまあ、レオン」


 クゥは落ち着いた様子でレオンの膝に前足を乗せた。


「両親の言う通り、私と彼らでは前提が違います。だからこそ、私とレオンで『ルール』を作るのです。町の人々が不安に思わないための約束事と、魔犬たちが人間を傷つけないための決まりごと。双方に守らせる『二つの約束』を作りましょう」


相棒の頼もしい言葉に、レオンはふうっと息を吐き、力強く頷いた。


「ああ......そうだな。俺たちが、ちゃんと橋渡しをしなきゃな!」


――――――――――――――――――――――――――――――

 町での撮影映像を上映する前夜。

 モルガナの山の館の奥深く、重厚な扉で閉ざされた一室に、魔犬たちが集められていた。

 部屋の中央、漆黒のローブを纏った大魔女モルガナが座している。その周囲を、耳をピンと立てた魔犬たちが真剣な表情で囲んでいた。


「......町へ降りる前に、全員よく聞きなさい。これはブランやクゥの実例から、私が突き止めた非常に重要な法則よ」


 モルガナの澄んだ声が部屋に響く。子魔犬たちはゴクリと唾を呑み込んだ。


「人間から『名前』を与えられ、それを君たちが受け入れた時――互いの魂を結ぶ『魂の回廊』が開くわ」


 モルガナはゆっくりと指先を立てる。


「......これは、一生に一度きりの特別な契りよ」

 「名付け......」と、小さな黒い魔犬が呟く。

 「そう」と、横に立つクゥが引き継いだ。


「ですから、本当に気に入った人間、生涯を共にすると決めた人間以外に、絶対に名前をねだってはいけません。また、人間が軽い気持ちで名前を呼ぼうとしても、安易に受け入れては駄目ですよ」


 モルガナの眼差しが、厳しくも温かく魔犬たちを包み込む。


「名前を受け入れるということは、その人間の喜びも哀しみも、一生涯ともに背負う覚悟を持つということ。君たちの心は自由だけれど、その契りだけは絶対に軽んじてはならないわ」


 部屋の中に重厚な沈黙が流れた。

 子魔犬たちは、幼いながらもことの重大さを感じたようで、深く、真剣に頷いた。

――――――――――――――――――――――――――――――

 翌日、館の大ホールにて、いよいよ「上映会」が開催された。

 モルガナが魔道具に魔力を注ぐと、ホールの空間に色鮮やかな三次元の映像が浮かび上がった。

 香ばしい匂いすら漂ってきそうな焼き立てのパン。活気に満ちた市場で笑い合う人々。子どもたちが駆け回る広場。夕日に染まるオレンジ色の街灯――。


「うわあぁぁ......!」

「きれい......!」


 魔犬たちから感嘆の溜息が漏れる。自分たちが住む静かな白銀の山とは全く異なる、温かく、賑やかで、輝かしい人間の世界。

 映像が終わり、光が消えると、ホールは静まり返った。

 レオンが前に進み出で、朗々とした声で問いかける。


「どうだ? これが町だ。......遠くから見て『満足した』ってやつもいるだろうし、『やっぱりあの町に行って、人間と一緒に生きてみたい』って思うやつもいると思う。自分でよく考えて決めてくれ!」


 魔犬たちは互いに顔を見合わせ、やがて静かに希望が分かれ始めた。


 「僕は山が好きだ。時々遠くから眺めるだけでいい」という慎重な者たち。

 「私はあの賑やかな町で、素敵な人間と出会いたい!」と瞳を輝かせる者たち。


 クゥの目論見通り、映像を見たことで自分の適性を理解し、納得の上で町に降りないという決断をしたものが出たのだ。ただし、町へ降りることを希望した魔犬たちの数は、当初よりは減ったが依然として多く、そのなかから第一陣として、数頭を選ぶ必要があった。


「なぁ、クゥ...確かに減ったな...減ったけどこれじゃあ...」


「それ以上言わないで下さい、レオン。半分わかっていたことです。そうですね...こうなれば全員の性格や態度を見て、大人しくできそうな子を優先しましょう。」


「結局ちまちまやんのかよぉーーー!」


「うるさいです!さっさと書くものを持ってきてください!」


 そうして、愚図るレオンを押して、地道な作業が始まった。レオンは机に羊皮紙を広げ、ペンを握った。クゥはすぐ隣に座り込み、子魔犬たち一頭一頭の普段の振る舞いを観察した記憶をたどりながら、レオンに伝えていく。

「レオン、あの黒い毛並みの風魔法を使う子は、人懐っこいですが少々調子に乗りやすい面があります。人間のルールを理解できるまで、もう少し時間の指導が必要です」

「よし......『黒、中ぐらい:風使い。元気良すぎ。要観察』っと。じゃあ、あの灰色の小柄な女の子は?」

「あの子は人間への興味が強いですが、非常に慎重で分別があります。感情が高ぶっても魔法を暴走させる心配は少ないでしょう」

「『灰、小:落ち着きあり。ルールもしっかり守れそう』だな!」

 二人は何日もかけて、町に行きたがったすべての魔犬たちの「性格」「魔法の癖」「興奮したときの反応」「人間に対する態度」を細かく記録し、一冊の『魔犬観察ノート』を作り上げた。
 それだけではない。クゥは子魔犬たちを庭に集め、自ら手本となって「人間社会でのマナー講座」を開いた。


「いいですか、皆さん。人間から食べ物を貰う時は、飛びついて奪ってはいけません。まずはピシッと『お座り』をして待つのです。そして、興奮しても絶対に火や風の魔法を放ってはいけませんよ。これができなければ、町へは連れていけません!」


「「「キュ~ン......」」」


 毅然とした態度で教えると、あんなに暴れていた子魔犬たちも耳を伏せ、一生懸命にお座りや伏せの練習を始めた。
 一方でレオンも、何度も町へと足を運んだ。町の大人たちに『魔犬観察ノート』を見せながら、熱心に話し合いを重ねる。

「おじさん、犬にあげちゃいけない食べ物のリストを作ってきたよ! 普通の犬と違って人間のものはなんでも食べられるけど、まだ子供だから、固いものとか、飲み込みづらいものに注意だって。それと、もし店に入りそうになったら、この手の仕草で制止してくれ。犬たちにも『その仕草をされたら待つ』ように仕込んでおくから!」

「へえ......レオン、お前本当によく考えてるんだな。最初は頼りないかと思ってたが、すっかり立派な世話役じゃないか」

「おう!犬たちの寝る場所も防衛隊の詰所を貸してくれるっていうし、すげー順調だぜ!」

 レオンとクゥの地道で愚直な努力によって、魔犬側のマナーと人間側の受け入れ態勢は一歩ずつ、確実に形作られていったのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――

 雲ひとつない晴れ渡る朝。

 澄み切った秋風が吹く石畳の街道に、パタパタという楽しげな足音が響き渡っていた。


「さあ着いたぞ! ここがベイスの町だ!」


 先頭を歩くレオンが胸を張り、誇らしげに叫ぶ。その隣ではクゥが誇り高く歩調を合わせ、後ろには緊張と期待に胸を膨らませた第一陣の魔犬たちが続いていた。


「おーい! 待ちかねたぞ! 焼きたてのパンがあるから食べていきな!」


 パン屋の店主が笑顔で店から飛び出してきて、香ばしい丸パンを差し出す。


「コラッ! 貰う時はちゃんとお座りしなさい! 粗相するんじゃないよ!」


 おばちゃんも温かい料理が入った鍋を抱えてやってきて、子魔犬たちの頭を優しく撫でた。


 レオンとクゥが事前に作成した「町のルール」――人間が渡していい食べ物、魔犬が入っていい場所、粗相をした時の対処法――は、町側にも魔犬側にもしっかりと周知されていた。小さなトラブルすら起きず、交流は驚くほどスムーズに始まった。


「レオン、立派な世話役ですね」


「へへっ、だろ? 俺、この仕事がすごく好きかもしれない」


 胸を張るレオンの姿に、クゥは温かく微笑んだ。

 ――はるか山頂近く、山の館の窓辺。

 大魔女モルガナは、遠く眼下に広がるベイスの町と、そこに溶け込む魔犬たちの姿を静かに見守っていた。
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第六話 王宮の枷と、解き放たれた新芽
町の小さなお守り魔女と、言葉を紡ぐ金の犬〜不老幼女の大魔女、人間の言葉を喋る魔犬たちと暮らしていたら、魔法都市ができていました~作者:あづみ
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第五話 世話役の初仕事と、賑やかな芽吹き

 深い静寂に包まれるはずの山の館が、その日に限ってはまるで蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。


「わっ、ちょっと待て! 順番だ! 一気に押し寄せるなってー!」


 館の広いロビーで、レオンは押し寄せる毛並みの波に揉みくちゃにされていた。

 町に結界を張る代償として、大魔女モルガナから「町に降りる魔犬たちの世話役、そして人間との調整役」という生涯の任務を命じられたレオン。さっそく意気揚々と希望者を募るべく館を訪れたのだが、結果はご覧の有様だった。

 ブランやクゥが下界で過ごし、少年たちの相棒となって暮らしている噂は、館の魔犬(クーシー)たちの好奇心をこれでもかと刺激していたのだ。


「人間たちの町ってどんなところだ!?」


「美味しい食べ物があるって本当か!?」


「僕も行く!」「私も連れていって!」



 艶やかな黒、銀、褐色、金色、多彩な毛並みを持った無数の魔犬たちが、尻尾をちぎれんばかりに振りながら「僕も!」「私も!」とレオンの足元に群がり、膝に前脚をかけ、あるいは肩に飛びつこうとしてくる。人間慣れしていない魔犬たちの純粋すぎる熱量に、レオンは今にも押しつぶされそうだった。



「だーかーら! 一度に全員連れて行けるわけねえだろ! 落ち着けって!」


「レオン、落ち着くのはあなたの方です」


 混乱の渦の中、呆れたような、涼しげな少年の声が響いた。

 レオンの足元からひょっこりと顔を出したのは、白銀色の毛並みを誇る相棒の魔犬・クゥだった。クゥはすっと前脚を踏み出すと、周囲の興奮する同胞たちへ静かに視線を走らせた。その優雅で落ち着きのある佇まいに、子魔犬たちが少しだけ勢いを弱める。



「クゥ......! たすけてくれ、このままじゃ俺、もみくちゃにされて踏みつぶされる......」


「情けない声を上げないでください、世話役でしょう。......ですが、この子たちの気持ちも分かります。彼らの多くは、単に『町という場所がどんな景色なのか知りたいだけ』なのでしょう。本当に人間と暮らしたいのか、それともただの物珍しさなのか、本人たちも分かっていないはずです」


 クゥはレオンを見上げ、賢げな瞳を細めた。


「まずは、魔女様から『景色を記録する魔道具』をお借りしてはどうでしょう。以前、山のなかで使用されているのを見たことがあります。私たちが町の様子を映し取ってきて、ここで上映するのです。それを見た上で、それでも本当に『町に行きたい』と望む子だけを選抜すればよいかと」


 その提案に、レオンの目が丸くなった。そしてポンと手を打つ。


「それだ! クゥ、お前マジで頭いいな!」


「当然です。誰の相棒だと思っているのですか」


 誇らしげに鼻を鳴らすクゥに、レオンは破顔した。

――――――――――――――――――――――――――――――

「すっげえ......本当に景色が固まって見えてる......!」


 モルガナから借り受けた魔道具――水晶玉に銀の枠が嵌められた不思議な道具を手に、レオンとクゥはベイスの町へと降りていた。水晶玉の焦点を街並みに合わせると、まるで水面に映った鏡像のように、目の前の風景が魔法の力で水晶内部に記録されていく。


「しっかりと頼みますよ、レオン。揺れると見ている子たちが酔ってしまいますからね」


「分かってるって! よーし、元気いっぱいの町を撮るぞ!」


 レオンが水晶玉を掲げて石畳の通りを歩いていると、通りの店々から住民たちが顔を覗かせ始めた。「山の魔女への生贄にされた哀れな少年」とレオンを噂し、腫れ物に触るように遠巻きにしていた人々だったが、今のレオンの表情には陰りなど一切ない。


「なにやってるんだい、レオン?」


 香ばしいパンの匂いが漂うパン屋の前を通りかかると、腕捲りをした大きな店主が声をかけてきた。


「おじさん! これさ、魔女様にお借りした魔道具なんだ! 世話役の最初の仕事として、山の魔犬たちに町の様子を見せてやるんだよ!」


「へえ! 魔女様の犬たちに見せるのかい。じゃあ、うちの店も映るのか?」


「おう! あとでじっくり撮りに来るからな!」


「おいおい、じゃあ急いで棚を綺麗に掃除して、一番上手に焼けたパンを並べとかなきゃな!」


 店主は豪快に笑い、奥へと引っ込んでいった。そのやり取りを、路地裏で洗濯物を干していたおばちゃんが見ていて、くすくすとおかしそうに笑う。


「あんた、『生贄になった』なんて噂されてたから心配してたけど......案外、楽しそうにやってるじゃないの」


「生贄なんかじゃねえよ! 俺は魔女様から大事なお役目をもらったんだ! 町と山をつなぐ、立派な世話役なんだからな!」


 胸を張るレオンに、おばちゃんは目を細め、温かい眼差しを向けた。


「そうかい、そうかい。あんたが辛くないんなら、それでいいんだよ。町のみんなも安心したさ......あ! ちょっと待ちな!」


 おばちゃんが急に声を張り上げ、レオンの手元を指さした。


「そこにはあたしの下着が干してあるんだから、そんなもん魔女様の犬に見せるんじゃないよ!」


「うわっ!? 撮ってねえよ! 誰が見るかよ、そんなもん!」


 真っ青になって水晶玉を逸らすレオンに、通り全体からどっと笑いが巻き起こった。かつて教会が植え付けた魔女への恐怖や、レオンに対する悲壮感に満ちた偏見は、明るい陽光とオレンジ色の街灯の下で完全に溶け去っていた。

――――――――――――――――――――――――――――――

 撮影を続けながら市場の広場へと差し掛かると、果物屋の店主や買い物をしていた住民たちが自然とレオンの周りに集まってきた。クゥはレオンの隣で優雅にお座りをし、しっぽをゆったりと揺らしている。


「ねえレオン、さっきの話だけど......山の魔犬たちが、これからたくさん町に降りてくるのかい?」

 近所に住む若い女性が、興味津々といった様子で尋ねてきた。


「うーーん、たぶん! 山には行きたいって言ってる子が山ほどいたからな!」


「そうなんだ......。でもさ、それなら専用の居場所とか、町の中での『決まりごと』が必要なんじゃないかい?」


 その言葉に、周りの大人たちも頷き始めた。


「そうだねえ。人間が食べているものをそのままあげていいのか分からんし」


「肉屋の商品を勝手に食べちゃったり、売り場に飛び込まれたら困るしな」


「入っちゃいけない場所とか、粗相をした時の掃除のルールとか......お互いに気持ちよく過ごすためのルールがあった方が、受け入れる側も安心だよ」


 矢継ぎ早に出される前向きな提案に、レオンは頭をかきむしった。


「えーーー、そっかあ......。俺、そういう難しいこと考えるの苦手なんだよなあ......。クゥ、やってくれよ!」


 レオンはあっさりと足元の相棒に丸投げした。

 クゥはハァと大きな溜息をつき、前脚で自分の額を押さえるような仕草をした。


「丸投げですか、レオン......。世話役の肩書が泣きますよ。仕方ありませんね、後で私が骨組みを考えます」


「あっはっは! 相変わらず賢い犬だねえ! まぁ、がんばりなよ、小さな世話役さん!」


 住民たちの温かい笑い声に見送られながら、レオンとクゥは決まりごと――『町のルール』の必要性をしっかりと胸に刻むのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――

 町での撮影を終えたレオンは、「まずは子魔犬たちを深く知らなきゃ、ルールも作れない」と考え、山の館に数日間泊まり込んで子魔犬たちを観察することにした。

 だが――現実は甘くなかった。


「わあああ! 焦げる焦げる! 魔法でじゃれつくなー!」


 館の庭で、レオンの悲鳴がこだました。

 人間に興味津々な子魔犬たちは、まだ加減というものを知らない。嬉しさのあまり気分が高揚すると、体内の魔力が暴走し、小さな風魔法や火魔法をうっかり放ってしまうのだ。
レオンのズボンの裾から小さな炎が上がり、慌てて手で払うと、今度は別の場所で起こった小さな竜巻がレオンの履物を吹き飛ばした。


「ほら、風魔法で靴を飛ばさない! 火は危ないだろ!」


「キャンッ!」「クゥン!」

『たのしいね!』『レオンおもしろーい!』


 注意しても、子魔犬たちにとっては単なる楽しいお遊びだ。靴を追いかけて走り去る子もいれば、レオンが困っている姿を見てさらに喜ぶ子もいる。

 さらに、夜になれば「無邪気な襲撃」が待っていた。

 レオンが疲れ果てて絨毯の上に横になると、わらわらと3頭、4頭の子魔犬たちが群がってくる。


「んむ......冷たい鼻を首筋につけるな......うわっ、顔を舐めるな! 毛づくろいはいらん!」


 ざらりとした舌で顔中を舐めまわされ、髪の毛を引っ張られ、レオンは休む暇すらない。可愛い。文句なしに愛らしい。だが、あまりにも元気すぎるのだ。


「駄目だ......」


 頭を抱えるレオン。髪の毛はボサボサで、服は焦げ跡と唾液でシワシワだった。


「可愛いけど......このまんま何の準備もなしに町に連れて行ったら、絶対にお店の商品をひっくり返したり、食べ物を奪ったりして大惨事になるぞ......!」

――――――――――――――――――――――――――――――

 限界を迎えたレオンは一度山を下り、実家へと戻った。幼い頃からクゥと一緒にいた両親に教えを乞うためだ。


「父さん、母さん! クゥがうちに来たばかりの頃って、どうやってしつけたんだ!? 館の子魔犬たちが暴れまわって大変なんだよ!」


 居間で温かいスープを飲んでいた母親は、ポカンとした顔でレオンを見た。


「しつけ? うーん......クゥはあんたよりよっぽどいい子だったわよ? 粗相なんて一回もしなかったし。ただ、ものすごい量を食べたけどね。みんなクゥみたいにお利口じゃないの?」


「そうだぞ」


 隣でパンを嚙みちぎっていた父親も頷く。


「なんなら、クゥはお前の面倒をつきっきりで見ていたくらいだ。お前がハイハイで外に出ようとしたら襟首をくわえて戻してくれたしな。まあ、とにかくよく食う犬だったが」


「......お二人とも、一言多いですね」


 すかさず横から割り込んできたのはクゥだった。半目になって両親を睨む。


「......まあ、確かに食べましたけれど。あ、お母さん、パンとスープを大皿に下さい」


「全然参考になんねえ!!」


 レオンは頭を抱えて叫んだ。


「クゥが最初から特別すぎただけじゃねえか! 普通の犬......いや、魔犬の子供はもっと暴れるんだよ!」


「まあまあ、レオン」


 クゥは落ち着いた様子でレオンの膝に前足を乗せた。


「両親の言う通り、私と彼らでは前提が違います。だからこそ、私とレオンで『ルール』を作るのです。町の人々が不安に思わないための約束事と、魔犬たちが人間を傷つけないための決まりごと。双方に守らせる『二つの約束』を作りましょう」


相棒の頼もしい言葉に、レオンはふうっと息を吐き、力強く頷いた。


「ああ......そうだな。俺たちが、ちゃんと橋渡しをしなきゃな!」


――――――――――――――――――――――――――――――

 町での撮影映像を上映する前夜。

 モルガナの山の館の奥深く、重厚な扉で閉ざされた一室に、魔犬たちが集められていた。

 部屋の中央、漆黒のローブを纏った大魔女モルガナが座している。その周囲を、耳をピンと立てた魔犬たちが真剣な表情で囲んでいた。


「......町へ降りる前に、全員よく聞きなさい。これはブランやクゥの実例から、私が突き止めた非常に重要な法則よ」


 モルガナの澄んだ声が部屋に響く。子魔犬たちはゴクリと唾を呑み込んだ。


「人間から『名前』を与えられ、それを君たちが受け入れた時――互いの魂を結ぶ『魂の回廊』が開くわ」


 モルガナはゆっくりと指先を立てる。


「......これは、一生に一度きりの特別な契りよ」

 「名付け......」と、小さな黒い魔犬が呟く。

 「そう」と、横に立つクゥが引き継いだ。


「ですから、本当に気に入った人間、生涯を共にすると決めた人間以外に、絶対に名前をねだってはいけません。また、人間が軽い気持ちで名前を呼ぼうとしても、安易に受け入れては駄目ですよ」


 モルガナの眼差しが、厳しくも温かく魔犬たちを包み込む。


「名前を受け入れるということは、その人間の喜びも哀しみも、一生涯ともに背負う覚悟を持つということ。君たちの心は自由だけれど、その契りだけは絶対に軽んじてはならないわ」


 部屋の中に重厚な沈黙が流れた。

 子魔犬たちは、幼いながらもことの重大さを感じたようで、深く、真剣に頷いた。

――――――――――――――――――――――――――――――

 翌日、館の大ホールにて、いよいよ「上映会」が開催された。

 モルガナが魔道具に魔力を注ぐと、ホールの空間に色鮮やかな三次元の映像が浮かび上がった。

 香ばしい匂いすら漂ってきそうな焼き立てのパン。活気に満ちた市場で笑い合う人々。子どもたちが駆け回る広場。夕日に染まるオレンジ色の街灯――。


「うわあぁぁ......!」

「きれい......!」


 魔犬たちから感嘆の溜息が漏れる。自分たちが住む静かな白銀の山とは全く異なる、温かく、賑やかで、輝かしい人間の世界。

 映像が終わり、光が消えると、ホールは静まり返った。

 レオンが前に進み出で、朗々とした声で問いかける。


「どうだ? これが町だ。......遠くから見て『満足した』ってやつもいるだろうし、『やっぱりあの町に行って、人間と一緒に生きてみたい』って思うやつもいると思う。自分でよく考えて決めてくれ!」


 魔犬たちは互いに顔を見合わせ、やがて静かに希望が分かれ始めた。


 「僕は山が好きだ。時々遠くから眺めるだけでいい」という慎重な者たち。

 「私はあの賑やかな町で、素敵な人間と出会いたい!」と瞳を輝かせる者たち。


 クゥの目論見通り、映像を見たことで自分の適性を理解し、納得の上で町に降りないという決断をしたものが出たのだ。ただし、町へ降りることを希望した魔犬たちの数は、当初よりは減ったが依然として多く、そのなかから第一陣として、数頭を選ぶ必要があった。


「なぁ、クゥ...確かに減ったな...減ったけどこれじゃあ...」


「それ以上言わないで下さい、レオン。半分わかっていたことです。そうですね...こうなれば全員の性格や態度を見て、大人しくできそうな子を優先しましょう。」


「結局ちまちまやんのかよぉーーー!」


「うるさいです!さっさと書くものを持ってきてください!」


 そうして、愚図るレオンを押して、地道な作業が始まった。レオンは机に羊皮紙を広げ、ペンを握った。クゥはすぐ隣に座り込み、子魔犬たち一頭一頭の普段の振る舞いを観察した記憶をたどりながら、レオンに伝えていく。

「レオン、あの黒い毛並みの風魔法を使う子は、人懐っこいですが少々調子に乗りやすい面があります。人間のルールを理解できるまで、もう少し時間の指導が必要です」

「よし......『黒、中ぐらい:風使い。元気良すぎ。要観察』っと。じゃあ、あの灰色の小柄な女の子は?」

「あの子は人間への興味が強いですが、非常に慎重で分別があります。感情が高ぶっても魔法を暴走させる心配は少ないでしょう」

「『灰、小:落ち着きあり。ルールもしっかり守れそう』だな!」

 二人は何日もかけて、町に行きたがったすべての魔犬たちの「性格」「魔法の癖」「興奮したときの反応」「人間に対する態度」を細かく記録し、一冊の『魔犬観察ノート』を作り上げた。
 それだけではない。クゥは子魔犬たちを庭に集め、自ら手本となって「人間社会でのマナー講座」を開いた。


「いいですか、皆さん。人間から食べ物を貰う時は、飛びついて奪ってはいけません。まずはピシッと『お座り』をして待つのです。そして、興奮しても絶対に火や風の魔法を放ってはいけませんよ。これができなければ、町へは連れていけません!」


「「「キュ~ン......」」」


 毅然とした態度で教えると、あんなに暴れていた子魔犬たちも耳を伏せ、一生懸命にお座りや伏せの練習を始めた。
 一方でレオンも、何度も町へと足を運んだ。町の大人たちに『魔犬観察ノート』を見せながら、熱心に話し合いを重ねる。

「おじさん、犬にあげちゃいけない食べ物のリストを作ってきたよ! 普通の犬と違って人間のものはなんでも食べられるけど、まだ子供だから、固いものとか、飲み込みづらいものに注意だって。それと、もし店に入りそうになったら、この手の仕草で制止してくれ。犬たちにも『その仕草をされたら待つ』ように仕込んでおくから!」

「へえ......レオン、お前本当によく考えてるんだな。最初は頼りないかと思ってたが、すっかり立派な世話役じゃないか」

「おう!犬たちの寝る場所も防衛隊の詰所を貸してくれるっていうし、すげー順調だぜ!」

 レオンとクゥの地道で愚直な努力によって、魔犬側のマナーと人間側の受け入れ態勢は一歩ずつ、確実に形作られていったのだった。

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 雲ひとつない晴れ渡る朝。

 澄み切った秋風が吹く石畳の街道に、パタパタという楽しげな足音が響き渡っていた。


「さあ着いたぞ! ここがベイスの町だ!」


 先頭を歩くレオンが胸を張り、誇らしげに叫ぶ。その隣ではクゥが誇り高く歩調を合わせ、後ろには緊張と期待に胸を膨らませた第一陣の魔犬たちが続いていた。


「おーい! 待ちかねたぞ! 焼きたてのパンがあるから食べていきな!」


 パン屋の店主が笑顔で店から飛び出してきて、香ばしい丸パンを差し出す。


「コラッ! 貰う時はちゃんとお座りしなさい! 粗相するんじゃないよ!」


 おばちゃんも温かい料理が入った鍋を抱えてやってきて、子魔犬たちの頭を優しく撫でた。


 レオンとクゥが事前に作成した「町のルール」――人間が渡していい食べ物、魔犬が入っていい場所、粗相をした時の対処法――は、町側にも魔犬側にもしっかりと周知されていた。小さなトラブルすら起きず、交流は驚くほどスムーズに始まった。


「レオン、立派な世話役ですね」


「へへっ、だろ? 俺、この仕事がすごく好きかもしれない」


 胸を張るレオンの姿に、クゥは温かく微笑んだ。

 ――はるか山頂近く、山の館の窓辺。

 大魔女モルガナは、遠く眼下に広がるベイスの町と、そこに溶け込む魔犬たちの姿を静かに見守っていた。
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町の小さなお守り魔女と、言葉を紡ぐ金の犬〜不老幼女の大魔女、人間の言葉を喋る魔犬たちと暮らしていたら、魔法都市ができていました~作者:あづみ
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