17の夏
17の夏でした。
今から、だいたい23年前の話です。
令和という時代が来る前、平成の時代。
携帯電話が普及し始め、持っている人が多くなり、"パケ死"なんて言葉が出てきた時でした。
そんな中、自分も携帯電話を持ち始めた一人でした。
好きな子がいたんです。
心から。
黒髪でしたが、すっごく髪の毛が綺麗で、遠くからでも彼女だと分かるぐらい。
性格も明るく元気で、いつも友達と教室で笑っていた記憶がありました。
ある時期を境に、そんな彼女が学校を休みがちになりました。
どうしたんだろう? って思っていましたが本人が言いたくないことを聞くのも嫌だったので、聞かないでいたんです。
最初は、体調を悪くして帰宅するぐらいでした。
そのうち午前中だけ出て帰る、午後だけ出てくる、そういうことが続いたんです。
学校をわざと休むような子でもなく、彼女と仲の良い子たちも「どうしたの?」とか聞いていました。
どうにも曖昧に答えてるみたいで、その時は分かりませんでした。
そして、彼女は本格的に休むようになったんです。
あれは、期末試験が終わった日でした。
午前中にテストが終わって、午後から部活をしていたんです。
あの日は、凄く暑い日で。
夕方になっても暑くて、蝉の鳴き声とか、車がアスファルトを走っている音、湿気で少しヌワッとした匂いとかがして。
だけど、夏休み。
それが凄く嬉しくて。
今まで感じていた不快な蝉の鳴き声とか、湿気が伴った暑さや匂いも気にならないぐらい楽しみでした。
今年の夏休みは何しよう。
海行っても良いかなー、あ、あの子も誘ったら来てくれるかな、なんてことを考えていたんです。
そんなことを考えながら校舎を出ようとした時でした、教室に忘れ物をしたかもしれないって思ったんです。
最初は机の中に、今日のテストで使った筆箱を忘れてきたかもしれない。そう考えたんです。
そこで、学校指定鞄を急いで開いて確認したら案の定、そこには筆箱の姿形がなく。
だから、取りに行ったんです。
教室は二階の端っこ。
白い階段を一段飛ばしで駆けあがって、でもいつもよりも足が軽く感じました。
自分の席は一番窓側、後ろから二個目。
彼女の席は自分の斜め後ろで、一番後ろでした。
教室に入った時、その彼女の席に顔を横にして机に寝ている子がいました。
あ、彼女だ。
こんな時間にどうしたんだろう? って最初は思いました。
彼女の長い髪が四方八方に机から流れ出てくる川のように垂れてて、それがおかしくてつい声をかけたんです。
「どこの観光地だよ」って。
声に驚いたのか、勢いよく体を起こして彼女は僕を見つめてきました。
目をいつもよりも大きく開いて、本当に驚いたって顔をしていたと思います。
「帰ってなかったの?」
「あー部活で」
「そう」
そんな感じのやり取りをしつつ、自分は机の筆箱をとった時でした。
「あ、そっか。今日、テストだったんだ」
「そうだよ。期末、どうするの?」
「分かんない」
また、彼女は机に突っ伏してしまいました。
「あのさ」
「ん? なに?」
「ちょっと、話そうよ」
顔だけ自分の方に向けて彼女は言ったんです。
窓からさす夕日に照らされる彼女がとても綺麗で、今、告白しようかという考えが一瞬頭をよぎりましたが、出来ませんでした。
「うん。良いよ。少しだけなら」
そう言って、夏休みは何をするか。宿題のこと。学校で起きたこと。来年は受験生だけど、どうするのか、といった内容を話したように思います。
他にも色んなことを話した気がしますが、自分は彼女と話しててとても楽しかったんです。
ほぼ一方的に自分が話しをするだけでした。それでも彼女は静かに頷いてくれて、でもどこか楽しそうに聞いてくれました。
あ、このままさっき考えていた遊びに誘えるかもって考え、思い切って言ってみたんです。
「あのさ、良かったら、なんだけど」
「うん」
「......海、行かない?」
彼女は「うーん」って言いながらまた机に突っ伏してしまい、何か考えているようでした。
「ごめん。無理」
今度はこっちに顔を向けることなく、そう言われました。
あーダメか。まあ、体調とか悪そうだったし、何かしらあるんだろうなって考えたんです。学校、休んでましたし。
だから、僕は「そっかー」って言って、それ以降は夏の遊びについては触れませんでした。
学校のチャイムが鳴ったんです。
教室にある丸時計の時間を見たら良い時間になってたので、そろそろ帰ろうかって話になったんですが。
ふと彼女を見ると、なんか困った顔をしていて......。
一向に立とうとしないんです。
「どうしたの?」って聞いても、困ったように笑って「ちょっとね」というだけ。
「帰らないの?」と聞いたら。あとで帰るからって言うんです。
なんか友達を待っているのかな?と考えたんです。彼女は同性からも人気ありましたし。
部活が終わるの待って、席にいるのかなって。
「そうかー」って言って、それで自分は心が引っかかるものがありながらも帰ることにしたんです。
どうせだったらもっと話したかったけど。
でも、また話せるし。
夏休み中に、どこかきっと話せる。
登校日もあるし。
そう、考えていたんです。
次の日。
彼女が亡くなりました。
知ったのは次の日の午前中。
自分の部屋でゴロゴロと寝ていた時でした。
家の電話が鳴ったんです。
高校の連絡網でした。
その時は、変に凄く心臓が高鳴ったのを覚えています。
手に汗が滲んで、自分は電話に出ずにただ見ていることしか出来ませんでした。
結局、電話に出たのは母でした。
そこで、彼女が亡くなったことを知りました。
葬儀に参列し、友達や知り合いに色々と話を聞いてみると。
彼女は亡くなる直前まで、病院にいたそうです。
それを聞いた時、じゃあ、教室で会った彼女は。
いったい、何だったんだろうかって。
同時に、もし、こうなるのだったならば。
告白しとけば、良かった。
そう思うんです。
あの暑い夏の日に会った彼女は、一体何だったのか自分には分かりません。
でも、自分の恋は成就することも、散ることもなく。
今でも心に燻っているんです。
もし、あの夏の日に戻れたなら
なんて、言うだろうか。
なんて、言えるだろうか。
四十になった自分は
今でもそう考える時があるんです。