ep4 憧れの島へ
少し前。
御影島に学生を乗せた船が到着した。学生達は港に来ていた島民達に歓迎されながら船から港へと降りていく。
そんな中、1人の少年が嬉しそうに島に降りたった。少年は次に降りる人の邪魔にならない場所まで移動すると立ち止まり周りを見渡す。
「ここが御影島。あの有名な治外法権の島か」
少年――結城当夜は1人でそう呟いた。
(今日からここで俺の生活が始まるんだ)
昔、御影島の話を聞いてからこの島は当夜にとって憧れの象徴だった。だから親を説得して御影島の高校を受験したのだ。嫌いな勉強を頑張り、受かった時は本当に喜んだ。そんな場所に自分が今いるというのが、当夜は嬉しくて仕方がなかった。
「ったく、はしゃぎすぎだ当夜」
その様子を当夜の後に船を降りたと思われる少年が近くに寄ってきながら呆れた顔で諭してくる。
「なんだよ、純!! 俺ははしゃいでない」
幼馴染である三好純に当夜は文句を言う。
(目を輝かせて、あちこち見てるってのは"はしゃぐ"以外になんで言うんだ)
そう思いながらも純は自分の考えを顔に出さずにとりあえずこれからの行動について話し合うことにした。
「はいはい、俺の勘違いでした。それより、いつまでもここに突っ立ってる訳にはいかないだろ? とりあえず寮に行くぞ」
「そうだな。何寮だったっけ?」
2人が入学する流星学園は本島から来た生徒のために中等部から寮が設けられている。寮はそれぞれの部に3つずつあり、事前にアンケートに答えることにより何寮になるか決まるというシステムだ。寮を決めるのは学園長で、学園長以外はどのような基準で決められているのかは知らないらしい。ただ、寮決めが学園長の楽しみの一つだと言うことだけは有名な話だ。
「第二寮だっただろ」
運良くなのか2人とも同じ高等部第二寮だった。それを知って、誰よりも喜んだのが当夜の両親だったことは記憶に新しい。
「そうだった! 場所は......」
純の言葉を聞き、当夜はジャケットのポケットを探り始めた。しかし、すぐに慌て始める。当夜はポケットをしばらく探った後、かばんの中をガサゴソと探し始めた。少しして純の盛大なため息が聞こえる。思わず当夜が純を見る。するとポケットから折りたたんである紙を取り出して当夜に向かって投げてきた。
ベシッと音が鳴り、それは見事に当夜の頭に当たった。それも紙の角の部分が見事に命中して、地味に痛い。
「ーーっ、いてぇ。純、何しやがるんだ!! ......って地図?」
当たった場所が悪かった為、痛みで頭をさすりながら純を睨むが、投げつけられた紙を見て不思議そうな顔をする。
「なんで純が持ってるんだ?」
「......お前が失くすかもしれないからって俺に預けたんだろ」
やっぱり忘れていたかと、純は頭を軽く抑えながら言った。しかし当夜は特に気にする様子もなく、4つ折りになっている地図を開こうとした。鼻歌も聞こえて来そうな勢いだ。
「まぁ、どうでもいいか!」
「おい!!」
しばらく2人がそんなやりとりをしていると不意に誰かの笑い声が聞こえてきた。くだらない言い争いをやめて、笑い声のした方を見る。そこには口元を抑えながら2人を見ている1人の少女がいた。
2人の視線に気付くと少女はハッとしたように笑うのをやめた。
「ごめんなさい。あまりにも馬鹿らしい言い争いだったので......」
丁寧に頭を下げながら謝罪なのか、馬鹿にしているのかわからない言葉を紡ぐ。
「別にいいよ。俺も側から見てたら笑ってる」
純はそう言いながら先程までの自分達を思い出したのか頭を抱えた。しかし、そんな純の事など気にもとめず当夜は少女の方へ近づいていく。
そして少女の前まで行くと彼女を観察するように見る。そしてカバンすら持っていないことに気づき、嬉しそうに笑う。
「?」
不思議そうな少女にニカッと笑いながら当夜は親しそうに話しかける。新入生組の大きな荷物は後で寮に運んでもらえるが、船に乗って来た新入生は大なり小なり鞄を持っているのだ。
「あのさ、荷物を持ってないって事はここの住民だよな?」
「ぅえ? あっ、はい一応」
「流星学園の高等部第二寮ってどこにあるかわかるか?」
「おい、当夜! 初対面の人にそれはないだろ」
呆れたように嗜める純だが、当夜は当然のように無視した。
「第二寮......?」
そう呟いた少女の口角が微かに上がった。それから少女は小さく何かを呟くと当夜に笑いかける。
「二寮まで案内すればいいんだね?」
「場所わかるのか!?」
「うん、私もニ寮生なんだ」
「そうなのか!? すげぇ偶然だな。俺は結城当夜。で、こいつは幼馴染の三好純。よろしく!」
少女の言葉に当夜は嬉しそうに純の分も合わせて自己紹介をする。
「あっ、九条翼です。こちらこそよろしく」
翼はそう言って自分の名前を名乗ると、純の方に向き直った。そして心配そうに言う。
「あの......。少し休憩してから寮に向かいますか?」
「九条、別にいいって。このまま行きたい!」
「......でも」
しかし、当夜は純の返答も聞かずに先を急かす。どうすればいいのか翼は助けを求めるよう純を見た。それに気付き、純は一度息を吐くと2人の方へと歩いていく。
「俺は大丈夫だ。ありがとう」
「そうですか。ならとりあえず、港から......」
そう言いながら翼は港の出口である階段を指さした。すると、まず当夜が一目散に階段の方へ走っていく。呆れたようにその様子を見ながらも後に続こうとする純の耳に翼の笑い声が聞こえてきた。
翼の目には走っている当夜の後ろ姿が映っており、その瞳には微かな期待の色が差している。純は一瞬不思議に思ったが特に気にしないことにした。それよりも先を走っている当夜の方が気になる。
(あいつが大人しく待ってる訳がないな)
「九条さん、悪いけど俺は当夜を止めてくるね。九条さんはゆっくり来てくれていいから!」
純はそう告げると返事も待たずに走って当夜の後を追いかけた。
「退屈しないかもしれないよ......唯華」
翼は誰かに語るかのように呟いた。その呟きは風に乗って消えていった。