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第6話 アリシア・アダマンティ




「......うん。ここから 10分ほど 奥の森の中。シャリオ草の群落の辺りに 倒れてるわ」

「黒焦げやけどな」

「ししょ~達 2人だけで 翼鷲獅グリフォン倒したんでありますか? しかも そんな軽装で? さすがでありますっ! 騎士団うちは このあ...痛ッ」


 何か言い掛けて リアンが 悲鳴を上げる。
 見れば 金属鎧の分隊長が 少女の革ブーツを思いっきり 踏みつけている。
 真面目そうな表情を崩さず そして 涙眼になっている部下は 一顧だにせず フォージが マリノア達に感謝の言葉を述べる。


「ご協力感謝します。翼鷲獅グリフォンのような危険なモンスターを こんな人里近くに 放置できませんから」

「協力料とか 出ないワケ? けっこう危ない橋 渡ったんだけど? そもそも 急ぎの回復薬の依頼も 騎士団からだったワケだし......危険手当とかさ」

「......なんや 騎士団からの依頼やったんや」

「報酬の件については 僕からは なんとも......」 


 表情を崩さず 淡々と答える焦茶髪の青年。


「全員 弓装備やし 翼鷲獅グリフォン出るって分かって来てんのやろ? その割には 初動早いし ホンマは 騎士団の不始末ちゃうの~? だって リイン村の連中 牙猪タスク・ボアーの話はしてたけど 翼鷲獅グリフォンの話なんてしてへんかったもん」

「ぶっ 分隊長っ 痛いっ 痛いでありますっ。じっ 自分 自分っ 何もっ 何も言ってないでありますっ」


 表情は 変えないが 口止めの為に踏みつけている足には さらに力が入っているらしい。


「申し訳ないですが ノーコメントで」

「......了解。まぁ フォージ... アンタにも立場があるわよね」

「って ゆーか ほぼ 喋ったようなモンやしな......」


 赤い顔をして 涙眼になっている濃緑髪マラカイトの少女を見ながら 肩を竦める紅瑠石ガーネット。


「それでは 我々は これで。翼鷲獅グリフォンの死体の確認に参ります」

「シャリオ草の群落 ブーツで踏み荒らしたりしないでよね?」

「承知しました」

「気をつけるであります」


 衞士隊は隊列を整え直すと 少し足を痛そうに引き摺るリアンを先頭に森の奥へと去っていった。

 
「翼鷲獅グリフォンが ここら辺に出た件に騎士団が絡んでるらしいのは 分かったけど......」

「肝心の部分は 謎のままやな。......金カネになる話かな?」

「わかんない。今のままじゃ 情報不足よね」 

「せやな。とりあえず ウチらも 街に帰ろか......」

「......そうね。まだ 調合の作業残ってるし」


 .........。
 ......。
 ...。


 ――――コンッ コンッ
 
 王都ウェスティリアの北西に高く聳そびえる王城の西側。
 騎士団詰所の一番奥 重い樫材のドアがノックされる。 


「団長 失礼します」


 分厚いドアを開けて 団長室へと入ってきた 艶橙色カッパー・ブロンドの長髪を後ろで束ねた 長身の女性。
 白いブラウスに ベージュの羅紗製パンツ。
 左腰には 長剣を佩はいている。
 王城内での帯刀が許された身分。
 騎士身分か 封土ほうど持ち貴族の特権。


「おお アリシアか。何の用だ?」

「ボルジア侯 護衛任務のご報告に」

「うん。首尾はどうだった?」

「特に大過無く。今朝 本領へ向けて出立されました」

「うむ。ご苦労だったな。ゆっくり休暇を取って その後は 鍛練期間に入ってくれ」

「はい。ありがとうございます」


 報告を受ける騎士団長は 50絡みの筋骨逞しい男性。
 ダルケス・アダマンティ。
 暗橙色ダーク・アンバーの髪を後ろに撫でつけ 同じ色の立派な口髭を蓄えた精悍な顔付き。
 
 
「アリシア まだ 何か用か?」

「せっかく休暇期間に入ったので たまには 父娘おやこの語らいを...と思いまして」

「......ふん。どういう風の吹き回しだ? 母上が アリシアが 全く家に寄り付かないと嘆いていたぞ? わしと話す暇があったら 母親に顔を見せたらどうだ?」


 オーク材の豪華な執務机の上に置かれた水差しから 切子きりこのコップに水を注つぎながら24歳の娘が答える。
 

「この前 実家に帰った時は 父上が なかなかお帰りにならないとお嘆きのご様子でしたが?」

「下らん事務仕事が 次から次へと湧き出てくる。仮眠所と執務室を行き来するので精一杯の毎日だ」

「父上にも お注つぎしましょうか?」


 黙って頷く騎士団長。
 2つ目の切子に 水を注ぎながら 騎士団最強の騎士が尋ねる。


「リギャン侯配下の翼獅子騎士団グリフォナイツと遭遇戦になったとか?」

「......ふん 聞いたのか。騎士一個小隊騎士6人に衞士12人出して 半壊だ。グリフォナイトハイリシアの最精鋭相手とはいえ 向こうは たったの3騎だぞ? しかも 翼鷲獅グリフォン 1頭 討ち洩らした。死人こそ出なかったものの 回復薬の備蓄は激減。しかも後始末グリフォン退治にフォージ率いる衛士隊を派遣せにゃならんかった。天下の王都騎士団アークナイツが 聞いて呆れるだろ?」


 切子のコップに入った冷水を呷りながら ダルケスが自嘲気味に笑う。


「ああ それで... 事務所の前を通ったら ロクサーヌに 随分 愚痴を聞かされました。マリノアが 危険報酬を出せとかで かなり長い時間 粘っていたらしいですよ。翼鷲獅グリフォンに当てるつもりで〈碧猫屋あの2人〉に回復薬の依頼を?」

「まさか。流石の わしでも そこまで読めんよ。まぁ あの2人なら 翼鷲獅グリフォン程度に遅れは取らんと思うが」


 濃橙髪ダーク・アンバーが苦笑いしながら 言葉を続ける。
 

「ただ 討ち取ってくれたのは ありがたかったが 新入りリアン・ペイジの戦闘力を見損ねた。お貴族様キャリア組だし色々経験させようとフォージに付けたが あの速さは 意外と実戦向きだと思わんか?」

「まぁ 斥候スカウトよりは 斬り込みフォワードの方が向いているとは 思いますが......」


 艶橙髪カッパー・ブロンドも 常にガサガサと落ち着かない様子の新人の姿を思い出し苦笑いする。
 精悍な骨太と 淡麗な美女で 似ても似つかぬ父娘だが 苦笑いした表情は瓜二つ。


「そう言えば アリシア まだ 〈碧猫屋あの2人〉と つるんでいるのか?」

「つるんで......まぁ 鍛練期間は 一緒に行動することが多いですね」

「お前も 若い頃とは違って 王都騎士団アークナイツの顔の1人。ましてや 女王陛下の護りを任された親衛騎士の筆頭。無茶な冒険は 控えておかんと......立場というものも考えねばならん歳になっとるんだぞ?」

「父上のお言葉とも思えませんが? 父上が 火竜ドラゴン退治で名を上げられたのは 32歳の時。母上と結婚もされていて 私わたしも生まれていたと聞いておりますけど?」


 切子のコップを執務机に置き 白皙の美貌が 眉を寄せて 父親を睨む。
 火竜ドラゴンの正面攻撃にも 一歩も引かなかった豪勇の騎士団長の貌に浮かぶ たじろぎの表情。


「まぁ それは それとしてだ......。陛下の護りに 支障のない程度にしておけ」

「はぁ......。気をつけるようにはします」
 

  少し肩を竦めるるようにして 父親から視線を外す アリシア。
 その視線の先 黒檀の立派な飾り棚の中に とある品物を見つける。
 

「......そうそう 冒険と言えば 父上」

 
 スッと飾り棚の前に立ち 戸棚のガラス扉を開けながら ふと思い出したように 話題を父親に振る。


「従騎士の1人に聞きましたが 仮・眠・所・に若い女性の姿があるとか? 父上も いいお歳ですし お立場もあるのですから そういう冒・険・は 控えられた方がよろしいのでは? 私わたしも こ・れ・以・上・ 弟や妹ができたとか 勘弁して頂きたいので......」


 戸棚の中身を両手に取り ラベルを確かめながら 淡々と話し続ける長身の美女。
 そして 机の方へ振り向きながら 執務椅子で渋い表情をする騎士団長に最後の一言。
 

「もうしばらく実家には 帰らないつもりですが 次に帰るまでに 仮・眠・所・の・件・ なんとかしておいて下さいね? でないと母上に報告しなければ ならなくなりますので......」


 そう言い残すとアリシアは執務室の重い扉を開けて退出したのだった......。
 .........。
 ......。
 ...。

 
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星降る街の薬種商〈碧猫屋〉~薬師マリノアの仕入帳控え~作者:金星タヌキ
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第6話 アリシア・アダマンティ




「......うん。ここから 10分ほど 奥の森の中。シャリオ草の群落の辺りに 倒れてるわ」

「黒焦げやけどな」

「ししょ~達 2人だけで 翼鷲獅グリフォン倒したんでありますか? しかも そんな軽装で? さすがでありますっ! 騎士団うちは このあ...痛ッ」


 何か言い掛けて リアンが 悲鳴を上げる。
 見れば 金属鎧の分隊長が 少女の革ブーツを思いっきり 踏みつけている。
 真面目そうな表情を崩さず そして 涙眼になっている部下は 一顧だにせず フォージが マリノア達に感謝の言葉を述べる。


「ご協力感謝します。翼鷲獅グリフォンのような危険なモンスターを こんな人里近くに 放置できませんから」

「協力料とか 出ないワケ? けっこう危ない橋 渡ったんだけど? そもそも 急ぎの回復薬の依頼も 騎士団からだったワケだし......危険手当とかさ」

「......なんや 騎士団からの依頼やったんや」

「報酬の件については 僕からは なんとも......」 


 表情を崩さず 淡々と答える焦茶髪の青年。


「全員 弓装備やし 翼鷲獅グリフォン出るって分かって来てんのやろ? その割には 初動早いし ホンマは 騎士団の不始末ちゃうの~? だって リイン村の連中 牙猪タスク・ボアーの話はしてたけど 翼鷲獅グリフォンの話なんてしてへんかったもん」

「ぶっ 分隊長っ 痛いっ 痛いでありますっ。じっ 自分 自分っ 何もっ 何も言ってないでありますっ」


 表情は 変えないが 口止めの為に踏みつけている足には さらに力が入っているらしい。


「申し訳ないですが ノーコメントで」

「......了解。まぁ フォージ... アンタにも立場があるわよね」

「って ゆーか ほぼ 喋ったようなモンやしな......」


 赤い顔をして 涙眼になっている濃緑髪マラカイトの少女を見ながら 肩を竦める紅瑠石ガーネット。


「それでは 我々は これで。翼鷲獅グリフォンの死体の確認に参ります」

「シャリオ草の群落 ブーツで踏み荒らしたりしないでよね?」

「承知しました」

「気をつけるであります」


 衞士隊は隊列を整え直すと 少し足を痛そうに引き摺るリアンを先頭に森の奥へと去っていった。

 
「翼鷲獅グリフォンが ここら辺に出た件に騎士団が絡んでるらしいのは 分かったけど......」

「肝心の部分は 謎のままやな。......金カネになる話かな?」

「わかんない。今のままじゃ 情報不足よね」 

「せやな。とりあえず ウチらも 街に帰ろか......」

「......そうね。まだ 調合の作業残ってるし」


 .........。
 ......。
 ...。


 ――――コンッ コンッ
 
 王都ウェスティリアの北西に高く聳そびえる王城の西側。
 騎士団詰所の一番奥 重い樫材のドアがノックされる。 


「団長 失礼します」


 分厚いドアを開けて 団長室へと入ってきた 艶橙色カッパー・ブロンドの長髪を後ろで束ねた 長身の女性。
 白いブラウスに ベージュの羅紗製パンツ。
 左腰には 長剣を佩はいている。
 王城内での帯刀が許された身分。
 騎士身分か 封土ほうど持ち貴族の特権。


「おお アリシアか。何の用だ?」

「ボルジア侯 護衛任務のご報告に」

「うん。首尾はどうだった?」

「特に大過無く。今朝 本領へ向けて出立されました」

「うむ。ご苦労だったな。ゆっくり休暇を取って その後は 鍛練期間に入ってくれ」

「はい。ありがとうございます」


 報告を受ける騎士団長は 50絡みの筋骨逞しい男性。
 ダルケス・アダマンティ。
 暗橙色ダーク・アンバーの髪を後ろに撫でつけ 同じ色の立派な口髭を蓄えた精悍な顔付き。
 
 
「アリシア まだ 何か用か?」

「せっかく休暇期間に入ったので たまには 父娘おやこの語らいを...と思いまして」

「......ふん。どういう風の吹き回しだ? 母上が アリシアが 全く家に寄り付かないと嘆いていたぞ? わしと話す暇があったら 母親に顔を見せたらどうだ?」


 オーク材の豪華な執務机の上に置かれた水差しから 切子きりこのコップに水を注つぎながら24歳の娘が答える。
 

「この前 実家に帰った時は 父上が なかなかお帰りにならないとお嘆きのご様子でしたが?」

「下らん事務仕事が 次から次へと湧き出てくる。仮眠所と執務室を行き来するので精一杯の毎日だ」

「父上にも お注つぎしましょうか?」


 黙って頷く騎士団長。
 2つ目の切子に 水を注ぎながら 騎士団最強の騎士が尋ねる。


「リギャン侯配下の翼獅子騎士団グリフォナイツと遭遇戦になったとか?」

「......ふん 聞いたのか。騎士一個小隊騎士6人に衞士12人出して 半壊だ。グリフォナイトハイリシアの最精鋭相手とはいえ 向こうは たったの3騎だぞ? しかも 翼鷲獅グリフォン 1頭 討ち洩らした。死人こそ出なかったものの 回復薬の備蓄は激減。しかも後始末グリフォン退治にフォージ率いる衛士隊を派遣せにゃならんかった。天下の王都騎士団アークナイツが 聞いて呆れるだろ?」


 切子のコップに入った冷水を呷りながら ダルケスが自嘲気味に笑う。


「ああ それで... 事務所の前を通ったら ロクサーヌに 随分 愚痴を聞かされました。マリノアが 危険報酬を出せとかで かなり長い時間 粘っていたらしいですよ。翼鷲獅グリフォンに当てるつもりで〈碧猫屋あの2人〉に回復薬の依頼を?」

「まさか。流石の わしでも そこまで読めんよ。まぁ あの2人なら 翼鷲獅グリフォン程度に遅れは取らんと思うが」


 濃橙髪ダーク・アンバーが苦笑いしながら 言葉を続ける。
 

「ただ 討ち取ってくれたのは ありがたかったが 新入りリアン・ペイジの戦闘力を見損ねた。お貴族様キャリア組だし色々経験させようとフォージに付けたが あの速さは 意外と実戦向きだと思わんか?」

「まぁ 斥候スカウトよりは 斬り込みフォワードの方が向いているとは 思いますが......」


 艶橙髪カッパー・ブロンドも 常にガサガサと落ち着かない様子の新人の姿を思い出し苦笑いする。
 精悍な骨太と 淡麗な美女で 似ても似つかぬ父娘だが 苦笑いした表情は瓜二つ。


「そう言えば アリシア まだ 〈碧猫屋あの2人〉と つるんでいるのか?」

「つるんで......まぁ 鍛練期間は 一緒に行動することが多いですね」

「お前も 若い頃とは違って 王都騎士団アークナイツの顔の1人。ましてや 女王陛下の護りを任された親衛騎士の筆頭。無茶な冒険は 控えておかんと......立場というものも考えねばならん歳になっとるんだぞ?」

「父上のお言葉とも思えませんが? 父上が 火竜ドラゴン退治で名を上げられたのは 32歳の時。母上と結婚もされていて 私わたしも生まれていたと聞いておりますけど?」


 切子のコップを執務机に置き 白皙の美貌が 眉を寄せて 父親を睨む。
 火竜ドラゴンの正面攻撃にも 一歩も引かなかった豪勇の騎士団長の貌に浮かぶ たじろぎの表情。


「まぁ それは それとしてだ......。陛下の護りに 支障のない程度にしておけ」

「はぁ......。気をつけるようにはします」
 

  少し肩を竦めるるようにして 父親から視線を外す アリシア。
 その視線の先 黒檀の立派な飾り棚の中に とある品物を見つける。
 

「......そうそう 冒険と言えば 父上」

 
 スッと飾り棚の前に立ち 戸棚のガラス扉を開けながら ふと思い出したように 話題を父親に振る。


「従騎士の1人に聞きましたが 仮・眠・所・に若い女性の姿があるとか? 父上も いいお歳ですし お立場もあるのですから そういう冒・険・は 控えられた方がよろしいのでは? 私わたしも こ・れ・以・上・ 弟や妹ができたとか 勘弁して頂きたいので......」


 戸棚の中身を両手に取り ラベルを確かめながら 淡々と話し続ける長身の美女。
 そして 机の方へ振り向きながら 執務椅子で渋い表情をする騎士団長に最後の一言。
 

「もうしばらく実家には 帰らないつもりですが 次に帰るまでに 仮・眠・所・の・件・ なんとかしておいて下さいね? でないと母上に報告しなければ ならなくなりますので......」


 そう言い残すとアリシアは執務室の重い扉を開けて退出したのだった......。
 .........。
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星降る街の薬種商〈碧猫屋〉~薬師マリノアの仕入帳控え~作者:金星タヌキ
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