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第18話 G.P.S.覚書〈その6:夜営地〉



 昼を過ぎても歩き続け 昼食はまだだろうかと思い始めた頃 先頭のアイリスさんが 歩みを止められます。


「なかなか 開けた場所だし 川も近いし 今日は ここで夜営しようか」

「まだ 昼過ぎだし オレも ジーナも まだまだ歩けますよ」


 私わたくしの分まで 勝手に返答するなんて相変わらずデリカシーの無い男......と腹は立ちますが 確かに体力的には まだ余裕があります。
 赤毛猿フィンの言うように昼食を摂って もう少し進んでも よいような気が致します。
 
 
「いいや 剣士君 これ以上 遺跡に近付き過ぎると森小鬼モグルの斥候に気付かれる可能性があるから」

「なるほど。今日は早めに休んで 明日は 早朝から行動ってワケっすね?」

「うん キール。そういうこと。できれば日の出と共に出発するぐらいが良いと思うな」


 アイリスさんの指示の下 テントや かまどなどを準備致します。
 私わたくしは野外でのテント泊など 初めてですので 何をどうしてよいのか分からず まごついてしまいます。
 ですが 自分だけ お役に立てないのは なんとも心苦しいので 無い知恵を振り絞り 薪集めに志願致します。


「うん。魔術師殿 そうしてくれると助かる。夜中 ずっと燃やさないといけないから 多めに頼むね。剣士君 一緒に行ってあげて」


 えっ? 絶対 嫌なんですけど?
 ......とは思いましたが 少々話しておきたいこともございます。
 赤毛猿フィンと共に 枯れ枝の落ちていそうな 茂みの方へと向かいます。
 

 .........。
 ......。


「おにぃ...違った。フィンっ! あんた なに勝手にジーナの分まで答えてんのよっ」

「んだよ ジーナ。2人になった途端 デカい声だして。他の人にも その声で喋れよな」


 ......くっ。
 それが 出来れば苦労など致しません。
 書き言葉なら大丈夫なのですが 私わたくしは下町育ち。
 口を開くと どうしても品の悪い口調になってしまうのでございます。

 それが恥ずかしくて 人前に出るとどうしても声が小さくなるのです。
 あと 昔からの癖で この赤毛猿のことを『お兄ちゃん』自分の1人称が『ジーナ』になってしまうのも 幼い印象なので常々改めようと意識はしておるのですが 思うに任せません。


「うっさいわねっ ほっといてっ! それよか... みんな自己紹介とかしてるけど ジーナの家のこと喋ったら ブッ殺すわよっ! 絶対 言っちゃダメだからねっ」
 

 ああ。
 やってしまいました。
 この間 つい母の前で『ブッ殺す』と言ってしまい 母から3日間 口を聞いてもらえなかったというのに また やってしまいました......自己嫌悪に陥りそうでございます。


「大丈夫だって......。心配すんなって。ジーナが 困るようなこと オレがするワケねぇだろ? ジーナの大好きな〈お兄ちゃん〉なんだからよ」


 赤毛猿が革手袋のまま 私わたくしの髪をくしゃくしゃと掻き撫でます。
 革手袋の臭い匂いと上から目線に やはり殺意が湧きますが 口を開くのは なんとか堪えます。

 私わたくしの家庭の事情に関しては 私わたくしは あまり人に知られたくは 無いのでございます。
 ただ 読者の皆様には 一応 お伝えしておこうと思います。

 実は 私わたくしには父がおりません。
 死別したとか 遠くに旅に出ておるといった話ではなく〈い・な・い・〉のでございます。
 母も 一切話してはくれません。
 どうやら 私わたくしを身籠ったことが原因で 生家を追い出されたらしく 私わたくしは母方の祖父母の顔も知らないのです。

 母が いつも肌身離さず身に付けているロケットに納められた細密画ミニチュアールの男性が たぶん父なのだろうと思うのですが そもそもロケットに触れること自体 母に許されてはおらず 盗み見したことがあるだけなので 直接尋ねたこともなく あくまでも私わたくしの憶測に過ぎません。
 髪を後ろに流した精悍な風貌の男性なのですが......。

 生家を追われた母は 昔 一緒に冒険の旅をしたこともあるという フィンのお母様を頼り(フィンのお母様は その昔 高名な冒険者だったそうで 引退されて 今の料理店を始められたのです) 私わたくしを出産。
 その後は〈真語魔法〉に関する私塾を開いて生計を立てております。
 
 若き日の母と 未だ見ぬ父の間に 何があったのか......。
 母が話そうとしないのですから 話すべき事柄では無いのだろうと思います。
 そこの機微について 事情は知っているとは言え 部外者の赤毛猿フィンに話されたくはないのです。

 まぁ このデリカシーの欠片も無い赤毛猿も そこら辺あたりは弁わきまえていて 私わたくしが幼い頃 周りの子ども達が私わたくしの父親の話題等をしていると それとなく あるいは 露骨に庇ってくれたりもしました。
 ......そう。
 この男 あまり利口で無いので 露骨に庇ったりするものですから 余計に注目を浴びること等も多々ありました。
 やはり 天敵としか言い様の無い相手でございます。


 私わたくしが不快な表情を浮かべているにも関わらず 相も変わらぬニヤケ顔で 私わたくしの髪を掻き乱し続けているのも 不愉快ですし。

『いい加減にしなさいよねっ。この変態っ』

 と口にしかけたところで 赤毛猿の手が止まります。
 顔を見上げると いつものニヤケ顔が消え 珍しく真剣な表情。


「......ジーナ。そっちの茂みから 物音しねぇ?」


 フィンの囁きに促されて 耳を澄ましますと 微かな葉擦れの音。
 そして その音は 私わたくし達の夜営地とは逆の方向から こちらへと向かって来ているように聞こえます。
 フィンの碧い目を見て 確かにと頷きます。

 フィンが静かに背中に背負った片手半剣の束つかに手を掛け 移動を開始致します。
 私わたくしも 忍び足でその後ろに 続きます。

 ── キキーーッ ──

 灌木の間に おぞましい緑色の肌が見えます。
 動転しそうになりますが 森小鬼モグルと対峙するのはこれで 3度目。
 冷静に状況を確認する自分もおります。

 ボロ布を身体に巻き着け 木製の棍棒で武装した森小鬼モグルが3匹。
 こちらも驚きましたが 向こうも驚いた様子。

 慌てた様子ですが 武器を構えて襲いかかって参ります。
 フィンが 片手半剣を抜きながら 叫びます。


「ジーナ 逃げろっ」


 何をバカなことを。
 私わたくしだって 森小鬼モグル退治の冒険に来ているのです。

 森小鬼モグルから距離を取るべく フィンの後方に下がりますが 逃げるつもりなど毛頭ございません。
 森小鬼モグル達の方に向き直ります!

 .........。
 ......。
 ...。 
 
 
 
 
 

 
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星降る街の薬種商〈碧猫屋〉~薬師マリノアの仕入帳控え~作者:金星タヌキ
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 昼を過ぎても歩き続け 昼食はまだだろうかと思い始めた頃 先頭のアイリスさんが 歩みを止められます。


「なかなか 開けた場所だし 川も近いし 今日は ここで夜営しようか」

「まだ 昼過ぎだし オレも ジーナも まだまだ歩けますよ」


 私わたくしの分まで 勝手に返答するなんて相変わらずデリカシーの無い男......と腹は立ちますが 確かに体力的には まだ余裕があります。
 赤毛猿フィンの言うように昼食を摂って もう少し進んでも よいような気が致します。
 
 
「いいや 剣士君 これ以上 遺跡に近付き過ぎると森小鬼モグルの斥候に気付かれる可能性があるから」

「なるほど。今日は早めに休んで 明日は 早朝から行動ってワケっすね?」

「うん キール。そういうこと。できれば日の出と共に出発するぐらいが良いと思うな」


 アイリスさんの指示の下 テントや かまどなどを準備致します。
 私わたくしは野外でのテント泊など 初めてですので 何をどうしてよいのか分からず まごついてしまいます。
 ですが 自分だけ お役に立てないのは なんとも心苦しいので 無い知恵を振り絞り 薪集めに志願致します。


「うん。魔術師殿 そうしてくれると助かる。夜中 ずっと燃やさないといけないから 多めに頼むね。剣士君 一緒に行ってあげて」


 えっ? 絶対 嫌なんですけど?
 ......とは思いましたが 少々話しておきたいこともございます。
 赤毛猿フィンと共に 枯れ枝の落ちていそうな 茂みの方へと向かいます。
 

 .........。
 ......。


「おにぃ...違った。フィンっ! あんた なに勝手にジーナの分まで答えてんのよっ」

「んだよ ジーナ。2人になった途端 デカい声だして。他の人にも その声で喋れよな」


 ......くっ。
 それが 出来れば苦労など致しません。
 書き言葉なら大丈夫なのですが 私わたくしは下町育ち。
 口を開くと どうしても品の悪い口調になってしまうのでございます。

 それが恥ずかしくて 人前に出るとどうしても声が小さくなるのです。
 あと 昔からの癖で この赤毛猿のことを『お兄ちゃん』自分の1人称が『ジーナ』になってしまうのも 幼い印象なので常々改めようと意識はしておるのですが 思うに任せません。


「うっさいわねっ ほっといてっ! それよか... みんな自己紹介とかしてるけど ジーナの家のこと喋ったら ブッ殺すわよっ! 絶対 言っちゃダメだからねっ」
 

 ああ。
 やってしまいました。
 この間 つい母の前で『ブッ殺す』と言ってしまい 母から3日間 口を聞いてもらえなかったというのに また やってしまいました......自己嫌悪に陥りそうでございます。


「大丈夫だって......。心配すんなって。ジーナが 困るようなこと オレがするワケねぇだろ? ジーナの大好きな〈お兄ちゃん〉なんだからよ」


 赤毛猿が革手袋のまま 私わたくしの髪をくしゃくしゃと掻き撫でます。
 革手袋の臭い匂いと上から目線に やはり殺意が湧きますが 口を開くのは なんとか堪えます。

 私わたくしの家庭の事情に関しては 私わたくしは あまり人に知られたくは 無いのでございます。
 ただ 読者の皆様には 一応 お伝えしておこうと思います。

 実は 私わたくしには父がおりません。
 死別したとか 遠くに旅に出ておるといった話ではなく〈い・な・い・〉のでございます。
 母も 一切話してはくれません。
 どうやら 私わたくしを身籠ったことが原因で 生家を追い出されたらしく 私わたくしは母方の祖父母の顔も知らないのです。

 母が いつも肌身離さず身に付けているロケットに納められた細密画ミニチュアールの男性が たぶん父なのだろうと思うのですが そもそもロケットに触れること自体 母に許されてはおらず 盗み見したことがあるだけなので 直接尋ねたこともなく あくまでも私わたくしの憶測に過ぎません。
 髪を後ろに流した精悍な風貌の男性なのですが......。

 生家を追われた母は 昔 一緒に冒険の旅をしたこともあるという フィンのお母様を頼り(フィンのお母様は その昔 高名な冒険者だったそうで 引退されて 今の料理店を始められたのです) 私わたくしを出産。
 その後は〈真語魔法〉に関する私塾を開いて生計を立てております。
 
 若き日の母と 未だ見ぬ父の間に 何があったのか......。
 母が話そうとしないのですから 話すべき事柄では無いのだろうと思います。
 そこの機微について 事情は知っているとは言え 部外者の赤毛猿フィンに話されたくはないのです。

 まぁ このデリカシーの欠片も無い赤毛猿も そこら辺あたりは弁わきまえていて 私わたくしが幼い頃 周りの子ども達が私わたくしの父親の話題等をしていると それとなく あるいは 露骨に庇ってくれたりもしました。
 ......そう。
 この男 あまり利口で無いので 露骨に庇ったりするものですから 余計に注目を浴びること等も多々ありました。
 やはり 天敵としか言い様の無い相手でございます。


 私わたくしが不快な表情を浮かべているにも関わらず 相も変わらぬニヤケ顔で 私わたくしの髪を掻き乱し続けているのも 不愉快ですし。

『いい加減にしなさいよねっ。この変態っ』

 と口にしかけたところで 赤毛猿の手が止まります。
 顔を見上げると いつものニヤケ顔が消え 珍しく真剣な表情。


「......ジーナ。そっちの茂みから 物音しねぇ?」


 フィンの囁きに促されて 耳を澄ましますと 微かな葉擦れの音。
 そして その音は 私わたくし達の夜営地とは逆の方向から こちらへと向かって来ているように聞こえます。
 フィンの碧い目を見て 確かにと頷きます。

 フィンが静かに背中に背負った片手半剣の束つかに手を掛け 移動を開始致します。
 私わたくしも 忍び足でその後ろに 続きます。

 ── キキーーッ ──

 灌木の間に おぞましい緑色の肌が見えます。
 動転しそうになりますが 森小鬼モグルと対峙するのはこれで 3度目。
 冷静に状況を確認する自分もおります。

 ボロ布を身体に巻き着け 木製の棍棒で武装した森小鬼モグルが3匹。
 こちらも驚きましたが 向こうも驚いた様子。

 慌てた様子ですが 武器を構えて襲いかかって参ります。
 フィンが 片手半剣を抜きながら 叫びます。


「ジーナ 逃げろっ」


 何をバカなことを。
 私わたくしだって 森小鬼モグル退治の冒険に来ているのです。

 森小鬼モグルから距離を取るべく フィンの後方に下がりますが 逃げるつもりなど毛頭ございません。
 森小鬼モグル達の方に向き直ります!

 .........。
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