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♗29

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「えっと、詫びの品って、随分すげえの持ってきたな。これおれが調理するって事だよな。」
 あたしは仕留めた猪を手に、全員に詫びを入れた。
 こんな時に、笑って許してくれるのは本当に良い仲間に恵まれていると思う。ヒカミやハクスイはまあいつもの事だけど、歩に至っても、「部族の結婚式かよ。」と笑っている。キアラに至っても、「昼食が虫にならなくて良かったですね。」と笑っている。え?待ってあたしが来るまでの間にそんな怖い会話していたの?
 でも当たり前の事だけど、調味料なんて一切ない。素焼きだ。本当に全く飲まず食わずの久々の食事ならまだ食べられたんだろうけど、残念ながらあたしたちは昨日の朝までは普通に休憩所の支給品の缶詰を食べている。そりゃ味覚も正常のままで。

「おれが作っておいてあれだけど不味いな。」
 独特の獣臭がかなりあるし無駄に硬くて不味いのだ。
「成獣の雄だから、まあ個体差もあるけど、臭いも香草無しじゃやっぱ厳しいな。これが子だったらもうちょい臭いがマイルドなんだろうけど。」
 ヒカミが一方的に料理評論をしながら食べている。みんな素直だ。不味い物を食べながらだと会話を失う。

 結果として、出発は二日後になった。
 これはハクスイが二日は待ちたいって意義を唱えたのだ。理由に関してはどっかの誰かさんのDⅤのせいで片目がほぼ開かない状態で進むのは厳しいと言いただしたからだ。確かに一理ある。もしあたしの人食いが本当に満月の夜だけだとしたら次の満月まで全然余裕があるから二日ぐらい何も問題ない。
 二日間かけて猪は食べ切ったし、三回目の食事あたりでこの臭いもあまり気にならなくなった。慣れって凄い。骨はキアラが器用に加工してハクスイに簪を作ってあげたりと、なんだかんだまで骨の髄まで使った。ヒカミ曰く鍋さえあれば猪骨スープに挑戦したのにとなんだか、この状況下でも些細なチャレンジを視野に入れるのは流石ヒカミというところ。

 塔への出発の朝、歩とハクスイとキアラの三人が川に向かったので、あたしはヒカミと二人っきりになった隙に色々相談してみた。

「ああ、おれもな。その満月の夜にサクがおかしくなる説は考えていた。」
『というと?』
「一昨日の満月でサクはああなったじゃないか。自我はあるけど倫理観を失って人肉を食いたがる。じゃあその前の満月は何時だと考えたら計算上。あの日だ。」
 そうか、あたしが最初にヒカミを食おうとしたあの日が。全然気付かなかった。やっぱりヒカミはあたしなんかよりはるかに頭が良い。
「歩に着けられた、二場アイテムの首輪のお陰で普段の理性はあるけど、満月の日の食欲だけはどうにもならねえって事じゃねえか。だって元々人を食う狼の呪いってのがモデルだろ。」
 モデルっていうと、まるで誰かによって書かれた話みたいなニュアンスだけど......でもそれで間違ってないのか。かつて何処かにあった呪いを二場が書いただけだって。
「だから一つだけ、攻略法が見えたんだよ。」
『攻略法って?』
 何を攻略する気なんだろう。
「次もし満月の日を迎えてしまったら、夜になる前に死体を目の前において置けば良い。そうすれば、新たに誰かを殺める必要もない。死体をどこから調達かといえば色々突っ込みどころはあるが、それでも最低限、満月に誰か殺さないといけないというプレッシャーからは解放される。」
 あーなるほど。確かに一昨日食べていたのは明らかに死肉だった。初日のヒカミに対しても暴走して恨みみたいのもあった気がするけど、一番大きいのは食事の為の殺人って感じもしなくもない。殺してやりたい気持ちもあるけど、目の前にもう既に食べ物があるならわざわざ狩りに行くまでも無いような。
 とは言っても、今からゴール向かうのに、そんな一ヶ月後の事考えなくても。とあたしは言おうとしたところでヒカミが先に口を開いた。
「もし今日。ゴール出来ない何かが起こって。そしておれとも離れ離れになってしまった時に。この呪いは死体の目の前で発動すれば、傷は最小限で済むって事を覚えておいて欲しい。」
『何言ってるの?普通に今からゴールして普通に明日は卒業式でしょ。』
 この時のヒカミの「だと良いな。」という答えはヤケに重かった。

 実際。だと良いなと希望的観測で物事は進んでしまったわけだけど。
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不条識な狼の理(上)作者:駿河鵬命
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「えっと、詫びの品って、随分すげえの持ってきたな。これおれが調理するって事だよな。」
 あたしは仕留めた猪を手に、全員に詫びを入れた。
 こんな時に、笑って許してくれるのは本当に良い仲間に恵まれていると思う。ヒカミやハクスイはまあいつもの事だけど、歩に至っても、「部族の結婚式かよ。」と笑っている。キアラに至っても、「昼食が虫にならなくて良かったですね。」と笑っている。え?待ってあたしが来るまでの間にそんな怖い会話していたの?
 でも当たり前の事だけど、調味料なんて一切ない。素焼きだ。本当に全く飲まず食わずの久々の食事ならまだ食べられたんだろうけど、残念ながらあたしたちは昨日の朝までは普通に休憩所の支給品の缶詰を食べている。そりゃ味覚も正常のままで。

「おれが作っておいてあれだけど不味いな。」
 独特の獣臭がかなりあるし無駄に硬くて不味いのだ。
「成獣の雄だから、まあ個体差もあるけど、臭いも香草無しじゃやっぱ厳しいな。これが子だったらもうちょい臭いがマイルドなんだろうけど。」
 ヒカミが一方的に料理評論をしながら食べている。みんな素直だ。不味い物を食べながらだと会話を失う。

 結果として、出発は二日後になった。
 これはハクスイが二日は待ちたいって意義を唱えたのだ。理由に関してはどっかの誰かさんのDⅤのせいで片目がほぼ開かない状態で進むのは厳しいと言いただしたからだ。確かに一理ある。もしあたしの人食いが本当に満月の夜だけだとしたら次の満月まで全然余裕があるから二日ぐらい何も問題ない。
 二日間かけて猪は食べ切ったし、三回目の食事あたりでこの臭いもあまり気にならなくなった。慣れって凄い。骨はキアラが器用に加工してハクスイに簪を作ってあげたりと、なんだかんだまで骨の髄まで使った。ヒカミ曰く鍋さえあれば猪骨スープに挑戦したのにとなんだか、この状況下でも些細なチャレンジを視野に入れるのは流石ヒカミというところ。

 塔への出発の朝、歩とハクスイとキアラの三人が川に向かったので、あたしはヒカミと二人っきりになった隙に色々相談してみた。

「ああ、おれもな。その満月の夜にサクがおかしくなる説は考えていた。」
『というと?』
「一昨日の満月でサクはああなったじゃないか。自我はあるけど倫理観を失って人肉を食いたがる。じゃあその前の満月は何時だと考えたら計算上。あの日だ。」
 そうか、あたしが最初にヒカミを食おうとしたあの日が。全然気付かなかった。やっぱりヒカミはあたしなんかよりはるかに頭が良い。
「歩に着けられた、二場アイテムの首輪のお陰で普段の理性はあるけど、満月の日の食欲だけはどうにもならねえって事じゃねえか。だって元々人を食う狼の呪いってのがモデルだろ。」
 モデルっていうと、まるで誰かによって書かれた話みたいなニュアンスだけど......でもそれで間違ってないのか。かつて何処かにあった呪いを二場が書いただけだって。
「だから一つだけ、攻略法が見えたんだよ。」
『攻略法って?』
 何を攻略する気なんだろう。
「次もし満月の日を迎えてしまったら、夜になる前に死体を目の前において置けば良い。そうすれば、新たに誰かを殺める必要もない。死体をどこから調達かといえば色々突っ込みどころはあるが、それでも最低限、満月に誰か殺さないといけないというプレッシャーからは解放される。」
 あーなるほど。確かに一昨日食べていたのは明らかに死肉だった。初日のヒカミに対しても暴走して恨みみたいのもあった気がするけど、一番大きいのは食事の為の殺人って感じもしなくもない。殺してやりたい気持ちもあるけど、目の前にもう既に食べ物があるならわざわざ狩りに行くまでも無いような。
 とは言っても、今からゴール向かうのに、そんな一ヶ月後の事考えなくても。とあたしは言おうとしたところでヒカミが先に口を開いた。
「もし今日。ゴール出来ない何かが起こって。そしておれとも離れ離れになってしまった時に。この呪いは死体の目の前で発動すれば、傷は最小限で済むって事を覚えておいて欲しい。」
『何言ってるの?普通に今からゴールして普通に明日は卒業式でしょ。』
 この時のヒカミの「だと良いな。」という答えはヤケに重かった。

 実際。だと良いなと希望的観測で物事は進んでしまったわけだけど。
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