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 すぐにでも動き出したかったが、結局あたしの旅支度は三ヶ月近くかかってしまった。
 なぜ三ヶ月近くと計れたかというと、昨日、三度目の満月の夜が訪れたからである。
 一度目の満月の時は、前日の自我がまともにあるうちに、街外れのスラムで路上に横たわった一番新鮮そうな遺体を回収してきた。
 普通に考えて恐ろしいことだと思う。しかし、人間とは非情な生き物だ。辛いのは一度目だけなのだ。二度目は全然平気なのだ。
 なんなら何処の部位が食べやすいかとか、大腸は傷つけない方が良いとか、わりと美味しく食べてしまうあたりの余裕もあって悲しい。人間じゃないんだから、仕方ない。
 そんな思考も、慣れがあるからなのと、狼化が進んだから。どちらの要素も絡んでいるんだ。仕方ない。生きる為には仕方ない事なんだ。
 今後も満月の夜は目の前に食べて良い死体を置いておくという対応になりそうだ。
 そう簡単に死体は手に入るものかと最初はかなり心配していたが、恐ろしく簡単に手に入るという事実が逆に恐ろしかった。
 一ヶ月目を超えたあたりから、あたしは短時間だけなら二足歩行で歩けるようになったので、街を探索してみたが、まるで海外旅行に来たかのように宗教で支配された発展途上の貧民街であった。
 もしかして、散り散りになった仲間たちに会えるのではと期待して、探索してみたけど、この街にはいないようで、シキもきっと街を出て行ってしまったのだろう。
 いや、もしかしたら、あの街は、宗教上の理由で女性は顔を全部隠す習慣があるから、そのせいで見落としたか、思ったりもしたが。
 あたしは今回の呪いの進行により、前より更に嗅覚が発達しているのだ。その鼻であの街を歩いて、気付かない筈がない。やはり、あたしの探す仲間たちは街にはいない。

 そして、あっという間に三ヶ月。
 やっと二足歩行でも腰痛を感じなくなってきたので、リハビリは完了したと言える。
 最初の一週間は本当に今後人面犬として生きる覚悟をする程度に絶望的であったが、やはり元々の身体の記憶やら、希望と気合いは凄い。三ヶ月で走るのは無理でもしっかり歩ける。しかし。骨格そのものが変わっているので恐ろしく猫背だが、これはもう目を瞑ろう。猫背の人はごまんといる。
 さて、問題はこの姿でどうやって金を稼ぐかだ。流石にこの見た目は問題あるし、隠していても、バレた時に猟銃突きつけられそうだし。食べ物は山に入るうちは、魚でも猪でも何でも食べられたけど、今後もう少し発展した都市部に入ることがあれば、近くに山はない。となると樫山家の秘術ゴミ漁りを発動するしか......
 狼になったことで、唯一便利になったなと思う事が、何でも食べられるようになった事だ。いやもちろん人食いに始まるけど、根本的に、肉とか生で食べても胃袋が全然平気なのだ。多分普通の人間の姿だったら一発で食中毒、脱水の後一歩間違えば死。ってオチだろうけど。残念ながら何でも食べられる。美味いかどうかは別として、生命は維持出来る。それなら都市部に行っても秘術ゴミ漁りで生きていけるのか。
 いや、稼げるなら稼ぎたい。川じゃなくてシャワー浴びたいし布団で寝たい。どうにかならないものか、人狼でも匿ってくれて金が稼げそうなとこ。
 悩んでも仕方ないので、とりあえず、新たな街を目指すことにした。
 この全身を隠す衣服の着方も、モハナ教の信者ですといえばある程度騙せそうだ。お祈りの時間だけ守っていれば誰も疑わないだろう。

 この世界に来てから、四ヶ月が経ってしまった。
 この世界と、元いた次元の世界では時間軸が異なるから、今すぐ戻れたとして、明日は卒業式から始まる。
 不思議な気分だ。あの日から四ヶ月は本来だったら、仕事にも慣れて暑い夏の中、いつもの三人でバーベキューでもしていたんだろう。
 今は......みんなに会いたい。

 あたしはこの猫背にゆっくりの二足歩行でも希望を少しも捨ててなかった。
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不条識な狼の理(上)作者:駿河鵬命
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 すぐにでも動き出したかったが、結局あたしの旅支度は三ヶ月近くかかってしまった。
 なぜ三ヶ月近くと計れたかというと、昨日、三度目の満月の夜が訪れたからである。
 一度目の満月の時は、前日の自我がまともにあるうちに、街外れのスラムで路上に横たわった一番新鮮そうな遺体を回収してきた。
 普通に考えて恐ろしいことだと思う。しかし、人間とは非情な生き物だ。辛いのは一度目だけなのだ。二度目は全然平気なのだ。
 なんなら何処の部位が食べやすいかとか、大腸は傷つけない方が良いとか、わりと美味しく食べてしまうあたりの余裕もあって悲しい。人間じゃないんだから、仕方ない。
 そんな思考も、慣れがあるからなのと、狼化が進んだから。どちらの要素も絡んでいるんだ。仕方ない。生きる為には仕方ない事なんだ。
 今後も満月の夜は目の前に食べて良い死体を置いておくという対応になりそうだ。
 そう簡単に死体は手に入るものかと最初はかなり心配していたが、恐ろしく簡単に手に入るという事実が逆に恐ろしかった。
 一ヶ月目を超えたあたりから、あたしは短時間だけなら二足歩行で歩けるようになったので、街を探索してみたが、まるで海外旅行に来たかのように宗教で支配された発展途上の貧民街であった。
 もしかして、散り散りになった仲間たちに会えるのではと期待して、探索してみたけど、この街にはいないようで、シキもきっと街を出て行ってしまったのだろう。
 いや、もしかしたら、あの街は、宗教上の理由で女性は顔を全部隠す習慣があるから、そのせいで見落としたか、思ったりもしたが。
 あたしは今回の呪いの進行により、前より更に嗅覚が発達しているのだ。その鼻であの街を歩いて、気付かない筈がない。やはり、あたしの探す仲間たちは街にはいない。

 そして、あっという間に三ヶ月。
 やっと二足歩行でも腰痛を感じなくなってきたので、リハビリは完了したと言える。
 最初の一週間は本当に今後人面犬として生きる覚悟をする程度に絶望的であったが、やはり元々の身体の記憶やら、希望と気合いは凄い。三ヶ月で走るのは無理でもしっかり歩ける。しかし。骨格そのものが変わっているので恐ろしく猫背だが、これはもう目を瞑ろう。猫背の人はごまんといる。
 さて、問題はこの姿でどうやって金を稼ぐかだ。流石にこの見た目は問題あるし、隠していても、バレた時に猟銃突きつけられそうだし。食べ物は山に入るうちは、魚でも猪でも何でも食べられたけど、今後もう少し発展した都市部に入ることがあれば、近くに山はない。となると樫山家の秘術ゴミ漁りを発動するしか......
 狼になったことで、唯一便利になったなと思う事が、何でも食べられるようになった事だ。いやもちろん人食いに始まるけど、根本的に、肉とか生で食べても胃袋が全然平気なのだ。多分普通の人間の姿だったら一発で食中毒、脱水の後一歩間違えば死。ってオチだろうけど。残念ながら何でも食べられる。美味いかどうかは別として、生命は維持出来る。それなら都市部に行っても秘術ゴミ漁りで生きていけるのか。
 いや、稼げるなら稼ぎたい。川じゃなくてシャワー浴びたいし布団で寝たい。どうにかならないものか、人狼でも匿ってくれて金が稼げそうなとこ。
 悩んでも仕方ないので、とりあえず、新たな街を目指すことにした。
 この全身を隠す衣服の着方も、モハナ教の信者ですといえばある程度騙せそうだ。お祈りの時間だけ守っていれば誰も疑わないだろう。

 この世界に来てから、四ヶ月が経ってしまった。
 この世界と、元いた次元の世界では時間軸が異なるから、今すぐ戻れたとして、明日は卒業式から始まる。
 不思議な気分だ。あの日から四ヶ月は本来だったら、仕事にも慣れて暑い夏の中、いつもの三人でバーベキューでもしていたんだろう。
 今は......みんなに会いたい。

 あたしはこの猫背にゆっくりの二足歩行でも希望を少しも捨ててなかった。
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