ホーム›『廃病院よりの脱出』【ゲームブックショートホラー】›本編
目次
挿絵

本編

どのエンドに最初にたどり着けたか、ぜひ人に話してください。
■【1】
 あなたは古びた廃病院の手術台で目覚めた。
 傍らには錆のついた手術器具が揃っており、薬品棚には得体のしれない物ばかり。

 幸い、あなたは身体を拘束されておらず、ふらつきながらも身を起こすことができた。

 あなたはなぜ今ここにいるのか、そこに至る記憶を持ち合わせてはいないようだ。
 あなたは最初の選択を迫られている。

 『このまま手術室で待ってみる』......【7】へ

 『薬品棚を調べてみる』 ......【12】へ

 『手術器具を調べてみる』......【10】へ

 『手術室を脱出する』......【2】へ





■【2】
 あなたは手術室から脱出しようとした。
 扉は施錠されておらず、手術室の外へ出ることができた。

 廊下は真っ暗闇である。
 見渡す限り、ほとんど何も見えない。

 唯一、廊下の窓辺からは薄ぼんやりとした月明かりが差していた。

 【条件分岐】

 『あなたは【光源】を持っている』......【6】へ

 『あなたはそれらを持っておらず、手術室へ戻ることにする』......【7】へ

 『あなたはそれらを持っておらず、このまま探索をつづける』......【4】へ






■【3】
 あなたには女医がとても魅力的に思えてならなかった。

 吊り橋効果というやつで、死と恐怖による興奮と胸の高鳴りを恋愛感情と錯覚したのだろうか。
 それとも白衣の女性に並々ならぬ興味があったのか。

 あなたは身を起こすなり第一声、叫んだ。

「結婚してください」と。

 女医は困惑してみえた。
 女医はさっと草刈り鎌を後手に隠して、不意打ちすぎる言葉に迷う。

 しかしあなたのまなざしは真剣そのものだ。
 ふたりは真剣に見つめ合った。

「無事に今夜を乗り越えられたら、その時は、お友達からでよければ......」

 あなたは叫んだ。
 大喜びして叫んだ。

 興奮しすぎたのか、そこで急に意識が遠のき、あなたは気絶してしまう。

「症状は深刻みたい、急がなくては」

 女医は真剣なまなざしで、あなたのことを心配そうに見守ってくれていた気がした。
 しかしその手には、あの錆びた手術道具が握られている――。

 【選択分岐】

 『あなたの悪夢は終わらない』......【1】へ

 『うるせえ! このまま女医婚エンドだ!』......【11】へ






■【4】
 あなたは廃病院の闇の中を彷徨っていた。

 朽ちた木製の床が歩くたびに、ぎし、ぎし、と軋んでいる。

 ぎし、ぎし、ぎし、ぎし。

 暗闇の中、自分の足音だけが響いてくる。そのはずだった。

 闇の向こう側から、朽ち床を軋ませる足音が近づいてくる。それはゆっくりと迫ってくる。

 あなたは怯えて、後ろに後ずさった。

 ぎし、ぎし、ぎし、ぎし。

 規則正しく歩いてくる足音にあわせて、あなたも一歩また一歩と後ずさる。

 廊下に差し込む月光にその“姿”が一瞬ちらりと映った瞬間、ソレは猛然と駆け出した。

 早く逃げねば!

 あなたは踵を返して、一心不乱に廊下を逃げようとする。

 しかし不運なるかな、あなたは腐れ落ちた木床を踏み外して、前のめりに転倒してしまった。

 もしも、なにか【光源】になるものを所持していれば、こうはならなかったのだろうか。

 ソレは背後に迫っていた。
 あなたは立ち上がる間もなく、ソレに背中を踏みにじられた。

 抵抗ままならぬうちに、ソレはギラリと光る冷たい刃のようなものを振り下ろしていた。

 あなたの背を、何かが貫いた。

 猛烈な痛みに泣き叫ぼうと、耐えて反撃に出ようと勇もうと、すべてが手遅れだった。

 淡々と、執拗に。
 あなたは貫かれ、切り刻まれ、血まみれになっていく。
 

 【選択分岐】

 『あなたはもう目覚めない』......【GAME OVER】

 『あなたの悪夢は終わらない』......【1】へ





■【5】
 あなたは女医が近づき、背後を見せるのを待つ。

 息を殺して、待つ。
 武器を握って、待つ。

 そうやって殺意を高めていくと不思議と心地よかった。興奮した。

 これから美しく長い黒髪の女に、この【武器】で、手術道具で襲いかかるのだ。

 自らに迫る死への恐怖心とは別に、本能的な攻撃性といえるものが呼び覚まされていく。

 冷静になれたとしたら、あなたは自分が“おかしい”と気づけたかもしれない。

 しかし冷静ではいられなかった。
 あなたの精神を、何かが蝕んでいた。己が己で無くなっていく。

 もしかしたら、女医は、この症状を治そうとしていたのかもしれない。

 いや、違う。
 きっと違うはずだ。

 あなたは、あの女医によっておかしくなり、これから起こる凶事を心待ちにしているのだ。

 そう違いない。

 これは仕方のないことだ。あなたは、錆びついたハサミを握りしめて――。

「んぎあっ!!」

 とっさに振り返った女医の眼球へと錆びた切っ先を、振り下ろしていた。

 不意打ちは見事に決まった。

 女医の手にした草刈り鎌を払い除け、二撃目を与える。血と肉が抉り出される。

「遅かっ......た......」

 手術だ。

 おあつらえむきに手術具は揃っている。足りないのは麻酔と消毒液か。
 あなたは悪魔の女医を手術台に転がすとメスを握った。

 錆びついたメスを右手に、あなたは指先でほっそりとした女医の腹部を左手で撫ぜる。
 女医の目に涙が流れていたのかは血みどろすぎてわからなかった。

 【選択分岐】

 『あなたは目覚めてしまった』......【GAME OVER】

 『あなたの悪夢は終わらない』......【1】へ




■【6】
 あなたは廃病院の闇の中を彷徨っていた。

 朽ちた木製の床が歩くたびに、ぎし、ぎし、と軋んでいる。

 あなたは懐中電灯を点灯させ、注意深く木床を確認してみた。

 一部が破損して穴が空いており、危険な状態だ。腐れて変色している箇所もある。

 もし懐中電灯がなく活動していれば、転倒していたかもしれない。
 どうにも頼りない【光源】とはいえ、あるとないでは雲泥の差だった。



 あなたが廊下を歩くうちに、階段が見えてきた。
 どうやらこの廃病院は木造二階建て、つまり外に脱出するには階段を下りる必要がある。

 その時、あなたは懐中電灯の明かりも届かぬ闇の向こう側から近づく足音に気づく。
 あなたはさっと懐中電灯を消しつつ、遭遇しないために階段を下りることにした。

 ソレは何者だろうか。
 恐怖心の中、安心するために確かめたくなるも、ぐっとこらえて一階へと慎重に下りる。



【条件分岐】

 『廃病院の玄関から脱出する』......【14】へ

 『廃病院の一階を探索する。ただし【武器】と【光源】を所持している』......【9】へ



■【7】
 あなたは廃病院の手術室で待つことにした。

 もしかするとあなたは善意により、何らかの治療を受けようとしていたのかもしれない。

 あるいは悪意により、これから何らかの手術を強制されようとしているのかもしれない。

 不安ばかりが募る中、やがて足音が近づいてきた。

 ぎし、ぎし、ぎし、ぎし。

 古びた木床が鳴っている。これほど鳴る木床は相当傷んでおり、危険かもしれない。

 あなたは眠っているフリをして、じっと待った。
 やがて一人の人物が扉を開け、入ってくる。

 薄目を開け、その姿を確かめる。

 女医だ。

 不気味なほど長い黒髪の、白衣を着た女だった。
 その手には医者にあるまじき凶器が握られている。草刈り鎌だ。

 草刈り鎌は真新しそうな鈍い光沢に濡れており、古びた廃病院の備品ではないだろう。
 薄気味悪い黒髪の女医に、草刈り鎌。

 判断を誤れば、あなたは悲劇的な結末を迎えるであろうことを意識させられた。



【選択分岐】

『女医を信じて、寝たふりをしたまま手術を受ける』......【8】へ

『女医を信じず、こっそりと手術室を脱出する』......【2】へ

『女医を騙して、【武器】がある場合、不意打ちを浴びせる』......【5】へ

『女医はとても魅力的だった。結婚しよう』......【3】へ

 ※なお「あなた」が男性であれ女性であれ、【3】へ進んでよいものとする

■【8】
 手術台で寝たふりをするあなたの様子を確かめて、女医は不安そうに言葉する。

「手遅れになってなければいいんだが......」

 女医は薬品棚から何らかの薬を取り出して、注射器に薬液を補充した。

 あなたはじっと我慢する他ない。

 女医は慣れた手つきで注射する。小さなプスリという痛み。
 注射後、すぐに意識は混濁してきた。麻酔の類だったのだろうか。

「悪く思うなよ、今ここにはこんなものしか無いでね」

 薄れゆく意識の中、あなたは目にする。
 錆びたメスを手に、不気味に笑う女医を――。

「ああ、起きているのか、すまない。痛みはないはずだから」

 意識が、闇の中へと落ちていかない。

 このまま眠ってしまうはずではなかったのか。
 あなたは覚醒したまま、痛覚と自由を失っていた。女医は冷徹にメスをあてがった。

「悪いが、このまま君の手術の成功を見守っていてほしい。ことは急を要する」

 錆びついたメスが、鈍い抵抗感を伴って、あなたの人体に侵入してくる。

 あなたは出血する。痛みはない。

 あなたは恐怖する。叫びはない。

 あなたは絶望する。救いはない。

 手術はいつ終わるともしれず、粛々とつづけられた......。



 【選択分岐】

 『あなたの悪夢は終わらない』......【1】へ

 『あなたは悪夢から目覚めた』......【13】へ


■【9】
 あなたは廃病院の一階を探索する。
 この真夜中に、外へ出ていったところで安全だとは限らない。

 懐中電灯に、武器になる手術器具をいくつかポケットに忍ばせている。もう少し、ここを探ろう。
 そう決意して、あなたは“ソレ”と出会さぬ慎重に廃病院を調べてまわった。

 やがてあなたは知る。
 廃病院に残された日誌などを読むに、ここでは“何か”が生まれたらしい。

 その大半は秘密裏に処分され、病院は廃墟となり、すべては闇に葬られたはずだった。
 もしその“何か”に接触した場合、早期に切除せねば、心身の自由を失い、やがて――。

 どうなるかの正確な記録はない。
 しかし徐々に変調をきたしつつある精神状態が、見事に症例に当てはまっていた。

 あなたは記載を元に、自らの手で“何か”の侵食を切除する覚悟を決めた。
 消毒液を用い、医療器具の錆を極力擦り落として、処置を行った。

 激痛に耐えて、声を出さないようにして。
 あなたは死ぬほどの思いをしながらも、どうにか“何か”を取り除くことができた。

 そのまま誰にも見つからぬよう、廃病院の片隅であなたは疲れて寝てしまった――。
 どうか徘徊する“ソレ”に見つかりませんように、と願って。

 あなたが目覚めると、廃病院にもまばゆい朝日が差し込んでいた。

 正面玄関から外へ出ると、鬱蒼とした森の向こう側に、古い田舎の町並みが見えた。

 あなたは廃病院を、力強い足取りで後にする。
 朝日へ向かって――。


  【fin】

■【10】
 手術器具はどれも錆びついており、まともに使えそうには見えない。
 ところどころ錆びついた鉄のハサミなど不衛生でまずまともな手術には役立たない。

 しかしそれらは綺麗に並べられており、これから使われるために存在する。
 この手術器具を用いて、あなたのことをだれかが切り刻もうとしていたのだろうか。

 だとすれば正気の沙汰ではない。
 あなたは恐怖に慄くが、しかしふとこれらの手術道具は武器になりえると思った。

『あなたは手術器具を【所持品:武器】として手に入れる』



【選択分岐】

『このまま手術室で待ってみる』......【7】へ

『薬品棚を調べてみる』......【12】へ

『手術室を脱出する』......【2】へ



■【11】
 あなたは念願の、黒髪の女医と結婚することができた。
 あの一夜の後、無事に自宅へ帰り着くことのできたあなたの元に女医は「経過観察」と称して足を運ぶようになった。

 そこでもあなたは女医を口説き、熱烈にアプローチした。
 あなたのことを気に入ってくれたのか、それともなにか裏の思惑があるのか――。

「廃病院での一夜はナイショよ、誰にも、あなたにも」

 夜勤帰りの愛妻に手料理を振る舞いながら、あなたはそんなこともあったなと思い返す。
 愛する伴侶は今も時々、ふらりと行方をくらませる。

 しかしあなたは気にしない。
 きっとこれで良かったのだ。そう自分に言い聞かせ、晩酌の乾杯を交わすのだった。


【選択分岐】

 『あなたの悪夢は終わらない』......【1】へ

 『いいよね、黒髪ロング女医さん』......【Happy End】



■【12】
 手術室の薬品棚にはラベルが読み取れないほど劣化した薬瓶をはじめとした道具がある。

 あなたにとって役立つものはあるだろうか。

 調べていくうちにあなたは【懐中電灯】を見つけることができた。
 試しに点灯させてみるが、問題なく【光源】たりえるようだ。
 
『あなたは【所持品:懐中電灯】を手に入れる』



【選択分岐】

『このまま手術室で待ってみる』......【7】へ

『手術器具を調べてみる』......【10】へ

『手術室を脱出する』......【2】へ



■【13】
 あなたが目覚めると、そこはいつも通りのあなたの自室だった。
 廃病院での出来事は、悪い夢だったのだろうか。

 だとしたらひどい悪夢だ。
 こんな夢は忘れるに限る。

 あなたはいつものように食事をとり、いつもの日常へ戻ろうとする。
 何もかも夢だったのだ。

 その証拠に、アレが現実であった証拠となる【物】など、どこにも......。



【条件分岐】

 『あなたは【所持品:武器】もしくは【所持品:懐中電灯】を持っている』......【13a End】

 『あなたは【所持品】を持っていない】......【13b End】


■【13a】
 証拠品は、確かにあった。あなたは“ソレ”を未だに持っていた。

 アレは夢ではなかったというのか。
 悪夢の一夜は現実に起きていたのだ。しかし、今はもう何事もない。

 あなたはあの女医に助けられたのだろうか。

 今となってはもう、知るすべはない――。



■【13b】
 証拠品は、どこにもなかった。アレは単なる悪い夢だったのだ。
 あなたは嫌なことを忘れて、普段どおりの生活を謳歌することにした。

 それにしても不思議な夢だった。

 ――等と考えているうちに、行きつけの病院であの黒髪の女医そっくりの人を見かけた。

 こうして明るい病院で眺めてみる分には、なんとも素敵な美人さんではないか。
 しかし他人の空似だろう。

 あなたはおだやかな日常に回帰していく。



【選択分岐】

『あなたの悪夢は終わった』......【Normal End】

『やっぱり女医さんが良い!』......【3】へ


■【14】
 あなたは廃病院の正面玄関から脱出しようとする。

 この薄気味悪い場所から一刻も早く逃げなければ、きっと命はない。
 あなたはそう信じて、暗闇の中、【懐中電灯】を頼りに玄関を目指した。

 二階の床がぎしぎしと軋み、そのたびに埃が降ってくる。

 “ソレ”が徘徊している。

 あなたは恐る恐る、しかし着実に歩みを進めて、玄関へと辿り着いた。
 あなたは廃病院の外へ脱出することができた。

 しかしそこは――。
 しかしそこは何処とも知れぬ、闇深い森の真っ只中でしかなかった。

 考えてみれば、これほど廃墟化した病院が野ざらしであるなどまともな環境ではなかった。

 懐中電灯を片手に、このままあてもなく森を彷徨う他ないのか。
 あなたがそう思い悩んでいるうちに、すぐそこに“ソレ”は迫っていた。

 振り返りざま、懐中電灯が“ソレ”を照らした。

 ソレは何者だったのか。
 あなたは知る由もなかった。

 振り下ろされた草刈り鎌が、あなたの意識を刈り取ったからだ。

 【選択分岐】

 『あなたはもう目覚めない』......【GAME OVER】

 『あなたの悪夢は終わらない』......【1】へ
シェア
最新話です
目次に戻る
『廃病院よりの脱出』【ゲームブックショートホラー】作者:かげろー@物書きつね
目次を見る
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません
ホーム›『廃病院よりの脱出』【ゲームブックショートホラー】›本編
目次
挿絵

本編

どのエンドに最初にたどり着けたか、ぜひ人に話してください。
■【1】
 あなたは古びた廃病院の手術台で目覚めた。
 傍らには錆のついた手術器具が揃っており、薬品棚には得体のしれない物ばかり。

 幸い、あなたは身体を拘束されておらず、ふらつきながらも身を起こすことができた。

 あなたはなぜ今ここにいるのか、そこに至る記憶を持ち合わせてはいないようだ。
 あなたは最初の選択を迫られている。

 『このまま手術室で待ってみる』......【7】へ

 『薬品棚を調べてみる』 ......【12】へ

 『手術器具を調べてみる』......【10】へ

 『手術室を脱出する』......【2】へ





■【2】
 あなたは手術室から脱出しようとした。
 扉は施錠されておらず、手術室の外へ出ることができた。

 廊下は真っ暗闇である。
 見渡す限り、ほとんど何も見えない。

 唯一、廊下の窓辺からは薄ぼんやりとした月明かりが差していた。

 【条件分岐】

 『あなたは【光源】を持っている』......【6】へ

 『あなたはそれらを持っておらず、手術室へ戻ることにする』......【7】へ

 『あなたはそれらを持っておらず、このまま探索をつづける』......【4】へ






■【3】
 あなたには女医がとても魅力的に思えてならなかった。

 吊り橋効果というやつで、死と恐怖による興奮と胸の高鳴りを恋愛感情と錯覚したのだろうか。
 それとも白衣の女性に並々ならぬ興味があったのか。

 あなたは身を起こすなり第一声、叫んだ。

「結婚してください」と。

 女医は困惑してみえた。
 女医はさっと草刈り鎌を後手に隠して、不意打ちすぎる言葉に迷う。

 しかしあなたのまなざしは真剣そのものだ。
 ふたりは真剣に見つめ合った。

「無事に今夜を乗り越えられたら、その時は、お友達からでよければ......」

 あなたは叫んだ。
 大喜びして叫んだ。

 興奮しすぎたのか、そこで急に意識が遠のき、あなたは気絶してしまう。

「症状は深刻みたい、急がなくては」

 女医は真剣なまなざしで、あなたのことを心配そうに見守ってくれていた気がした。
 しかしその手には、あの錆びた手術道具が握られている――。

 【選択分岐】

 『あなたの悪夢は終わらない』......【1】へ

 『うるせえ! このまま女医婚エンドだ!』......【11】へ






■【4】
 あなたは廃病院の闇の中を彷徨っていた。

 朽ちた木製の床が歩くたびに、ぎし、ぎし、と軋んでいる。

 ぎし、ぎし、ぎし、ぎし。

 暗闇の中、自分の足音だけが響いてくる。そのはずだった。

 闇の向こう側から、朽ち床を軋ませる足音が近づいてくる。それはゆっくりと迫ってくる。

 あなたは怯えて、後ろに後ずさった。

 ぎし、ぎし、ぎし、ぎし。

 規則正しく歩いてくる足音にあわせて、あなたも一歩また一歩と後ずさる。

 廊下に差し込む月光にその“姿”が一瞬ちらりと映った瞬間、ソレは猛然と駆け出した。

 早く逃げねば!

 あなたは踵を返して、一心不乱に廊下を逃げようとする。

 しかし不運なるかな、あなたは腐れ落ちた木床を踏み外して、前のめりに転倒してしまった。

 もしも、なにか【光源】になるものを所持していれば、こうはならなかったのだろうか。

 ソレは背後に迫っていた。
 あなたは立ち上がる間もなく、ソレに背中を踏みにじられた。

 抵抗ままならぬうちに、ソレはギラリと光る冷たい刃のようなものを振り下ろしていた。

 あなたの背を、何かが貫いた。

 猛烈な痛みに泣き叫ぼうと、耐えて反撃に出ようと勇もうと、すべてが手遅れだった。

 淡々と、執拗に。
 あなたは貫かれ、切り刻まれ、血まみれになっていく。
 

 【選択分岐】

 『あなたはもう目覚めない』......【GAME OVER】

 『あなたの悪夢は終わらない』......【1】へ





■【5】
 あなたは女医が近づき、背後を見せるのを待つ。

 息を殺して、待つ。
 武器を握って、待つ。

 そうやって殺意を高めていくと不思議と心地よかった。興奮した。

 これから美しく長い黒髪の女に、この【武器】で、手術道具で襲いかかるのだ。

 自らに迫る死への恐怖心とは別に、本能的な攻撃性といえるものが呼び覚まされていく。

 冷静になれたとしたら、あなたは自分が“おかしい”と気づけたかもしれない。

 しかし冷静ではいられなかった。
 あなたの精神を、何かが蝕んでいた。己が己で無くなっていく。

 もしかしたら、女医は、この症状を治そうとしていたのかもしれない。

 いや、違う。
 きっと違うはずだ。

 あなたは、あの女医によっておかしくなり、これから起こる凶事を心待ちにしているのだ。

 そう違いない。

 これは仕方のないことだ。あなたは、錆びついたハサミを握りしめて――。

「んぎあっ!!」

 とっさに振り返った女医の眼球へと錆びた切っ先を、振り下ろしていた。

 不意打ちは見事に決まった。

 女医の手にした草刈り鎌を払い除け、二撃目を与える。血と肉が抉り出される。

「遅かっ......た......」

 手術だ。

 おあつらえむきに手術具は揃っている。足りないのは麻酔と消毒液か。
 あなたは悪魔の女医を手術台に転がすとメスを握った。

 錆びついたメスを右手に、あなたは指先でほっそりとした女医の腹部を左手で撫ぜる。
 女医の目に涙が流れていたのかは血みどろすぎてわからなかった。

 【選択分岐】

 『あなたは目覚めてしまった』......【GAME OVER】

 『あなたの悪夢は終わらない』......【1】へ




■【6】
 あなたは廃病院の闇の中を彷徨っていた。

 朽ちた木製の床が歩くたびに、ぎし、ぎし、と軋んでいる。

 あなたは懐中電灯を点灯させ、注意深く木床を確認してみた。

 一部が破損して穴が空いており、危険な状態だ。腐れて変色している箇所もある。

 もし懐中電灯がなく活動していれば、転倒していたかもしれない。
 どうにも頼りない【光源】とはいえ、あるとないでは雲泥の差だった。



 あなたが廊下を歩くうちに、階段が見えてきた。
 どうやらこの廃病院は木造二階建て、つまり外に脱出するには階段を下りる必要がある。

 その時、あなたは懐中電灯の明かりも届かぬ闇の向こう側から近づく足音に気づく。
 あなたはさっと懐中電灯を消しつつ、遭遇しないために階段を下りることにした。

 ソレは何者だろうか。
 恐怖心の中、安心するために確かめたくなるも、ぐっとこらえて一階へと慎重に下りる。



【条件分岐】

 『廃病院の玄関から脱出する』......【14】へ

 『廃病院の一階を探索する。ただし【武器】と【光源】を所持している』......【9】へ



■【7】
 あなたは廃病院の手術室で待つことにした。

 もしかするとあなたは善意により、何らかの治療を受けようとしていたのかもしれない。

 あるいは悪意により、これから何らかの手術を強制されようとしているのかもしれない。

 不安ばかりが募る中、やがて足音が近づいてきた。

 ぎし、ぎし、ぎし、ぎし。

 古びた木床が鳴っている。これほど鳴る木床は相当傷んでおり、危険かもしれない。

 あなたは眠っているフリをして、じっと待った。
 やがて一人の人物が扉を開け、入ってくる。

 薄目を開け、その姿を確かめる。

 女医だ。

 不気味なほど長い黒髪の、白衣を着た女だった。
 その手には医者にあるまじき凶器が握られている。草刈り鎌だ。

 草刈り鎌は真新しそうな鈍い光沢に濡れており、古びた廃病院の備品ではないだろう。
 薄気味悪い黒髪の女医に、草刈り鎌。

 判断を誤れば、あなたは悲劇的な結末を迎えるであろうことを意識させられた。



【選択分岐】

『女医を信じて、寝たふりをしたまま手術を受ける』......【8】へ

『女医を信じず、こっそりと手術室を脱出する』......【2】へ

『女医を騙して、【武器】がある場合、不意打ちを浴びせる』......【5】へ

『女医はとても魅力的だった。結婚しよう』......【3】へ

 ※なお「あなた」が男性であれ女性であれ、【3】へ進んでよいものとする

■【8】
 手術台で寝たふりをするあなたの様子を確かめて、女医は不安そうに言葉する。

「手遅れになってなければいいんだが......」

 女医は薬品棚から何らかの薬を取り出して、注射器に薬液を補充した。

 あなたはじっと我慢する他ない。

 女医は慣れた手つきで注射する。小さなプスリという痛み。
 注射後、すぐに意識は混濁してきた。麻酔の類だったのだろうか。

「悪く思うなよ、今ここにはこんなものしか無いでね」

 薄れゆく意識の中、あなたは目にする。
 錆びたメスを手に、不気味に笑う女医を――。

「ああ、起きているのか、すまない。痛みはないはずだから」

 意識が、闇の中へと落ちていかない。

 このまま眠ってしまうはずではなかったのか。
 あなたは覚醒したまま、痛覚と自由を失っていた。女医は冷徹にメスをあてがった。

「悪いが、このまま君の手術の成功を見守っていてほしい。ことは急を要する」

 錆びついたメスが、鈍い抵抗感を伴って、あなたの人体に侵入してくる。

 あなたは出血する。痛みはない。

 あなたは恐怖する。叫びはない。

 あなたは絶望する。救いはない。

 手術はいつ終わるともしれず、粛々とつづけられた......。



 【選択分岐】

 『あなたの悪夢は終わらない』......【1】へ

 『あなたは悪夢から目覚めた』......【13】へ


■【9】
 あなたは廃病院の一階を探索する。
 この真夜中に、外へ出ていったところで安全だとは限らない。

 懐中電灯に、武器になる手術器具をいくつかポケットに忍ばせている。もう少し、ここを探ろう。
 そう決意して、あなたは“ソレ”と出会さぬ慎重に廃病院を調べてまわった。

 やがてあなたは知る。
 廃病院に残された日誌などを読むに、ここでは“何か”が生まれたらしい。

 その大半は秘密裏に処分され、病院は廃墟となり、すべては闇に葬られたはずだった。
 もしその“何か”に接触した場合、早期に切除せねば、心身の自由を失い、やがて――。

 どうなるかの正確な記録はない。
 しかし徐々に変調をきたしつつある精神状態が、見事に症例に当てはまっていた。

 あなたは記載を元に、自らの手で“何か”の侵食を切除する覚悟を決めた。
 消毒液を用い、医療器具の錆を極力擦り落として、処置を行った。

 激痛に耐えて、声を出さないようにして。
 あなたは死ぬほどの思いをしながらも、どうにか“何か”を取り除くことができた。

 そのまま誰にも見つからぬよう、廃病院の片隅であなたは疲れて寝てしまった――。
 どうか徘徊する“ソレ”に見つかりませんように、と願って。

 あなたが目覚めると、廃病院にもまばゆい朝日が差し込んでいた。

 正面玄関から外へ出ると、鬱蒼とした森の向こう側に、古い田舎の町並みが見えた。

 あなたは廃病院を、力強い足取りで後にする。
 朝日へ向かって――。


  【fin】

■【10】
 手術器具はどれも錆びついており、まともに使えそうには見えない。
 ところどころ錆びついた鉄のハサミなど不衛生でまずまともな手術には役立たない。

 しかしそれらは綺麗に並べられており、これから使われるために存在する。
 この手術器具を用いて、あなたのことをだれかが切り刻もうとしていたのだろうか。

 だとすれば正気の沙汰ではない。
 あなたは恐怖に慄くが、しかしふとこれらの手術道具は武器になりえると思った。

『あなたは手術器具を【所持品:武器】として手に入れる』



【選択分岐】

『このまま手術室で待ってみる』......【7】へ

『薬品棚を調べてみる』......【12】へ

『手術室を脱出する』......【2】へ



■【11】
 あなたは念願の、黒髪の女医と結婚することができた。
 あの一夜の後、無事に自宅へ帰り着くことのできたあなたの元に女医は「経過観察」と称して足を運ぶようになった。

 そこでもあなたは女医を口説き、熱烈にアプローチした。
 あなたのことを気に入ってくれたのか、それともなにか裏の思惑があるのか――。

「廃病院での一夜はナイショよ、誰にも、あなたにも」

 夜勤帰りの愛妻に手料理を振る舞いながら、あなたはそんなこともあったなと思い返す。
 愛する伴侶は今も時々、ふらりと行方をくらませる。

 しかしあなたは気にしない。
 きっとこれで良かったのだ。そう自分に言い聞かせ、晩酌の乾杯を交わすのだった。


【選択分岐】

 『あなたの悪夢は終わらない』......【1】へ

 『いいよね、黒髪ロング女医さん』......【Happy End】



■【12】
 手術室の薬品棚にはラベルが読み取れないほど劣化した薬瓶をはじめとした道具がある。

 あなたにとって役立つものはあるだろうか。

 調べていくうちにあなたは【懐中電灯】を見つけることができた。
 試しに点灯させてみるが、問題なく【光源】たりえるようだ。
 
『あなたは【所持品:懐中電灯】を手に入れる』



【選択分岐】

『このまま手術室で待ってみる』......【7】へ

『手術器具を調べてみる』......【10】へ

『手術室を脱出する』......【2】へ



■【13】
 あなたが目覚めると、そこはいつも通りのあなたの自室だった。
 廃病院での出来事は、悪い夢だったのだろうか。

 だとしたらひどい悪夢だ。
 こんな夢は忘れるに限る。

 あなたはいつものように食事をとり、いつもの日常へ戻ろうとする。
 何もかも夢だったのだ。

 その証拠に、アレが現実であった証拠となる【物】など、どこにも......。



【条件分岐】

 『あなたは【所持品:武器】もしくは【所持品:懐中電灯】を持っている』......【13a End】

 『あなたは【所持品】を持っていない】......【13b End】


■【13a】
 証拠品は、確かにあった。あなたは“ソレ”を未だに持っていた。

 アレは夢ではなかったというのか。
 悪夢の一夜は現実に起きていたのだ。しかし、今はもう何事もない。

 あなたはあの女医に助けられたのだろうか。

 今となってはもう、知るすべはない――。



■【13b】
 証拠品は、どこにもなかった。アレは単なる悪い夢だったのだ。
 あなたは嫌なことを忘れて、普段どおりの生活を謳歌することにした。

 それにしても不思議な夢だった。

 ――等と考えているうちに、行きつけの病院であの黒髪の女医そっくりの人を見かけた。

 こうして明るい病院で眺めてみる分には、なんとも素敵な美人さんではないか。
 しかし他人の空似だろう。

 あなたはおだやかな日常に回帰していく。



【選択分岐】

『あなたの悪夢は終わった』......【Normal End】

『やっぱり女医さんが良い!』......【3】へ


■【14】
 あなたは廃病院の正面玄関から脱出しようとする。

 この薄気味悪い場所から一刻も早く逃げなければ、きっと命はない。
 あなたはそう信じて、暗闇の中、【懐中電灯】を頼りに玄関を目指した。

 二階の床がぎしぎしと軋み、そのたびに埃が降ってくる。

 “ソレ”が徘徊している。

 あなたは恐る恐る、しかし着実に歩みを進めて、玄関へと辿り着いた。
 あなたは廃病院の外へ脱出することができた。

 しかしそこは――。
 しかしそこは何処とも知れぬ、闇深い森の真っ只中でしかなかった。

 考えてみれば、これほど廃墟化した病院が野ざらしであるなどまともな環境ではなかった。

 懐中電灯を片手に、このままあてもなく森を彷徨う他ないのか。
 あなたがそう思い悩んでいるうちに、すぐそこに“ソレ”は迫っていた。

 振り返りざま、懐中電灯が“ソレ”を照らした。

 ソレは何者だったのか。
 あなたは知る由もなかった。

 振り下ろされた草刈り鎌が、あなたの意識を刈り取ったからだ。

 【選択分岐】

 『あなたはもう目覚めない』......【GAME OVER】

 『あなたの悪夢は終わらない』......【1】へ
シェア
最新話です
目次に戻る
『廃病院よりの脱出』【ゲームブックショートホラー】作者:かげろー@物書きつね
目次
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません