Episode 41 BLACK VARIANCE
BLACK VARIANCE本部。
広い執務室。
机には報告書が積まれていた。
「くぁぁぁぁっ......」
ソファへ寝転がる男が、大きな欠伸をした。
ヴァーゲン・カイン。
「......暇だ」
部屋にいた数人の隊員が顔を見合わせる。
「ボス。本日の予定ですが──」
「無えよ」
「はい?」
ヴァーゲンは身体を起こす。
「ビール飲みに行くぞ」
隊員達が固まる。
「酒場へ向かわれますか?」
「何言ってんだ?」
――ギシッ――
面倒くさそうに立ち上がる。
「08区――FREIGHT」
「......はい?」
「いっぱいあんだろ、あそこ」
「ありますけど......」
「嫌な予感がする......」
隊員たちはすでに頭を抱えていた。
否定しても無駄。
「......始末書部隊スタンバっとけ......」
「いつから出来たんだよ......そんな部隊......」
――キキィッ――
大型車両が物流施設へ到着する。
警備員が慌てて駆け寄る。
「止まってください!」
――バタン――
ヴァーゲンは車から降りる。
「ちょっ――止まれっ!!」
「ビール」
気だるげに。
子供大人が悪気もなく。
「は?」
警備員が困惑する。
「冷えてるビール」
「え?」
「どこだ?」
「......ここは物流施設です」
「んなことは、わかってる」
「販売はしてません」
「あるんだな?」
ヴァーゲンは首を傾げる。
「だったら出せ」
「出せません!」
「飲むだけだって」
当たり前のように。
「減るもんじゃないだろ」
「ボス、減りますって」
「気にすんな」
後ろの隊員が眉間を押さえる。
「気にしましょうよ......」
「せめて何とかして買いません?」
「あるんだからいいじゃねえか」
「「いやいやいや......」」
警備員が警棒へ手を掛けた。
「帰ってください!」
「嫌だ」
「警告します!」
「お?あそこにありそう」
――ガゴンッ――
倉庫の扉が簡単に開く。
「退去してください!」
「あれか?」
ヴァーゲンは倉庫内のコンテナを見上げた。
「涼しいし、ここで飲もう」
「だから!」
警備員が飛び掛かる。
――ブンッ!――
ヴァーゲンは軽く身体を捻って躱す。
「お?」
少しだけ笑った。
「やる?」
隊員達の顔色が変わる。
「ボス!!」
「駄目です!!」
「相手は一般人ですって!!」
「弱そうだよなあ」
「そこが問題じゃないです!!」
隊員は警備員を睨みつける。
「お前はアホかぁぁぁっ!?!?」
「死にたいの!?!?」
「警備するなら自宅でしとけぇぇぇっ!!」
警備員は隊員の物凄い剣幕に気圧される。
「何でアンタら、そんなに必死っ!?」
ヴァーゲンは一切気にしない。
――ザッ――
そのまま歩き出す。
「これ以上は!!」
警備員が再びヴァーゲンの前に立つ。
「あ......」
「終わった......」
ヴァーゲンは空間へ――
軽く拳を突き出した。
──ドゴォォォン!!──
大型コンテナが一瞬で吹き飛ぶ。
――ガンッガンッ――
コンテナの破片が地面に落ちた。
「......へ?」
警備員は現状を理解出来ない。
思考が停止していた。
「あった」
コンテナの奥には大量のビール箱が並んでいた。
ヴァーゲンは一本だけ取り出す。
──プシュッ──
炭酸が弾ける。
――ゴクッゴクッゴクッ――
「......かぁーーーっ!!」
隊員達は揃って頭を抱えた。
「始末書部隊......GO......」
「嫌ぁぁぁぁっ!?!?」
「今回は何枚だ......」
隊員たちの阿鼻叫喚。
「あー......整ったぁ......」
何一つ気にも留めない。
「満足」
ヴァーゲンは倉庫の外へ出る。
「もう!?」
「自由過ぎんだろ!?」
遠くには穏やかな街並み。
人々が働いている。
「............仕事したなぁ」
ビールを飲み終えたヴァーゲンが呟いた。
「何の仕事だよ......」
隊員がぼやく。
「つまんねえなあ」
「......何がです?」
「――全部だ」
――ギッ――
「退屈だ」
――ヒョイッ――
何かを無造作に放る。
――カンカンッ――
弾丸よりも硬いビール缶だったもの。
「......帰るか」
それは何事も無かったかのように――
地面で鈍く輝いていた。