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理を編むエーテル -メリアの不思議探求録-
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第零話 世界が止まった日
目次
次の話 →
栞
読書設定
第零話 世界が止まった日
本作は縦書き表示推奨です。「読書設定」から縦書き表示に切り替えて、お楽しみください。
メリアは、白い聖堂を見上げた。
高い天井に整然と並ぶ石柱、
天窓から落ちる光が静かに床へ広がっている。
祈りの時間が近く、
信徒たちは自然と声を落とし、聖堂には低い囁きだけが漂っていた。
中央通路の奥から、二つの影が現れる。
一人は神殿の高位聖職者、
もう一人は少女――メリアだった。
周囲を固める神殿騎士たちの
磨かれた鎧が光を受け、歩みは静かだが隙はない。
信徒たちは自然と
道を開け、二人はその間をゆっくりと進んだ。
祈りのために整えられた、秩序の空間。
メリアは歩きながら、
ふと視線を上げた。
高い天井に交差する梁、天窓から差し込む光。
観測するようにひと眺めして、また前を向く。
聖壇はすぐそこ
だった。
そのとき、空気がほんのわずかに歪んだ。
音はない。
風もない。
だがそこに、何かがあった。
メリアの背後。
何もない空間から、影よりも細い黒い線が伸びる。
それは迷いなく、首へ向かった。
速い。
避ける時間はない。
触れた。
視界が傾く。
聖堂の柱が斜めになり、床がゆっくりと
近づいてくる。
身体が崩れ落ちる――その刹那。
世界が、止まった。
囁きも、足音も、呼吸さえも動かない。
光が空間に固定され、
時間が凍りつく。
黒い線は空中に張り付いたまま動かず、メリアの
身体は倒れかけた姿勢のまま静止している。
静止した世界の中で、ただ一つだけ動く影があった。
神殿騎士。
半歩、踏み込む。
銀の刃が振り抜かれ、一閃。
空間が裂ける。
そこに、何かがいた。
人の形をしていたもの。
それが崩れ、黒い
泡が浮かび上がる。
泡は静かに膨らみ、弾けるように消えていった。
残ったのは、床に落ちた空の衣だけだった。
その瞬間、世界が動き出す。
囁き、衣の擦れる音、信徒たちの
呼吸。
何も起きていなかったかのように、聖堂の時間が流れ始める。
だが――ほんの一瞬前、確かに首が落ちかけていた。
その事実は、
どこにも残らない。
刹那、時間が逆へ流れる。
光が戻り、空気が戻る。
傾いた身体が
元へ戻り、黒い線が消える。
聖堂の静寂が整う。
メリアは歩いている。
聖壇へ向かって。
何事もなかったかの
ように。
そのときだった。
メリアの身体が、ふらりと揺れた。
足が止まり、
視界が霞み、膝が崩れる。
すぐ隣にいた高位聖職者が咄嗟に腕を
伸ばし、倒れかけた身体を支えた。
聖堂にざわめきが広がり、
祈りの空気が初めて乱れる。
少女は意識を失っていた。
白い光の下で。
聖堂の誰も知らない。
ほんの刹那前、この場所で――世界が
止まったことを。
あとがき
シラン
本作はカクヨム・小説家になろうでも掲載しています。 他掲載サイトの公開分に追いつくまで、準備が整った 話から順次公開します。公開分の足並みが揃った後は、 毎週水曜日・土曜日の20時更新となります。
♡
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次の話 →
第一話 産寧坂の事故
理を編むエーテル -メリアの不思議探求録-
作者:シラン
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天窓から落ちる光が静かに床へ広がっている。
祈りの時間が近く、
信徒たちは自然と声を落とし、聖堂には低い囁きだけが漂っていた。
中央通路の奥から、二つの影が現れる。
一人は神殿の高位聖職者、
もう一人は少女――メリアだった。
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磨かれた鎧が光を受け、歩みは静かだが隙はない。
信徒たちは自然と
道を開け、二人はその間をゆっくりと進んだ。
祈りのために整えられた、秩序の空間。
メリアは歩きながら、
ふと視線を上げた。
高い天井に交差する梁、天窓から差し込む光。
観測するようにひと眺めして、また前を向く。
聖壇はすぐそこ
だった。
そのとき、空気がほんのわずかに歪んだ。
音はない。
風もない。
だがそこに、何かがあった。
メリアの背後。
何もない空間から、影よりも細い黒い線が伸びる。
それは迷いなく、首へ向かった。
速い。
避ける時間はない。
触れた。
視界が傾く。
聖堂の柱が斜めになり、床がゆっくりと
近づいてくる。
身体が崩れ落ちる――その刹那。
世界が、止まった。
囁きも、足音も、呼吸さえも動かない。
光が空間に固定され、
時間が凍りつく。
黒い線は空中に張り付いたまま動かず、メリアの
身体は倒れかけた姿勢のまま静止している。
静止した世界の中で、ただ一つだけ動く影があった。
神殿騎士。
半歩、踏み込む。
銀の刃が振り抜かれ、一閃。
空間が裂ける。
そこに、何かがいた。
人の形をしていたもの。
それが崩れ、黒い
泡が浮かび上がる。
泡は静かに膨らみ、弾けるように消えていった。
残ったのは、床に落ちた空の衣だけだった。
その瞬間、世界が動き出す。
囁き、衣の擦れる音、信徒たちの
呼吸。
何も起きていなかったかのように、聖堂の時間が流れ始める。
だが――ほんの一瞬前、確かに首が落ちかけていた。
その事実は、
どこにも残らない。
刹那、時間が逆へ流れる。
光が戻り、空気が戻る。
傾いた身体が
元へ戻り、黒い線が消える。
聖堂の静寂が整う。
メリアは歩いている。
聖壇へ向かって。
何事もなかったかの
ように。
そのときだった。
メリアの身体が、ふらりと揺れた。
足が止まり、
視界が霞み、膝が崩れる。
すぐ隣にいた高位聖職者が咄嗟に腕を
伸ばし、倒れかけた身体を支えた。
聖堂にざわめきが広がり、
祈りの空気が初めて乱れる。
少女は意識を失っていた。
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止まったことを。
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