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虚空。

「ひいらぎ、ひいらぎ。......ひいちゃん!」

「......えっ?」

「大丈夫......?」

 心配した母の顔が俯いた私の顔を覗き込んでいた。

「......ん、大丈夫......かな」

 力なく微笑んで、私は母に返事する。

「大丈夫じゃないじゃないの......?」

 だって......。

 心配そうに付け加えたその言葉。母はそっと、見つめる私の頬を掴み、軽く撫でてくれた。

「あなた、泣いてるじゃない」

「......え?」

 母が軽く撫でてくれたところは、優しすぎてこそばゆさも感じる。でも、それより頬が母の触れる部分に湿り気を感じたのが気になった。

 水分が乾いてきたからか次第に冷たく感じ、反対の頬を触って、やっと涙が流れていたことに気づく。

 あれ? なんで私泣いてるんだっけ。
 
 周りを見渡せばしんとして、耳を澄ませてもすすり泣きやひっそりした話し声しかしない。

 雨も降っていないのにじめじめとした陰鬱な空気。

 私は何してるんだ? なぜ泣いていたんだ?

 白を基調とした内装の室内を見渡して気づく。

 周りの黒い礼服の人々が並ぶ中、前列の黒い背中の合間から見えるものに。

 春野ケイが歯を見せて笑っている写真が立てかけられていた。

 ああ、そうだ。彼は死んだんだった。

 でもどうやって死んだんだっけ。彼にまだ生きてほしくて、人を傷つけて、殺しかけて。

 そして。

 どこまでも抜けるような青さを広げる青空を、彼は見上げながら、羽ばたいた。

 まるで、絵に描いたような壮大な景色にも見えたけど。

 当然、彼は人間だから、飛べるはずなくて。
 羽根をもがれたように、するりと落ちて、あの子は。

 あの子は。

「うっ、おぇ」

 最後に見た彼の姿を思い出してしまった。
 彼が、彼の姿をしただけの入れ物になった、美しく壊れた人形。
 
 ここは葬式場。春野ケイの通夜を終えたところだった。

 その事実を今になって突きつけられたことに気づいた。

 ......嫌だ、あの子が死んだなんて。
 思いたくない! 分かりたくない! 知りたくない!!

「う、わああぁぁ......!」

 喉が裂けんばかりの絶叫が、私の口からほとばしった。
 
 私は膝から崩れ落ち、顔を覆いながら母に支えられた。

 母の腕の中で泣きじゃくり、温かな胸を涙で汚すことしか、今の私はできなかった。
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再生の兆し。
わたしは知っている、君の最期を。……それでも、作者:蒼井瑠水
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虚空。

「ひいらぎ、ひいらぎ。......ひいちゃん!」

「......えっ?」

「大丈夫......?」

 心配した母の顔が俯いた私の顔を覗き込んでいた。

「......ん、大丈夫......かな」

 力なく微笑んで、私は母に返事する。

「大丈夫じゃないじゃないの......?」

 だって......。

 心配そうに付け加えたその言葉。母はそっと、見つめる私の頬を掴み、軽く撫でてくれた。

「あなた、泣いてるじゃない」

「......え?」

 母が軽く撫でてくれたところは、優しすぎてこそばゆさも感じる。でも、それより頬が母の触れる部分に湿り気を感じたのが気になった。

 水分が乾いてきたからか次第に冷たく感じ、反対の頬を触って、やっと涙が流れていたことに気づく。

 あれ? なんで私泣いてるんだっけ。
 
 周りを見渡せばしんとして、耳を澄ませてもすすり泣きやひっそりした話し声しかしない。

 雨も降っていないのにじめじめとした陰鬱な空気。

 私は何してるんだ? なぜ泣いていたんだ?

 白を基調とした内装の室内を見渡して気づく。

 周りの黒い礼服の人々が並ぶ中、前列の黒い背中の合間から見えるものに。

 春野ケイが歯を見せて笑っている写真が立てかけられていた。

 ああ、そうだ。彼は死んだんだった。

 でもどうやって死んだんだっけ。彼にまだ生きてほしくて、人を傷つけて、殺しかけて。

 そして。

 どこまでも抜けるような青さを広げる青空を、彼は見上げながら、羽ばたいた。

 まるで、絵に描いたような壮大な景色にも見えたけど。

 当然、彼は人間だから、飛べるはずなくて。
 羽根をもがれたように、するりと落ちて、あの子は。

 あの子は。

「うっ、おぇ」

 最後に見た彼の姿を思い出してしまった。
 彼が、彼の姿をしただけの入れ物になった、美しく壊れた人形。
 
 ここは葬式場。春野ケイの通夜を終えたところだった。

 その事実を今になって突きつけられたことに気づいた。

 ......嫌だ、あの子が死んだなんて。
 思いたくない! 分かりたくない! 知りたくない!!

「う、わああぁぁ......!」

 喉が裂けんばかりの絶叫が、私の口からほとばしった。
 
 私は膝から崩れ落ち、顔を覆いながら母に支えられた。

 母の腕の中で泣きじゃくり、温かな胸を涙で汚すことしか、今の私はできなかった。
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