第16話 変人達の集い
龍花に案内されて、シュウとヘイユンは、旧グラントウキョウ・サウスタワーの42階へと、エレベーターで向かっている。
道中、ヘイユンはずっと文句を言い続けていた。
「なんで、私まで配属されないといけないわけ?」
シュウがカバネバミに入ることが確定するのと同時に、大禅は、なぜかヘイユンも入隊するように促してきた。
『私は関係ないでしょ!』
と最初は抵抗していたヘイユンだったが、この際、渡航許可が下りるまで付き合ってほしい、とシュウに何度も頼みこまれたことで、渋々承知した。彼女としても、結局のところ、他の四凶について詳しく知っているトウテツとの協力が必要なので、離がたいという事情はある。
42階に着き、エレベーターのドアが開いた。
カバネバミの部屋まで移動しようと歩き始めた途端、エレベーターホールに、一人の長身の女が姿を現した。
赤髪のベリーショート、ピアスを幾重にもつけており、腕にタトゥーが入っている。見るからにパンクな雰囲気の彼女は、シュウ達に向かって笑顔で手を振ると、その友好的な仕草から一転して、いきなり床を蹴って飛びかかってきた。
狙いは、シュウ。
「わっ⁉」
顔面目がけて飛んでくるパンチを、かろうじて紙一重でかわすと、シュウはすかさず後方へ跳んで距離を取った。
「おいおい! 逃げの一手かァ⁉」
赤髪の女は非常に好戦的な性格のようで、シュウが戦う意思を見せていないにもかかわらず、さらに追撃を仕掛けてくる。
「ちょっと! いきなり何をするの!」
ヘイユンが怒鳴り、横から割り込んでくる。
そっちが邪魔するならば、とばかりに、赤髪の女は急にターゲットを変更した。向きを変え、ヘイユンに向かって殴りかかる。喧嘩殺法的な大振りの拳に対して、ヘイユンは冷静に円流の動きで相手の腕を弾き飛ばす。
拳がダメなら、次は脚。赤髪の女は全身を捻転させて、後ろ回し蹴りを放ってくる。
その蹴り足を、今度は龍花が間に入って、正面から腕でガードした。
「リオ! いい加減にしてください!」
龍花は、赤髪の女リオの脚をはたき落とすと、真っ向から怒りをぶつける。
「どうして、あなたは、いつもいつもそうなんですか! すぐに喧嘩をふっかける! 同じ仲間を相手にやめてください!」
「真面目だなあ、龍花。お前、『七人の侍』見たことないのかよ」
「ありません。何ですか、それは」
「巨匠黒澤明の名作映画だよ。仲間を集める際に、腕は確かかどうか確かめるために......」
「あ、別に解説は結構です。興味ないんで」
「なんだよ、せっかく教えてやろうと思ったのに」
龍花の塩対応に対して、特に気にした様子もなく、リオはアハハと快活に笑っている。
シュウとヘイユンは呆気に取られている。もしかして、このリオという女性はカバネバミの一員なのか? と思っていたら、その嫌な予感は的中した。
「お二人に紹介します。この血の気の荒い、脳味噌が単細胞で出来ている馬鹿女が、カバネバミの隊員の一人、虹崎リオです」
「どーも、よろしく」
さっきまで、問答無用で襲いかかってきていたというのに、リオはあっけらかんとしている。少しも悪びれた様子はない。
「あのねえ! それが、初対面の人に対して取る態度なの⁉」
「大丈夫、大丈夫。このテストは、隊長公認だから」
「なおさらダメでしょ!」
「ま、一応合格かな。ランク外君は逃げ腰だったけど、とりあえず最初の一発はかわせていたしな」
それから、リオは手招きした。ついてきな、ということらしい。
シュウはただただ面食らっているだけだが、ヘイユンは相当怒っているようでフウフウと鼻息荒くしている。そんな中で、龍花は呆れた感じでため息をついた。
カバネバミの居室は、かつては何かの企業の広い会議室だったのだろう、一面ガラス張りの眺望の良い空間であり、雲一つない青空が窓の向こうに広がっている。
そのスペースには、家具は応接テーブルとソファくらいで、後はミニマリストの部屋のようにほとんど何もない。部屋の隅に、荷物やら、武器やらが散乱しているくらいだ。
こちらに背を向けて、一人の少女がソファに座って、スマホでゲームしている。
さらに窓際には、やはり背を向けて、長身で引き締まった肉体を持つ、コンバットスーツ姿の男が立っている。長い黒髪を頭の後ろで束ねており、頭頂部は若干ボサボサ、どこかくたびれたような、やさぐれたような、退廃的な雰囲気を漂わせている。
男は、シュウ達の足音を聞いて、こちらを振り返った。
眠そうな目が印象的だ。やる気を欠片も感じさせない表情で、煙草をスパスパと吸っている。顎には無精髭。どことなく脱力気味だ。
「おー、いらっしゃい」
平坦な声音で、ちっとも歓迎している風ではない。
温厚な面のあるシュウでも、さすがに回れ右して帰ろうかな、と思うほどの、あんまりな扱いである。
「こんにちは~♪ よーこそ、カバネバミへ♪」
ソファに座っていた少女が、ゲームを一時停止すると、クルッと向きを変えて「やっほ♪」と人懐っこく手を振ってきた。金髪ロングの、旧時代におけるJKギャル風の少女。年齢的にはシュウと近いようだ。
「俺が隊長の蜷川竜之介。このギャルもどきが蛇村エレナだ」
自己紹介も雑。ますます、ここへ来て良かったのかと、後悔したくなってくる。シュウが何を話せばいいのか、戸惑っていると、代わりにヘイユンが前へ進み出て、さっそく文句を言い始めた。
「随分な出迎え方ね。もう少し、ふさわしい雰囲気作りってものがあるんじゃないの?」
「やーん、こわーい」
間髪入れず、エレナがぶりっ子風に、怖がったフリをしてくる。
「は......?」
「おねーさん、そんなに眉間に皺寄せてると、シワ、取れなくなっちゃいますよぉ?」
「はぁ⁉」
早くも一触即発のムードである。とても、新しい仲間を受け入れるとか、そういう状況ではない。
これがカバネバミ。東京本部の中でも、特に忌み嫌われている連中。
こんなクセの強い三人と一緒に上手くやっていけるのか、とシュウが不安を抱いている、その真横で、龍花がハアアと盛大にため息をついた。
きっと気苦労が絶えないんだろうな......と同情しつつも、初手いきなり脇のニオイを龍花に嗅がれたことを思い出し、その同情は一旦キャンセルすることにした。どこもかしこも変人揃いだ。