第55話 勇者の帰還
「あああああああ! 落ちるうううううう!」
クラウスの魔術による隕石を破壊してドヤ顔で勝ち誇ったところまではよかったものの、帰り方までは考えていなかった俺だった。
「助けてええええ!」
手足をバタつかせながら無数の隕石の破片と共に落下する俺。
藁にもすがる思いで俺は勇者の鎧の人工精霊に話しかける。
「この高さから落ちたらどうなる!? 鎧の力で助かるか!?」
(装着者は死亡します。鎧の損壊を最小限に留めるため魔力の優先経路を変更します)
「人でなしいいいい!」
「まったくあんた、考えなしで乗り込んだのかい?」
呆れた様子のEX狩刃の声がした。
(みんな......)
突然脳裏に「健康剣豪大冒険団」の仲間たちの姿が次々と浮かんで、そして消える。
色々な事件の共犯でありトラブルメーカーの守銭奴フィーナ。
シスターなのに白兵戦に長けた天然ボインのモニカ。
謎の命令魔法を行使する生意気天才少女エミリー。
そして共にグルースレーを守った元「月下の光刃」メンバーたち。
見た目に反して意外と面倒見のいい大男ガストン。
剣に魔法に底知れない実力を持つ女傑ヨハンナ。
クソ猫のポコ。
第二の人生が終わろうとしている。病気だらけの一回目ではなかった出会い。そして胸躍る冒険の数々の記憶が蘇る。
待て待て待て待て。これ走馬灯? やめてよね。でも落下も止まっているかのようにゆっくりに感じる。
マジで死ぬのか。やっと「パンドラ」に一泡吹かせたばっかだってのに。
嫌だ。死にたくない。一回目の人生でやり残したことだってまだできてないんだ!
だってまだ女の子とだって......! 何も......!
「死にたくなーい!」
「そうですか~。よかったですね~命拾いできて」
え? 目を開けると空に転移する前の西門の外で俺は大の字になって寝ていた。
空からは無数の隕石の破片が落下してきていて、それを色とりどりの光線や火球が夜空を彩りながら破壊している。きっと城壁に配置された魔術士たちだ。
あれ? だってさっきまですごい勢いで落ちて......あ、走馬灯を見てたらへんって止まったように感じてたわけじゃなくて本当に止まってたの? なんで?
慌てて身を起こすと傷だらけのヨハンナ、ガストン、ポコがクラウスと対峙していた。
「参ったなあ。これじゃあエルピスに言い訳がつかない。城内に送り込んだ闘士の鎧とイザベルのキメラ部隊もほとんど失ってしまった」
そう言うクラウスの背後にワープホールが出現する。逃げる気か!?
「ふうん。本当に君らしくないな 『星落とし』クラウス。こんな小勢にしてやられてしまうなんてね。でも俄然興味が湧いたよ。鎧の転移者クン?」
違う。ワープホールを開いたのは銀髪のスーツ姿の男、エルピスだ。暗い穴から歩み出てきたエルピスは、クラウスの自動迎撃の攻撃範囲に入ると大きく腕を払う。
彼は自身に放たれた魔力の刃を全て掴み取っていた。
エルピスは無造作に半透明の刃を握り潰すとクラウスに術式を止めるように手で制する。
「いやあ、残念無念。城内のリュカもアランもやられたみたいだよ。まさか君までを失うわけにはいかないからね」
クラウスはエルピスに会釈するとワープホールの中に入り転移していった。エルピスもその後を追おうとする。
「待てよ! 結局お前たちは何なんだ!? 何が目的だ!? 何がしたい!?」
「やめなさい。私たちでどうにかなる相手じゃないわ」
ヨハンナの制止を振り切ると俺は前に出る。やはり初めて遭遇したときのように一定のところで動けなくなる。
「そんなに聞きたいかい? そうだなあ。今回は僕たちの完敗だしね。君の活躍に免じて少し話そうか......君、名前は?」
「ケントだ」
「ケントくん......ケントくんね。それじゃあ僕たちの目的のヒントを教えてあげよう。複数のスキルを持った人間やキメラはケントくんも見たことがあるだろ? じゃあ強力なスキルを極限まで詰め込んだ生命がいたとする。それは神かな? 悪魔かな?」
ガストンもヨハンナもこの会話に耳を傾けている。「パンドラ」の真の目的をそのリーダーが語っているのだから。
「......お前たちは神を作るつもりか?」
「さあ? 神かどうかは僕らにもわからない。だからやる価値があるんだよ」
傍迷惑な話だ。そんなものに俺たちを、この世界を巻き込むな。
「また余計なことを言ったかな? 僕の悪い癖だね。それじゃあケントくん、君の活躍を祈っているよ」
「俺が活躍するってことはお前らがボロ負けするってことだ! 今日みたいにな!」
それを聞いたエルピスはにこやかに手を振るとワープホールに飲み込まれ消え去った。
「ケントさん、あなたは本当に無茶をしますね~。あの男に私たち全員殺されていてもおかしくなかったんですよ~?」
「お小言はそれくらいにしてやれ、ヨハンナ。俺たちは生き延びたんだ。ああ、久々だぜ......ここまでの死線は」
「この方は一々言ってあげないとわからないんです~」
ヨハンナとガストンが言い合っていると木の棒を担いだポコが近寄ってきた。
「にんげん。お前やるな。ぶってごめんな」
「え。ああ、うん。あんまり気にしないで......」
また脳天を割られるんじゃないかと身構えていると意外にもその口から飛び出たのは謝罪の言葉だった。驚きで気の利いた言葉が出ない。
俺もさっき走馬灯でクソ猫って言ってごめんね。
俺が生き延びた理由は至極単純な話だった。ヨハンナが目視で隕石の方向にワープホールを出現させる際、こちら側に帰還用のワープホールの座標設定をしていたらしい。そして隕石破壊を確認して俺を呼び戻したと。
ああ。早くみんなのところに帰りたい。とても、とても長い一日だったなあ。
「うっそだあ~ケントにそんなことできるわけないじゃないですか~!」
「そうよ! ケントの取り柄なんて健康だけなんだから、どこでサボってたのか白状しなさい!」
「わ、私は信じます! どうやったかまではわかりませんけど......」
ひ、ひで~。せっかく無事に城内へ帰って来たのに「健康剣豪大冒険団」の半数は俺の武勇伝を信用していない。
それにしても小生意気なフィーナとエミリーに比べてモニカは本当に偉いなあ。
「皆疲れているところすまないが、敵を知る上で必要なことだ。それぞれが得た情報をまとめるとしよう」
治療を受けた後、領主フレデリックによって極秘裏に集められたのは旧「月下の光刃」メンバーと「健康剣豪大冒険団」メンバー。あとユーステス。
今回は執政官たちは呼ばれていない。裏切り者がいたから妥当だろう。
「こいつらに聞くことも沢山あるしな」
俺は部屋の隅の椅子に縛られたアランと、張られた結界により鎧から意識を本体に戻せなくなったリュカに視線を向けた。
リュカはユーステスや「健康剣豪大冒険団」が鎧の軍勢と死闘を演じた末に確保したらしい。
そして破れかぶれになったアランの口からグルースレー侵攻の真実が明かされるのだった。