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たった一ヶ月の主人公

 窓際一番後ろの席。

 これは誰もが憧れる、いわば『主人公席』だ。

 春は窓辺から桜を眺め、夏は青空を見上げ、秋はまた紅葉を見下ろし、冬には雪降る世界を見渡す。


 たった一度。

 これは、運に恵まれてこなかった俺の、たった一か月の青い春。




 春が好きだ。
 桜はピンクで青空と合うし、流れる風は暖かく気持ちいい。

 夏が好きだ。
 補修中に外で元気に走り回る子供たちの姿が見れる。

 秋が好きだ。
 赤と黄、2つの色が遠くの山を染めあげてくれる。

 冬が好きだ。
 一面に広がる雪が世界の広さと深さを教えてくれる。


 けれど、天は俺に味方しないらしく、一番後ろは愚か、窓際なんてとれたことがなかった。

 それが起きたのは高2の五月だった。

「......やっと」

 黒板に張り出された席の番号と自分の手にある番号を交互に見て、俺は思わずそうこぼした。

 番号にして、6番目。
 一番後ろの窓際。

 あいにく周囲は話したことのない女子しかいないが。
 まあ悪くない。

 そう思いながら、鞄を背負って新しい席に移動する。

 花粉症真っただ中な生徒がクラスメイトに交代をねだっているのを横目に、俺は新たな自席に鞄を下ろした。

 意外と重たかったそれに息を吐きだしつつ、ふと窓を見やる。

 ふわりと、暖かな風がカーテンを揺らした。

 外では下方からピンクの花びらが舞い上がる。
 まるでそれは渦のように巻きあがり、中空で霧散した。

 ふわりと。
 突風にも関わらず、俺の頬を桜の花びらが横切る。

 ――綺麗だな。
 ただ、それだけ。

 視線は、花びらを追っていた。

「おー、風強いね~」

 柔らかな声だった。
 声の持ち主は自身の机の上に落ちた花びらを手に取り、小さく微笑んだ。

「ねえ、知ってる?」

 ふっと、息を吸う。

 次に息を吐きだしたのは、小さな笑みと同時だった。

「豆だろ。知ってる」

「ん~、そうじゃないけど、まあ知ってても言うんだけど」

 藍色の髪を持つ彼女は、首をひねる。
 瞬きする間に、元気な笑みを浮かべていた。

「正解はね、今貴方は初めて私を認識したってこと」

「そう、かもな?」

 返すように、俺も小首をかしげる。
 ぷくりと彼女の頬が膨らんだ。

「窓から2番目の席の時、貴方、私を無視してぼーっと窓の外見てたからね。それも合計5か月」

「そうだったのか。ごめん」

「ほんと反省してる? してないよね~? 今の今まで私を認識してなかったからねえ?」

 肩で揃った髪を左右に揺らしながら、彼女は腕を組んで瞼を閉じる。

「12か月中5か月連続のお隣だよっ。もう少し見てもらっていいんじゃないかなあ」

 彼女の言葉は、止まらない。
 時折チラリと覗く瞳は、俺を見据えていた。

 彼女は大きく息を吐きだし、腕をほどく。
 開いた目尻は、困ったように下がっていた。

「......まあ、いっか。貴方がそうなのは五か月かけて知りましたし~」

「ごめん?」

「謝罪はいいんだよ謝罪は。ただの愚痴だし」

「愚痴の対象に言ってるのに?」

「そうなのっ。ちょっと一回黙ろっか?」

 彼女の頬が再び膨らみ始めたのを見て、口を閉ざす。

 彼女は息を吐きだして口の空気を抜いた。

「まあ、言いたいことは言ったし、今度こそ」

 言いながら、彼女は花びらを自身の顔もとに寄せる。

 淡く微笑んで、口を開いた。

「これからよろしくね」

 そう、春の風とともに。
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たった一ヶ月の主人公作者:salt
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たった一ヶ月の主人公

 窓際一番後ろの席。

 これは誰もが憧れる、いわば『主人公席』だ。

 春は窓辺から桜を眺め、夏は青空を見上げ、秋はまた紅葉を見下ろし、冬には雪降る世界を見渡す。


 たった一度。

 これは、運に恵まれてこなかった俺の、たった一か月の青い春。




 春が好きだ。
 桜はピンクで青空と合うし、流れる風は暖かく気持ちいい。

 夏が好きだ。
 補修中に外で元気に走り回る子供たちの姿が見れる。

 秋が好きだ。
 赤と黄、2つの色が遠くの山を染めあげてくれる。

 冬が好きだ。
 一面に広がる雪が世界の広さと深さを教えてくれる。


 けれど、天は俺に味方しないらしく、一番後ろは愚か、窓際なんてとれたことがなかった。

 それが起きたのは高2の五月だった。

「......やっと」

 黒板に張り出された席の番号と自分の手にある番号を交互に見て、俺は思わずそうこぼした。

 番号にして、6番目。
 一番後ろの窓際。

 あいにく周囲は話したことのない女子しかいないが。
 まあ悪くない。

 そう思いながら、鞄を背負って新しい席に移動する。

 花粉症真っただ中な生徒がクラスメイトに交代をねだっているのを横目に、俺は新たな自席に鞄を下ろした。

 意外と重たかったそれに息を吐きだしつつ、ふと窓を見やる。

 ふわりと、暖かな風がカーテンを揺らした。

 外では下方からピンクの花びらが舞い上がる。
 まるでそれは渦のように巻きあがり、中空で霧散した。

 ふわりと。
 突風にも関わらず、俺の頬を桜の花びらが横切る。

 ――綺麗だな。
 ただ、それだけ。

 視線は、花びらを追っていた。

「おー、風強いね~」

 柔らかな声だった。
 声の持ち主は自身の机の上に落ちた花びらを手に取り、小さく微笑んだ。

「ねえ、知ってる?」

 ふっと、息を吸う。

 次に息を吐きだしたのは、小さな笑みと同時だった。

「豆だろ。知ってる」

「ん~、そうじゃないけど、まあ知ってても言うんだけど」

 藍色の髪を持つ彼女は、首をひねる。
 瞬きする間に、元気な笑みを浮かべていた。

「正解はね、今貴方は初めて私を認識したってこと」

「そう、かもな?」

 返すように、俺も小首をかしげる。
 ぷくりと彼女の頬が膨らんだ。

「窓から2番目の席の時、貴方、私を無視してぼーっと窓の外見てたからね。それも合計5か月」

「そうだったのか。ごめん」

「ほんと反省してる? してないよね~? 今の今まで私を認識してなかったからねえ?」

 肩で揃った髪を左右に揺らしながら、彼女は腕を組んで瞼を閉じる。

「12か月中5か月連続のお隣だよっ。もう少し見てもらっていいんじゃないかなあ」

 彼女の言葉は、止まらない。
 時折チラリと覗く瞳は、俺を見据えていた。

 彼女は大きく息を吐きだし、腕をほどく。
 開いた目尻は、困ったように下がっていた。

「......まあ、いっか。貴方がそうなのは五か月かけて知りましたし~」

「ごめん?」

「謝罪はいいんだよ謝罪は。ただの愚痴だし」

「愚痴の対象に言ってるのに?」

「そうなのっ。ちょっと一回黙ろっか?」

 彼女の頬が再び膨らみ始めたのを見て、口を閉ざす。

 彼女は息を吐きだして口の空気を抜いた。

「まあ、言いたいことは言ったし、今度こそ」

 言いながら、彼女は花びらを自身の顔もとに寄せる。

 淡く微笑んで、口を開いた。

「これからよろしくね」

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