森のことり
とても大きな国の大きなお城にひとりの王子様がいました。
王子様はしあわせが大好きで、しあわせそうに笑っている人たちをお部屋の窓から見るのが好きでした。
かれらがしあわせそうにしてると王子様もしあわせな気持ちになり、うれしそうに笑っていると王子様もうきうきしてくるのです。
また、王子様は風も大好きでした。
広い空を自由に走り回っている風は、お城からなかなか出られない王子様のもとへ国中の音をとどけてくれるからです。
焼きたてパンのこうばしいかおりや家畜たちの生き生きとした鳴き声。春のぽかぽかした日ざしを思わせるきらめくような村人たちの笑い声はいつもいつも王子様をよろこばせ、たとえどんなに暗い気持ちにふさがれ胸がしぼんでしまったときでも、息をふきこまれたばかりの風船のように、きらきらきらきらした輝きでいつもぱんぱんにふくらませてくれるのでした。
「おはよう、みんな。
今日もしあわせだといいね」
王子様はお部屋の窓を開けるとき、大きな声でそう語りかけます。
国中の人々、国中の動物、国中の植物、国中の大地にむかって。
そして国中が、王子様にこたえます。
「ありがとうございます、やさしい王子様。
王子様にこそ、今日が一番のしあわせの日でありますように」
王国の中でたったひとり、王子様のお父さんの王様は、1日のほとんどを窓のそばですごす息子のことを心配していましたが、どんな場合でも、子どものことを少しも心配しない親はいませんし、それに、王子様が国中の者から愛されているのは、王様にとってほこらしいことだったので、何も言いませんでした。
◆◆◆
そんなある日のことです。
いつものように窓を大きく開けて耳をかたむけていた王子様は、ふと風のとどけるさまざまな音の中から小さな小さな音色を聞きとりました。
かじ屋の打つ力強い音や子どもたちのあげる笑い声に消されて今にもとぎれてしまいそうなかぼそいその小さな音色に、王子様はいつか王様のおともをしたとき見つけた森の湖を思い出しました。
夏のはじめの光をいっぱい浴びてきらきらまぶしく輝いていた湖面。そのはじめて見たきよらかさに、いつまでもここにとどまっていたいと思ったものです。
「この音色は? 一体だれが出しているの?」
王子様は空の風たちにたずねました。
「東の森に住むことりです、王子様」
風たちの中で一番若く、一番王子様のことが大好きな風が答えます。
「あのことりは東の森で一番の歌い手。
春の末姫さまの旅立ちを祝い、もうじきこられる夏の長姫さまにむけて、どうぞ早くおいでくださいませと歌っているのです」
「そうなんだ。
とてもきれいな声をしているね。
それに、こんなきれいな歌をきくのははじめてだ」
「ええ王子様。
わたしは生まれて間もない風ですが、 あれ以上の歌い手を知りません」
風ははずむ声でそう言うと、兄たちを追って西へ流れてゆきました。
「東の森に住むことり、か......」
王子様は窓から身をのり出し、とぎれとぎれに聞こえてくるあまやかな音色に耳をすませました。
こんな美しい声をしているんだもの、きっときれいな姿をしているんだろう。ひょっとして、七色かもしれない。雨あがりの丘の上にときどき現れる、とてもこの世のものとは思えない、とっても美しい虹の色。
それとも、あめ色だろうか。しあわせな夢ばかりでできたようなあまい、あまい、とろける色。
やがて陽が暮れて、黄金を思わせるその調べが消えてしまったあとも王子様は窓をあけたままで、東の森に住むことりのことばかり考え続けていました。
◆◆◆
その日から王子様は、部屋係に、夜に窓を閉めることを禁じました。
教師を部屋へ呼んで習い事をし、朝昼晩の食事も部屋へ運ばせて、片時も窓から離れようとしません。だって、自分がどこかにいる間にあの音色がとどいたらと思うと、何も手につかなくなるのです。
窓も、閉めたあとになってとどくのではないかしらと思ったら、閉じることができませんでした。
「王様、大変です」
王子様のお付きの者たちは、王子様が窓から離れないと、大急ぎ王様に報告します。
王子様が窓のそばで一日の大半をすごすのはもうずっと前からのことでしたが、それでもおともを連れて町の見回りや、友だちと馬にのっての遠乗りや、剣のけいこなどもしていました。
窓から声を聞くのと同じくらい、晴れた空の下であたたかな光を浴びて、体を動かすことが好きだったのです。
なのに部屋から一歩も出ようとせず、窓のそばで溜め息をついてるなんて。
王子様はきっと、何か大変なご病気にかかってしまったのだと、みんな口々にうったえました。
「息子よ、そんな悲しげな顔をして、一体どうしたというのだね? みんながおまえのことを心配して、胸をいためているよ」
王様からの言葉に、王子様は苦しそうにうつむきました。
「父上、わたしは病気なのでしょうか。
いつもことりのことを考えています。
先生に勉強を教わっていても、いつの間にかわたしの心は窓にむき、ことりの歌がしてきはしないかと耳をじっとそばだてているのです。
食事をしていても、寝台に入っていても、ことりのことしか考えられません。
ことりの歌が聞こえてくるとしあわせな気持ちになるのですが、聞こえてこない日は悲しくて悲しくて、胸が痛くなるのです。
みんなの言うとおり、わたしは病気かもしれません。これまでわたしの中にいっぱいあった、いろんなことが全部消えてしまって、ことりのことだけになってしまったのですから」
そう話す間も、ことりのことを思ってか、ぽろぽろ、ぽろぽろ王子様は涙をこぼします。
ぽろぽろ、ぽろぽろ。いつまでたっても涙はとまりません。
こんなに悲しそうな王子様の姿を見るのははじめてで、王様はひどく驚いてしまいました。
そして王子様の姿に心を痛めた王様は、王子様のために、さまざまなことりをお城の大広間に用意させたのです。
鈴のような声でさえずることり、はずむマリのようにかろやかなことり、やすらかな眠りを誘うことり、見るだけで心をうきたたせることり。
国中のみんなが王子様を心配し、王子様のためにがんばったので、それはもう、大広間いっぱいに国中のことりが集められたようでした。
いろんな姿をしたいろんなことりたちは、大好きな王子様のために心をこめて、美しい声で歌います。
かわいそうな王子様の悲しみを少しでもおなぐさめできたならと、国じゅうのみんなが一生懸命でした。
けれども王子様の胸は、そんなことりたちに悲しくなるばかり。大きな広間のどこを見ても、あのことりの声はありません。どのことりも一生懸命自分のため、せいいっぱい歌ってくれているのだとわかっているだけに、王子様は申しわけない気持ちでますます胸が痛くなるのでした。
「わたしの病気を治し、わたしをしあわせにしてくれるのは、あのことりしかいないのだ」
王子様ははっきりとそう感じました。
あの日の風を呼びとめて、どうかことりと会わせてくれるよう、王子様は必死に頼みます。
風は少しためらうような間をあけたあと、いいでしょうと答えました。
「東の森はとても遠くにあります。旅のしたくをし、馬にのって、わたしのあとについてきてください」
王子様はことりと会えることに、とびはねてよろこびました。
朝がくるのも待てず馬小屋へおりて、まっしろい馬にまたがります。ずっと前、王様にいただいた馬で、お城の中で一番足が速く、一番美しい、立派な馬です。
出会って一目で気に入った馬だから、きっとことりも気に入ってくれると、そう思ったからでした。
風のうしろにつき、たったひとり王子様は遠い東の森を目指します。
お日さまが三度昇り、お月さまと四回顔をあわせた夜明けにようやく王子様はたどりつきました。
「案内してくれてありがとう」
きた道を戻って行く風に礼を言い、馬を森の入り口につないで、王子様は森の中に入って行きました。
朝の光を浴びた森は夜露にぬれて、どこもかしこもみずみずしく、王子様の心をうきたたせてくれます。もうじきことりと会えるのだと思うと、王子様の胸はあまりのしあわせに、きゅうっとしめつけられるようでした。
はたしてことりはいました。
下生えでできた小さな円の舞台で、まわりの木々の葉の隙間から降る光を小さな体いっぱいに浴びながらことりは舞うように回っています。
愛らしい薄桃色の口先から生まれ出るかろやかなことりの歌は残念ながら、何と言っているかわかりませんがこの森をたたえる歌であることは、なんとなくわかりました。
大好き。
青いお空も、緑の木々も。
透き通った空気も、葉の上のしずくも。
みんな、大好きよ。
ことりは体中でそう言ってたからです。
ことりは、虹色ではありませんでした。あめ色でもありません。でも、とてもすてきな青い色の目をしていました。
空の青とも湖の青とも違う、あかるくて深い、どこかで見たことがあるような、一度も見たことがないような、そんなふしぎな青色でした。
「ことり」
王子様は、ことりに見とれながら木々の間から同じ光の中へ出ました。
ことりは突然現れた王子様にたいへん驚き、歌と踊りをやめてしまったけれど、とんで逃げようとはしませんでした。
「はじめまして、お城の王子様」
ひとなつっこい笑顔と澄んだ声で、ことりは王子様にあいさつをします。
なぜならこの国に住むものでお城に住むやさしい王子様のことを知らない者などひとりもいませんし、ことりもまた、ほかのものたちと同じで王子様が大好きだったからです。
「ことり。
はじめてきみの歌を聞いたときからずっときみのことを考えていたよ。
どうしてもきみに会いたくて、その歌声が聞きたくて、会いにきたんだ」
その言葉を聞いて、ことりはうれしそうに笑いました。だから王子様もうれしくなって、もっともっときかせてほしいとおねがいしました。
なにしろ王子様はこれまで風が運ぶ、小さな小さなささやきのような歌しか聞けてなかったのですから。
ことりは「はい」と答え、歌いました。今度は王子様のために歌う、王子様をたたえる歌です。
それは、お城にいて耳にしてきたどの歌よりもかがやかしく、王子様が心に描いていたとおり、胸をしあわせなあたたかい光でいっぱいにしてくれるものでした。
そして王子様はことりの歌をいつも聞いていたいと、それまで以上に思うようになりました。でも東の森はお城からは遠すぎて、毎日訪ねるというわけにはいきません。
「ことり。
わたしと一緒にお城にきてくれないか。
わたしのそばで歌っておくれ」
ですが、ことりは申しわけなさそうに首を横に振ります。
「わたしはこの森のことりです。森で歌うのが好きなんです。だからお城へ行くことはできません」
てっきりことりもよろこんでくれるとばかり思っていた王子様は、この返答にびっくりしてしまいました。
王子様はすっかりあわてて、何度も何度もことりにおねがいしましたが、ことりはうつむき、申しわけなさそうに首を横に振るばかり。
「お城へ来てくれるだけでいいんだ。 きみが一緒に来てくれるなら、なんでもしてあげる」
ことりが応じてくれないのがつらくて、王子様は今にも泣き出しそうな顔をして言いました。
そんな王子様にことりは目をふせます。
ことりも、王子様のために歌うのがいやなわけではないのです。大好きな、やさしい王子様が自分のせいで悲しむのがつらくて、ことりはとうとううなずいてしまいました。
「10日の間でもよろしければ、一緒にお城へまいりましょう」
この言葉に王子様は大変よろこび、ありがとうと何度もお礼を言って、うれしそうにことりの頭をなでました。
王子様のよろこびが伝わってきて、ことりの胸もはずみます。
こうして王子様は夢にまで見た愛しいことりを手に入れて、お城へ連れ帰ったのでした。
◆◆◆
ことりは本当にすばらしい歌声の持ち主でした。
ことりの歌を耳にした者は、ひとり残らずことりを好きになりました。自分が用意したことりがだめだったことが少しばかり不満だった王様でも、ことりの歌をほんの少し耳にしただけで、この歌声は国一番だとほめたたえたのです。
そして、ことりにとても豪華な金の鳥かごを与え、毎夜ことりのために宴を開きました。
ことりは鳥かごの中で、朝から晩まで一日じゅう、楽しげにさえずります。
王子様をたたえる歌、王様をたたえる歌、そしてこの国をたたえる歌。
王子様はうれしくてうれしくてどこへ行くにも片時もそばから離さず、眠るときも枕元で歌わせました。
するとぐっすり眠れて、とても気持ちのいい夢を見ることができたのでした。
そうしてあっという間に10日がたって、約束の11日目の朝がきました。
「王子様、お約束の10日がすぎました。
わたしを森へ帰してくださいませ」
朝日の入る窓を見上げて、ことりは言います。王子様は顔をしかめました。毎日ことりの声を聞き、歌を聞いて、王子様は11日前よりもずっとずっと、ことりのことが大好きになっていたのです。
ことりもまた、王子様の願うとおりに歌ってくれて、その歌う姿がとてもうれしげに見えていたので、てっきりお城で暮らすことが気に入って、約束のことは忘れてしまっているとばかり思っていました。
でもことりは森へ帰れるよろこびに、お城にいたどのときよりもずっとうれしそうな顔をしています。
そんなことりを見ているだけで、王子様の心は今この瞬間にも張り裂けてしまいそうにずきんずきんと痛むのでした。
「愛しいわたしのことり。
きみがいなくなったら、きっとわたしは死んでしまうに違いない。
一生のおねがいだから、こうしてわたしのそばで歌っておくれ」
その言葉にことりはびっくりして、それでは約束が違うと言いました。でも王子様はそれきり背中をむけて、何も言ってはくれません。
ことりは「どうか森に帰してください」とお城の者たちにうったえましたが、王子様の気持ちを知るみんなは聞こえないふりをして、だれも鳥かごを開けてくれません。
ことりは悲しみ、森を思って泣きました。緑の木々。降りそそぐ光。自由な青い空。そこにいる仲間たちのことを思うたび、ぼろぼろと涙がこぼれてとまりません。
毎日毎日泣き続けることりの姿に王子様の胸もちくちく痛み、帰してあげたいと思うのですが、でもそうして泣く姿・声すらも王子様にはとても美しく見えて、ますますことりへの思いは強まり、やはりどこにも行かせたくないと思ってしまうのでした。
◆◆◆
ある朝。がたんという音を聞きつけて王子様がことりのもとへかけつけると、部屋の中に茶色のことりがいました。
見慣れない茶色のことりは森の仲間で、いつまでももどらないことりを捜してお城までやってきていたのです。
そうと知った王子様はあわてて茶色のことりを追い払い、お城ではたらく者たち全員に二度と茶色のことりを入れてはならないと命じて、部屋の小さな窓も閉めてしまいました。
茶色のことりがいなくなり、窓から外を見ることもできなくなって、ことりはさらに声をあげて泣きました。
「ああ、ことり、ことり。
おねがいだからそんなに泣かないで。どうか前みたいに歌っておくれ」
王子様は心からおねがいしましたが、ことりはただただ泣くだけです。
森へ帰りたいという言葉には、王子様も何も返すことができません。王子様は、ことりの気持ちを少しでもまぎらわせようと、贈り物をすることを思い立ちました。
銀の足輪に赤や緑や紫色をした宝石。それに、喉をよくするはちみつなど。でもことりはそれらを前にしても、悲しそうな顔をするばかりで、よろこびに歌おうとはしません。
日に日に弱っていくことりを見て、王子様は途方にくれてしまいました。
◆◆◆
ことりも、そんな王子様を見るのは悲しいことでした。王子様はいつもいつもやさしくて、ことりの歌を一番ほめてくれる方でした。そんな王子様が、ことりの涙を見て平気なわけはありません。
とめなくてはと思うのですが、森のことを思うたび、どうしてもぽろぽろと頬を伝うのをとめることはできませんでした。
では王子様は、本当はやさしくないのでしょうか?
ことりとの約束を守らず、その涙を見ても、本当は平気なのでしょうか?
いいえ、王子様はやさしい方です。ただちょっと、ほんの少し、忘れてしまっているだけなのです。だからあんなにもつらそうなのです。
このままでは王子様はまた、ことりのせいで病気になってしまいます。
森への思いとは比べられないけれど、ことりは王子様も大好きなのです。
だから王子様が苦しげにしているのを見るのはとてもつらいことでした。
ことりは、声の限りに歌いました。それは、王子様をたたえる歌でした。すっかり弱りきった体にはつらく、のどがちぎれそうに痛みましたが、かまわずことりは歌います。
窓を開け、国中の者に話しかけるやさしい王子様。
窓からとどく声に耳をかたむけるやさしい王子様。
しあわせの、よろこびのすばらしさを知り、
ひとのよろこびを自分のことのように感じられるやさしい王子様。
大好きです。
王子様がわたしたちを好きなのと同じくらい、
わたしたちも王子様が大好きです。
みんな、みんな、王子様が大好きです。
ひさしぶりに聞こえたことりの歌声に、だれもが手をとめて聞きほれました。
歌は途切れることなく長く、長く続いて、そして消えていったのでした......。
◆◆◆
王子様は泣きました。
ことり、ことりと呼びかけましたが、ことりはぴくりとも動きません。両の目は固く閉じられ、体はいつの間にか、白く、冷たくなっていました。
小さな体を抱きしめて、王子様は泣き続けます。
ことりを死なせてしまったのは自分だと、ことりを死なせるくらいなら自分の胸など何度破けようとかまわなかったことにようやく気付いたと、王子様は叫びましたが、ことりの目が開くことはありませんでした。
王子様はことりを絹の布でくるみ、ガラスでできた棺の中に入れて、東の森へむかいました。
あんなに帰りたがっていた森に、せめて埋めてあげようと思ったのです。
なつかしい東の森の、はじめて会った場所に、ことりのおはかを作りました。ガラスの棺の上から土を落とすと、涙があとからあとからこぼれてとまりませんでした。
おはかを抱きしめ、ここから離れないと泣きました。
王子様は本当に、ことりのことが大好きだったのです。
◆◆◆
「お城におもどりなさい、王子様」
そう言ったのは、いつかお城に現れた、茶色のことりでした。
「あなたが、わたしのことりを心から愛してくれていたのは知っていました。
今、あなたがあれの死を心から悲しんでくれているのも知っています。
あれはあなたが大好きでした。お城のやさしい王子様。
あなたが自分のことで泣くことを、あれはよろこびはしないでしょう」
そのとき、はじめて王子様は茶色のことりがただの森の仲間でなく、ことりとつがいであったことを知ったのでした。
「ああ、わたしに何ができるだろう。このかわいそうなことりのために、きみのために。
言っておくれ。
この罪が少しでもつぐなえるなら、それがどんなに苦しいことでもする。
わたしの命だってあげるから......!」
王子様はうったえましたが、茶色のことりは静かに首を横に振りました。
「あなたは自分の罪を知っています。あれを失ったことで苦しみ、悲しみ、傷ついている。そんなあなたにむかい、だれが何を言えるでしょう。
おもどりなさい、王子様。もどって、閉じてしまったあなたの窓をお開けなさい。
あなたがいつまでもここにいたら、国中の者が悲しみます。
あれの死を悲しむのは、わたしだけでいい」
王子様はうちひしがれた心のまま、泣く泣くおはかを離れ、茶色のことりにゆずりました。
そして茶色のことりの言うとおりにしたのです。
◆◆◆
お城へもどった王子様は、ひさしぶりに窓を開きました。
窓は真夏のたくましい風たちを部屋の中へ招き入れ、風たちはきそいあって国中の声を王子様にとどけてくれます。
どの声もみんな、長く閉ざされたままのお城の窓に、王子様を心配していました。
王子様は、ぽつんと涙をこぼしました。
おわり。