お父さんとドライブに出かける…
077
「それで......お前の妹は......元気にしてるのか......」
ラーメンを食べ終えた後......俺は父さんの店の片付けを手伝いながら、いろんな話をした......
「今は高校三年生になりました......もう少し稼ぎを増やさないといけません......」
「そうか......」
「でも、宮島大学の推薦枠を狙えるらしくて......学費のことは少し安心できそうです......」
「けど、その他の出費はまだあるんだろう......」
父さんは道具を洗う手を止めて、真剣な表情で俺のほうを振り向いた......
「はい......そう言えばそうですね......」
「なら、私が手伝おう......」
父さんは手を拭くと、棚の上に置いてあった金庫箱を取りに行って......俺に差し出した......
「父さん......いや、俺は......」
「なぜだ?......たった百万円だ......私なら稼げる......」
「......でも、俺たちは会ったばかりです」
「それがどうした......今まで私はお前のことを一度も気にかけたことがなかった......遅くなったが......今からでも、お前と妹を助けなければならないんだ......」
「............」
俺は父さんの顔をじっと見つめた......こんなに決断も行動も早い人だとは、想像すらしていなかった......
子供のことなら......どんなことでも何とかしてやる......それが親としてやるべきこと、あるべき姿......
さっき父さんはこう言っていた......可哀想がる必要も、許す必要もない......ただ父親としてやるべきことをやらせてほしい、と......
だから俺は、その百万円の入った箱を、素直に受け取ることにした......
これは、これから妹の面倒を見るための金だ......百万円なんて二年も持たずに使い切ってしまうだろうけど......これが、俺の父さんが初めて見せてくれた、父親としての助けであり、務めだった......
「足りなくなったらまた言いに来い。妹にも......美冬にもそう伝えてくれ......」
「......はい、父さん......」
夜九時頃、店の片付けが終わり、俺はタクシーを呼んでホテルに戻ろうとしたが......父さんが引き止めた......
「アキト......ホテルまで送ろうか?」
「父さん、車持ってるんですか?」
「あるさ......ついてこい......」
父さんは駐車場のほうへ歩いていった......俺は正直、父さんが車を持っていることに少し驚いた......つまり、ラーメン屋の商売はそれなりに成功しているということだ......
「この歳になっても運転できるなんて、信じられないですね......」
「おいおい......こう見えて私も、それなりに走り屋だったんだぞ......ほら、あれが私の車だ......」
最初は電気自動車か、年寄りらしいコンパクトなファミリーカーにでも乗っているのかと思っていた......でも忘れかけていた......そんな車に乗るような人なら、青山なわけがない......
「へえ......結構パワーのある車に乗ってるんですね......」
父さんが乗っているのは......漆黒のGTR R32、いかつい佇まいだった......外装はそれほど大きく手を加えられておらず......ホイールを替えて、スポイラーを外しただけのようだった......
「そうだろう......ほら乗れ、送ってやる......」
「あの、父さん......」
「ん?......」
俺はシートベルトをしっかり締めた......中はハンドルとシートだけがスポーツ仕様に替えられていた......
「せっかく会えたんだし......ドライブでもしませんか?」
父さんは軽く笑って......エンジンをかけた......
「いいだろう......親子のイベントってのはこうでなくちゃな......」
高速道路へと向かう......
「まさか、母さんが父さんと別れたのって、金を全部これに突っ込んだからじゃないでしょうね......」
「何を馬鹿なこと言ってるんだ......あの頃は任天堂のゲーム機すら買う余裕がなかったんだぞ......こんなもの買えるわけないだろう......」
父さんは苦笑いした......まあ......こういう際どい冗談が得意なのは、俺たち二人とも同じらしい......
「この車、どこかいじってるんですか?」
「大したことはしてないさ......足回りを少し柔らかめにセッティングして、ブーストを軽く上げて、ホイールとタイヤを替えただけだ......それでも十分パワーはあるがな......」
高速に乗ると......父さんはアクセルを強めに踏み込んだ、とはいえ法定速度を超えるほどではなかった......
「父さん、この車どのくらい乗ってるんですか......」
「大阪に来て二、三年目からだから......もう十何年か前になるな......」
「へえ......運転うまいですね......誰かと走ったりしてたんですか?」
父さんは首を振った......
「私はただ、環状線のあたりをぐるぐる走ってただけだ......あれ、何て呼ぶんだったか......ザ・ループだったか?」
「走り屋やってなかったなんて......信じるとでも?」
「よせよ......私を何歳だと思ってるんだ......年をとっても、たまには車を走らせたくなるもんなんだよ......」
俺は父さんが昔の話をするのを聞きながら、時々、こんな時間がずっと続けばいいのに、と密かに思っていた......
「父さん......」
「何だ?......」
「再婚はしなかったんですか?」
父さんは大声で笑った......
「まあな......何度か新しい相手を探そうとしたこともあったさ......でも、いつも気づかされるんだ......この世に、お前の母さんより良い女はいないってことにな......」
変な言い草に聞こえるかもしれないけど......あれほど愛し合っていた両親なら、内心ではお互いを思い出すこともあったんだろうな、と俺は密かに思った......
「俺も......何人か付き合った人はいます......本気で口説いたこともあれば、敵同士なのに恋に落ちたこともあるし、相手を騙して惚れさせたこともある......でも結局、俺を本当に愛してくれる人に出会ったのは、三十歳が近づいた頃でした......」
「まるでお前、マフィアか何かの危険な仕事でもしてたみたいな言い草だな......」
「いやいや......でも本当の話ですよ......」
「正直に言うとな......お前の母さんは......見た目は物静かに見えて......実はかなりお茶目な人だったんだ......」
「俺の彼女も、まさにそういう性格です......」
俺たち親子は顔を見合わせて......そのまま二人で笑い合った......親子はよく似るって言うけど......本当にその通りだと思った......
生き方も、恋愛のことも......まるでコピーして貼り付けたみたいに、そっくりだった......
やれやれ......