昔の友人に会いに行きます……
011
「よ......バルちゃん」
[あれ......誰かと思えば、お前か]
水曜日の朝、お客さんのところへ行く前に......学生時代の別の親友に電話をかけた。彼は少し変わったところがある......でも、性格が変わっているわけじゃない。
「お前はまた番号変えてるし......やっと繋がったと思ったら、西尾に頭下げて番号聞き出さないといけないんだから......」
[しょうがないだろ......俺の社会的立場上、同じ番号をずっと使うわけにはいかないんだよ]
そう......この友人、久志昴は、関東一帯に影響力を持つ久志組のトップだ。これほどの勢力を誇るのは、他の組がすべて消えてしまったからでもある。先ほど名前の出た西尾は、今は恋人のキヨミちゃんと二人で私立探偵をやっている後輩だ。なかなかかっこいいコンビだと思う。
「更屋敷のお嬢さんもそうだよ......まあいい......ところで車いっぱい持ってるだろ?......一台貸してくれないか......子どもたちをコミケに連れていこうと思って......」
[まあ、いいけど......お前、免許持ってるよな?......もし警察に止められて車の出所を調べられたら、生かしておけないからな......]
静かに人を脅すこの喋り方......まったく変わってないな。
「とっくに取ってるよ......心配しなくていい......それで、貸してくれるよな?......」
[ファミリーカーならあるけど......夕方に取りに来ればいいよ......]
「ああ......あと、忘れてた......十七日に、星野の結婚のお祝いを兼ねた集まりを家でやろうと思ってるんだ。できれば来てくれないか......」
[そうか......もう結婚式も近いな......旧友にもずいぶん会ってないし......あ、この!......リタ!......パパ、電話してるんだぞ!]
「え......」
[あ!アキトおじさん!!......うちに来るの!?]
「おお!リタちゃん......久しぶりだな......声を聞く限り、ずいぶん大きくなったみたいだな......ママは元気にしてるか?」
[うん!ママ、最近ずっとよくなってるよ......最近はみんなでピクニックにも行ったんだよ!!]
「いいなあ......おじさんも行きたかったなあ......」
少し電話を奪い合うような音がして......
[ごめんな......最近、毎日おじさんに会いたいって言ってるんだよ......]
「ああ......わかるよ、子どもってそういうもんだから......じゃあ夕方に行くよ......いろいろお願いすることもあるし......」
[うん......夕方にな......こら!......リタ......]
[またねー!!!!]
「ああ......また夕方に......」
電話を切った......真夏の空が今にも顔を焦がしそうなくらい照りつけている。当然、今日は母校の夏服に着替えていた。半袖シャツに左胸の小さなポケット、少し薄手の黒いスラックス。
「みんな、それぞれ幸せに暮らしてるんだな......」
菅原に会う前の自分なら、ため息をついてこう思っただろう。幸せを手にできないのは俺だけだ、と。
でも今は菅原がいる......俺が一番大切に思っている人が。消えていた幸せが、またゆっくりと戻ってきているような気がする。
「これからも......この幸せを守っていかないとな......」
夕方。和風の大邸宅。久志家。
「おじさん!!!」
玄関を開けるなり、リタちゃんが全力で飛びついてきた。
「ちょっと!ずいぶん背が伸びたな......前は膝くらいまでしかなかったのに......」
「リタ!!そんなふうにおじさんに飛びかかっちゃダメよ......」
リタちゃんは父親の言葉を一切無視した。肩によじ登って、そのままちょこんと座ってしまった。
「やったー!!背が高くなった!」
「ちょっと待て!......」
「なんの騒ぎよ......あら......どうしたのアキトくん」
淡い青色の髪をした、体の弱そうな女性がリビングから出てきた。
「よ、スミちゃん......具合はよくなった?」
「うん......」
彼女はバルちゃんの奥さん、久志澄だ。体があまり丈夫ではない......高校時代にバルちゃんの子を妊娠して退学することになったから。まだ若かったせいか、リタちゃんを産んでから体調が優れず、それからずっと入院生活が続いていた。
でも、こうして歩いて話しかけてくれる姿を見ると、素直に嬉しかった。
「車を借りに来たついでに......姪っ子と遊んでいこうかと思って......」
「やったー!」
リタちゃんの部屋へ向かおうとしたとき、組の構成員が片づけをしているのが見えた。
「前田さん......」
筋骨隆々の知人の若者に声をかけた。
「子どもの世話って楽しいですか?」
彼は何も言わず、中指を立てた......俺は笑いながら、リタちゃんの部屋へ上がった。
―――
「ね、おじさん!......一緒に踊ろうよ!」
「踊り?......おじさんはちょっと体がついていかないかも......」
「じゃあ踊ろ!」
バルちゃんが心配するのもわかる......若いパパは大変だな。リタちゃんがYouTubeでVTuberの動画を開いた。よくフィードに上がってくるミュージックビデオで......かなり有名な曲だろう。
「これ......ゲンキちゃんじゃないか......」
「おじさん、知ってるの!?」
「これだけ有名なVTuberを知らない人はいないよ......」
「さあさあ......構えて!......曲が始まるよ!」
俺は動画のリズムに合わせてぴったり踊ってみせた。リタちゃんは目を丸くして......負けじと踊り始めた。
「サビが来た......ここでおじさんに勝つよ!!」
「できるもんならやってみな......」
「~キュート キュート キュート!~みんな一緒に腰を振って!~キュート キュート キュート!~揺れて揺れてシェイク!~キュート キュート キュート!~わたしはダンスのプリンセス~いち......に......エレガント ドライブ!!!!!」
曲が終わった。
「はあ......はあ......信じられない......おじさんがあんなに上手いなんて......」
「当然だろ......でもリタちゃんも上手いよ......あんな早いサビを歌いながら踊れるなんて......」
「そうかな......」
二人で並んで話していたが......なんていうか......体のあちこちが痛い......俺まだ二十五なんだけどな。
「歌手になりたいの?」
「うん......ミュージックビデオを見るたびに、歌や踊りにすごく感動するの......かっこよく踊ってる人もたくさんいるし......だからずっと練習してるんだ」
歌いながら踊るというのはコンサート向きで、ミュージックビデオを撮るには踊りの練習が欠かせないわけだが......
「ね、リタちゃんさ......これだけ頑張ってるんだから......おじさん的には、リタちゃんはすごいと思うよ」
「本当に!?」
「本当だよ......おじさんは、できてもいないのに褒めるタイプじゃないからな......知ってるだろ?」
「ありがとう!......もっと頑張るね......」
彼女は俺に笑いかけてくれた......踊り疲れていたのが嘘みたいに、さっぱり消えてしまったようだった。
遊び疲れた後、家の人たちと一緒に夕食を食べた。前の組長だったおじさんにも会えた。相変わらず優しかった。
それから車を取りに行ったのだが......
「これが、お前んちのファミリーカーか......」
「そうだよ」
邸宅の玄関前に停まっていたのは、メルセデス・ベンツGLS......しかもMAYBACH 600、このシリーズで最も高い仕様だった。
「お前がヤクザだってこと、すっかり忘れてたよ......」
生きてきた中で高級車は何台も見てきたが......一度も運転したことはない。
「まあいい......どこかにぶつけなければそれでいい」
「ドアを開けるのも怖いんだけど......」
せっかく貸してくれたんだから乗るしかない。SUVだからファミリーカーとしては正しいが、内装はどう見てもファミリーカーではなかった。
「勘弁してくれ......エアコンをつけるくらいは許してくれよ......」
エンジンをかけるだけで体が固まった。
「またねー!!おじさん!!」
「おう!!時間ができたら遊びに来るよ!!」
そうして走り出した......
「......ママ......」
「何?」
「ねえ、大きくなったら......アキトおじさんと結婚したいな......」
「はあ!?!?」
「ちょっと......パパをそうやっていじめないの......」
「だってパパをからかうの、楽しいんだもん......」
「ちょっと待て!!パパをそんなに驚かせるんじゃない!!!」