メイドカフェ!
008
「よ......ナオちゃん」
「お前!......どうやって入ったんだ!?」
校内に入ってすぐ声をかけたのは、中学時代の女友達、月ノ森ナオだった。切れ長の目が特徴的な女性で、今はこの学校の教師として働いている。廊下で書類を抱えて歩いているところに出くわしたので、俺が手伝ってやることにした。
「現校長があの雅臣だとは思わなかったよ......」
入校の際は、学生時代にこっそり失敬しておいた卒業生用の来客腕章を使った......まだ色が変わってなくてよかった。
ちなみに雅臣というのも中学時代の友人だ......ただ目つきが怪しくて少々スケベな性格で、規則破りが好きな、グループのトラブルメーカーと言っても過言ではなかった。
「それにしても......突然どうしたんだよ......せめて事前に連絡くらいしろよ」
言い終わるなり、思い切り尻を蹴られた。
「痛っ!相変わらず蹴りが重いな......ちょっとサプライズのつもりだっただけだよ......」
「サプライズ?」
「みんなを俺の家に集めようと思ってさ......星野の結婚のお祝いも兼ねて......」
「あ!そうだった......二十日ね......忘れるところだった......他のみんなにはもう伝えたのか?」
あの名前を聞くたびに、少し胸が痛む。
「まだだよ......ナオちゃんが最初だ......」
「うーん......いつにするの?......」
「みんなの休みに合わせた方がいいかな......平日に設定して誰も来なかったら寂しいし......」
「それもそうだな......もうみんな働いてるから、昔みたいに気軽に空いてるわけじゃないしな」
「......」
歩いている途中、女子生徒が何人かナオちゃんに挨拶してきた。俺を見た一人が、すぐに指を差した。
「あ!先生......この前話した怪しい人です......菅原さんを連れていった人......」
殺し屋のようなオーラがこちらに向けられた。
「お前、うちの生徒に手を出したのか?」
「何言ってんだよ!あの日は俺のお客さんを待ってただけだって!」
「お客さん?」
「仕事を変えたんだよ......今はネットで人生相談の仕事をしてる......菅原は俺のお客さんだ」
その生徒も理解してくれたようで、ナオちゃんが俺がここの卒業生で、校長と彼女の旧友だと説明してくれた。生徒は頭を下げて謝ってきた。
「すみませんでした!怪しい人だと思ってて......まさか先輩だとは思わなかったです......本当に申し訳ありません」
「いいよ......そうやって警戒できるのはいいことだよ......通報しようとしたくらいだしな......俺は気にしてないよ......でも他のみんなにも俺がそういう人間じゃないって伝えといてくれないか」
「はい!これから気をつけます!」
そう言って走り去った。ナオちゃんが廊下を走るな、と後ろ姿に叫んでいた。
「こういうことへの対応、昔から上手いな......」
「俺ってかっこいいだろ......ところでお前、シンちゃんと離婚して俺と付き合ってくれないか......シンちゃんより俺の方がずっとかっこいいぞ......」
「子供が二人いるんだよ......大好きなシン君と離婚して、お前みたいな男と付き合えって......百万年早いわ」
俺はいつも友人たちにこういうきつい冗談を言っていた......不思議なことに彼らは怒ることなく、毎回さらに上手く切り返してきた。
俺も彼らに怒ることはなかった。
「まあいい......俺はもう行くよ......邪魔したくないし」
「うん......飲み会の日にまたな......」
別れを告げた。
「深冬の教室を見に行くか......」
最初はそう思っていたが......顔を出したら妹が恥ずかしい思いをするだろう......やめておこう。
菅原にもう学校に来たとメッセージを送ると、今は体育の授業中でまだ話せないと返ってきた。体育は校舎前の運動場でやっているらしく、ちょうど俺が立っている建物のすぐ目の前だった。
俺はウォーミングアップをしている女子生徒たちと男子生徒二人の様子を眺めた。
かつての青春を懐かしみながら、その光景をしみじみと見つめた。
「文部科学省がジャージに変えろって言ってるのに......女子にあの体操服を着させたままにしてるのか......このスケベ野郎、雅臣め......」
まあ、おかげで菅原の体操服姿を拝めたわけだが......こいつには本当に感謝しないとな、友よ。
悠太、菅原、太めの男子生徒一人、女子生徒二人が楽しそうに話しながらウォーミングアップをしていた。
「......八年ぶりか......こういう光景を見ると、少し気持ちが和らぐな」
菅原が俺に気づいたらしく、元気よく手を振ってきた。俺も手を振り返した......ん?......何かグラウンドに向かって叫んでいる。
すると生徒全員と体育の先生まで俺に向かって手を振り始めた。
「こんにちはー!!!先輩ー!!!!」
俺は思わず満面の笑みを浮かべて、叫び返した。
「おう!......青春、思いっきり楽しめよ!!」
夕方、秋葉原へ向かった......菅原の仕事ぶりを見に行くために。
「えっと......江戸メモリン......この辺のはずだけど......あ、あった」
かわいいメイドさんが看板を持って入口に立って客を迎えていた。俺は中に入った。
「いらっしゃいませ、ご主人様!こちらへどうぞ!」
可愛いな......なんで金持ちのパトロンたちの気持ちが急にわかる気がするんだろう。
「あの......ここに新しく入ったばかりの子がいると思うんですが......知り合いなんですよ」
「え!?......彼女さんですか!!さあさあ、どうぞ!」
小柄なその子に、片腕で店の中へ引っ張り込まれた。
「こちらのお席にどうぞ......」
「はい......」
ここは和風テーマのメイドカフェで、内装は少し懐かしい雰囲気がありながらも、メイドカフェらしさもしっかり保たれていた。
スタッフは浴衣を合わせたメイド服を着ていて、不思議と合っていた。
「ご主人様、随分かたいですね......」
「そりゃあ......こんなに可愛い格好されたら緊張するよ」
菅原がメイド服姿でやってきた......メイド服だぞ!しかもご主人様と呼んでくれてるし!!生まれてきて良かったと思う瞬間があるとしたら、まさに今だ。
「そうですか......ご主人様、可愛いですね......」
「毎日そう呼んでくれたりしない?」
「ブッブー......できませんよ......スタッフはお客様と必要以上に親しくしてはいけないんですから......ご主人様......」
くっ......心が痛い......仕方なくあの伝説のオムライスを注文した。
「かしこまりました......さぁ、このかわいいサカジ(菅原のメイド名)が、ご主人様のオムライスに魔法をかけてあげますよ......ご主人様も一緒にやってみてください......」
え、俺も?
「あ......えっと......じゃあ......」
「「もえ......もえ......きゅん!!」」
恥ずかしさで死にそうだ。
「やりましたね......じゃあ口を開けてください......はい、あーん」
彼女がオムライスをすくって食べさせてくれた。俺は素直に口を開けた。
「上手にできましたね!!じゃあ二口目ですよ」
やばい......最高すぎる......はあ......菅原にこんなに甘えられたら、俺だってどうかなってしまう。
気づいたら夕方のつもりが閉店まで居座っていた......帰ろうとは何度も思ったんだが、彼女にこう言われてしまって。
「え......ご主人様、もうお帰りですか......そんな......サカジ、寂しくなっちゃいます......」
もうどうにも立てなくなってしまった......だって女の子にあんなふうに甘えられたら、断れる男がどこにいるんだよ。
「ありがとうございました、ご主人様」
「五万円飛んだ......俺は一体何をしてるんだ......」
ちなみにそのお金は自分の貯金からだが......菅原への出資と思えばいいか。