♗85
♗85
塔の中に入ると、松明をつけようとした手が止まった。
壁が明るいのだ。
というか、一定距離感で松明が壁に取り付けられ、その松明はどんな仕掛けかはわからないが、消える気配がない。
「はは、最初の迷路以来だな。この不思議な消えない松明も。」
ヒカミが壁の松明を覗きながら言う。ああそうか、既視感があったのはそういう事か。
「あら、じゃあ、ここがラストダンジョンなのは間違いないね。」
ハクスイがなんでそんなこと言うんだろうって思ったけど、そうだ、ハクスイには迷路であったことの記憶がないのだ。
「消えない松明とかいかにも、ダンジョンゲーム仕様のわりには階段の見た目は普通だな。」
ヒカミが言った。
目の前には、人一人登れるぐらいの大きさの螺旋階段があるだけで、階段だけを言うなら普通の階段だ。
ただ、上のフロアまでずっと続いている。上のフロアはここから見えない。そういった仕様が普通じゃない。どこまで登るんだ?この階段。
「何か条件をクリアしたら、きっとイベントが起こるんだろ。一生階段上らせるだけの仕様なら意味が無さ過ぎる。」
そんなことを言いながら、ヒカミは、周りを見渡しながら、階段を登り始める。
どうやら罠は無いみたいだ。
カタンカタンと階段を登る音が反響する。
あたしも階段を登り始めて、上を見上げると、五階分ぐらい、上にフロアが見えた......階段に入る前には見えなかったのに。それはあたしだけじゃなくて、ヒカミもハクスイも同じみたい。
「向こうの世界の私ってゲームとかやる人だったの?突然変わる地形が結構当たり前の知識として受け入れられるわ。」
「深夜におれと、レイド組んで回ったりしたよ。君は男の予定が無い日は時間を持て余すから、結構やっていたよ。」
「どうでも良い記憶は知識として頭にあるのに、愛した人すら覚えていないなんて、厄介な頭ね。」
一気に、上のフロアまで登ると、そこには何も無い、石床と松明がつけられた壁があるだけだった。吹き抜けでまだ階段は続いている。
「何も無いから、とりあえず登るしか無いみたいね。」
「まあバベルの塔モデルっていうぐらいだからな。天まで届く塔って話だし。」
「本当に天までこの螺旋階段で天まで登るならトチ狂ってる。」
『うえええ。あたしもう足痛いのに、筋肉痛確定じゃん。』
カタンカタンと階段を登り続ける。
軽く拷問だと思う。なんかもう、足上がらなくなってきた。
「ねえ、向こうの世界にいた私ってどのくらい有名に芸能活動していたの?」
ハクスイが淡々と言った。機嫌が悪いからとかじゃなくて、なんかこう、階段で疲れすぎて、体力を最低限しか使わない会話というか、声に色をつけないトーンというか。
「うーん。ローカルアイドルぐらいな感じだぜ。歩も出演していた、最強の学生みたいな番組に出たのがキッカケで、CMとかモデルとかちょこちょこオファーあったみたいで。ただ、あのお茶のCMで日本刀持って、竹切る役があったんだけど、あれだけ全国規模で流れたCMだったんだよ。あれ以来一部からカルト的な人気を持っていたことは否定しねえよ。」
「そう。そのコミュニティってまだあるのかな?」
「多分、あるんじゃねえの?現に、キアラさんは君のファンって言っていたわけだし。」
「じゃあ、私が元の世界に戻れたら、今ここで過ごした一年間と、ヒカミとサクと元の世界で持っていた記憶も戻ってくるってことよね。
そうしたら、私はとりあえず、亜美さんを探しに行くわ。」
そうかキアラは、ここで過ごした記憶を持たないで、戻ることになるのか。
「多分。彼女は、元の世界ではシバカワキナミさんと不健全な関係なままだと思うのよね。そこをけじめ付けさせるのと。もし招待状が届いて、またこの世界に巻き込まれる事があった、次は迷わず私を招待してって伝えたいの。
今度こそ。護りたい。」
「君のオタクが集まるコミュニティに行けば一発で見つかるんじゃねぇの?
っても、君のファンの集まりなのに、君が現れたら、現場は騒然とするだろうけどな。」
それは面白いから見てみたいとは思うけど。