ホーム競技セブンスカイズ〜負ければ廃棄、勝ち続けて優勝を目指す〜第二十二話 居場所
← 前の話目次次の話 →

第二十二話 居場所

 仲間との賑やかな食事の後、宿舎へ戻り、シャワーを終えての珈琲タイム。
 キャメルから貰ったシャンプーで洗った髪は、ラベンダーの仄かな香りが漂う。
 水分を拭き落としつつ手櫛で感触を確かめ、春に比べて伸びた銀髪を軽く摘まんだ。

「終わったら切りにいかないとな」

 そう呟き、火傷しそうな珈琲を啜ると、秘匿通信を示すルームホンのランプに色が灯るのが目に入った。

「誰だ?」
『やぁ、死神ナック。私と取引をしないか?』

 連絡先が割れている相手で、且つ、秘匿通信を使いそうな心当たりを探る。

「用件を聞こう」
『明日の試合。もし、私に負けたなら、楽園作りをもう一度私と目指さないか?』

 懐かしい語り草に目を細めた。

「......いつまでも夢見がちだな、アイビスは」
『鎌をどこかに落とした死神は視力が悪いのか?』

 現実が見えていないとの皮肉には、忸怩たる思いを抱く。

「かも知れん」
『今一度、返答を聞かせてくれ』

 これまでの道のりに血の数滴が落ちたところで、結果は変わらないとも思う。
 しかし、再び手を染める気にはならなかった。

「馬鹿げている。何度聞かれても同じだ」

 アイビスは、以前から強化兵士が害されることのない生存圏を作ろうともがいていた。いずれ政府が理解してくれるなど『お花畑の論理』と、こちらを痛烈に批判してきたこともある。それでもアイビスが出した結論には賛同できない。

『同胞を救いたくないのか?』
「救いたいさ。だが、そのために虐殺をするのは救いがないと思うが?」

 強化兵士製造に関わった政府関係者を皆殺しにするプランは、何度でも没だ。
 暫しの静寂が流れた後、通信の向こう側で物が散乱する音が聞こえだす。

『だからセブンスカイズに生かされ続けるというのか? あんなもの、巨大鳥かごに捉えられた見世物ショウだ! レギュレーションという鳥かごに嵌められて飛べなくなった死神が! 今更遅いんだよ!』

 通信越しのアイビスが豹変して荒ぶっていく。
 声を聞いていると居たたまれない気持ちになった。
 苦悩が──多くの を重ねて培われたことが、同じ強化兵士として手に取るように解ってしまうから。

「俺は......お前も救いたい」
『ハッ! そんなジョーク、笑えないね。ナックには殺すことでしか救済なんかできない。いいか? 明日の試合、勝って私の正しさを証明してやる!』

 本心が届かないほど遠くへいってしまったアイビス。
 やはり、モービルギアと空でしか語り合えないのか。

「いいだろう。受けて立つ......黒雷」

 異名を口にしたのを最後に、通信は切られた。
 消えた通話中ランプを眺めながら、温くなった珈琲を口に含む。
 いつも以上に苦さだけが口の中に残り、渋い顔をしたまま眉間に拳を当てる。

「もう少しマシな言い方はなかったか?」

 シャワー後でほんのり温かいはずの肌も、心の底も、凍てつくように寒い。
 アイビスの思考速度は常人のおよそ百倍。

 千年の の海がアイビスを溺れさせて、惑わせて、狂わせてしまったのか。
 孤独な航海を続けたアイビスに、寄り添うことは叶わないのだろうか。

「俺たちは......とっくに壊れていたからな」

 殺すときの知覚速度まで引き伸ばされ、心が壊れた兵器たちのことなど、政府には理解できないのだろう。
 速すぎるアイビスに誰も追いつけないのだ。

「眠れそうにないな」

 妄執アイビスの嘆きというカフェインを摂取した今は、ベッドで横になる気分でもない。
 諦めて作業服へと袖を通し、壁へ掛けかけてあったゴーグルを手にとった。
 道すがら思考を巡らせていく。

「結局、ソルティ理論に行きつくのか」

 分からず屋には、殴って分からせる。
 その理論と言う名の暴力に、何度頬を差しだすハメになったことか。

 けれど、一見何も考えていないそれこそが、旅の果てに辿りつく境地かも知れない。
 そう思い始めた頃、共同ガレージについた。

「こんな時間に明かりが?」

 青錆の匂いがするシャッターをくぐると、夜の帳を照らす星たちが明るい声で迎えてくれた。
 整備の手を止めてこちらへ手をふるチーザと、両手を腰に当てて胸を張るハーベスト。

「あ! 先輩もやっぱりきた!」
「フッフッフ。賭けは僕らの勝ちですね!」

 項垂れる丸眼鏡のクロワの背を、キャメルが軽く叩いて励ましている。

「真面目なナックさんが夜更かしをするなんて......」
「あたいも......自己管理に厳しい人だからてっきり......」

 賭けに参加していなかったと思われるソルティは、作業もせずコクピット内で踏ん反り返っている。
 決勝を前にして眠れなかった皆は、一人、また一人とガレージに集まっていた。

「ウェハーまで来たのか 
「そんなとこでコッソリ覗いていないでこっちに来てください!」

 遅れてきたウェハーを、チーザがグイグイとガレージ内へ引きこんでいる。

「全く、お前たちは......」

 色々と言いたいことはあるが、勝とうとする熱に水を差す真似はしたくない。
 皆から頼まれ各自の調整を確認し、決戦に向けて必要なアドバイスをしていく。
 それぞれが本格的に作業に入ったので、愛機ランツの元へと向かった。

 ひんやりとする銀色の脚部を二度叩き、いつもの挨拶をする。
 車輪付寝板クリーパーのキャスター部にグリスを差していたら、チーザやハーベストがすぐ近くにきてしゃがみこんだ。

「先輩。ここで見学しててもいいですか?」
「僕も見たいです」

 希望者が多い。
 こちらを気にして遠目にチラチラ見ているクロワも、許可の前なのに背面部を観察し始めたキャメルもいる。

「好きにしろ」

 そう言葉を残し、クリーパーをスライドさせて脚部の下へと潜りこむ。
 眼前には重い銀の鉄蹄が広がっていて、その足一つとっても巨大なことを再認識し、トルクレンチを手にとった。

 激戦続きだったので、細かい所は歪んでいる。
 傷だらけのランツの体を労わり、丁寧な調整をしていく。

 刻まれた傷は勲章。歪んだ形は戦い抜いた証。
 トーナメントで廃棄が回避できる出来ないに関わらず、ランツには長く飛んで欲しい。そうした願いをこめて、優しく調整を繰り返す。

 微調整を済ませ、軽く肘で汗を拭うとべったりと工業用油が頬や髪についた。
 混ざった匂いに顔を顰め、工具キットを回収しつつクリーパーをスライドさせて戻る。

「少しは瞬きでもしたらどうだ?」
「ランツ、先輩に愛されてますね!」

 クリーパーから体を起こし、チーザからタオルを受けとる。
 チーザが振り向いて手招きをすると、笑顔のキャメルとハーベストが歩み寄ってきた。

「あたいは、ナックさんがメンテしているだけで嬉しいし、あぁ、いつものガレージだなって思う」
「あ、それ僕もです。ナックさんが調整をしている間はソルティさんが大人しいから助かっていますね!」

 軽くディスられたソルティはスパナで装甲を叩き、抗議のドラムを奏でている。
 ハーベストは慌ててキャメルの背後に隠れていた。
 タオルを首にかけ、短く嘆息する。

「いつものも何も......共同施設だぞ?」

 トップリーグにあがれば、専用ガレージが与えられる。
 いつまでも共同ガレージに馴染んでいる場合ではない。
 穏やかな表情のチーザが、隣からこちらの肩へ頭を預けてきた。

「ここに先輩がいないとしっくりこないんです」

 キャメルたちも「わかる」と声を弾ませている。
 いつの間にか近くにきていたクロワが眼鏡を直し、愛機ランツが吊るされたハーネスを見上げた。

「私も思っています。この3Aハーネスがナックさんの特等席だと。......是非、来年もいてください」

 しんみりした空気を元気なハーベストが吹き飛ばす。

「ソルティさんがうるさいので、来年と言わずずっといてくださいね!」
「おいコラ、待てや! ハーベスト! 今、降りるからそこにいろ!」

 明日、嫌というほどチェイスを興じるのに、ソルティとハーベストは鬼ごっこを始めた。
 二人の馬鹿なやりとりにククッと喉奥を鳴らす。

 去年までは「たとえいなくなってでも」と考えていた。
 だが、ここに必要だと訴える仲間がいてくれて、一人じゃないと実感する。

「お前ら外に集合しろやぁ!」

 感傷に浸る暇もなく、忙しないソルティからの号令がかかり、外へ足を向けた。
 空が白み始め、フィールドから流れてくる風が秋を運んでくる。

 ふと、ソルティたちへ視線を向けると、わずかに顔を覗かせている太陽を背に、横一列に並んでいた。
 一瞬怪訝に思うと、ソルティが拳を天高く掲げ、皆もそれに倣い、影たちが朝日を包む。

「宣誓! 俺らチームエクリプスは、今日の勝利をナックに捧げると誓うぜ!」
「絶対勝ちましょうね! 先輩!」
「再び明日を見てください。私たちが支えますよ」
「あたいも守る」
「今、まさにライジングな僕にお任せください!」
「あいよ!」

 太陽を拳で隠す、チームお決まりのポーズだ。
 輝く姿には、眩しすぎてわずかに視界が滲む。

「あぁ、必ず共に帰ってこよう」

 そうして約束を交わし、試合の準備に向けて歩みを進める。
 欠伸を噛み殺して周囲を見渡せば、朝食の話題で弾む声が溢れている。
 微笑ましく感じていたら、ソルティがこちらに近寄り無理やり肩を組んできた。

「......もし負けたら俺も一緒に逃げてやる」

 逃亡、幇助も処分対象だ。

「ずっと狙われるぞ?」

 瞳だけで横を向くと、翡翠色の瞳には本気の色が浮かんでいた。

「あぁ、いいぜ。地獄まで引っ付いていってもいい」

 続く言葉は知っている。散々コンビだと言われてきたのだから。
 皆の背との距離が少しできるまで沈黙が続いた。

「相変わらずだな。知ってるか? 強い熱を加えると磁力は失われるぞ?」

 ソルティは威嚇でもする笑顔を向けてくる。

「あ? 俺とナックの磁力はそんな弱っちくねーよ! 太陽にくべても変わらないし、ブラックホールでも引き剥がせねーし!」

 オレンジ色に染まってゆく空を見上げながら言い切られてしまう。

「ビッグマウスが過ぎないか?」
「関係ねぇよ! 結果を伴わせるだけだ。今までだってそうしてきただろ?」
「......まぁな」

 感謝を伝えたいと思ったが、恥ずかしくて言葉にはできなかった。
シェア
← 前の話
第二十一話 ラストブリーフィング
次の話 →
第二十三話 決勝の舞台
競技セブンスカイズ〜負ければ廃棄、勝ち続けて優勝を目指す〜作者:元毛玉(もとけだま)
目次を見る
✍️
まだ感想がありません
あなたの一言が、作者の次の一話につながります。
最初の感想を書いてみませんか?
コメント0
ログインしてコメントする
まだコメントがありません
ホーム競技セブンスカイズ〜負ければ廃棄、勝ち続けて優勝を目指す〜第二十二話 居場所
← 前の話目次次の話 →

第二十二話 居場所

 仲間との賑やかな食事の後、宿舎へ戻り、シャワーを終えての珈琲タイム。
 キャメルから貰ったシャンプーで洗った髪は、ラベンダーの仄かな香りが漂う。
 水分を拭き落としつつ手櫛で感触を確かめ、春に比べて伸びた銀髪を軽く摘まんだ。

「終わったら切りにいかないとな」

 そう呟き、火傷しそうな珈琲を啜ると、秘匿通信を示すルームホンのランプに色が灯るのが目に入った。

「誰だ?」
『やぁ、死神ナック。私と取引をしないか?』

 連絡先が割れている相手で、且つ、秘匿通信を使いそうな心当たりを探る。

「用件を聞こう」
『明日の試合。もし、私に負けたなら、楽園作りをもう一度私と目指さないか?』

 懐かしい語り草に目を細めた。

「......いつまでも夢見がちだな、アイビスは」
『鎌をどこかに落とした死神は視力が悪いのか?』

 現実が見えていないとの皮肉には、忸怩たる思いを抱く。

「かも知れん」
『今一度、返答を聞かせてくれ』

 これまでの道のりに血の数滴が落ちたところで、結果は変わらないとも思う。
 しかし、再び手を染める気にはならなかった。

「馬鹿げている。何度聞かれても同じだ」

 アイビスは、以前から強化兵士が害されることのない生存圏を作ろうともがいていた。いずれ政府が理解してくれるなど『お花畑の論理』と、こちらを痛烈に批判してきたこともある。それでもアイビスが出した結論には賛同できない。

『同胞を救いたくないのか?』
「救いたいさ。だが、そのために虐殺をするのは救いがないと思うが?」

 強化兵士製造に関わった政府関係者を皆殺しにするプランは、何度でも没だ。
 暫しの静寂が流れた後、通信の向こう側で物が散乱する音が聞こえだす。

『だからセブンスカイズに生かされ続けるというのか? あんなもの、巨大鳥かごに捉えられた見世物ショウだ! レギュレーションという鳥かごに嵌められて飛べなくなった死神が! 今更遅いんだよ!』

 通信越しのアイビスが豹変して荒ぶっていく。
 声を聞いていると居たたまれない気持ちになった。
 苦悩が──多くの を重ねて培われたことが、同じ強化兵士として手に取るように解ってしまうから。

「俺は......お前も救いたい」
『ハッ! そんなジョーク、笑えないね。ナックには殺すことでしか救済なんかできない。いいか? 明日の試合、勝って私の正しさを証明してやる!』

 本心が届かないほど遠くへいってしまったアイビス。
 やはり、モービルギアと空でしか語り合えないのか。

「いいだろう。受けて立つ......黒雷」

 異名を口にしたのを最後に、通信は切られた。
 消えた通話中ランプを眺めながら、温くなった珈琲を口に含む。
 いつも以上に苦さだけが口の中に残り、渋い顔をしたまま眉間に拳を当てる。

「もう少しマシな言い方はなかったか?」

 シャワー後でほんのり温かいはずの肌も、心の底も、凍てつくように寒い。
 アイビスの思考速度は常人のおよそ百倍。

 千年の の海がアイビスを溺れさせて、惑わせて、狂わせてしまったのか。
 孤独な航海を続けたアイビスに、寄り添うことは叶わないのだろうか。

「俺たちは......とっくに壊れていたからな」

 殺すときの知覚速度まで引き伸ばされ、心が壊れた兵器たちのことなど、政府には理解できないのだろう。
 速すぎるアイビスに誰も追いつけないのだ。

「眠れそうにないな」

 妄執アイビスの嘆きというカフェインを摂取した今は、ベッドで横になる気分でもない。
 諦めて作業服へと袖を通し、壁へ掛けかけてあったゴーグルを手にとった。
 道すがら思考を巡らせていく。

「結局、ソルティ理論に行きつくのか」

 分からず屋には、殴って分からせる。
 その理論と言う名の暴力に、何度頬を差しだすハメになったことか。

 けれど、一見何も考えていないそれこそが、旅の果てに辿りつく境地かも知れない。
 そう思い始めた頃、共同ガレージについた。

「こんな時間に明かりが?」

 青錆の匂いがするシャッターをくぐると、夜の帳を照らす星たちが明るい声で迎えてくれた。
 整備の手を止めてこちらへ手をふるチーザと、両手を腰に当てて胸を張るハーベスト。

「あ! 先輩もやっぱりきた!」
「フッフッフ。賭けは僕らの勝ちですね!」

 項垂れる丸眼鏡のクロワの背を、キャメルが軽く叩いて励ましている。

「真面目なナックさんが夜更かしをするなんて......」
「あたいも......自己管理に厳しい人だからてっきり......」

 賭けに参加していなかったと思われるソルティは、作業もせずコクピット内で踏ん反り返っている。
 決勝を前にして眠れなかった皆は、一人、また一人とガレージに集まっていた。

「ウェハーまで来たのか 
「そんなとこでコッソリ覗いていないでこっちに来てください!」

 遅れてきたウェハーを、チーザがグイグイとガレージ内へ引きこんでいる。

「全く、お前たちは......」

 色々と言いたいことはあるが、勝とうとする熱に水を差す真似はしたくない。
 皆から頼まれ各自の調整を確認し、決戦に向けて必要なアドバイスをしていく。
 それぞれが本格的に作業に入ったので、愛機ランツの元へと向かった。

 ひんやりとする銀色の脚部を二度叩き、いつもの挨拶をする。
 車輪付寝板クリーパーのキャスター部にグリスを差していたら、チーザやハーベストがすぐ近くにきてしゃがみこんだ。

「先輩。ここで見学しててもいいですか?」
「僕も見たいです」

 希望者が多い。
 こちらを気にして遠目にチラチラ見ているクロワも、許可の前なのに背面部を観察し始めたキャメルもいる。

「好きにしろ」

 そう言葉を残し、クリーパーをスライドさせて脚部の下へと潜りこむ。
 眼前には重い銀の鉄蹄が広がっていて、その足一つとっても巨大なことを再認識し、トルクレンチを手にとった。

 激戦続きだったので、細かい所は歪んでいる。
 傷だらけのランツの体を労わり、丁寧な調整をしていく。

 刻まれた傷は勲章。歪んだ形は戦い抜いた証。
 トーナメントで廃棄が回避できる出来ないに関わらず、ランツには長く飛んで欲しい。そうした願いをこめて、優しく調整を繰り返す。

 微調整を済ませ、軽く肘で汗を拭うとべったりと工業用油が頬や髪についた。
 混ざった匂いに顔を顰め、工具キットを回収しつつクリーパーをスライドさせて戻る。

「少しは瞬きでもしたらどうだ?」
「ランツ、先輩に愛されてますね!」

 クリーパーから体を起こし、チーザからタオルを受けとる。
 チーザが振り向いて手招きをすると、笑顔のキャメルとハーベストが歩み寄ってきた。

「あたいは、ナックさんがメンテしているだけで嬉しいし、あぁ、いつものガレージだなって思う」
「あ、それ僕もです。ナックさんが調整をしている間はソルティさんが大人しいから助かっていますね!」

 軽くディスられたソルティはスパナで装甲を叩き、抗議のドラムを奏でている。
 ハーベストは慌ててキャメルの背後に隠れていた。
 タオルを首にかけ、短く嘆息する。

「いつものも何も......共同施設だぞ?」

 トップリーグにあがれば、専用ガレージが与えられる。
 いつまでも共同ガレージに馴染んでいる場合ではない。
 穏やかな表情のチーザが、隣からこちらの肩へ頭を預けてきた。

「ここに先輩がいないとしっくりこないんです」

 キャメルたちも「わかる」と声を弾ませている。
 いつの間にか近くにきていたクロワが眼鏡を直し、愛機ランツが吊るされたハーネスを見上げた。

「私も思っています。この3Aハーネスがナックさんの特等席だと。......是非、来年もいてください」

 しんみりした空気を元気なハーベストが吹き飛ばす。

「ソルティさんがうるさいので、来年と言わずずっといてくださいね!」
「おいコラ、待てや! ハーベスト! 今、降りるからそこにいろ!」

 明日、嫌というほどチェイスを興じるのに、ソルティとハーベストは鬼ごっこを始めた。
 二人の馬鹿なやりとりにククッと喉奥を鳴らす。

 去年までは「たとえいなくなってでも」と考えていた。
 だが、ここに必要だと訴える仲間がいてくれて、一人じゃないと実感する。

「お前ら外に集合しろやぁ!」

 感傷に浸る暇もなく、忙しないソルティからの号令がかかり、外へ足を向けた。
 空が白み始め、フィールドから流れてくる風が秋を運んでくる。

 ふと、ソルティたちへ視線を向けると、わずかに顔を覗かせている太陽を背に、横一列に並んでいた。
 一瞬怪訝に思うと、ソルティが拳を天高く掲げ、皆もそれに倣い、影たちが朝日を包む。

「宣誓! 俺らチームエクリプスは、今日の勝利をナックに捧げると誓うぜ!」
「絶対勝ちましょうね! 先輩!」
「再び明日を見てください。私たちが支えますよ」
「あたいも守る」
「今、まさにライジングな僕にお任せください!」
「あいよ!」

 太陽を拳で隠す、チームお決まりのポーズだ。
 輝く姿には、眩しすぎてわずかに視界が滲む。

「あぁ、必ず共に帰ってこよう」

 そうして約束を交わし、試合の準備に向けて歩みを進める。
 欠伸を噛み殺して周囲を見渡せば、朝食の話題で弾む声が溢れている。
 微笑ましく感じていたら、ソルティがこちらに近寄り無理やり肩を組んできた。

「......もし負けたら俺も一緒に逃げてやる」

 逃亡、幇助も処分対象だ。

「ずっと狙われるぞ?」

 瞳だけで横を向くと、翡翠色の瞳には本気の色が浮かんでいた。

「あぁ、いいぜ。地獄まで引っ付いていってもいい」

 続く言葉は知っている。散々コンビだと言われてきたのだから。
 皆の背との距離が少しできるまで沈黙が続いた。

「相変わらずだな。知ってるか? 強い熱を加えると磁力は失われるぞ?」

 ソルティは威嚇でもする笑顔を向けてくる。

「あ? 俺とナックの磁力はそんな弱っちくねーよ! 太陽にくべても変わらないし、ブラックホールでも引き剥がせねーし!」

 オレンジ色に染まってゆく空を見上げながら言い切られてしまう。

「ビッグマウスが過ぎないか?」
「関係ねぇよ! 結果を伴わせるだけだ。今までだってそうしてきただろ?」
「......まぁな」

 感謝を伝えたいと思ったが、恥ずかしくて言葉にはできなかった。
シェア
← 前の話
第二十一話 ラストブリーフィング
次の話 →
第二十三話 決勝の舞台
競技セブンスカイズ〜負ければ廃棄、勝ち続けて優勝を目指す〜作者:元毛玉(もとけだま)
目次
✍️
まだ感想がありません
あなたの一言が、作者の次の一話につながります。
最初の感想を書いてみませんか?
コメント0
ログインしてコメントする
まだコメントがありません