ホームヒュプノスの魔法使いは繭に眠る〜青藍/第一部プロローグ:もうやめる
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プロローグ:もうやめる

「笑ったほうがいいよ」

 と、よく言われていた。
 いつも目がなくなるほど、くしゃくしゃに笑う子だった。だから深緋こきあも、少しだけ笑うことを覚えた。やっと上手に、微笑むことができるようになってきたばかりだった。もうその子は、そこにいない。

 三人部屋の入口の名札は、奥の二人分がどちらも外されている。先月、管理部が外していった。
 ベッドも、机も、オープンクローゼットもがらんどう。大人の許しがなければ出られない部屋に残った自分は、ただの瓶詰めみたいだ。

  *

 ドアがノックされる。コンコン。
 コンコン。
 このノックは管理部の織部おりべだ。何かと大人から声をかけられるのが、本当は苦手だ。全部、知ってるくせに、全部見てきているくせに、と思うから。
 
「深緋を紹介するわね」

 濃い青の髪の、几帳面そうな子。
 もっと小さくて金色の綿毛が歩いてるような、鳶色の目の子。

「深緋、この子が青藍せいらん、この子はひわどちらも南一班になります」
「......はい」

 嫌そうに聞こえないように、返事をする。
 二人増えて、三人の班ができた。

「よろしくね」

 所在なげな二人へ、声をかけてみる。
 覚えた微笑みを、こんな風に使うなんて。
 深緋は少し俯く。

 きっと、またこの日が来る。
 だから好きになることはやめよう、と思っていた。
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第01話:外された名札(上)
ヒュプノスの魔法使いは繭に眠る〜青藍/第一部作者:小川ハリ
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プロローグ:もうやめる

「笑ったほうがいいよ」

 と、よく言われていた。
 いつも目がなくなるほど、くしゃくしゃに笑う子だった。だから深緋こきあも、少しだけ笑うことを覚えた。やっと上手に、微笑むことができるようになってきたばかりだった。もうその子は、そこにいない。

 三人部屋の入口の名札は、奥の二人分がどちらも外されている。先月、管理部が外していった。
 ベッドも、机も、オープンクローゼットもがらんどう。大人の許しがなければ出られない部屋に残った自分は、ただの瓶詰めみたいだ。

  *

 ドアがノックされる。コンコン。
 コンコン。
 このノックは管理部の織部おりべだ。何かと大人から声をかけられるのが、本当は苦手だ。全部、知ってるくせに、全部見てきているくせに、と思うから。
 
「深緋を紹介するわね」

 濃い青の髪の、几帳面そうな子。
 もっと小さくて金色の綿毛が歩いてるような、鳶色の目の子。

「深緋、この子が青藍せいらん、この子はひわどちらも南一班になります」
「......はい」

 嫌そうに聞こえないように、返事をする。
 二人増えて、三人の班ができた。

「よろしくね」

 所在なげな二人へ、声をかけてみる。
 覚えた微笑みを、こんな風に使うなんて。
 深緋は少し俯く。

 きっと、またこの日が来る。
 だから好きになることはやめよう、と思っていた。
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