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エピローグ「告白」

 クリスマスがやって来た。ユエムからの命令によりルノートとドミナは外出を禁止されているが、今回はその決まりを破って外へ出かけた。最初、ドミナから外へ出かけることを言い出し、それに対してルノートは反対。
 ドミナは事前に計画を立てていたのか、ネット通販で防寒具を買い揃えていた。
 ルノートは決まりを守るために断る姿勢を取り続けたのだが、ドミナが「ちょっとくらい大丈夫」と何度もそそのかして――。終いには押し切られてしまった。

 ルノートは心の中、少しだけ後ろめたさを持ちつつも、好奇心のようなものを滾たぎらせていた。

「見てあれ、でっかいクリスマスツリー!」

 もふもふのコートに身を包んだ二人。彼女の赤髪よりも暗い赤色のマフラーを巻いたドミナが走っていく。
 人々が行き交う都市の中、一際目立つクリスマスツリーが飾られていた。人々はそこを待合所にしているのか携帯電話の画面を眺めながら立ち尽くす人々が多い。その中に二人は飛び込んでいく。

 イルミネーション。赤、緑、金など色とりどりのプレゼントボックス。ベル。袋。サンタクロースとトナカイ。

 ここは第三地区。家から少しだけ離れた場所。バスで十分ほど揺られて、彼女と共にやって来た。すでに時刻は夕方。帰宅ラッシュに揉まれる道路の上に羅列した車を遠目に、ドミナとルノートは街を駆けた。

 商店街にやって来た。ドミナとルノートのように二人きりで出かける者が多い。きっとその人々は皆恋人同士なのであろう。

 ドミナはルノートの隣を寄り添うように歩きながら、商店街を巡る。

「服がいっぱい・・・!」

 ドミナはとある服屋に目を付けた。ルノートが彼女へ目で合図を送る。「入ろう」と言っているのだ。

 二人は共に店内へ。明るい照明に照らされた清潔感のある雰囲気で、主に女性用の服が並べられていた。そのせいもあってか、店内にはぼちぼちと何人かの女性が立ち歩いていた。

 ドミナとルノートには今金がある。前のホテルでの任務の報酬で、スマートフォンとは別に給料が振り込まれた。それがかなりの額だった。

「私のサイズはないな」

 ドミナが肩を落とす。それも仕方がない。まだドミナは九歳で、子供用の服しか着用できない。身長は同年代の平均身長よりも少し低い。

 二人は仕方なく店を後にして、商店街へ戻った。

「仕方ないよ。大人を対象としたブランドだったみたいだし」
「でもそれが良いんだよ。あぁ、私も早く大人になりたい・・・!」

 ドミナは頭の中でリアネルの姿を思い浮かべる。彼女のようなスタイル、ファッションに憧れるのだ。

「次はあれに行こう」

 ドミナが指を差したのは宝石店。宝石を使用したアクセサリー用品を販売している店だ。
 ルノートは考える。アクセサリーであればドミナへのプレゼントになる。尚、彼女の耳に穴は開いていないのでピアスなどは却下。

 宝石店の中へ入ると共に、煌びやかなアクセサリーの数々が目に入った。隣にいたドミナが思わず「わぁ」となんとも子供のような驚きを声に上げていた。

 それから二人は店内を共に巡った。ブレスレット、ネックレス、イヤリングやピアスなどなど。どれも美しく目を引く商品ばかりだ。その中で特にドミナが目を留めたのが――。

「指輪・・・」

 彼女はそう呟きながら、立ち止まる。ケースの中に展示された宝石がはめられた指輪。指輪たちは各々の魅力を主張するかの如く、輝きを放っている。ドミナの口が小さく空いたまま固まる。見惚れているのだろう。

「買う?」

 ルノートの問いに、ドミナは慌てて首を横に振った。

「やめとく。高いし」
「そうなの」
「確かに欲しいけど・・・なんていうか、私さ、こういう綺麗なのあんまり似合わない気がするんだ」

 ドミナがあはは、と小さく笑う。

「そんなことないよ」

 ルノートは真剣な目をしてそう言った。ドミナは彼の視線に頬を赤らめる。じっと見つめられただけでもどこかこそばゆい思いがするのだ。

「結婚とかお姫様とかは好きなんだけどな・・・いつかは分からないけど、絵本で読んだ気がする」

 ドミナがすっと下を向く。

「私にも家族っていたのかな」

 その一言に、ルノートは口を開く。

「きっとどこかにいるはずだよ。ぼくにだっていたんだから」
「そうだよな。うん・・・」
「でも今はぼくが君の家族だよ」

 ルノートがそっと彼女の手を握る。「あ」と驚いたように微かな吐息を漏らし、ドミナはまた頬を赤く染める。

「僕はこの指輪を買いたい」

 ルノートの真剣な瞳がドミナの心を貫いた。彼の言葉の意味を悟ったのだろう。ドミナは口を噤つぐんでしまった。
 ただし、彼女はルノートの手を優しく握り返した。彼の存在を確かめるように、指を絡ませて。

 ルノートは店員に話をし、ケースの中の指輪を見させてもらった。ドミナの指のサイズに合った同じ指輪を探す。
 するとドミナも指輪を買う気になったのか、彼の指のサイズに合う指輪を選び始めた。

 どこか大人しくなったドミナの様子を隣に、ふとルノートは微笑みを浮かべた。彼は知ってしまった。

 ドミナのことを考える度に胸が騒がしくなること。ドミナの声を聞く度に体へと迸ほとばしる熱の正体。
 ドミナのためになら何だってしてあげたくなる衝動。
 きっとこれは恋なのだろう。

 ルノートは昔母が見ていた映画を思い出す。恋愛映画だったそれは、主人公が幼馴染のヒロインと結ばれる話。告白の仕方も、プロポーズも全てクリスマスに行われていた。

 ルノートは年の割に大人びていた。だからか、恋愛や自意識についての認識も早かった。

 二人は互いの指輪を購入して店を出た。ルノートはドミナに赤い宝石の指輪を、ドミナはルノートに水色の宝石の指輪を。

「もう付ける?」

 ルノートの問いにドミナは首を横へ振る。

「なくしちゃったら嫌だ。だから家で付けよう」

 ドミナは未だに頬をほんのりと赤く染めていた。

 二人はそれからも商店街を巡った。本、雑貨、電気製品、食べ物など色々。道中で買ったクレープを味わいながら、二人は手を繋いだまま歩く。来た道を戻る。時刻はすでに夜を迎えてしまった。

 クリスマスツリーの元へ戻ると、待合所として利用する人々は減り――自分たちと同じようにイルミネーションを眺める恋人たちで賑わっていた。

「綺麗・・・」

 ドミナがぼそりと呟く。夜の暗がりに色とりどりの鮮やかな光。彼女のように、ルノートもまたイルミネーションに目を奪われていた。心の中にあった蟠わだかまりが全て浄化されていくような、そんな気がした。

 すると突然、ドミナが体を寄せてきた。

「今日、外にでてよかったな」

 彼女は耳打ちする。それに対し、ルノートは笑いながら頷く。

「決まりは破っちゃったけど、それでも・・・良かった」

 ルノートは心の底からそう思った。すると隣でドミナが身震いをした。コートやマフラーなどで体を包んだとて、寒い。ルノートはドミナの横顔を見つめる。

「そろそろ帰ろうか」
「うん」

 二人は買った物を入れた鞄を片手に帰路へと着いた。バスに乗る。乗車している者は多く、吊り革に捕まっている者もいたが、二人は子供だからか席を譲ってもらえた。

 車窓で揺られるルノート、眠そうに欠伸をするドミナ。バスが目的のバス停へと到着すると二人は料金を支払って降りた。

 外に出た途端、凄まじい寒気が体を襲ってきた。空を見上げると、雪が降っている。

「雪だ!」

 ドミナがはしゃぐ。この国で雪が降るのはごく稀だ。

「積もるかな」

 ドミナがそう言いながら、手を広げて雪を集める。しかし、雪は手に乗ると同時に溶けてしまった。淡雪あわゆきだ。これでは積もることはないだろう。

「積もってほしいね」

 ルノートはそのことを知っていたが、口には出さず敢えてそう言った。嬉しそうに隣を歩くドミナと手を繋ぎ、二人は帰りの道を歩いて行った。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 家へ帰り、寝る準備を済ませ、ベッドへ入る前に先ほど商店街で購入した物をテーブルの上へと広げた。
 ドミナは髪を留めるピン、手袋、帽子を買った。それに対し、ルノートは中学生用のテキストブック、木彫りの鳥の置物などを買った。

「お前変な物ばっか買ってるな。クリスマスに買う人いるのか、これとか」

 ドミナは鳥の置物を手に取ってじっと見つめる。
 それから彼は他にもキッチンペーパー、ゴム手袋、菜箸などを買っていた。

「料理を本格的に勉強しようと思う。食材は仕送りで貰えるし、フライパンとかの道具は既に買ってあるから足りない物をついでに買ったんだ。商店街なんて二人で初めて行ったけど、品揃えが凄いね」

 ドミナは本気で彼が六歳であるのか疑った。
 最後に二人は指輪を取り出した。気品のある白い箱に入れられている。二人は箱を持ってベッドの上へと座った。

 箱を開けて指輪を取り出す。そして、二人はお互いの指に向かって指輪をあてがう。

「付けるぞ」

 ドミナがルノートの薬指に指輪を当て、慎重に言う。スッと、指輪は思ったよりも簡単に付け外しできた。二人は共に「指輪を付けると指から取れなくなる」などと言った迷信に囚われていたが、それは杞憂に終わった。

 箱をベッドから片付け、部屋を暗くして、二人は指輪をはめたまま見つめ合う。

「あのさ」

 ドミナが最初に言葉を切り出した。彼女の顔はすでに赤い。

「私さ・・・」
「うん」

 ルノートは彼女の言葉を察したのか、緊張して体を固まらせている。

「ルノートのことが好きで・・・その・・・付き合ってほしい」

 ドミナも、ルノートも顔を真っ赤にした。告白だ。

「その・・・僕も、ドミナのことが好き。だから、付き合おう」
「嬉しい・・・!」

 ルノートの告白を聞いたドミナが彼へ抱き着いた。彼女は少しだけ涙ぐんでいる。

「大人になったら結婚しよう」

 ルノートが真剣な声で囁く。ドミナは嬉しそうに笑みを浮かべた。ルノートにとって今までにないくらい明るく映って見えた。
 視界から脳の記憶回路までずば抜けて焼き付かせるように、じっと見据えて。

「絶対」

 ドミナが言いながら目を瞑る。するとその直後、ルノートの唇に彼女の唇が触れた。キスだ。柔らかな感触と、温かな彼女の体温を口元で受け止めながら、ルノートは全身を硬直させる。熱だ。彼の全身を熱が纏った。

 キスは長く感じた。ドミナがゆっくりと唇を離すと、うっとりとした瞳で彼を見つめた。

「初めてしたけど、案外上手くいったな」

 ドミナが再びあの明るい笑みを浮かべる。

「うん・・・」

 やっと紡ぎ出せた言葉は一言だけ。ルノートは顔を赤くしたまま、ドミナから目を離せずにいた。

「好き」

 ドミナが呟いた。するとまた唇が触れ合う。

「僕も好き」

 ルノートも必死に言葉を絞り出して返事をした。

「キスはまっちゃいそう」
「人前ではやらないようにしないとね」
「どうして?」
「それは、その・・・僕は恥ずかしいから」

 突然ドミナがルノートの頭を撫で始めた。

「じゃあ二人だけの時にする」

 ドミナがそう言うと、またキスをした。何度も何度も口付けを繰り返していくにつれて、心の中を落ち着かせる役割をしていた制御機能のようなものが、薄れていく気がした。

 ルノートは何も考えられなくなりそうになり、慌ててドミナを制止した。

「ごめん、なんか僕の体が変」
「本当か?まさか寒さで風邪でもひいたか」
「分からない」

 ルノートは自分が怖くなる。

「そろそろ寝よう」

 ルノートはそう言い出した。ドミナは彼の体調面も考慮してか、渋々頷いた。
 指輪を外してベッドに寝転ぶ。部屋の照明を消した後だから、互いの寝息が鮮明に聞こえるばかり。

「おやすみ」

 ドミナがルノートへ体を向けて言った。ルノートはなぜか彼女を直視できず、目を瞑りながら「おやすみ」と返した。
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ritard.――リタルダンドーー作者:花厳 聖
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エピローグ「告白」

 クリスマスがやって来た。ユエムからの命令によりルノートとドミナは外出を禁止されているが、今回はその決まりを破って外へ出かけた。最初、ドミナから外へ出かけることを言い出し、それに対してルノートは反対。
 ドミナは事前に計画を立てていたのか、ネット通販で防寒具を買い揃えていた。
 ルノートは決まりを守るために断る姿勢を取り続けたのだが、ドミナが「ちょっとくらい大丈夫」と何度もそそのかして――。終いには押し切られてしまった。

 ルノートは心の中、少しだけ後ろめたさを持ちつつも、好奇心のようなものを滾たぎらせていた。

「見てあれ、でっかいクリスマスツリー!」

 もふもふのコートに身を包んだ二人。彼女の赤髪よりも暗い赤色のマフラーを巻いたドミナが走っていく。
 人々が行き交う都市の中、一際目立つクリスマスツリーが飾られていた。人々はそこを待合所にしているのか携帯電話の画面を眺めながら立ち尽くす人々が多い。その中に二人は飛び込んでいく。

 イルミネーション。赤、緑、金など色とりどりのプレゼントボックス。ベル。袋。サンタクロースとトナカイ。

 ここは第三地区。家から少しだけ離れた場所。バスで十分ほど揺られて、彼女と共にやって来た。すでに時刻は夕方。帰宅ラッシュに揉まれる道路の上に羅列した車を遠目に、ドミナとルノートは街を駆けた。

 商店街にやって来た。ドミナとルノートのように二人きりで出かける者が多い。きっとその人々は皆恋人同士なのであろう。

 ドミナはルノートの隣を寄り添うように歩きながら、商店街を巡る。

「服がいっぱい・・・!」

 ドミナはとある服屋に目を付けた。ルノートが彼女へ目で合図を送る。「入ろう」と言っているのだ。

 二人は共に店内へ。明るい照明に照らされた清潔感のある雰囲気で、主に女性用の服が並べられていた。そのせいもあってか、店内にはぼちぼちと何人かの女性が立ち歩いていた。

 ドミナとルノートには今金がある。前のホテルでの任務の報酬で、スマートフォンとは別に給料が振り込まれた。それがかなりの額だった。

「私のサイズはないな」

 ドミナが肩を落とす。それも仕方がない。まだドミナは九歳で、子供用の服しか着用できない。身長は同年代の平均身長よりも少し低い。

 二人は仕方なく店を後にして、商店街へ戻った。

「仕方ないよ。大人を対象としたブランドだったみたいだし」
「でもそれが良いんだよ。あぁ、私も早く大人になりたい・・・!」

 ドミナは頭の中でリアネルの姿を思い浮かべる。彼女のようなスタイル、ファッションに憧れるのだ。

「次はあれに行こう」

 ドミナが指を差したのは宝石店。宝石を使用したアクセサリー用品を販売している店だ。
 ルノートは考える。アクセサリーであればドミナへのプレゼントになる。尚、彼女の耳に穴は開いていないのでピアスなどは却下。

 宝石店の中へ入ると共に、煌びやかなアクセサリーの数々が目に入った。隣にいたドミナが思わず「わぁ」となんとも子供のような驚きを声に上げていた。

 それから二人は店内を共に巡った。ブレスレット、ネックレス、イヤリングやピアスなどなど。どれも美しく目を引く商品ばかりだ。その中で特にドミナが目を留めたのが――。

「指輪・・・」

 彼女はそう呟きながら、立ち止まる。ケースの中に展示された宝石がはめられた指輪。指輪たちは各々の魅力を主張するかの如く、輝きを放っている。ドミナの口が小さく空いたまま固まる。見惚れているのだろう。

「買う?」

 ルノートの問いに、ドミナは慌てて首を横に振った。

「やめとく。高いし」
「そうなの」
「確かに欲しいけど・・・なんていうか、私さ、こういう綺麗なのあんまり似合わない気がするんだ」

 ドミナがあはは、と小さく笑う。

「そんなことないよ」

 ルノートは真剣な目をしてそう言った。ドミナは彼の視線に頬を赤らめる。じっと見つめられただけでもどこかこそばゆい思いがするのだ。

「結婚とかお姫様とかは好きなんだけどな・・・いつかは分からないけど、絵本で読んだ気がする」

 ドミナがすっと下を向く。

「私にも家族っていたのかな」

 その一言に、ルノートは口を開く。

「きっとどこかにいるはずだよ。ぼくにだっていたんだから」
「そうだよな。うん・・・」
「でも今はぼくが君の家族だよ」

 ルノートがそっと彼女の手を握る。「あ」と驚いたように微かな吐息を漏らし、ドミナはまた頬を赤く染める。

「僕はこの指輪を買いたい」

 ルノートの真剣な瞳がドミナの心を貫いた。彼の言葉の意味を悟ったのだろう。ドミナは口を噤つぐんでしまった。
 ただし、彼女はルノートの手を優しく握り返した。彼の存在を確かめるように、指を絡ませて。

 ルノートは店員に話をし、ケースの中の指輪を見させてもらった。ドミナの指のサイズに合った同じ指輪を探す。
 するとドミナも指輪を買う気になったのか、彼の指のサイズに合う指輪を選び始めた。

 どこか大人しくなったドミナの様子を隣に、ふとルノートは微笑みを浮かべた。彼は知ってしまった。

 ドミナのことを考える度に胸が騒がしくなること。ドミナの声を聞く度に体へと迸ほとばしる熱の正体。
 ドミナのためになら何だってしてあげたくなる衝動。
 きっとこれは恋なのだろう。

 ルノートは昔母が見ていた映画を思い出す。恋愛映画だったそれは、主人公が幼馴染のヒロインと結ばれる話。告白の仕方も、プロポーズも全てクリスマスに行われていた。

 ルノートは年の割に大人びていた。だからか、恋愛や自意識についての認識も早かった。

 二人は互いの指輪を購入して店を出た。ルノートはドミナに赤い宝石の指輪を、ドミナはルノートに水色の宝石の指輪を。

「もう付ける?」

 ルノートの問いにドミナは首を横へ振る。

「なくしちゃったら嫌だ。だから家で付けよう」

 ドミナは未だに頬をほんのりと赤く染めていた。

 二人はそれからも商店街を巡った。本、雑貨、電気製品、食べ物など色々。道中で買ったクレープを味わいながら、二人は手を繋いだまま歩く。来た道を戻る。時刻はすでに夜を迎えてしまった。

 クリスマスツリーの元へ戻ると、待合所として利用する人々は減り――自分たちと同じようにイルミネーションを眺める恋人たちで賑わっていた。

「綺麗・・・」

 ドミナがぼそりと呟く。夜の暗がりに色とりどりの鮮やかな光。彼女のように、ルノートもまたイルミネーションに目を奪われていた。心の中にあった蟠わだかまりが全て浄化されていくような、そんな気がした。

 すると突然、ドミナが体を寄せてきた。

「今日、外にでてよかったな」

 彼女は耳打ちする。それに対し、ルノートは笑いながら頷く。

「決まりは破っちゃったけど、それでも・・・良かった」

 ルノートは心の底からそう思った。すると隣でドミナが身震いをした。コートやマフラーなどで体を包んだとて、寒い。ルノートはドミナの横顔を見つめる。

「そろそろ帰ろうか」
「うん」

 二人は買った物を入れた鞄を片手に帰路へと着いた。バスに乗る。乗車している者は多く、吊り革に捕まっている者もいたが、二人は子供だからか席を譲ってもらえた。

 車窓で揺られるルノート、眠そうに欠伸をするドミナ。バスが目的のバス停へと到着すると二人は料金を支払って降りた。

 外に出た途端、凄まじい寒気が体を襲ってきた。空を見上げると、雪が降っている。

「雪だ!」

 ドミナがはしゃぐ。この国で雪が降るのはごく稀だ。

「積もるかな」

 ドミナがそう言いながら、手を広げて雪を集める。しかし、雪は手に乗ると同時に溶けてしまった。淡雪あわゆきだ。これでは積もることはないだろう。

「積もってほしいね」

 ルノートはそのことを知っていたが、口には出さず敢えてそう言った。嬉しそうに隣を歩くドミナと手を繋ぎ、二人は帰りの道を歩いて行った。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 家へ帰り、寝る準備を済ませ、ベッドへ入る前に先ほど商店街で購入した物をテーブルの上へと広げた。
 ドミナは髪を留めるピン、手袋、帽子を買った。それに対し、ルノートは中学生用のテキストブック、木彫りの鳥の置物などを買った。

「お前変な物ばっか買ってるな。クリスマスに買う人いるのか、これとか」

 ドミナは鳥の置物を手に取ってじっと見つめる。
 それから彼は他にもキッチンペーパー、ゴム手袋、菜箸などを買っていた。

「料理を本格的に勉強しようと思う。食材は仕送りで貰えるし、フライパンとかの道具は既に買ってあるから足りない物をついでに買ったんだ。商店街なんて二人で初めて行ったけど、品揃えが凄いね」

 ドミナは本気で彼が六歳であるのか疑った。
 最後に二人は指輪を取り出した。気品のある白い箱に入れられている。二人は箱を持ってベッドの上へと座った。

 箱を開けて指輪を取り出す。そして、二人はお互いの指に向かって指輪をあてがう。

「付けるぞ」

 ドミナがルノートの薬指に指輪を当て、慎重に言う。スッと、指輪は思ったよりも簡単に付け外しできた。二人は共に「指輪を付けると指から取れなくなる」などと言った迷信に囚われていたが、それは杞憂に終わった。

 箱をベッドから片付け、部屋を暗くして、二人は指輪をはめたまま見つめ合う。

「あのさ」

 ドミナが最初に言葉を切り出した。彼女の顔はすでに赤い。

「私さ・・・」
「うん」

 ルノートは彼女の言葉を察したのか、緊張して体を固まらせている。

「ルノートのことが好きで・・・その・・・付き合ってほしい」

 ドミナも、ルノートも顔を真っ赤にした。告白だ。

「その・・・僕も、ドミナのことが好き。だから、付き合おう」
「嬉しい・・・!」

 ルノートの告白を聞いたドミナが彼へ抱き着いた。彼女は少しだけ涙ぐんでいる。

「大人になったら結婚しよう」

 ルノートが真剣な声で囁く。ドミナは嬉しそうに笑みを浮かべた。ルノートにとって今までにないくらい明るく映って見えた。
 視界から脳の記憶回路までずば抜けて焼き付かせるように、じっと見据えて。

「絶対」

 ドミナが言いながら目を瞑る。するとその直後、ルノートの唇に彼女の唇が触れた。キスだ。柔らかな感触と、温かな彼女の体温を口元で受け止めながら、ルノートは全身を硬直させる。熱だ。彼の全身を熱が纏った。

 キスは長く感じた。ドミナがゆっくりと唇を離すと、うっとりとした瞳で彼を見つめた。

「初めてしたけど、案外上手くいったな」

 ドミナが再びあの明るい笑みを浮かべる。

「うん・・・」

 やっと紡ぎ出せた言葉は一言だけ。ルノートは顔を赤くしたまま、ドミナから目を離せずにいた。

「好き」

 ドミナが呟いた。するとまた唇が触れ合う。

「僕も好き」

 ルノートも必死に言葉を絞り出して返事をした。

「キスはまっちゃいそう」
「人前ではやらないようにしないとね」
「どうして?」
「それは、その・・・僕は恥ずかしいから」

 突然ドミナがルノートの頭を撫で始めた。

「じゃあ二人だけの時にする」

 ドミナがそう言うと、またキスをした。何度も何度も口付けを繰り返していくにつれて、心の中を落ち着かせる役割をしていた制御機能のようなものが、薄れていく気がした。

 ルノートは何も考えられなくなりそうになり、慌ててドミナを制止した。

「ごめん、なんか僕の体が変」
「本当か?まさか寒さで風邪でもひいたか」
「分からない」

 ルノートは自分が怖くなる。

「そろそろ寝よう」

 ルノートはそう言い出した。ドミナは彼の体調面も考慮してか、渋々頷いた。
 指輪を外してベッドに寝転ぶ。部屋の照明を消した後だから、互いの寝息が鮮明に聞こえるばかり。

「おやすみ」

 ドミナがルノートへ体を向けて言った。ルノートはなぜか彼女を直視できず、目を瞑りながら「おやすみ」と返した。
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