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恋+憧れ=…その真ん中お断り!

放課後の教室。

ピロン――

友人との談笑中、机の上に置かれたスマホが鳴った。

木下マナカからのメッセージ。

相良修平さがら しゅうへいは、片手間にスマホを手にして、画面を開く。

「――は?」

目を見開いた。

「あ? どうしたんだ、修平」

友人の声には応えず、修平はただただ画面を見つめている。

「ちょっと待てよ!......マジかよ、ウソだろ?」

呟きと同時に、慌てて文字を打ち込み――送信。

「修平?」

「ごめん!――オレ、ちょっと......行ってくる!」

椅子を鳴らして立ち上がる。

「あ、おい!」

修平はスマホを握りしめたまま、教室を飛び出して行った。

「......なんだよ、アイツ......」

後に残された友人は、ぽかんとしたまま、修平の背中を見送ることしか出来なかった。


廊下を走りながら、修平は通話をかける。


「......出ろよぉ」

やけに長く感じる呼び出し音に焦れていると――ガチャッ。

繋がった?

「もしもし、マナカ!?お前、今なぁ――」

『留守番電話サービスに――』

「......っ」

舌打ちし、通話を切った。

人のまばらな廊下をひたすら走る。

時々すれ違う女子生徒たちが振り向き、修平の背中を、どこか好意を滲ませた視線で追いかける。

修平は気にすることもなく――
階段を一段飛ばしで下りて、最後は飛ぶように着地。

そのまま、止まらずに走りだす。

「ヤバい......早く、マナカのところに行かなきゃ......」

でないと――

「くっそ......」

奥歯を噛みしめ、修平は放課後の校舎を駆け抜けていった。


鬱蒼とした草木が生い茂り、光の届かないその場所に、マナカはいた。

「......なんつーか、学校の体育館裏に呼び出しって、ベタすぎない?」

「うるさいわね!だいたい、アンタが悪いんでしょ!」

後ろに何人もの女子生徒を従えた、斎藤ヒナキが前に進み出た。

「アンタが相良君とベタベタするから――」

数人の女子生徒たちに囲まれ睨まれ、壁際に追い詰められたマナカは、小さく息を吐く。

(――またか)そう思った時だった。

ピロリン♪

マナカのスマホが鳴った。
画面を見て――ふっと口元が緩む。

電源を切って、マナカはスカートのポケットにスマホをねじ込んだ。

「――アンタ、この状況わかってんの?」

イラだったヒナキが距離を詰める。

「状況......ねぇ」

ヒナキの後ろに控える女子生徒たち。
現クラスメイト。
元クラスメイト。
あとは――知らない顔の後輩たちといったところか。

(よくもまぁ、こんなに集まったな......)

一通り見回してマナカは、口を開く。

「――で、アンタが例の
"相良修平くん♡ファンクラブ"の隊長様ってわけ?」

少し小馬鹿にした態度のマナカに対して、ヒナキは――

「そうよ!」

胸を張って大きく頷いた。

「そんな黒歴史確定な肩書き名乗るの、やめときなー」

「うるさいわね! アンタには関係ないでしょっ!」

(いや現在進行形で迷惑被ってますが?)

「いーい? 私たちはね――」

ヒナキは自らの胸に手をあて、朗々と語りだす。

「無闇に相良くんに近づかない!

 相良くんの邪魔はしない!

 抜け駆けなんてもってのほか――っていう崇高なルールのもとに成り立っているのよ!」

もちろん、それが本人非公式なことを、マナカは知っている。

「抜け駆け――ねぇ」

マナカは揶揄するように呟く。

「それなのに、木下マナカ!」

すぐにヒナキが噛み付いてきた。

「アンタは毎朝、毎朝。見せつけるように、相良くんと登校して――」

「家が隣だからね」

「――一緒にバスに乗って帰宅して――」

「家が隣だからね」

「言い訳するんじゃないわよっ!」

(だって、事実だし......)

マナカは小さくため息を吐いた。

「だったら、アンタの方から誘えばいいじゃん」

「んなっ!?」

マナカの発言に、ヒナキは固まる。

「そ、そそそんなこと――」

焦るヒナキに、マナカはケロリと言い放つ。

「え? 普通にアイツ喜ぶと思うけど?」

「え?」

一瞬、ヒナキの顔が明るくなる――が。

背後に控えた、ファンクラブのメンバーの視線にハッとして、こほんと、わざとらしく咳払いをひとつ。

「と、とにかく――相良君の幼なじみだからって、勝手なことしないでっ!」

びしっと、ヒナキはマナカを指さした。
その瞬間、ファンクラブ一同が声を上げる。

「そうよ!そうよ!」

「二人でつるんでるとこ、よく見かけるし」

「なに? もしかして仲良いアピールのつもり?うざっ」

怒りと嫉妬が入り混じった声で、一斉にマナカを攻撃する。

「家が隣?だったらアンタが、時間ずらして行動しなさいよ!」

ドンッ――。

勢いで進み出て来た誰かが、マナカの胸を強く押した。

「......っ」

よろめいた身体が、そのまま壁に打ち付けられる。

「痛いなー......そんなムチャ言わないでよ」

マナカの苛立った声は、誰にも届かない。

(ほんと......こいつら、めんどくせーな......)

小学校から、何度も繰り返されてきたこの状況に、いい加減マナカはうんざりしていた。

相良修平に向けられる、強い憧れと恋心。

それが強ければ強いほど――

マナカへのあたりは強くなり、静かにすり減っていく。

「何度も言ってるけどさー」

声を張り上げて、マナカは割り込む。

「アンタらの目にアイツがどー映ってるのか知らないけど......"腐れ縁"ってだけでやっかまれんのは......」

そこで、マナカの言葉が途切れた。

彼女たちの背後――

サクッ。

草を踏みしめる音に、マナカを囲んだ全員が振り向く。

「あ......」

ヒナキをはじめ、彼女たちの表情が一瞬で凍りつく。

「......マ、ナカ」

息をきらした修平が、そこにいた。

「おっまぇ......」

修平は何か言いかけて、ゲホッ、と咳き込む。

「さ、相良君が......どうして、ここに」

「あー、さっきワタシが呼んだんだよねぇ」

マナカはスマホを取り出し、電源を入れる。

「あ、やっぱり修平から電話きてた。切ってて正解♪」とマナカは呟いて、スマホを振って見せた。

「――は?」

ヒナキたちは愕然とする。

「まさか、さっきアンタが見てたのって――相良くんからのメッセージだったの?」

「そうだよ。返信早すぎてビックリしたわー」

笑いながらマナカは、動揺が広がる集団の中をすり抜けて行く。

そのまま修平へと歩み寄り――
ようやく息の整った彼の肩にぽん、と手を置いた。

その瞬間。

「ひ、卑怯よ!本人を呼び出すなんてっ!」

「自分じゃどうにも出来ないからって、相良君に頼るなんてありえない!」

「相良君は関係ないでしょ!」

弾かれたように取り乱す彼女たちに、修平はただおろおろするばかり。

「え?え?......なに?」

――しかしマナカは。

「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁ」

突然、がなり声を上げた。

あまりに唐突なその声に、彼女たちはぴたりと黙り込んだ。

「マ......ナカ」

修平までもが、驚きを隠せずにいる。

わずかに訪れた、静寂の中――

「うっさいなぁー」

マナカは片手で、がしがしと乱暴に髪を掻き毟る。

誰もがその様子に、息を飲む。

「ちょっとさぁ......黙っててくんない?」

マナカはゆっくりと周囲を見回し――ヒナキへと視線を定めた。

「......っ」

ヒナキの肩が、小さく跳ねる。

マナカはしばらくじっと見つめ――やがて修平へと目を向ける。

「わかってるよね、修平」

マナカの低い声に、今度は修平の身体がびくりと震えた。

「アンタが今、ここで何をしなきゃいけないのか」

「......っ」

修平は目を見開き、マナカを見る。

続いてヒナキをはじめ、集まった女子生徒たちへと目を向けた。

「で、でも...こ、こんなに大勢の前でなんて......」

「別にいいんだよ」

ちらりと、マナカはヒナキを見る。

「ワタシが代わりに、言ってあげても」

「......それ、は......」

揺らぐ修平の目の中に、ヒナキの姿が映る。

彼女は青ざめた顔で、こちらの様子を窺っていた。

「......あ」

修平は何か言おうと、口をわずかに動かし――引き結ぶ。

マナカは修平の耳元で低くく囁いた。

「一番大切な言葉、ワタシに言われたくないでしょ?」

マナカの言葉に――観念したように修平は小さく頷く。

「わかったら、さっさとケリ付けて」

マナカは吐き捨てるように修平に告げた。

その瞬間――修平に緊張が走る。

「......わ、わかった」

修平は背筋を伸ばし、深く息を吸い込み、細く、長く吐き出した。

「そ、じゃぁ、頑張ってねぇ〜」

マナカは満足そうに――満面の笑みを浮かべる。
軽く手を振り、マナカはその場を後にした。

マナカが校舎の向うに去って行くと、気まずい沈黙が辺りを包み込んだ。

残された女子生徒たちは動揺し、互いに顔を見合わせる。

その中で、ヒナキは一人青い顔をして立っていた。

――どこから、見られていたんだろう。

嫉妬と怒りをマナカにぶつける醜い姿を。
取り繕わなくちゃ。
なにか、言い訳をしないと――

そうしないと。

――嫌われる。

「あー、斎藤......さん?」

突然修平に呼ばれて、ヒナキはビクリと肩を揺らす。

「あ......あの、相良......くん」

靴音を鳴らして、修平はヒナキへと歩み寄る。

周りの女子生徒たちは、まるでヒナキの背中に隠れるように後退した。

「ちょ、ちょっとぉ」

自然と押し出されたヒナキの目の前で、修平は立ち止まる。

「あ......」

ヒナキの目に、じわりと涙が滲んだ。

――おしまいだ。

そう思った時、修平が戸惑いながらも口を開いた。

「......えっと、斎藤さん」

「......」

「オレ......斎藤さんのことが......」

鬱蒼と生い茂る木々を揺らしながら、風が吹き抜けていった。


「おばちゃーん、アイスちょうだーい」

そのまま学校を出たマナカは、近くの駄菓子屋にいた。

店の奥に声を投げ、返事も待たずにケースを開ける。

「ど・れ・に・しようかなー、と」

三種類しか入っていないケースから、棒付きのソーダアイスを選んだ。

代金を払うと、さっそく袋を開ける。

店先のベンチにどかっと腰を下ろし、背もたれに腕をまわす。
足を組んでアイスに齧りついた。

ガリッと音をたてて、大きく一口。

咀嚼して飲み込み――

そこかしこから聞こえてくる、セミの合唱にしばし耳を傾けていた。

「......おわったー......」

抜けるような夏の青空を眺めたまま、マナカは呟く。

「まぁ、ちゃんと修平がヒナキに言えてたら、だけどねー」

(さっさとくっつけばいいのに......)と、ずっとそう思っていた。

「ただの幼なじみだって言っても、だぁれも信じてくんないんだもん――」

(お互い、恋愛感情なんてないのにさ......)

マナカは呟いて、アイスを齧る。

それはほとんど修平のせい――だとマナカは思っている。

修平は――

とにかく、距離が近い。
気安い。
特に、マナカに対しては遠慮がない。

見た目は、良い方だし。
無駄に優しいし、なつっこいから、とにかく女子にモテる。

「別々のクラスになって、やっと離れられたーって思っても、休み時間のたびにくるんだもん」

――マナカの近くが安心する。

そう言って笑う修平に、マナカは口を引きつらせていた。

それもそのはず。
修平がマナカの元にやって来るのは、自分のクラスに馴染めるようになるまでの、ほんの数週間だけだったからだ。

「アイツが自分のクラスに慣れだした頃、ワタシはいつも出遅れて、クラスで孤立してたけどねーあっはっはー」

周囲に誰もいないのをいいことに、空に向かって、マナカは自棄になって笑い飛ばす。

修平に好意を向ける子たちからやっかまれることは、今までにもよくあった。

――ひどい目に遭わされたことも。

けれどいくら相談しても、修平は助けてくれなかった。

「え? オレのファンクラブ? そんなのあるわけないじゃん」

「一緒にいると、誤解される? そんなわけないじゃん、オレら別にそういう関係じゃないし」

ガリッ――

あははーと笑う気楽な修平を思い出し、マナカは苦々しくアイスを噛み砕く。

「お前はそれでノーダメでも、こっちはダメージでかいんだよっ!」

膝の上に拳を振り下ろす。

反動で、アイスの雫が地面に飛び散った。

少し落ち着いて、息を吐く。

――修平は頼りにならない。

だから、自分でなんとかしようと思った。

どんな手段を使ってでも――

そう考えていたところに、

修平の片思いの相手がヒナキだと知った。

使える――とマナカは思った。

修平が好きなのは、マナカではない。
そのことを、周知さえさせれば――

理不尽に向けられ続ける、嫉妬や嫌悪。
やっかみ、悪意ある言葉。
――その全てから、解放されると思ったから。

さきほどの――慌ててやってきた修平の姿を、マナカは思い浮かべる。

「さぁて、アイツはちゃんと斎藤さんに好きだって、言えたかなぁ」

ふと見た、食べ終わったアイスの棒。

「ちぇ、ハズレだったかぁー」

マナカは顔を顰めて立ち上がり、軽く伸びをする。

「ま、あそこで言えなかったら、ワタシがかわりにバラしちゃうぞって修平には言ってあるし――」

『告白出来るチャンスだよー』

修平に送ったメッセージ。
その一言が、合図。
とにかくこの状況を終わらせたくて、無理矢理修平に取り付けた約束。

食べ終わったアイスの棒を咥えて弄ぶ。

マナカにとっては、二人が上手くいこうが、いくまいがどうでもよかった。

「あーでも」

立ち上がって、口から棒を取り出す。

「相良くん♡ファンクラブ《あっち》には"抜け駆け禁止"ってルールがあるんだっけ?」

妬む側だったヒナキは、今度は妬まれる側になる。

「ファンクラブの隊長さんは、これから大変そうだなぁ」

ヒナキはきっと、それがどういう事かを、嫌ってほど思い知ることになるだろう。

(ワタシの場合、アイツは何もしてくれなかったけど――)

「いくら修平でも、好きな子の"お話"ならちゃんと聞くでしょーよ」

うんうんと、一人納得して頷き、ふっと笑った。

「知らんけど」

呟きと一緒に、アイスの棒をゴミ箱に放り込んだ。


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恋+憧れ=…その真ん中お断り!作者:なぬか
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恋+憧れ=…その真ん中お断り!

放課後の教室。

ピロン――

友人との談笑中、机の上に置かれたスマホが鳴った。

木下マナカからのメッセージ。

相良修平さがら しゅうへいは、片手間にスマホを手にして、画面を開く。

「――は?」

目を見開いた。

「あ? どうしたんだ、修平」

友人の声には応えず、修平はただただ画面を見つめている。

「ちょっと待てよ!......マジかよ、ウソだろ?」

呟きと同時に、慌てて文字を打ち込み――送信。

「修平?」

「ごめん!――オレ、ちょっと......行ってくる!」

椅子を鳴らして立ち上がる。

「あ、おい!」

修平はスマホを握りしめたまま、教室を飛び出して行った。

「......なんだよ、アイツ......」

後に残された友人は、ぽかんとしたまま、修平の背中を見送ることしか出来なかった。


廊下を走りながら、修平は通話をかける。


「......出ろよぉ」

やけに長く感じる呼び出し音に焦れていると――ガチャッ。

繋がった?

「もしもし、マナカ!?お前、今なぁ――」

『留守番電話サービスに――』

「......っ」

舌打ちし、通話を切った。

人のまばらな廊下をひたすら走る。

時々すれ違う女子生徒たちが振り向き、修平の背中を、どこか好意を滲ませた視線で追いかける。

修平は気にすることもなく――
階段を一段飛ばしで下りて、最後は飛ぶように着地。

そのまま、止まらずに走りだす。

「ヤバい......早く、マナカのところに行かなきゃ......」

でないと――

「くっそ......」

奥歯を噛みしめ、修平は放課後の校舎を駆け抜けていった。


鬱蒼とした草木が生い茂り、光の届かないその場所に、マナカはいた。

「......なんつーか、学校の体育館裏に呼び出しって、ベタすぎない?」

「うるさいわね!だいたい、アンタが悪いんでしょ!」

後ろに何人もの女子生徒を従えた、斎藤ヒナキが前に進み出た。

「アンタが相良君とベタベタするから――」

数人の女子生徒たちに囲まれ睨まれ、壁際に追い詰められたマナカは、小さく息を吐く。

(――またか)そう思った時だった。

ピロリン♪

マナカのスマホが鳴った。
画面を見て――ふっと口元が緩む。

電源を切って、マナカはスカートのポケットにスマホをねじ込んだ。

「――アンタ、この状況わかってんの?」

イラだったヒナキが距離を詰める。

「状況......ねぇ」

ヒナキの後ろに控える女子生徒たち。
現クラスメイト。
元クラスメイト。
あとは――知らない顔の後輩たちといったところか。

(よくもまぁ、こんなに集まったな......)

一通り見回してマナカは、口を開く。

「――で、アンタが例の
"相良修平くん♡ファンクラブ"の隊長様ってわけ?」

少し小馬鹿にした態度のマナカに対して、ヒナキは――

「そうよ!」

胸を張って大きく頷いた。

「そんな黒歴史確定な肩書き名乗るの、やめときなー」

「うるさいわね! アンタには関係ないでしょっ!」

(いや現在進行形で迷惑被ってますが?)

「いーい? 私たちはね――」

ヒナキは自らの胸に手をあて、朗々と語りだす。

「無闇に相良くんに近づかない!

 相良くんの邪魔はしない!

 抜け駆けなんてもってのほか――っていう崇高なルールのもとに成り立っているのよ!」

もちろん、それが本人非公式なことを、マナカは知っている。

「抜け駆け――ねぇ」

マナカは揶揄するように呟く。

「それなのに、木下マナカ!」

すぐにヒナキが噛み付いてきた。

「アンタは毎朝、毎朝。見せつけるように、相良くんと登校して――」

「家が隣だからね」

「――一緒にバスに乗って帰宅して――」

「家が隣だからね」

「言い訳するんじゃないわよっ!」

(だって、事実だし......)

マナカは小さくため息を吐いた。

「だったら、アンタの方から誘えばいいじゃん」

「んなっ!?」

マナカの発言に、ヒナキは固まる。

「そ、そそそんなこと――」

焦るヒナキに、マナカはケロリと言い放つ。

「え? 普通にアイツ喜ぶと思うけど?」

「え?」

一瞬、ヒナキの顔が明るくなる――が。

背後に控えた、ファンクラブのメンバーの視線にハッとして、こほんと、わざとらしく咳払いをひとつ。

「と、とにかく――相良君の幼なじみだからって、勝手なことしないでっ!」

びしっと、ヒナキはマナカを指さした。
その瞬間、ファンクラブ一同が声を上げる。

「そうよ!そうよ!」

「二人でつるんでるとこ、よく見かけるし」

「なに? もしかして仲良いアピールのつもり?うざっ」

怒りと嫉妬が入り混じった声で、一斉にマナカを攻撃する。

「家が隣?だったらアンタが、時間ずらして行動しなさいよ!」

ドンッ――。

勢いで進み出て来た誰かが、マナカの胸を強く押した。

「......っ」

よろめいた身体が、そのまま壁に打ち付けられる。

「痛いなー......そんなムチャ言わないでよ」

マナカの苛立った声は、誰にも届かない。

(ほんと......こいつら、めんどくせーな......)

小学校から、何度も繰り返されてきたこの状況に、いい加減マナカはうんざりしていた。

相良修平に向けられる、強い憧れと恋心。

それが強ければ強いほど――

マナカへのあたりは強くなり、静かにすり減っていく。

「何度も言ってるけどさー」

声を張り上げて、マナカは割り込む。

「アンタらの目にアイツがどー映ってるのか知らないけど......"腐れ縁"ってだけでやっかまれんのは......」

そこで、マナカの言葉が途切れた。

彼女たちの背後――

サクッ。

草を踏みしめる音に、マナカを囲んだ全員が振り向く。

「あ......」

ヒナキをはじめ、彼女たちの表情が一瞬で凍りつく。

「......マ、ナカ」

息をきらした修平が、そこにいた。

「おっまぇ......」

修平は何か言いかけて、ゲホッ、と咳き込む。

「さ、相良君が......どうして、ここに」

「あー、さっきワタシが呼んだんだよねぇ」

マナカはスマホを取り出し、電源を入れる。

「あ、やっぱり修平から電話きてた。切ってて正解♪」とマナカは呟いて、スマホを振って見せた。

「――は?」

ヒナキたちは愕然とする。

「まさか、さっきアンタが見てたのって――相良くんからのメッセージだったの?」

「そうだよ。返信早すぎてビックリしたわー」

笑いながらマナカは、動揺が広がる集団の中をすり抜けて行く。

そのまま修平へと歩み寄り――
ようやく息の整った彼の肩にぽん、と手を置いた。

その瞬間。

「ひ、卑怯よ!本人を呼び出すなんてっ!」

「自分じゃどうにも出来ないからって、相良君に頼るなんてありえない!」

「相良君は関係ないでしょ!」

弾かれたように取り乱す彼女たちに、修平はただおろおろするばかり。

「え?え?......なに?」

――しかしマナカは。

「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁ」

突然、がなり声を上げた。

あまりに唐突なその声に、彼女たちはぴたりと黙り込んだ。

「マ......ナカ」

修平までもが、驚きを隠せずにいる。

わずかに訪れた、静寂の中――

「うっさいなぁー」

マナカは片手で、がしがしと乱暴に髪を掻き毟る。

誰もがその様子に、息を飲む。

「ちょっとさぁ......黙っててくんない?」

マナカはゆっくりと周囲を見回し――ヒナキへと視線を定めた。

「......っ」

ヒナキの肩が、小さく跳ねる。

マナカはしばらくじっと見つめ――やがて修平へと目を向ける。

「わかってるよね、修平」

マナカの低い声に、今度は修平の身体がびくりと震えた。

「アンタが今、ここで何をしなきゃいけないのか」

「......っ」

修平は目を見開き、マナカを見る。

続いてヒナキをはじめ、集まった女子生徒たちへと目を向けた。

「で、でも...こ、こんなに大勢の前でなんて......」

「別にいいんだよ」

ちらりと、マナカはヒナキを見る。

「ワタシが代わりに、言ってあげても」

「......それ、は......」

揺らぐ修平の目の中に、ヒナキの姿が映る。

彼女は青ざめた顔で、こちらの様子を窺っていた。

「......あ」

修平は何か言おうと、口をわずかに動かし――引き結ぶ。

マナカは修平の耳元で低くく囁いた。

「一番大切な言葉、ワタシに言われたくないでしょ?」

マナカの言葉に――観念したように修平は小さく頷く。

「わかったら、さっさとケリ付けて」

マナカは吐き捨てるように修平に告げた。

その瞬間――修平に緊張が走る。

「......わ、わかった」

修平は背筋を伸ばし、深く息を吸い込み、細く、長く吐き出した。

「そ、じゃぁ、頑張ってねぇ〜」

マナカは満足そうに――満面の笑みを浮かべる。
軽く手を振り、マナカはその場を後にした。

マナカが校舎の向うに去って行くと、気まずい沈黙が辺りを包み込んだ。

残された女子生徒たちは動揺し、互いに顔を見合わせる。

その中で、ヒナキは一人青い顔をして立っていた。

――どこから、見られていたんだろう。

嫉妬と怒りをマナカにぶつける醜い姿を。
取り繕わなくちゃ。
なにか、言い訳をしないと――

そうしないと。

――嫌われる。

「あー、斎藤......さん?」

突然修平に呼ばれて、ヒナキはビクリと肩を揺らす。

「あ......あの、相良......くん」

靴音を鳴らして、修平はヒナキへと歩み寄る。

周りの女子生徒たちは、まるでヒナキの背中に隠れるように後退した。

「ちょ、ちょっとぉ」

自然と押し出されたヒナキの目の前で、修平は立ち止まる。

「あ......」

ヒナキの目に、じわりと涙が滲んだ。

――おしまいだ。

そう思った時、修平が戸惑いながらも口を開いた。

「......えっと、斎藤さん」

「......」

「オレ......斎藤さんのことが......」

鬱蒼と生い茂る木々を揺らしながら、風が吹き抜けていった。


「おばちゃーん、アイスちょうだーい」

そのまま学校を出たマナカは、近くの駄菓子屋にいた。

店の奥に声を投げ、返事も待たずにケースを開ける。

「ど・れ・に・しようかなー、と」

三種類しか入っていないケースから、棒付きのソーダアイスを選んだ。

代金を払うと、さっそく袋を開ける。

店先のベンチにどかっと腰を下ろし、背もたれに腕をまわす。
足を組んでアイスに齧りついた。

ガリッと音をたてて、大きく一口。

咀嚼して飲み込み――

そこかしこから聞こえてくる、セミの合唱にしばし耳を傾けていた。

「......おわったー......」

抜けるような夏の青空を眺めたまま、マナカは呟く。

「まぁ、ちゃんと修平がヒナキに言えてたら、だけどねー」

(さっさとくっつけばいいのに......)と、ずっとそう思っていた。

「ただの幼なじみだって言っても、だぁれも信じてくんないんだもん――」

(お互い、恋愛感情なんてないのにさ......)

マナカは呟いて、アイスを齧る。

それはほとんど修平のせい――だとマナカは思っている。

修平は――

とにかく、距離が近い。
気安い。
特に、マナカに対しては遠慮がない。

見た目は、良い方だし。
無駄に優しいし、なつっこいから、とにかく女子にモテる。

「別々のクラスになって、やっと離れられたーって思っても、休み時間のたびにくるんだもん」

――マナカの近くが安心する。

そう言って笑う修平に、マナカは口を引きつらせていた。

それもそのはず。
修平がマナカの元にやって来るのは、自分のクラスに馴染めるようになるまでの、ほんの数週間だけだったからだ。

「アイツが自分のクラスに慣れだした頃、ワタシはいつも出遅れて、クラスで孤立してたけどねーあっはっはー」

周囲に誰もいないのをいいことに、空に向かって、マナカは自棄になって笑い飛ばす。

修平に好意を向ける子たちからやっかまれることは、今までにもよくあった。

――ひどい目に遭わされたことも。

けれどいくら相談しても、修平は助けてくれなかった。

「え? オレのファンクラブ? そんなのあるわけないじゃん」

「一緒にいると、誤解される? そんなわけないじゃん、オレら別にそういう関係じゃないし」

ガリッ――

あははーと笑う気楽な修平を思い出し、マナカは苦々しくアイスを噛み砕く。

「お前はそれでノーダメでも、こっちはダメージでかいんだよっ!」

膝の上に拳を振り下ろす。

反動で、アイスの雫が地面に飛び散った。

少し落ち着いて、息を吐く。

――修平は頼りにならない。

だから、自分でなんとかしようと思った。

どんな手段を使ってでも――

そう考えていたところに、

修平の片思いの相手がヒナキだと知った。

使える――とマナカは思った。

修平が好きなのは、マナカではない。
そのことを、周知さえさせれば――

理不尽に向けられ続ける、嫉妬や嫌悪。
やっかみ、悪意ある言葉。
――その全てから、解放されると思ったから。

さきほどの――慌ててやってきた修平の姿を、マナカは思い浮かべる。

「さぁて、アイツはちゃんと斎藤さんに好きだって、言えたかなぁ」

ふと見た、食べ終わったアイスの棒。

「ちぇ、ハズレだったかぁー」

マナカは顔を顰めて立ち上がり、軽く伸びをする。

「ま、あそこで言えなかったら、ワタシがかわりにバラしちゃうぞって修平には言ってあるし――」

『告白出来るチャンスだよー』

修平に送ったメッセージ。
その一言が、合図。
とにかくこの状況を終わらせたくて、無理矢理修平に取り付けた約束。

食べ終わったアイスの棒を咥えて弄ぶ。

マナカにとっては、二人が上手くいこうが、いくまいがどうでもよかった。

「あーでも」

立ち上がって、口から棒を取り出す。

「相良くん♡ファンクラブ《あっち》には"抜け駆け禁止"ってルールがあるんだっけ?」

妬む側だったヒナキは、今度は妬まれる側になる。

「ファンクラブの隊長さんは、これから大変そうだなぁ」

ヒナキはきっと、それがどういう事かを、嫌ってほど思い知ることになるだろう。

(ワタシの場合、アイツは何もしてくれなかったけど――)

「いくら修平でも、好きな子の"お話"ならちゃんと聞くでしょーよ」

うんうんと、一人納得して頷き、ふっと笑った。

「知らんけど」

呟きと一緒に、アイスの棒をゴミ箱に放り込んだ。


fin
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恋+憧れ=…その真ん中お断り!作者:なぬか
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