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出逢えた奇跡2

 何故、早く教えてくれなかったのだろう。自分勝手な思いが募っていく。

「ミユ、なんで教えてくれなかったのさ」

 口をついて出ていた。

「だって、言う必要はないって思ったし、クラウだって教えてくれなかったし」

「それは......そうだけどさ」

 俺も教える必要はないと思っていたのだ。ミユを責めるのは間違っている。
 今にして思えば、リエルには不審な所があったのだ。俺に話しかけてくる時には、周りには誰もいなかった。リエルの声が俺だけではなく、他者にも聞こえると分かっていたのかもしれない。
 すぐに相談してくれてさえいれば、ゆっくりと二人で話をさせてあげられたのかもしれないのに。百年前の自分のことながら『馬鹿だな』と思う。
 と、呑気に会話をしている場合ではなかった。ここは戦場なのだ。感動的な再会も、奴には通用しない。

「しぶとい奴だ! また殺られに来たのか!?」

 何度目かの闇の球がこちら目がけて迫りくる。慌てて氷の壁をそそり立たせ、なんとか防いだ。

「邪魔をするな!」

 この機を逃せば、会話なんて出来ないのかもしれないのだ。この時が、俺の考えが変わった瞬間だったのかもしれない。
 臆することなく、カノンも声を張る。

“殺されに来た筈がないでしょ!? 私、身体ないから殺られないもん!”

 ミユの怯えた表情からは想像も出来ない。荒々しく言い返す。なのに、何だか気が抜けてしまうのは俺だけだろうか。
 これだけではカノンの勢いは止まらない。

“それに、ミユも殺させないもん! 私、頑張ってチキュウに行ったんだから!”

 カノンの口調が強まるにつれてミユの瞳は潤み、感情の粒が零れ落ちる。身体も小さく震えているようだ。

“世界を、時を超えてでも、早くリエルに逢って謝りたかったの! くだらないなんて言わせないんだから! 千年も生まれ変われないなんて......知らなかったけど......”

 そんな。言葉が出て来ない。
 『チキュウ』――恐らく、ミユが生まれ育った異世界の名だろう。では、彼女は俺のために異世界へ移動し、生まれ変わってくれたと言うのだろうか。スティアでの千年を百年に短縮することが出来るから。
 ミユと出逢えた奇跡を起こしてくれたのは、カノンとミユだったのだ。本当に苦しんできたのは俺ではない。彼女たちの方ではないか。一気にミユの身体を強く抱き締めた。誰にも邪魔はさせまいと、氷の障壁も張り巡らせる。

「ミユ」

“カノン”

 ミユは声を上げて泣きじゃくっていた。
 俺の瞳からも涙が零れる。悲しみのせいではない。感動の雫だ。

“カノンが謝ることはないよ。謝らなきゃいけないのは、俺の方だから......”

「ごめん」

“ごめん”

 何も出来ずに死なせてしまった挙げ句、苦心まで背負わせてしまって。こんなにも俺のことを考え、世界をも超越し、俺の苦しみの時間を十分の一にまで減らしてくれたのに。最悪、孤独が千年も続こうものならば、俺は転生することさえ止めていたかもしれない。
 それなのに、ミユは髪が乱れる程に首を振り、切なげな瞳で俺を見上げる。

“何で謝るの!? 酷いことをしたのは私なのに......!”

 カノンの言葉に同調し、ミユは何度か頷いた。

「ごめんね」

“ごめんね”

 酷いことをされた覚えなんて何もない。それを伝えるために首を軽く振る。今まで背負ってきた重荷がすうっと取り除かれていくようだ。
 轟音が鳴り響き、氷の障壁が崩れ去る。その向こう側には、苛立ちを隠さない奴が立っていた。

「くだらないものをくだらないと言って何が悪い! 早く消え去れ!」

「話はまだ終わってない!」

 叫ぶと、再び氷を周囲に張り巡らせる。
 奴は本気だ。俺一人が魔法で立ち向かって敵う相手ではない。いつミユの体力が尽きてしまうかも分からない。四人揃って生還するなんて甘い考えは捨てよう。
 懐にしまってある『解呪の剣』に思いを馳せ、深く息を吸い込んだ。それを引き抜けば、もう後戻りは出来ない。生還なんていう言葉はない。

「リエル。手伝って」

“やるの?”

「うん」

“......そっか”

 リエルにだけ通じるように、端的に会話を終わらせる。明日以降はもう見ることも叶わないミユに、もう大丈夫だからと再び笑顔を向けた。そんな俺に、ミユは首を傾げるばかりだ。俺にも笑顔を向けて欲しかったのだが、この状況では仕方がない。
 さあ、希望への橋を架けよう。まずはミユから神の玉を奪い取らなくては。

「ミユ、神様に何か貰わなかった?」

「羽根の事? それなら、さっきルイスに......」

「違うよ。なんて言ったら伝わるかな。......そうだ、ビー玉みたいな石」

「えっ?」

 直接「神様に魔法の玉を貰わなかった?」とは聞けなかった。
 すぐに察しがついたのだろう。ミユは訝りながらも懐に片手を伸ばし、目当ての物を探り当てたようだ。

「ひゃっ」

 彼女の小さな悲鳴が漏れると同時に、手のひらには淡く緑に発光する玉が乗せられていた。光を放っているということは、地の魔力が十分に蓄えられた証拠だろうか。
 いや、考えていても仕方がない。発光体を見詰めたまま、そっと口を開いた。

「ミユ」

 こんなの、絶対に卑怯だ。それでも──。

「愛してる」

 想いを伝えずにはいられなかった。強引に唇を重ね、思考が停止したであろうミユの手から玉を奪い取る。この時間が永遠に続けば良いのに。そんな風に思ってしまう。
 次の瞬間には、氷の壁は消し飛んでいた。目も開けていられない程の爆風が吹き荒れる。
 攻防を繰り広げた花畑は、もはや花畑ではなく荒野になり果てていた。その先に立つ奴を目で捉え、離さない。

「お前は俺が殺す。ミユは殺させない」

「勝手に息巻けば良い。私を殺せばミユは死ぬぞ?」

「まだ決まった訳じゃない」

「何を根拠に」

 根拠はある。ただ、口には出来ないだけで。勝手に鼻で笑っていれば良い。

「ミユ、下がってて。あいつの相手は俺がする」

「えっ? でも――」

「良いから」

 ミユが巻き込まれれば一巻の終わりだ。それだけは避けなくてはいけない。

“ミユ、行こう”

 カノンの囁きが聞こえると、ミユは徐々にではあるが後退を始めた。カノンがやっているのだろう。でも、それで良い。

「良い度胸だな。絶対に君は死ぬぞ」

「それは覚悟のうえだ」

 そんなことは言われなくても分かっている。

“俺も死ぬ気で行くから”

「あはは......。もう死んでるじゃん」

“だから、『つもり』だって”

 まだリエルと冗談を言い合える余裕があるとは。
 風が俺たちのマントを靡かせる。その静けさの中で、一歩を踏み出した。

「うわあぁぁ!」

 咆哮は共鳴し、空気を震撼させる。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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出逢えた奇跡2

 何故、早く教えてくれなかったのだろう。自分勝手な思いが募っていく。

「ミユ、なんで教えてくれなかったのさ」

 口をついて出ていた。

「だって、言う必要はないって思ったし、クラウだって教えてくれなかったし」

「それは......そうだけどさ」

 俺も教える必要はないと思っていたのだ。ミユを責めるのは間違っている。
 今にして思えば、リエルには不審な所があったのだ。俺に話しかけてくる時には、周りには誰もいなかった。リエルの声が俺だけではなく、他者にも聞こえると分かっていたのかもしれない。
 すぐに相談してくれてさえいれば、ゆっくりと二人で話をさせてあげられたのかもしれないのに。百年前の自分のことながら『馬鹿だな』と思う。
 と、呑気に会話をしている場合ではなかった。ここは戦場なのだ。感動的な再会も、奴には通用しない。

「しぶとい奴だ! また殺られに来たのか!?」

 何度目かの闇の球がこちら目がけて迫りくる。慌てて氷の壁をそそり立たせ、なんとか防いだ。

「邪魔をするな!」

 この機を逃せば、会話なんて出来ないのかもしれないのだ。この時が、俺の考えが変わった瞬間だったのかもしれない。
 臆することなく、カノンも声を張る。

“殺されに来た筈がないでしょ!? 私、身体ないから殺られないもん!”

 ミユの怯えた表情からは想像も出来ない。荒々しく言い返す。なのに、何だか気が抜けてしまうのは俺だけだろうか。
 これだけではカノンの勢いは止まらない。

“それに、ミユも殺させないもん! 私、頑張ってチキュウに行ったんだから!”

 カノンの口調が強まるにつれてミユの瞳は潤み、感情の粒が零れ落ちる。身体も小さく震えているようだ。

“世界を、時を超えてでも、早くリエルに逢って謝りたかったの! くだらないなんて言わせないんだから! 千年も生まれ変われないなんて......知らなかったけど......”

 そんな。言葉が出て来ない。
 『チキュウ』――恐らく、ミユが生まれ育った異世界の名だろう。では、彼女は俺のために異世界へ移動し、生まれ変わってくれたと言うのだろうか。スティアでの千年を百年に短縮することが出来るから。
 ミユと出逢えた奇跡を起こしてくれたのは、カノンとミユだったのだ。本当に苦しんできたのは俺ではない。彼女たちの方ではないか。一気にミユの身体を強く抱き締めた。誰にも邪魔はさせまいと、氷の障壁も張り巡らせる。

「ミユ」

“カノン”

 ミユは声を上げて泣きじゃくっていた。
 俺の瞳からも涙が零れる。悲しみのせいではない。感動の雫だ。

“カノンが謝ることはないよ。謝らなきゃいけないのは、俺の方だから......”

「ごめん」

“ごめん”

 何も出来ずに死なせてしまった挙げ句、苦心まで背負わせてしまって。こんなにも俺のことを考え、世界をも超越し、俺の苦しみの時間を十分の一にまで減らしてくれたのに。最悪、孤独が千年も続こうものならば、俺は転生することさえ止めていたかもしれない。
 それなのに、ミユは髪が乱れる程に首を振り、切なげな瞳で俺を見上げる。

“何で謝るの!? 酷いことをしたのは私なのに......!”

 カノンの言葉に同調し、ミユは何度か頷いた。

「ごめんね」

“ごめんね”

 酷いことをされた覚えなんて何もない。それを伝えるために首を軽く振る。今まで背負ってきた重荷がすうっと取り除かれていくようだ。
 轟音が鳴り響き、氷の障壁が崩れ去る。その向こう側には、苛立ちを隠さない奴が立っていた。

「くだらないものをくだらないと言って何が悪い! 早く消え去れ!」

「話はまだ終わってない!」

 叫ぶと、再び氷を周囲に張り巡らせる。
 奴は本気だ。俺一人が魔法で立ち向かって敵う相手ではない。いつミユの体力が尽きてしまうかも分からない。四人揃って生還するなんて甘い考えは捨てよう。
 懐にしまってある『解呪の剣』に思いを馳せ、深く息を吸い込んだ。それを引き抜けば、もう後戻りは出来ない。生還なんていう言葉はない。

「リエル。手伝って」

“やるの?”

「うん」

“......そっか”

 リエルにだけ通じるように、端的に会話を終わらせる。明日以降はもう見ることも叶わないミユに、もう大丈夫だからと再び笑顔を向けた。そんな俺に、ミユは首を傾げるばかりだ。俺にも笑顔を向けて欲しかったのだが、この状況では仕方がない。
 さあ、希望への橋を架けよう。まずはミユから神の玉を奪い取らなくては。

「ミユ、神様に何か貰わなかった?」

「羽根の事? それなら、さっきルイスに......」

「違うよ。なんて言ったら伝わるかな。......そうだ、ビー玉みたいな石」

「えっ?」

 直接「神様に魔法の玉を貰わなかった?」とは聞けなかった。
 すぐに察しがついたのだろう。ミユは訝りながらも懐に片手を伸ばし、目当ての物を探り当てたようだ。

「ひゃっ」

 彼女の小さな悲鳴が漏れると同時に、手のひらには淡く緑に発光する玉が乗せられていた。光を放っているということは、地の魔力が十分に蓄えられた証拠だろうか。
 いや、考えていても仕方がない。発光体を見詰めたまま、そっと口を開いた。

「ミユ」

 こんなの、絶対に卑怯だ。それでも──。

「愛してる」

 想いを伝えずにはいられなかった。強引に唇を重ね、思考が停止したであろうミユの手から玉を奪い取る。この時間が永遠に続けば良いのに。そんな風に思ってしまう。
 次の瞬間には、氷の壁は消し飛んでいた。目も開けていられない程の爆風が吹き荒れる。
 攻防を繰り広げた花畑は、もはや花畑ではなく荒野になり果てていた。その先に立つ奴を目で捉え、離さない。

「お前は俺が殺す。ミユは殺させない」

「勝手に息巻けば良い。私を殺せばミユは死ぬぞ?」

「まだ決まった訳じゃない」

「何を根拠に」

 根拠はある。ただ、口には出来ないだけで。勝手に鼻で笑っていれば良い。

「ミユ、下がってて。あいつの相手は俺がする」

「えっ? でも――」

「良いから」

 ミユが巻き込まれれば一巻の終わりだ。それだけは避けなくてはいけない。

“ミユ、行こう”

 カノンの囁きが聞こえると、ミユは徐々にではあるが後退を始めた。カノンがやっているのだろう。でも、それで良い。

「良い度胸だな。絶対に君は死ぬぞ」

「それは覚悟のうえだ」

 そんなことは言われなくても分かっている。

“俺も死ぬ気で行くから”

「あはは......。もう死んでるじゃん」

“だから、『つもり』だって”

 まだリエルと冗談を言い合える余裕があるとは。
 風が俺たちのマントを靡かせる。その静けさの中で、一歩を踏み出した。

「うわあぁぁ!」

 咆哮は共鳴し、空気を震撼させる。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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