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タイムリミット1

 ダイヤに戻るなり、クラウとアレクを置いて、フレアと二人で急いで自室へと向かう。理由は勿論、身に着けているコルセットを外すためだ。廊下にいつもよりも少しだけ乱雑な足音が響く。

「苦しいよ~......」

 部屋へ辿り着いて窓を見てみれば、すっかり日は沈んでいた。――丸一日経ってしまったなんて。
 フレアが部屋のドアを閉めると、二人で部屋の中央へ崩れるようにうずくまる。

「早くコルセット脱がせて~」

「分かってる。もうすぐだよ」

 フレアの手がスルスルと背中の紐を緩めていく。呼吸がだいぶ楽になる。

「はあ〜っ」

 大きな息まで漏れてしまった。コルセットを取ると、早速、着慣れた白い衣装に着替える。

「ミユ、今度はあたしのコルセット脱がせて?」

「あっ、うん!」

 フレアがしてくれたように、私も彼女の背中の紐に手を掛けた。そこでふと思う。

「ねえ、フレア」

「何?」

 フレアは不思議そうに振り返る。

「着替え、大丈夫?」

「ああ、それならそこにあるよ」

 フレアはベッドを指差す。その上には確かに白い衣服が畳まれていた。

「いつの間に持ってきたの? 私、全然気づかなかったよ〜」

「こんなこともあるかなって思って、一応、ね。役に立って良かった」

 感心しつつも、止まっていた手を動かす。コルセットの紐を解くと、フレアはゆったりとベッドへ向かう。早速着替え終えると、指を鳴らして髪まで元通りにしてしまった。

「フレア、お願いがあるんだけど......」

「何?」

 もじもじしながらフレアを見上げる。

「私の髪も元に戻して欲しいんだ〜。私、自分で指鳴らせないの」

「えっ? 仕方ないなぁ」

 そんな台詞のわりに嫌がる素振りはみせず、フレアはにこりと笑い、一度だけ指を鳴らした。まとまっていた髪がみるみるうちに解け、いつも通りのストレートヘアへ戻っていく。

「さあ、会議室に行こっか。きっとアレクとクラウが待ってるから」

「うん」

 大きく頷き、ドアを開けて部屋を出るフレアに続く。
 廊下は蝋燭に柔らかく照らされ、温かな雰囲気を醸し出している。真新しいように見えるこの建物が、実は何千年も──ひょっとすると何万年も前に建てられた建物だなんて。
 早足で歩くフレアに置いていかれないように、廊下を眺めながら懸命に歩く。

「ミユ」

 不意にフレアが私の名を呼んだ。前を歩くフレアからは見えないだろうけれど、首を傾げてみせる。

「何~?」

「あたし、神様の分身だなんて、まだ少し信じられない。神様のあんな姿見たのにね」

「......私も信じられないよ」

 呟くと、見えない空に思いを馳せて、天を仰いだ。
 数ヶ月前にスティアへ来るまで、私はどこにでもいる普通の女子高生だった。それが何の予感もなく、いきなりスティアの魔導師として転移させられた。前世を思い出して、呪いが復活し、恋をして、敵とも戦った。しかも、その異世界の神の分身だなんて。人間ではないなんて。考えるだけで気が遠くなる。冷静になると、ことの重大性に気づかされる。
 考えごとをしていたから、フレアの足が止まったのにも気づかずに、思い切り背中にぶつかってしまった。よろめきながら体勢を整える。

「フレア、ごめんね」

「気にしないで。じゃあ、扉開けるね」

 こくりと頷くと、扉の蝶番の軋む音が響く。フレアの肩越しに中の様子を窺うと、クラウとアレクは既に指定席へ座っていた。二人とも着替えを済ませ、穏やかな顔でこちらを見ている。

「おっ。遅かったなー」

「女の子は時間がかかるの」

「悪ぃ。ま、オマエらも座れよ」

 アレクの言葉に誘われるまま、私たちもいつもの席へと着く。
 椅子の動く音が止むと、アレクは私たち三人の顔を順番に眺める。腕を組み、大きな溜め息を吐き出す。先程までの笑顔はどこへいったのか、真剣さを帯びた表情で話し出した。

「七日後にそれぞれの塔に来いってことは、正味六日だろ? オマエらは残された時間で何がしたい? どこにいたい?」

 パッと思い浮かんだのは、やはり皆と一緒にいたい、だ。いつもみたいに馬鹿なことをして、楽しい思い出を作りたい。勿論、クラウと二人だけで過ごす時間も欲しい。
 それに、アリアともきちんと話がしたい。魔導師がいなくなるということは、使い魔という存在だってなくなるだろう。
 正味六日なんて、時間がまるで足りない。「う~ん」と唸りながら悩んでいると、クラウが口を開いた。

「俺は一回サファイアに帰りたいよ。カイルのことも気がかりだし。だけど、皆との思い出も作りたい。前半三日はそれぞれの国、後半三日はダイヤで過ごすのが良いんじゃないかな」

「あたしは賛成だよ」

「......うん、私も」

 そうだ。そうすればアリアとも、魔導師の皆とも、平等に思い出作りが出来る。限られた時間は有効活用しなくては。
 私たちの様子を見たアレクは「よし!」と言って満足げな笑みを浮かべる。

「オレも賛成だ。決まりだな! じゃ、こんな時間になっちまったし、夕飯の準備してきてやる。ちょっと待ってろ」

 アレクは勢い良く立ち上がると、乱暴に扉を開けて会議室を出ていってしまった。
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タイムリミット2
神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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タイムリミット1

 ダイヤに戻るなり、クラウとアレクを置いて、フレアと二人で急いで自室へと向かう。理由は勿論、身に着けているコルセットを外すためだ。廊下にいつもよりも少しだけ乱雑な足音が響く。

「苦しいよ~......」

 部屋へ辿り着いて窓を見てみれば、すっかり日は沈んでいた。――丸一日経ってしまったなんて。
 フレアが部屋のドアを閉めると、二人で部屋の中央へ崩れるようにうずくまる。

「早くコルセット脱がせて~」

「分かってる。もうすぐだよ」

 フレアの手がスルスルと背中の紐を緩めていく。呼吸がだいぶ楽になる。

「はあ〜っ」

 大きな息まで漏れてしまった。コルセットを取ると、早速、着慣れた白い衣装に着替える。

「ミユ、今度はあたしのコルセット脱がせて?」

「あっ、うん!」

 フレアがしてくれたように、私も彼女の背中の紐に手を掛けた。そこでふと思う。

「ねえ、フレア」

「何?」

 フレアは不思議そうに振り返る。

「着替え、大丈夫?」

「ああ、それならそこにあるよ」

 フレアはベッドを指差す。その上には確かに白い衣服が畳まれていた。

「いつの間に持ってきたの? 私、全然気づかなかったよ〜」

「こんなこともあるかなって思って、一応、ね。役に立って良かった」

 感心しつつも、止まっていた手を動かす。コルセットの紐を解くと、フレアはゆったりとベッドへ向かう。早速着替え終えると、指を鳴らして髪まで元通りにしてしまった。

「フレア、お願いがあるんだけど......」

「何?」

 もじもじしながらフレアを見上げる。

「私の髪も元に戻して欲しいんだ〜。私、自分で指鳴らせないの」

「えっ? 仕方ないなぁ」

 そんな台詞のわりに嫌がる素振りはみせず、フレアはにこりと笑い、一度だけ指を鳴らした。まとまっていた髪がみるみるうちに解け、いつも通りのストレートヘアへ戻っていく。

「さあ、会議室に行こっか。きっとアレクとクラウが待ってるから」

「うん」

 大きく頷き、ドアを開けて部屋を出るフレアに続く。
 廊下は蝋燭に柔らかく照らされ、温かな雰囲気を醸し出している。真新しいように見えるこの建物が、実は何千年も──ひょっとすると何万年も前に建てられた建物だなんて。
 早足で歩くフレアに置いていかれないように、廊下を眺めながら懸命に歩く。

「ミユ」

 不意にフレアが私の名を呼んだ。前を歩くフレアからは見えないだろうけれど、首を傾げてみせる。

「何~?」

「あたし、神様の分身だなんて、まだ少し信じられない。神様のあんな姿見たのにね」

「......私も信じられないよ」

 呟くと、見えない空に思いを馳せて、天を仰いだ。
 数ヶ月前にスティアへ来るまで、私はどこにでもいる普通の女子高生だった。それが何の予感もなく、いきなりスティアの魔導師として転移させられた。前世を思い出して、呪いが復活し、恋をして、敵とも戦った。しかも、その異世界の神の分身だなんて。人間ではないなんて。考えるだけで気が遠くなる。冷静になると、ことの重大性に気づかされる。
 考えごとをしていたから、フレアの足が止まったのにも気づかずに、思い切り背中にぶつかってしまった。よろめきながら体勢を整える。

「フレア、ごめんね」

「気にしないで。じゃあ、扉開けるね」

 こくりと頷くと、扉の蝶番の軋む音が響く。フレアの肩越しに中の様子を窺うと、クラウとアレクは既に指定席へ座っていた。二人とも着替えを済ませ、穏やかな顔でこちらを見ている。

「おっ。遅かったなー」

「女の子は時間がかかるの」

「悪ぃ。ま、オマエらも座れよ」

 アレクの言葉に誘われるまま、私たちもいつもの席へと着く。
 椅子の動く音が止むと、アレクは私たち三人の顔を順番に眺める。腕を組み、大きな溜め息を吐き出す。先程までの笑顔はどこへいったのか、真剣さを帯びた表情で話し出した。

「七日後にそれぞれの塔に来いってことは、正味六日だろ? オマエらは残された時間で何がしたい? どこにいたい?」

 パッと思い浮かんだのは、やはり皆と一緒にいたい、だ。いつもみたいに馬鹿なことをして、楽しい思い出を作りたい。勿論、クラウと二人だけで過ごす時間も欲しい。
 それに、アリアともきちんと話がしたい。魔導師がいなくなるということは、使い魔という存在だってなくなるだろう。
 正味六日なんて、時間がまるで足りない。「う~ん」と唸りながら悩んでいると、クラウが口を開いた。

「俺は一回サファイアに帰りたいよ。カイルのことも気がかりだし。だけど、皆との思い出も作りたい。前半三日はそれぞれの国、後半三日はダイヤで過ごすのが良いんじゃないかな」

「あたしは賛成だよ」

「......うん、私も」

 そうだ。そうすればアリアとも、魔導師の皆とも、平等に思い出作りが出来る。限られた時間は有効活用しなくては。
 私たちの様子を見たアレクは「よし!」と言って満足げな笑みを浮かべる。

「オレも賛成だ。決まりだな! じゃ、こんな時間になっちまったし、夕飯の準備してきてやる。ちょっと待ってろ」

 アレクは勢い良く立ち上がると、乱暴に扉を開けて会議室を出ていってしまった。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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