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崩壊への道(中編)1

 俺たちは諦めなかった。たとえ何度ワープされようとも、追いつける時が来る筈だと信じて。サファイア、エメラルド、トパーズ、ガーネット――四大陸を駆け回る。津波が到来した地域では建物が波にさらわれ、生き残った人々が途方に暮れていた。それを横目に、影を探す。救助を申し入れたとして、泣きつかれるのは目に見えていた。だから、人目を避け、物の影に身を潜めた。
 サファイアだけではない。エメラルドやトパーズでは建物が崩れ、木々がなぎ倒されていた。ガーネットでも、火山灰が堆積し、視界も悪い。更に熱波が吹き荒れる。
 奴を追ってから三日経った日、ガーネットで探索を行おうとしていたところで、とうとう限界が来てしまった。
 砂漠に火山灰が積もり、足は掬われる。焼けつくような暑さに、氷点下で生きてきた俺が耐えられる筈もない。咄嗟にハンカチで口を覆ったが、ふらつく頭を支えきれずに膝をついてしまった。

「リエル! カイル!」

「ごめん、先にダイヤに戻るよ」

 息も絶え絶えに、ダイヤの会議室へとワープした。俺の隣には、カイルも到着する。これでは影を追うどころではない。別の方法を模索しなくては。

「リエル様、どうしましょう......」
 
 カイルへの返答が思いつかない。噴き出す汗を拭いながら、荒い呼吸を繰り返す。そうしている間にも、他の仲間たちが戻ってきたようだ。

「大丈夫?」

「今回は流石にキツかった......」

 被災地に赴くのは、体力を使うばかりではない。精神面も磨り減っていく。
 誰も席には着こうとせずに、床に座り込んだままで八人全員が顔を合わせる。

「これからどーする? このままじゃマズいだろ」

 一番に口を開いたのは、やはりヴィクトだった。
 無闇に影を追ったのでは、いつまで経っても追いつけない。それどころか、俺たちが傷付いていくだけだ。それならば――。

「影を追うんじゃなくて、待ち構えるのは?」

「どーやってだ?」

「どこかに留まって、影がどう出るのかを見るのはどうかな」

 それならば体力も消費しないし、必要以上に傷付いた世界を見なくても良い。

「それじゃー、時間を無駄にしちまうだろ」

 ヴィクトは不満そうだが、影を追った方が時間の無駄だと思うのだ。
 そこへ、意外な人物が口を開く。

「やってみよう?」

「いや、他の方法は――」

「無いよ」

 アイリスがヴィクトの意見を否定するのは珍しい。

「自己顕示欲が強いなら、このままあたしたちを黙って殺すようなことはしない。ダイヤじゃないどこか......トパーズかエメラルドで待ち構えるのが良いと思う」

 俺もアイリスに賛成だ。サファイアは寒すぎるし、ガーネットは暑すぎる。トパーズかエメラルドならば過ごしやすい気温だ。脱落者を出さずに済むだろう。

「影を待ってる間は、俺たちも体力を温存出来る。一石二鳥だよ」

「仕方ねぇ、やるだけやってみるか。竜巻が来るトパーズよりも、エメラルドの方が逃げ場はある。それでも駄目だったら、ワープでダイヤに逃げる。明日からだ。オマエら、文句はねーな?」

 ヴィクトの問いに、七人で大きく頷いた。

 * * *

 終末の世界を見せられて、痛感した。俺たちはなんて無力なのだろうと。いつ俺たちが命を落としてもおかしくはない。
 悩んだ末に、辿り着いた。想いも伝えずに死ぬ訳にはいかない。せめて『好き』の一言だけでもカノンに伝えておきたい。
 いつか渡せる時が来たら。そう思っていたが、死が現実味を帯びる中で『いつか』なんてないのだと悟った。
 皆が寝静まった夜更けにベッドから抜け出し、瞼を閉じる。目的を果たしたら、すぐに戻ってくるつもりだ。
 たった一人でサファイアの自室へとワープし、引き出しにしまってあった結婚指輪を取り出す。その瞬間、殺気に満ちた気配を感じた気がした。

「えっ!?」
 
 驚き、振り返ってみたが、誰もいない。ただの俺の勘違いだったのだろうか。いや、あれ程までに強烈な殺気は間違える訳がない。
 もしや、影がまたダイヤに向かったのでは。嫌な予感がし、トンボ帰りをする。慌てて廊下へと飛び出し、耳を澄ませた。
 誰も声を上げていない。ましてや、虫が鳴く音もしない。
 怖くなってしまい、各々の部屋を開けて確認した。カノンはすぅすぅと寝息を立てているし、アイリスは人形のように安らかに眠っている。ヴィクトなんて、大の字でいびきをかいていた。
 嵐の前の静けさ――決戦が近付いている。そう、予感させた。

 * * *

 エメラルドの地形に精通したアリアが導き出した場所は、開けた草原だった。前方には地震の影響か、茶色く濁ってしまった巨大な湖がある。湖畔には大木が何本も打ち上げられている。揺れに耐えきれずに倒れたのだろう。更に奥には山々がそびえており、近くではせせらぎも聞こえる。川があるのだろうか。
 皆が湖の方を見渡す中で、アリアは声を張る。

「ここなら地震が来ても倒れる物はないですし、食料もあります。水が濁っているのは計算外でしたが......そこはリエル様とカイルに頼りましょう」

「アリア、ありがとな」

 ヴィクトは珍しく穏やかに微笑んだ。カノンとアイリスの表情も落ち着いている。まるで、影との戦いが終わった後のような心境だ。
 一方で、使い魔たちは警戒の手を緩めたりはしない。

「今、影はトパーズにいますね」

「エメラルドに来たのは間違いだったか?」

「いえ、きっとここに来る筈です」

 ロイは確信に満ちた表情で、キッパリと言い切ってみせる。

「とにかく、魔導師の皆さんは、今のうちに休んで下さい。影は私たちが監視していますから」

 奴の呼び名はすっかり『影』と定着していた。
 ここは素直に、使い魔たちに甘えてしまおう。ヴィクト、そしてアイリスが湖へと背を向け、草原の中央へと向かう。俺とカノンもその後を追った。
 ふと、空を見上げてみると、雲一つない澄んだ水色が広がっている。世界の異変など、どうでもいいと言っているかのようだった。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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崩壊への道(中編)1

 俺たちは諦めなかった。たとえ何度ワープされようとも、追いつける時が来る筈だと信じて。サファイア、エメラルド、トパーズ、ガーネット――四大陸を駆け回る。津波が到来した地域では建物が波にさらわれ、生き残った人々が途方に暮れていた。それを横目に、影を探す。救助を申し入れたとして、泣きつかれるのは目に見えていた。だから、人目を避け、物の影に身を潜めた。
 サファイアだけではない。エメラルドやトパーズでは建物が崩れ、木々がなぎ倒されていた。ガーネットでも、火山灰が堆積し、視界も悪い。更に熱波が吹き荒れる。
 奴を追ってから三日経った日、ガーネットで探索を行おうとしていたところで、とうとう限界が来てしまった。
 砂漠に火山灰が積もり、足は掬われる。焼けつくような暑さに、氷点下で生きてきた俺が耐えられる筈もない。咄嗟にハンカチで口を覆ったが、ふらつく頭を支えきれずに膝をついてしまった。

「リエル! カイル!」

「ごめん、先にダイヤに戻るよ」

 息も絶え絶えに、ダイヤの会議室へとワープした。俺の隣には、カイルも到着する。これでは影を追うどころではない。別の方法を模索しなくては。

「リエル様、どうしましょう......」
 
 カイルへの返答が思いつかない。噴き出す汗を拭いながら、荒い呼吸を繰り返す。そうしている間にも、他の仲間たちが戻ってきたようだ。

「大丈夫?」

「今回は流石にキツかった......」

 被災地に赴くのは、体力を使うばかりではない。精神面も磨り減っていく。
 誰も席には着こうとせずに、床に座り込んだままで八人全員が顔を合わせる。

「これからどーする? このままじゃマズいだろ」

 一番に口を開いたのは、やはりヴィクトだった。
 無闇に影を追ったのでは、いつまで経っても追いつけない。それどころか、俺たちが傷付いていくだけだ。それならば――。

「影を追うんじゃなくて、待ち構えるのは?」

「どーやってだ?」

「どこかに留まって、影がどう出るのかを見るのはどうかな」

 それならば体力も消費しないし、必要以上に傷付いた世界を見なくても良い。

「それじゃー、時間を無駄にしちまうだろ」

 ヴィクトは不満そうだが、影を追った方が時間の無駄だと思うのだ。
 そこへ、意外な人物が口を開く。

「やってみよう?」

「いや、他の方法は――」

「無いよ」

 アイリスがヴィクトの意見を否定するのは珍しい。

「自己顕示欲が強いなら、このままあたしたちを黙って殺すようなことはしない。ダイヤじゃないどこか......トパーズかエメラルドで待ち構えるのが良いと思う」

 俺もアイリスに賛成だ。サファイアは寒すぎるし、ガーネットは暑すぎる。トパーズかエメラルドならば過ごしやすい気温だ。脱落者を出さずに済むだろう。

「影を待ってる間は、俺たちも体力を温存出来る。一石二鳥だよ」

「仕方ねぇ、やるだけやってみるか。竜巻が来るトパーズよりも、エメラルドの方が逃げ場はある。それでも駄目だったら、ワープでダイヤに逃げる。明日からだ。オマエら、文句はねーな?」

 ヴィクトの問いに、七人で大きく頷いた。

 * * *

 終末の世界を見せられて、痛感した。俺たちはなんて無力なのだろうと。いつ俺たちが命を落としてもおかしくはない。
 悩んだ末に、辿り着いた。想いも伝えずに死ぬ訳にはいかない。せめて『好き』の一言だけでもカノンに伝えておきたい。
 いつか渡せる時が来たら。そう思っていたが、死が現実味を帯びる中で『いつか』なんてないのだと悟った。
 皆が寝静まった夜更けにベッドから抜け出し、瞼を閉じる。目的を果たしたら、すぐに戻ってくるつもりだ。
 たった一人でサファイアの自室へとワープし、引き出しにしまってあった結婚指輪を取り出す。その瞬間、殺気に満ちた気配を感じた気がした。

「えっ!?」
 
 驚き、振り返ってみたが、誰もいない。ただの俺の勘違いだったのだろうか。いや、あれ程までに強烈な殺気は間違える訳がない。
 もしや、影がまたダイヤに向かったのでは。嫌な予感がし、トンボ帰りをする。慌てて廊下へと飛び出し、耳を澄ませた。
 誰も声を上げていない。ましてや、虫が鳴く音もしない。
 怖くなってしまい、各々の部屋を開けて確認した。カノンはすぅすぅと寝息を立てているし、アイリスは人形のように安らかに眠っている。ヴィクトなんて、大の字でいびきをかいていた。
 嵐の前の静けさ――決戦が近付いている。そう、予感させた。

 * * *

 エメラルドの地形に精通したアリアが導き出した場所は、開けた草原だった。前方には地震の影響か、茶色く濁ってしまった巨大な湖がある。湖畔には大木が何本も打ち上げられている。揺れに耐えきれずに倒れたのだろう。更に奥には山々がそびえており、近くではせせらぎも聞こえる。川があるのだろうか。
 皆が湖の方を見渡す中で、アリアは声を張る。

「ここなら地震が来ても倒れる物はないですし、食料もあります。水が濁っているのは計算外でしたが......そこはリエル様とカイルに頼りましょう」

「アリア、ありがとな」

 ヴィクトは珍しく穏やかに微笑んだ。カノンとアイリスの表情も落ち着いている。まるで、影との戦いが終わった後のような心境だ。
 一方で、使い魔たちは警戒の手を緩めたりはしない。

「今、影はトパーズにいますね」

「エメラルドに来たのは間違いだったか?」

「いえ、きっとここに来る筈です」

 ロイは確信に満ちた表情で、キッパリと言い切ってみせる。

「とにかく、魔導師の皆さんは、今のうちに休んで下さい。影は私たちが監視していますから」

 奴の呼び名はすっかり『影』と定着していた。
 ここは素直に、使い魔たちに甘えてしまおう。ヴィクト、そしてアイリスが湖へと背を向け、草原の中央へと向かう。俺とカノンもその後を追った。
 ふと、空を見上げてみると、雲一つない澄んだ水色が広がっている。世界の異変など、どうでもいいと言っているかのようだった。
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