
星に願いを2
味気ない食事の筈が、オレンジの香りに胃袋が刺激される。パンを運ぶ手は止まらない。「クレスタの館ってどんな所なんだろうな」 独り言のようなアレクの呟きに、想像を膨らませる。屋敷と言うくらいだから、豪邸なのだろうとは思う。「豪華な屋敷を想像してたけど......違うのかな」「こんな辺鄙な所に、んな豪華な屋敷なんか建てるか?」「貴族の別荘とかさ」 辺鄙な所だからこそ、豪邸を建てやすいと思うのだ。自然はあまりある程あるし、貴族なら金銭でも困りはしないだろう。 ミユは隣で「う〜ん......」と唸り声を上げる。「で、その館のどこに呪いを解く方法があるんだ?」「館に居る人に聞いてみよう?」「それもそーだな」 フレアの返事に、アレクも何度か頷いた。「明日には到着だ。肩に力入れても結果は同じだ。気楽に行こーぜ」 明日には到着――呪いの、俺たちの命の行く末が決まるのだ。気楽に行ける筈がないではないか。アレクに不服な顔を見せても、彼の表情は変わらない。「オマエら、そんな顔しなくても良いだろ? 呪いは解ける。オレはそう信じてる」 俺だって信じたい。しかし、そんなに呑気に構えていては、期待を裏切られた時に痛い目を見る。ミユとフレアを確認してみても、二人は口を尖らせていた。ミユに至っては、首を横に振ってもいる。 あちらも話し合いが終わったのか、使い魔たちもこちらへと歩み寄ってきた。先頭にいるロイは苦笑いをする。「一人でも気楽な方がいないと、上手く行きませんよ。皆さん、出発しましょう」 それもそうなのだが、納得は出来ない。失敗した時の代償は、アレクも分かっている筈だ。だからこその『オレが代わりに』なのだろうか。それは絶対に許さない。 小さく溜め息を吐き、気持ちを切り替える。今は歩くことに集中しなくては。変わらない景色にげんなりしつつ、揺れる木々の葉を見上げた。小鳥のさえずりや追い風に元気をもらいながら、重たくなってきた足を動かす。 ふと、ミユの歩調が遅くなった。「あれ、なんていう花だろう。可愛い」 白い野花を指差し、緑の目を煌めかせる。後ろからアリアが解説を入れる。「それはタマスダレですね。別名、レインリリーとも言います」 俺も野花にはあまり詳しくはないので、ミユと一緒に、アリアの声に耳を傾けた。「じゃあ、あの黄色い花は?」「ウツクシナです」 蜜蜂が飛び回る、名前の通りに可憐な花へ自然と微笑みかけていた。だが、ミユは違った。表情は瞬く間に曇っていき、唇まで噛み締める。良くないことを想像しているのは分かった。「ミユ」 堪らずに声をかけると、彼女ははっとこちらを向いた。すかさず俺の左手を握り締める。大丈夫だよという意味も込めて、その手を力強く握り返した。 そんな折、道は右へと曲がる。そして、眩い光が飛び込んできたのだ。目を細めて確認してみると、どうやらそれは水面――湖だろうか。「あの湖の辺りでテントを張りましょうか。魚もいっぱいいるでしょうし」 ロイの声もぼんやりとしか聞こえない。 だって、エメラルドの、旅の途中での湖なのだ。百年前の出来事を思い出さずにはいられない。カノンに告白され、プロポーズし、無惨にも散っていった彼らを。 俺はこのまま終わって良いのだろうか。いや、良い訳がない。今になって、アレクの言葉が蘇る。 ――オマエ、ミユにまだ言ってねーだろ。『愛してる』――
――いや、オマエには『大好き』の方が合ってるかもな――
こんな冷やかしなんて、真に受ける方が間違っている。それなのに、逸るこの気持ちは何なのだろう。想いは勇気となり、俺を突き動かす。湖に近付くにつれて速まる鼓動もお構い無しだ。小川の流れを逆行し、木製の橋を渡り、広々とした湖畔へと辿り着いた。 先頭を歩くロイとサラが振り返る。
「到着ー! 休みましょう!」 それを遮るようにして、ミユの手を取った。「ミユ、ちょっとこっちに来て欲しい」「えっ? うん......」 返事を聞くと、生唾を飲み込んで、彼女の手を引きながら歩いた。小石の転がる水際まで来ると、目で合図を送って腰を下ろす。靴が濡れようが構わない。こういうのは雰囲気が大事なのだ。
「俺、ミユに話がある」「何?」 水面からミユへと視線を移す。その視線は小刻みに揺れていた。俺なら言える。素直に伝えられる。「俺、ミユのことが好きだ」 言い切った瞬間、ミユの顔が噴火したかのように真っ赤に染まった。俺は意外と冷静で、体温の上昇は僅かばかりだ。 風が吹き抜け、俺たちの緊張をさらっていく。「私も......好き。クラウのことが好き。だけど......」「......何?」 リエルのことも忘れられない。そう言いたいのだろうか。不安が脳裏を掠める。 ミユが次の言葉を発するには数分かかったように感じた。「クラウが好きなのは、私とカノン......どっち?」 声が出そうになる。まさか、同じような不安をミユも抱えているとは思ってもいなかったのだ。 未来の俺の隣を歩いて欲しいと思えるのは、ミユしかいない。「確かに、きっかけはカノンだった。でも、今の俺はミユのことが好きだ。断言出来るよ」「ホント?」「うん」 信じてくれ、と大きく頷き、自身の心にも愛を誓う。 それと同時に、自身の不安を問い質しても良いのではと思った。「ミユが好きなのも、リエルじゃなくて、俺?」「うん。最初からクラウのことしか見えてなかった」「良かった......」 これで正真正銘の相思相愛だ。涙が溢れそうになる。ミユは瞼を瞬かせ、にっこりと微笑んだ。合図を交わすこともなく、互いの体温を求めて抱擁を交わす。 星に願いを2
味気ない食事の筈が、オレンジの香りに胃袋が刺激される。パンを運ぶ手は止まらない。「クレスタの館ってどんな所なんだろうな」 独り言のようなアレクの呟きに、想像を膨らませる。屋敷と言うくらいだから、豪邸なのだろうとは思う。「豪華な屋敷を想像してたけど......違うのかな」「こんな辺鄙な所に、んな豪華な屋敷なんか建てるか?」「貴族の別荘とかさ」 辺鄙な所だからこそ、豪邸を建てやすいと思うのだ。自然はあまりある程あるし、貴族なら金銭でも困りはしないだろう。 ミユは隣で「う〜ん......」と唸り声を上げる。「で、その館のどこに呪いを解く方法があるんだ?」「館に居る人に聞いてみよう?」「それもそーだな」 フレアの返事に、アレクも何度か頷いた。「明日には到着だ。肩に力入れても結果は同じだ。気楽に行こーぜ」 明日には到着――呪いの、俺たちの命の行く末が決まるのだ。気楽に行ける筈がないではないか。アレクに不服な顔を見せても、彼の表情は変わらない。「オマエら、そんな顔しなくても良いだろ? 呪いは解ける。オレはそう信じてる」 俺だって信じたい。しかし、そんなに呑気に構えていては、期待を裏切られた時に痛い目を見る。ミユとフレアを確認してみても、二人は口を尖らせていた。ミユに至っては、首を横に振ってもいる。 あちらも話し合いが終わったのか、使い魔たちもこちらへと歩み寄ってきた。先頭にいるロイは苦笑いをする。「一人でも気楽な方がいないと、上手く行きませんよ。皆さん、出発しましょう」 それもそうなのだが、納得は出来ない。失敗した時の代償は、アレクも分かっている筈だ。だからこその『オレが代わりに』なのだろうか。それは絶対に許さない。 小さく溜め息を吐き、気持ちを切り替える。今は歩くことに集中しなくては。変わらない景色にげんなりしつつ、揺れる木々の葉を見上げた。小鳥のさえずりや追い風に元気をもらいながら、重たくなってきた足を動かす。 ふと、ミユの歩調が遅くなった。「あれ、なんていう花だろう。可愛い」 白い野花を指差し、緑の目を煌めかせる。後ろからアリアが解説を入れる。「それはタマスダレですね。別名、レインリリーとも言います」 俺も野花にはあまり詳しくはないので、ミユと一緒に、アリアの声に耳を傾けた。「じゃあ、あの黄色い花は?」「ウツクシナです」 蜜蜂が飛び回る、名前の通りに可憐な花へ自然と微笑みかけていた。だが、ミユは違った。表情は瞬く間に曇っていき、唇まで噛み締める。良くないことを想像しているのは分かった。「ミユ」 堪らずに声をかけると、彼女ははっとこちらを向いた。すかさず俺の左手を握り締める。大丈夫だよという意味も込めて、その手を力強く握り返した。 そんな折、道は右へと曲がる。そして、眩い光が飛び込んできたのだ。目を細めて確認してみると、どうやらそれは水面――湖だろうか。「あの湖の辺りでテントを張りましょうか。魚もいっぱいいるでしょうし」 ロイの声もぼんやりとしか聞こえない。 だって、エメラルドの、旅の途中での湖なのだ。百年前の出来事を思い出さずにはいられない。カノンに告白され、プロポーズし、無惨にも散っていった彼らを。 俺はこのまま終わって良いのだろうか。いや、良い訳がない。今になって、アレクの言葉が蘇る。 ――オマエ、ミユにまだ言ってねーだろ。『愛してる』――
――いや、オマエには『大好き』の方が合ってるかもな――
こんな冷やかしなんて、真に受ける方が間違っている。それなのに、逸るこの気持ちは何なのだろう。想いは勇気となり、俺を突き動かす。湖に近付くにつれて速まる鼓動もお構い無しだ。小川の流れを逆行し、木製の橋を渡り、広々とした湖畔へと辿り着いた。 先頭を歩くロイとサラが振り返る。
「到着ー! 休みましょう!」 それを遮るようにして、ミユの手を取った。「ミユ、ちょっとこっちに来て欲しい」「えっ? うん......」 返事を聞くと、生唾を飲み込んで、彼女の手を引きながら歩いた。小石の転がる水際まで来ると、目で合図を送って腰を下ろす。靴が濡れようが構わない。こういうのは雰囲気が大事なのだ。
「俺、ミユに話がある」「何?」 水面からミユへと視線を移す。その視線は小刻みに揺れていた。俺なら言える。素直に伝えられる。「俺、ミユのことが好きだ」 言い切った瞬間、ミユの顔が噴火したかのように真っ赤に染まった。俺は意外と冷静で、体温の上昇は僅かばかりだ。 風が吹き抜け、俺たちの緊張をさらっていく。「私も......好き。クラウのことが好き。だけど......」「......何?」 リエルのことも忘れられない。そう言いたいのだろうか。不安が脳裏を掠める。 ミユが次の言葉を発するには数分かかったように感じた。「クラウが好きなのは、私とカノン......どっち?」 声が出そうになる。まさか、同じような不安をミユも抱えているとは思ってもいなかったのだ。 未来の俺の隣を歩いて欲しいと思えるのは、ミユしかいない。「確かに、きっかけはカノンだった。でも、今の俺はミユのことが好きだ。断言出来るよ」「ホント?」「うん」 信じてくれ、と大きく頷き、自身の心にも愛を誓う。 それと同時に、自身の不安を問い質しても良いのではと思った。「ミユが好きなのも、リエルじゃなくて、俺?」「うん。最初からクラウのことしか見えてなかった」「良かった......」 これで正真正銘の相思相愛だ。涙が溢れそうになる。ミユは瞼を瞬かせ、にっこりと微笑んだ。合図を交わすこともなく、互いの体温を求めて抱擁を交わす。 次の話星に願いを3›