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使い魔3

 横にいるアリアはカイルの腕を掴み、何やら怒っているようだ。

「そんな危険かもしれない方法を教えても良いの?」

「でもアリア、オパール様はクラウ様に接触を図ったんだよ? もしかしたらオニキス様だってミユ様に──」

「でも!」

「仕方ないじゃないか、魔導師様方は本気だよ」

 アリアは私の顔を不安げに見ると、サラの方へと視線をずらす。サラは、そんなアリアの頭を撫でるのだった。

「オニキス様は闇の神様です。スティアのどこかの離れ小島に闇の塔が残っている筈です。その証拠に」

 カイルは小さく生唾を飲み込む。

「夜が明けない島が、北の端に一つだけあるんです。物は試しと思って行ってみて下さい」

「オニキスに会える確証はあんのか?」

「ありませんが、思いつくのはそれしか......」

「そーか、仕方ねぇ」

 アレクは右手で拳を作り、左の手のひらにぶつけた。乾いた音が部屋に響く。

「オマエら、明日にでも行ってみるしかねぇ。ミユには負担かけちまうけどよー、分かってくれ」

「アレク様、申し訳ありません。準備のために五日ほどいただいても良いでしょうか」

「あ? しょうがねぇな」

 目を伏せるロイに、アレクはバツが悪そうに頭を掻いてみせる。

「私なら、いつでも大丈夫だから」

「ありがとうございます」

 カイルがにこやかに笑う一方で、未だにアリアは不満そうに頬を膨らませていた。

「アリア、私は大丈夫だから」

 アリアに笑ってみせると、無言で揺れる瞳だけが返ってきた。
 不意に、頭に大きくて柔らかく、温かい物が乗る。隣を見てみると、目を伏せ、何とも言えない表情をしているクラウの姿があった。

「ごめん、今回は俺、何も出来なくて......」

「ううん、塔まで着いてきてくれるだけでも心強いよ。ありがとう」

 微笑んでみせると、クラウも僅かに笑みを見せてくれた。

「では、私たちは準備に取り掛かります。塔に行かれる時には、私たちが魔法陣を出しますので」

「あぁ、頼む」

「それでは」

 ロイが立ち上がり、扉へと向かうと、呼応するかのようにサラ、アリア、カイルの順でそれに続く。
 使い魔が出ていった途端、緊張の糸が切れた。

「はぁ......。疲れた〜......」

 テーブルに突っ伏し、クラクラしそうな頭を何とか休める。

「まさか聞いた事もねぇ闇の塔とやらに行くことになるとはなー」

「使い魔だけで話が終わらないなんて思わなかった......」

 間が開き、誰かが息を吐き出す音が聞こえた。

「みんな、ごめん」

「何でクラウが謝るの?」

「俺が使い魔に聞こうなんて言い出したからさ」

 三人の会話が流れていく。

「それはたまたまだよ。クラウが言わなくても、誰かが言い出してたから」

「でも、ミユに全部任せることになって、俺......」

「少しはミユを信じろ」

 三人の視線をやたらと感じる。何とか顔を上げてみると、やはり三人は私を見詰めていた。クラウとフレアは心配そうな顔で、アレクは少し意地悪そうな顔で。
 そんな顔をされると困ってしまう。戸惑っていると、フレアが「ぷっ......」と吹き出した。

「それもそうだね」

「でもさ......!」

「じゃあ、ミユはクラウが手伝わないと何も出来ない子なの?」

「そんなんじゃないもん!」

 頬を膨らませて「む〜......」と唸っていると、横から腕が伸びてきた。クラウは私を自身の身体に引き寄せる。そのままその手で肩をポンポンと軽く叩き始めた。

「ごめんね、そうだよね、ミユは立派な大人だ」

 クラウも何とか納得してくれたようで、彼の口から笑みが零れた。

「そういえばさ、王に謁見したんなら、ミユも正装着たんだよね?」

「正装?」

「ほら、ドレスみたいに豪華な真っ白い衣装」

 フレアが補足をしてくれた。それには身に覚えがある。

「うん。コルセットまで着けたんだよ~。あんなの、ただの拷問だよ~」

 思い出すだけでも苦しくなってくる。ムスッと膨れた私を見て、フレアは大きく笑った。

「あれは淑女の嗜みだからね。仕方ないよ」

「そんなぁ......」

 では、私が魔導師でいる限り、コルセットを着ける日がまたやってくるかもしれないのだろうか。考えるだけでも憂鬱になってくる。

「俺はミユの正装、ちゃんと見てみたいけどね」

「え~?」

「絶対、綺麗じゃん」

 頬が高温を発する。好きな人に『綺麗』と言われて嬉しくない女性なんて存在しないと思うのだ。
 私の反応に満足したのか、クラウは笑顔で私の頭にポンポンと触れる。そこへアレクの小さな笑い声が響いた。
 
「いや、悪ぃ。これがオマエらの普通なんだよな。オレは普通が何かも忘れちまってたらしい」

 はっと我に返る。今のアレクの言葉が、どれ程クラウを傷つけたのだろう。
 クラウは私の頭に乗せていた手を私の肩に持っていき、自身の身体へと引き寄せる。「ごめん......」と呟きながら。
 アレクは小さな溜め息を吐き、頭を掻く。

「......済まねぇ」

 私たちに暗い影を落とす。

「そんなにしんみりしてたら、せっかくの雰囲気もぶち壊しでしょ? クッキーでも持ってくるから、ちょっと待っててね」

 フレアは「もう......」と言いながら、あたかも平気なふりをして部屋を出ていった。フレアの目尻に光るものが滲んでいたのを、私は見なかったことにした。
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廃墟の塔1
神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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使い魔3

 横にいるアリアはカイルの腕を掴み、何やら怒っているようだ。

「そんな危険かもしれない方法を教えても良いの?」

「でもアリア、オパール様はクラウ様に接触を図ったんだよ? もしかしたらオニキス様だってミユ様に──」

「でも!」

「仕方ないじゃないか、魔導師様方は本気だよ」

 アリアは私の顔を不安げに見ると、サラの方へと視線をずらす。サラは、そんなアリアの頭を撫でるのだった。

「オニキス様は闇の神様です。スティアのどこかの離れ小島に闇の塔が残っている筈です。その証拠に」

 カイルは小さく生唾を飲み込む。

「夜が明けない島が、北の端に一つだけあるんです。物は試しと思って行ってみて下さい」

「オニキスに会える確証はあんのか?」

「ありませんが、思いつくのはそれしか......」

「そーか、仕方ねぇ」

 アレクは右手で拳を作り、左の手のひらにぶつけた。乾いた音が部屋に響く。

「オマエら、明日にでも行ってみるしかねぇ。ミユには負担かけちまうけどよー、分かってくれ」

「アレク様、申し訳ありません。準備のために五日ほどいただいても良いでしょうか」

「あ? しょうがねぇな」

 目を伏せるロイに、アレクはバツが悪そうに頭を掻いてみせる。

「私なら、いつでも大丈夫だから」

「ありがとうございます」

 カイルがにこやかに笑う一方で、未だにアリアは不満そうに頬を膨らませていた。

「アリア、私は大丈夫だから」

 アリアに笑ってみせると、無言で揺れる瞳だけが返ってきた。
 不意に、頭に大きくて柔らかく、温かい物が乗る。隣を見てみると、目を伏せ、何とも言えない表情をしているクラウの姿があった。

「ごめん、今回は俺、何も出来なくて......」

「ううん、塔まで着いてきてくれるだけでも心強いよ。ありがとう」

 微笑んでみせると、クラウも僅かに笑みを見せてくれた。

「では、私たちは準備に取り掛かります。塔に行かれる時には、私たちが魔法陣を出しますので」

「あぁ、頼む」

「それでは」

 ロイが立ち上がり、扉へと向かうと、呼応するかのようにサラ、アリア、カイルの順でそれに続く。
 使い魔が出ていった途端、緊張の糸が切れた。

「はぁ......。疲れた〜......」

 テーブルに突っ伏し、クラクラしそうな頭を何とか休める。

「まさか聞いた事もねぇ闇の塔とやらに行くことになるとはなー」

「使い魔だけで話が終わらないなんて思わなかった......」

 間が開き、誰かが息を吐き出す音が聞こえた。

「みんな、ごめん」

「何でクラウが謝るの?」

「俺が使い魔に聞こうなんて言い出したからさ」

 三人の会話が流れていく。

「それはたまたまだよ。クラウが言わなくても、誰かが言い出してたから」

「でも、ミユに全部任せることになって、俺......」

「少しはミユを信じろ」

 三人の視線をやたらと感じる。何とか顔を上げてみると、やはり三人は私を見詰めていた。クラウとフレアは心配そうな顔で、アレクは少し意地悪そうな顔で。
 そんな顔をされると困ってしまう。戸惑っていると、フレアが「ぷっ......」と吹き出した。

「それもそうだね」

「でもさ......!」

「じゃあ、ミユはクラウが手伝わないと何も出来ない子なの?」

「そんなんじゃないもん!」

 頬を膨らませて「む〜......」と唸っていると、横から腕が伸びてきた。クラウは私を自身の身体に引き寄せる。そのままその手で肩をポンポンと軽く叩き始めた。

「ごめんね、そうだよね、ミユは立派な大人だ」

 クラウも何とか納得してくれたようで、彼の口から笑みが零れた。

「そういえばさ、王に謁見したんなら、ミユも正装着たんだよね?」

「正装?」

「ほら、ドレスみたいに豪華な真っ白い衣装」

 フレアが補足をしてくれた。それには身に覚えがある。

「うん。コルセットまで着けたんだよ~。あんなの、ただの拷問だよ~」

 思い出すだけでも苦しくなってくる。ムスッと膨れた私を見て、フレアは大きく笑った。

「あれは淑女の嗜みだからね。仕方ないよ」

「そんなぁ......」

 では、私が魔導師でいる限り、コルセットを着ける日がまたやってくるかもしれないのだろうか。考えるだけでも憂鬱になってくる。

「俺はミユの正装、ちゃんと見てみたいけどね」

「え~?」

「絶対、綺麗じゃん」

 頬が高温を発する。好きな人に『綺麗』と言われて嬉しくない女性なんて存在しないと思うのだ。
 私の反応に満足したのか、クラウは笑顔で私の頭にポンポンと触れる。そこへアレクの小さな笑い声が響いた。
 
「いや、悪ぃ。これがオマエらの普通なんだよな。オレは普通が何かも忘れちまってたらしい」

 はっと我に返る。今のアレクの言葉が、どれ程クラウを傷つけたのだろう。
 クラウは私の頭に乗せていた手を私の肩に持っていき、自身の身体へと引き寄せる。「ごめん......」と呟きながら。
 アレクは小さな溜め息を吐き、頭を掻く。

「......済まねぇ」

 私たちに暗い影を落とす。

「そんなにしんみりしてたら、せっかくの雰囲気もぶち壊しでしょ? クッキーでも持ってくるから、ちょっと待っててね」

 フレアは「もう......」と言いながら、あたかも平気なふりをして部屋を出ていった。フレアの目尻に光るものが滲んでいたのを、私は見なかったことにした。
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次の話廃墟の塔1
神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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