
乱舞3
「大丈夫だよ。ミユが思うようなことは言われてないから」「じゃあ、何を話してたの?」 クラウの顔が一瞬曇る。隠しごとをしている時の反応だ。こうなってしまっては、私がいくら聞き出そうとしても、答えてくれない。「マグは貴方も巻き込まれて大変だねって言ってただけだし、リラは......静かにステップを踏んでただけだったよ」 恐らく、何かあったのは後者だろう。今はオズと踊っているリラをちらりと流し見た。「俺はミユの方が心配だよ。オズと話し込んでたし、レンは脅してきたんじゃない?」 青い瞳が揺れている。流石の観察眼だ。重々しくも、丁寧に説明をしていく。紛い物の件、まるで神様が世界を壊そうとしてると話していたこと、それに『デュ』の名のこと――レンに言われた内容は全て伝えられたと思う。クラウは視線を落としながら、瞬きをした。「それ、フレアも同じことを言われたって聞かされたよ」 曲に合わせ、くるりと一回転する。視線がクラウへと戻っても、その表情は変わらない。「オズは何か言ってなかった?」「レンが失礼なことを言って済まないみたいな内容の話しかしてないよ。それと、この方法は王様たちが全員で考え抜いた結果だから、前向きに考えて欲しいって」「そんな......前向きになんて考えられる訳ないじゃん」 クラウは顔を背け、渋い顔で低く呟く。「だよね。私も反抗しようとしたんだけど、色々考えてるうちに相手が変わっちゃって言えなかった」 悔しくて俯き、唇を噛み締めた。きっと手が塞がっていなかったら、クラウの手は私を撫でてくれたのだろう。「ごめんね、ミユ。俺のせいで嫌な思いさせて」「クラウのせいで嫌な思いはしてないよ。レンとオズのせいだもん」 頬を膨らませてみせると、クラウは小さく苦笑いをした。「ありがとう」 儚く微笑み、そっと目を細める。そうして、ようやく乱舞に幕が下りる。音楽が止まると同時に、マグが何度か手を打ち鳴らす。「楽しいダンスの時間は終わりだよ。ダンスの途中で、私たち王の意見は聞いたよね? 話をまとめてもらおっか。魔導師を辞めるか、辞めないか」 マグの話を聞いている間に、アレク、フレアと合流した。フレアとは話が出来ていない。意思疎通をしておかなくては。「フレアは『デュ』のこと、何か聞き出せた?」「あたしは何も」 フレアは肩をすくめて首を振る。「あたしは、こんなの絶対に認めないんだから」「私もだよ。『今』を捨てて『未来』を夢見るなんて、私には出来ないもん」「あぁ、オレもだ」「前の戦いの時だって、足掻けるだけ足掻いたんだ。今回もそうさせてもらおう」 クラウの言葉に、四人全員で頷いてみせる。揃って王たちに向き直り、アレクが叫んだ。「オレらは、こんな結末にするために、ここに来たんじゃねぇ! オレらにだって生きる権利はある筈だ! オマエらには奪わせねぇ!」 私の言いたいことを全て包み込んだ言葉と共に、王たちの顔をくまなく見る。オズは私たちから目を背け、マグは不機嫌そうに目を背ける。リラは表情を変えずに、両手を胸へと当てる。レンは苦虫を噛み潰したような表情へと変わった。「揃いも揃って......愚かだな」「あたしたちに『死ね』って言える貴方たちは非道だね」 レンに臆することなく、フレアは突っぱねてみせる。魔導師と王の視線が、目には見えない火花を散らす。その時、部屋の片隅に一つの気配が現れたのだ。ただの人間の気配ではない。重圧感がある。「魔導師たちは愚かじゃないぞ」 男性の低い声が響く。王の声でも、勿論、魔導師の声でもない。この場所へは魔法が使える者しか立ち入れない筈なのに。 其方を振り向いてみると、ありえない人物が佇んでいたのだ。この人はクラウが倒してくれて、存在すら消滅したではないか。王と違わないほど豪華な黒の正装を身にまとい、その人――ルイスは見たことのない柔らかな笑みを湛えている。
咄嗟にアレクとフレアは駆け出し、最前線で両手を広げた。私とクラウもその後に続き、二人の後ろで背中合わせで横向きに立つ。クラウを傷つけさせたりはしない。決意のお陰か、不思議と恐怖は感じなかった。彼と手をしっかりと繋ぐ。「ミユとクラウに指一本触れさせはしないから!」「王たち! オマエら、オレらの後ろに隠れてろ!」 アレクが後方を垣間見る。つられて私も王様たちの方へと視線を向けた。王たちは部屋の隅で固まっている。皆、怯えた表情だ。戦いとは関係のない王たちを巻き込む訳にはいかないと、ルイスを睨みつけた。
「お前ら、何か勘違いしてないか?」 心地好い低音が響く。良く聞いてみれば、目の前にいる人から発せられた声なのに、ルイスの声色とは違う。それに口調も。 駄目だ。油断してはいけない。わざと話し方を変えているのかもしれないのだから。 他の三人も同じなのだろう。警戒を緩めたりはしない。クラウの握っている手に力が入る。「勘違いしてるって、何を?」「オマエ、どう見たってルイスだろ!」 夜闇を思い起こさせる瞳と襟足だけ長い髪、雪のように白い肌、どれを取ってみてもルイスその人だ。 乱舞3
「大丈夫だよ。ミユが思うようなことは言われてないから」「じゃあ、何を話してたの?」 クラウの顔が一瞬曇る。隠しごとをしている時の反応だ。こうなってしまっては、私がいくら聞き出そうとしても、答えてくれない。「マグは貴方も巻き込まれて大変だねって言ってただけだし、リラは......静かにステップを踏んでただけだったよ」 恐らく、何かあったのは後者だろう。今はオズと踊っているリラをちらりと流し見た。「俺はミユの方が心配だよ。オズと話し込んでたし、レンは脅してきたんじゃない?」 青い瞳が揺れている。流石の観察眼だ。重々しくも、丁寧に説明をしていく。紛い物の件、まるで神様が世界を壊そうとしてると話していたこと、それに『デュ』の名のこと――レンに言われた内容は全て伝えられたと思う。クラウは視線を落としながら、瞬きをした。「それ、フレアも同じことを言われたって聞かされたよ」 曲に合わせ、くるりと一回転する。視線がクラウへと戻っても、その表情は変わらない。「オズは何か言ってなかった?」「レンが失礼なことを言って済まないみたいな内容の話しかしてないよ。それと、この方法は王様たちが全員で考え抜いた結果だから、前向きに考えて欲しいって」「そんな......前向きになんて考えられる訳ないじゃん」 クラウは顔を背け、渋い顔で低く呟く。「だよね。私も反抗しようとしたんだけど、色々考えてるうちに相手が変わっちゃって言えなかった」 悔しくて俯き、唇を噛み締めた。きっと手が塞がっていなかったら、クラウの手は私を撫でてくれたのだろう。「ごめんね、ミユ。俺のせいで嫌な思いさせて」「クラウのせいで嫌な思いはしてないよ。レンとオズのせいだもん」 頬を膨らませてみせると、クラウは小さく苦笑いをした。「ありがとう」 儚く微笑み、そっと目を細める。そうして、ようやく乱舞に幕が下りる。音楽が止まると同時に、マグが何度か手を打ち鳴らす。「楽しいダンスの時間は終わりだよ。ダンスの途中で、私たち王の意見は聞いたよね? 話をまとめてもらおっか。魔導師を辞めるか、辞めないか」 マグの話を聞いている間に、アレク、フレアと合流した。フレアとは話が出来ていない。意思疎通をしておかなくては。「フレアは『デュ』のこと、何か聞き出せた?」「あたしは何も」 フレアは肩をすくめて首を振る。「あたしは、こんなの絶対に認めないんだから」「私もだよ。『今』を捨てて『未来』を夢見るなんて、私には出来ないもん」「あぁ、オレもだ」「前の戦いの時だって、足掻けるだけ足掻いたんだ。今回もそうさせてもらおう」 クラウの言葉に、四人全員で頷いてみせる。揃って王たちに向き直り、アレクが叫んだ。「オレらは、こんな結末にするために、ここに来たんじゃねぇ! オレらにだって生きる権利はある筈だ! オマエらには奪わせねぇ!」 私の言いたいことを全て包み込んだ言葉と共に、王たちの顔をくまなく見る。オズは私たちから目を背け、マグは不機嫌そうに目を背ける。リラは表情を変えずに、両手を胸へと当てる。レンは苦虫を噛み潰したような表情へと変わった。「揃いも揃って......愚かだな」「あたしたちに『死ね』って言える貴方たちは非道だね」 レンに臆することなく、フレアは突っぱねてみせる。魔導師と王の視線が、目には見えない火花を散らす。その時、部屋の片隅に一つの気配が現れたのだ。ただの人間の気配ではない。重圧感がある。「魔導師たちは愚かじゃないぞ」 男性の低い声が響く。王の声でも、勿論、魔導師の声でもない。この場所へは魔法が使える者しか立ち入れない筈なのに。 其方を振り向いてみると、ありえない人物が佇んでいたのだ。この人はクラウが倒してくれて、存在すら消滅したではないか。王と違わないほど豪華な黒の正装を身にまとい、その人――ルイスは見たことのない柔らかな笑みを湛えている。
咄嗟にアレクとフレアは駆け出し、最前線で両手を広げた。私とクラウもその後に続き、二人の後ろで背中合わせで横向きに立つ。クラウを傷つけさせたりはしない。決意のお陰か、不思議と恐怖は感じなかった。彼と手をしっかりと繋ぐ。「ミユとクラウに指一本触れさせはしないから!」「王たち! オマエら、オレらの後ろに隠れてろ!」 アレクが後方を垣間見る。つられて私も王様たちの方へと視線を向けた。王たちは部屋の隅で固まっている。皆、怯えた表情だ。戦いとは関係のない王たちを巻き込む訳にはいかないと、ルイスを睨みつけた。
「お前ら、何か勘違いしてないか?」 心地好い低音が響く。良く聞いてみれば、目の前にいる人から発せられた声なのに、ルイスの声色とは違う。それに口調も。 駄目だ。油断してはいけない。わざと話し方を変えているのかもしれないのだから。 他の三人も同じなのだろう。警戒を緩めたりはしない。クラウの握っている手に力が入る。「勘違いしてるって、何を?」「オマエ、どう見たってルイスだろ!」 夜闇を思い起こさせる瞳と襟足だけ長い髪、雪のように白い肌、どれを取ってみてもルイスその人だ。 次の話正体1›