
真の姿2
「皆、ちょっと来て欲しい!」 クラウが声を張り上げると、他の六人がこちらへと戻ってきた。期待と不安が入り混じっているような、そんな表情で。 六人は私たちを取り囲み、クラウを見詰める。「何か見つかったのか?」「本だよ。これに何か載ってれば良いんだけど」 クラウは本の埃を払い、一頁ずつ丁寧にまくっていく。何が書かれているのか分からないくせに、私も本を食い入るように見る。 しかし、これは私にも分かる。文字の類も、絵の類も、何も書かれていないのだ。「白紙......?」「日記帳か何かかな。でも、表紙にはちゃんと『魔法に関する重要事項』って書いてあったんだけど」 日に焼けた紙がパラパラとめくれていく。その度に、胸は高鳴っていく。お願い、何か書いてありますように。祈るような気持ちで歯を食いしばる。 最後の頁を開いた瞬間、本はクラウの手からするりと離れていった。他の皆も息を呑む。
「どうしたの?」 聞いてみても、皆は顔を強張らせるばかりで、何も答えてはくれない。アリアとサラに至っては、その場に崩れ落ちてしまった。 床には最後の頁を開いたままの本が転がっている。大きな赤文字がデカデカと書かれており、嫌な予感しかしない。胸の前で両手を握り、緊張を紛らわせる。
「チェックメイト」 クラウの声が脳に刺さる。瞬時に意味を理解した。立っていられない程の衝撃が襲う。気づいた時には、私も膝から崩れ落ちていた。 これは、影の――罠だ。 恐怖に慄くよりも早く、出入り口の方から足音が聞こえてきた。顔を上げてみると、黒い二つの人影が近づいてくるのが分かる。瞬時に七人全員が私の前に立ち、壁を作った。
「邪魔だな」 男性が呟くと、床が光を放ち始める。これは転移の魔法陣だ。しかも、百年前と同じもの――考えているうちに身体は浮遊感に包まれ、地面に着地する。 また来てしまった。あの、白いベルフラワーが咲き誇る花畑に。 そこに似つかわしくない影と、もう一人、男性が立っている。悲鳴を上げることも出来ずに、クラウに力強く抱かれた。アレクとフレアが私たちと影の間に立ちはだかるものの、使い魔たちの姿はない。「ミユ、久しぶりだね」 この声には聞き覚えがある。しかし、この人が私の名を知っている筈がないのだ。「なんで、私の名前を知ってるの......?」 あの時、私はカノンと名乗ったのだから。その人――ルイスは鼻で笑い、軽くあしらう。「オマエ、ミユとどんな関係だ!?」「関係も何も......軽く話をしただけだ」「じゃあ、なんで......!」「名前を知ってるか、か?」 ルイスの問いに、ごくりと生唾を飲み込む。「そんなもの、魔導師の名なんて世界中に広まっているだろう」「でも、あの時は私、魔導師だなんて一言も言わなかった。それなのに、『カノン』って名乗ったら鼻で笑った」
「面白かったからつい、な。自分の前世の名を出す奴がいるか?」 馬鹿にされていることはひしひしと伝わってくる。悔しくて仕方がない。クラウの腕を掴み、その肩越しにルイスを睨んだ。「影の隣にいるってことは、オマエも影側か......!?」「ああ、これか」 ルイスは一度だけ指を鳴らす。その瞬間、影の姿は掻き消えた。「こんなもの、ただの幻影だ」「じゃあ、誰が魔法を......!?」
フレアが声を張ると、ルイスは漆黒の目を細める。「まだ分からないのか。全て私の魔法だとしたらどうだ?」「そんなこと、出来る訳がねぇ! オマエは魔導師でも、王でもないだろ!?」 アレクが息巻くと、ルイスは細い息を吐き出す。「どうしてそんなに決めつけてかかるのか......。これならどうだ?」 ルイスは次に三度指を鳴らした。音は炎の玉となり、竜巻となり、氷の刃となってこちらに迫りくる。 咄嗟にフレアが炎の渦を出し、私たちを取り巻いたお陰で難は逃れた。 炎が消え去ると、ルイスはにたりと笑っていた。 私たちと彼の間を冷たい風が通り抜ける。「もう分かっただろう。ミユの高熱も、エメラルドに現れた影も、地震も......全て私の魔法」 その風がルイスの前髪を靡かせる。「生まれ変わったのは君たちだけじゃない。私が現世での──」 そして見てしまった。「『影』だ」 それまで髪で隠れていたルイスの額には、影と同じ黒色の魔導石がついていた。 どうしようもない恐怖が湧いてくる。身体が勝手に震え出す。声にならない声を発し、瞼を固く閉じた。「オマエが地震を起こしたせいで、いくつの命が消えたと思ってんだ!?」「そんなもの、知らない」 ルイスは軽く吐き捨てる。 では、あの人はどうなったのだろう。彼と一緒に暮らしていた、あの女性は。「オリビアは?」 聞くと、ルイスは詰まらなさそうに髪を掻き上げる。「ああ、そんな奴もいたか。あいつは地震の要にしたからな。真っ先に殺した」 信じられない。少なくとも、私の目には、オリビアはルイスのことを慕っているように見えたのだ。人の命を何だと思っているのだろう。 オリビアが不憫で堪らない。両目から溢れるものを止められなかった。「それよりも、自分の命を心配したらどうだ? 呪いは解けていない。違うか?」「俺たちが、そんなものはなかったことにしてみせる。心配する必要なんてない」「前世で愛する者を見殺しにした君が、何を言っている」 嘲笑うルイスに、クラウは殺意に満ちた瞳を向ける。 アレクがちらりとこちらを見遣った。その視線はすぐにルイスの方へと戻る。「にしても、地震を起こすのに要がいるなんて初めて聞いたな。そんだけオマエが劣化してるってことか?」「好きなだけ冷笑していれば良い。私は今のままでも、十分に君たちを弄べるからな」 言うと、ルイスは漆黒のマントを翻す。「私の名はルイスだ。かかってこい」 真の姿2
「皆、ちょっと来て欲しい!」 クラウが声を張り上げると、他の六人がこちらへと戻ってきた。期待と不安が入り混じっているような、そんな表情で。 六人は私たちを取り囲み、クラウを見詰める。「何か見つかったのか?」「本だよ。これに何か載ってれば良いんだけど」 クラウは本の埃を払い、一頁ずつ丁寧にまくっていく。何が書かれているのか分からないくせに、私も本を食い入るように見る。 しかし、これは私にも分かる。文字の類も、絵の類も、何も書かれていないのだ。「白紙......?」「日記帳か何かかな。でも、表紙にはちゃんと『魔法に関する重要事項』って書いてあったんだけど」 日に焼けた紙がパラパラとめくれていく。その度に、胸は高鳴っていく。お願い、何か書いてありますように。祈るような気持ちで歯を食いしばる。 最後の頁を開いた瞬間、本はクラウの手からするりと離れていった。他の皆も息を呑む。
「どうしたの?」 聞いてみても、皆は顔を強張らせるばかりで、何も答えてはくれない。アリアとサラに至っては、その場に崩れ落ちてしまった。 床には最後の頁を開いたままの本が転がっている。大きな赤文字がデカデカと書かれており、嫌な予感しかしない。胸の前で両手を握り、緊張を紛らわせる。
「チェックメイト」 クラウの声が脳に刺さる。瞬時に意味を理解した。立っていられない程の衝撃が襲う。気づいた時には、私も膝から崩れ落ちていた。 これは、影の――罠だ。 恐怖に慄くよりも早く、出入り口の方から足音が聞こえてきた。顔を上げてみると、黒い二つの人影が近づいてくるのが分かる。瞬時に七人全員が私の前に立ち、壁を作った。
「邪魔だな」 男性が呟くと、床が光を放ち始める。これは転移の魔法陣だ。しかも、百年前と同じもの――考えているうちに身体は浮遊感に包まれ、地面に着地する。 また来てしまった。あの、白いベルフラワーが咲き誇る花畑に。 そこに似つかわしくない影と、もう一人、男性が立っている。悲鳴を上げることも出来ずに、クラウに力強く抱かれた。アレクとフレアが私たちと影の間に立ちはだかるものの、使い魔たちの姿はない。「ミユ、久しぶりだね」 この声には聞き覚えがある。しかし、この人が私の名を知っている筈がないのだ。「なんで、私の名前を知ってるの......?」 あの時、私はカノンと名乗ったのだから。その人――ルイスは鼻で笑い、軽くあしらう。「オマエ、ミユとどんな関係だ!?」「関係も何も......軽く話をしただけだ」「じゃあ、なんで......!」「名前を知ってるか、か?」 ルイスの問いに、ごくりと生唾を飲み込む。「そんなもの、魔導師の名なんて世界中に広まっているだろう」「でも、あの時は私、魔導師だなんて一言も言わなかった。それなのに、『カノン』って名乗ったら鼻で笑った」
「面白かったからつい、な。自分の前世の名を出す奴がいるか?」 馬鹿にされていることはひしひしと伝わってくる。悔しくて仕方がない。クラウの腕を掴み、その肩越しにルイスを睨んだ。「影の隣にいるってことは、オマエも影側か......!?」「ああ、これか」 ルイスは一度だけ指を鳴らす。その瞬間、影の姿は掻き消えた。「こんなもの、ただの幻影だ」「じゃあ、誰が魔法を......!?」
フレアが声を張ると、ルイスは漆黒の目を細める。「まだ分からないのか。全て私の魔法だとしたらどうだ?」「そんなこと、出来る訳がねぇ! オマエは魔導師でも、王でもないだろ!?」 アレクが息巻くと、ルイスは細い息を吐き出す。「どうしてそんなに決めつけてかかるのか......。これならどうだ?」 ルイスは次に三度指を鳴らした。音は炎の玉となり、竜巻となり、氷の刃となってこちらに迫りくる。 咄嗟にフレアが炎の渦を出し、私たちを取り巻いたお陰で難は逃れた。 炎が消え去ると、ルイスはにたりと笑っていた。 私たちと彼の間を冷たい風が通り抜ける。「もう分かっただろう。ミユの高熱も、エメラルドに現れた影も、地震も......全て私の魔法」 その風がルイスの前髪を靡かせる。「生まれ変わったのは君たちだけじゃない。私が現世での──」 そして見てしまった。「『影』だ」 それまで髪で隠れていたルイスの額には、影と同じ黒色の魔導石がついていた。 どうしようもない恐怖が湧いてくる。身体が勝手に震え出す。声にならない声を発し、瞼を固く閉じた。「オマエが地震を起こしたせいで、いくつの命が消えたと思ってんだ!?」「そんなもの、知らない」 ルイスは軽く吐き捨てる。 では、あの人はどうなったのだろう。彼と一緒に暮らしていた、あの女性は。「オリビアは?」 聞くと、ルイスは詰まらなさそうに髪を掻き上げる。「ああ、そんな奴もいたか。あいつは地震の要にしたからな。真っ先に殺した」 信じられない。少なくとも、私の目には、オリビアはルイスのことを慕っているように見えたのだ。人の命を何だと思っているのだろう。 オリビアが不憫で堪らない。両目から溢れるものを止められなかった。「それよりも、自分の命を心配したらどうだ? 呪いは解けていない。違うか?」「俺たちが、そんなものはなかったことにしてみせる。心配する必要なんてない」「前世で愛する者を見殺しにした君が、何を言っている」 嘲笑うルイスに、クラウは殺意に満ちた瞳を向ける。 アレクがちらりとこちらを見遣った。その視線はすぐにルイスの方へと戻る。「にしても、地震を起こすのに要がいるなんて初めて聞いたな。そんだけオマエが劣化してるってことか?」「好きなだけ冷笑していれば良い。私は今のままでも、十分に君たちを弄べるからな」 言うと、ルイスは漆黒のマントを翻す。「私の名はルイスだ。かかってこい」 次の話偽りの記憶1›