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羽根3

 私の気持ちを分かってくれる人はいない。今は怒りよりも、落胆の方が大きいだろう。首を振り、大きな溜め息を吐く。

「分かってくれないなら、もう良い。フレアとは仲直り出来ないし、したくない」

 無理矢理スプーンを掴み、クラウの手を振り解いた。ふやけたシリアルと牛乳を口に流し込む。

「ご馳走様でした」

 小さく呟くと、勢い良く立ち上がる。椅子の角に足をぶつけ、鈍い痛みを感じながら会議室を後にした。
 最悪な朝食だ。

 心は塞ぐけれど、このままのんびりしている訳にもいかない。いつ影が襲ってくるのか分からないのだ。少しでも魔法の練習がしたい。クラウとアレクには、そのことを伝えなくてはいけないだろう。
 朝のこともあったし、二人に会いたくはない。かと言って、自分勝手に屋敷を抜け出せば、また心配をかけてしまうかもしれない。
 どちらかと言うと、フレアだけを庇っていたアレクではなく、少しでも理解を示そうとしてくれたクラウの方が、まだ顔を合わせやすい。
 仕方がなく椅子から立ち上がり、廊下へと足を踏み出した。心臓が破裂しそうな程に鼓動している。汗の滲む手を握り、小さく深呼吸をした。
 そうして辿り着いたドアは、自分の部屋のものよりもだいぶ大きく感じる。右手で拳を作り、勇気を振り絞ってドアを三度鳴らした。

「はい」

 くぐもったクラウの声が聞こえたので、恐る恐るドアノブを握る。静かに開いた隙間から、やっとのことで顔を覗かせた。

「ミユ!」

 慌てて駆けてくるクラウの姿に緊張してしまい、半歩下がってしまった。

「入って」

 笑顔で招き入れられ、それに従う。ダイヤの他の人の部屋に入るのは、これが初めてだろう。
 改めて部屋の中を眺めてみる。きちんと整頓された部屋の家具は、全て青色――私の部屋の家具とは配置の違いはない。それなのに、私の部屋とは全く違うように見える。色だけで、ここまで印象が変わるなんて。

「それで、どうしたの?」

 聞かれ、はっと我に返った。

「私、魔法の練習がしたくて。外に出ても良いかなぁって」

「なんだ。それくらいなら、俺が一緒なら大丈夫だよ」

「クラウも来るの?」

「うん。駄目かな」

 駄目とか、そういう問題ではない。ただ気まずい。
 小首を傾げるクラウに、小さな唸り声を上げるしかなかった。

「駄目でもついてくんだけど。ってか、魔方陣作らないとミユも外に出れないんじゃない?」

「あっ......」

 言われてみればそうだ。カノンの記憶はあるものの、私が行ったことのある場所とは言えない。
 またしても唸り声を上げる。

「そんなに嫌がらなくても良いじゃん」

「じゃあ、少しは私の話を信じてよ」

「それは......」

 クラウは私から視線を外し、瞳を揺らめかせる。信じれば、アイリスがカノンを殺したと認めることになる。仲間だからそれを認めることは出来ない。そんな風に考えているのだろう。
 私がそれを否定は出来ないし、考えを改めろとも言えない。言ってしまえば、信頼関係の悪化を招きかねない。
 意地悪なことを言ってしまったな、と反省する。

「ごめんなさい」

「ううん、こっちこそごめん」

 短な会話を終えると、クラウは魔方陣を描き始める。気まずい雰囲気を何とかしたくて、疑問に思っていたことを口にしていた。

「カノンがいなくなった後、リエルはどうしてたの?」

「えっ?」

「どうして......死んじゃったの?」

 アイリスがリエルを――とも考えてみたけれど、それならばクラウもフレアを快くは思っていないだろう。ただ、単純に気になってしまったのだ。
 魔方陣を描き終えると、クラウは憂いの帯びた表情でこちらを見る。

「まさか......」

「多分、ミユが考えてるのとは違うよ」

 これ以上聞くな、とでも言いたそうな口振りだ。

「俺は先に行ってるよ」

 次の瞬間には、何事もなかったかのような微笑みを残して、この場を去ってしまった。
 言いようのない心のわだかまりが残る。

「う〜ん......」

 聞いてしまったものは仕方がない。私も後を追おう。気持ちを切り替え、魔方陣へと飛び込んだ。
 浮遊感が消えた先に待っていたのは、見渡す限りの草原だった。所々に白色の秋桜のような花も咲いている。
 振り返ると、クラウも既に到着していた。正面へ来ると、その顔に真剣さが増した。

「自分の意思で魔法を使ったことはある?」

「うん。花とか蔦なら出せたの。でも、岩は流石に部屋の中では出せないから」

「そうだよね」

 クラウは何度か頷くと、横に来てしゃがみ込む。

「岩を出したいなら、こんな風に地面に手を翳して」

 言い終わると、息を吸い込む。
 次の瞬間には轟音を立て、大地から鋭い氷柱が何本も斜めにそそり立った。思わず感嘆の声が漏れる。

「魔法を使った後の光景をイメージしたら、こんな風になる。ミユも出来るよ」

「大丈夫かなぁ」

「心配なら、やってみること」

 クラウは私を見上げ、にこっと微笑む。
 良し、次は私の番だ。不安を抱えながらしゃがみ込み、地面に両手を翳す。息を吸い込み、天に登らんばかりの岩壁を思い浮かべた。
 「出て!」と心の中で叫ぶ。
 イメージ通り、クラウの氷柱と似通った、尖った岩壁が天を貫くか、に見えた。一瞬、岩は動きを止めると、中間地点からポキリと折れ、ガラガラと崩れ落ちてしまった。

「ええぇ......」

 何が足りなかったのだろう。分からず、がくりと肩を落とす。

「やっぱり練習が必要だね」

「う〜ん、もう一回――」

「駄目だ」

 何故か、クラウは私の動きを制する。

「何回もこんなに巨大な物出してたら、身体が持たないよ。次は明日、ね」

「え〜っ?」

 折角、やる気に満ち溢れていたところなのに。ペタンと大地に座り込むと、クラウは私の頭を優しく撫でる。

「さっきのミユの質問」

「へっ?」

 何のことだろう。上昇を続ける頬の熱を気にしながら、クラウを見上げた。その人はどこか遠くを見ると、悲しそうに目を細める。

「リエルの死因は......ただの心臓発作だよ」

 リエルは確か、あの時は二十五歳だった筈だ。病気でもなかったのに、そんなに若くして心臓発作なんて不自然ではないだろうか。

「俺は先に戻ってるよ。ミユもすぐに来てね」

 クラウはこちらを見ず、すっと瞼を閉じる。そのまま光と共に消えてしまった。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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羽根3

 私の気持ちを分かってくれる人はいない。今は怒りよりも、落胆の方が大きいだろう。首を振り、大きな溜め息を吐く。

「分かってくれないなら、もう良い。フレアとは仲直り出来ないし、したくない」

 無理矢理スプーンを掴み、クラウの手を振り解いた。ふやけたシリアルと牛乳を口に流し込む。

「ご馳走様でした」

 小さく呟くと、勢い良く立ち上がる。椅子の角に足をぶつけ、鈍い痛みを感じながら会議室を後にした。
 最悪な朝食だ。

 心は塞ぐけれど、このままのんびりしている訳にもいかない。いつ影が襲ってくるのか分からないのだ。少しでも魔法の練習がしたい。クラウとアレクには、そのことを伝えなくてはいけないだろう。
 朝のこともあったし、二人に会いたくはない。かと言って、自分勝手に屋敷を抜け出せば、また心配をかけてしまうかもしれない。
 どちらかと言うと、フレアだけを庇っていたアレクではなく、少しでも理解を示そうとしてくれたクラウの方が、まだ顔を合わせやすい。
 仕方がなく椅子から立ち上がり、廊下へと足を踏み出した。心臓が破裂しそうな程に鼓動している。汗の滲む手を握り、小さく深呼吸をした。
 そうして辿り着いたドアは、自分の部屋のものよりもだいぶ大きく感じる。右手で拳を作り、勇気を振り絞ってドアを三度鳴らした。

「はい」

 くぐもったクラウの声が聞こえたので、恐る恐るドアノブを握る。静かに開いた隙間から、やっとのことで顔を覗かせた。

「ミユ!」

 慌てて駆けてくるクラウの姿に緊張してしまい、半歩下がってしまった。

「入って」

 笑顔で招き入れられ、それに従う。ダイヤの他の人の部屋に入るのは、これが初めてだろう。
 改めて部屋の中を眺めてみる。きちんと整頓された部屋の家具は、全て青色――私の部屋の家具とは配置の違いはない。それなのに、私の部屋とは全く違うように見える。色だけで、ここまで印象が変わるなんて。

「それで、どうしたの?」

 聞かれ、はっと我に返った。

「私、魔法の練習がしたくて。外に出ても良いかなぁって」

「なんだ。それくらいなら、俺が一緒なら大丈夫だよ」

「クラウも来るの?」

「うん。駄目かな」

 駄目とか、そういう問題ではない。ただ気まずい。
 小首を傾げるクラウに、小さな唸り声を上げるしかなかった。

「駄目でもついてくんだけど。ってか、魔方陣作らないとミユも外に出れないんじゃない?」

「あっ......」

 言われてみればそうだ。カノンの記憶はあるものの、私が行ったことのある場所とは言えない。
 またしても唸り声を上げる。

「そんなに嫌がらなくても良いじゃん」

「じゃあ、少しは私の話を信じてよ」

「それは......」

 クラウは私から視線を外し、瞳を揺らめかせる。信じれば、アイリスがカノンを殺したと認めることになる。仲間だからそれを認めることは出来ない。そんな風に考えているのだろう。
 私がそれを否定は出来ないし、考えを改めろとも言えない。言ってしまえば、信頼関係の悪化を招きかねない。
 意地悪なことを言ってしまったな、と反省する。

「ごめんなさい」

「ううん、こっちこそごめん」

 短な会話を終えると、クラウは魔方陣を描き始める。気まずい雰囲気を何とかしたくて、疑問に思っていたことを口にしていた。

「カノンがいなくなった後、リエルはどうしてたの?」

「えっ?」

「どうして......死んじゃったの?」

 アイリスがリエルを――とも考えてみたけれど、それならばクラウもフレアを快くは思っていないだろう。ただ、単純に気になってしまったのだ。
 魔方陣を描き終えると、クラウは憂いの帯びた表情でこちらを見る。

「まさか......」

「多分、ミユが考えてるのとは違うよ」

 これ以上聞くな、とでも言いたそうな口振りだ。

「俺は先に行ってるよ」

 次の瞬間には、何事もなかったかのような微笑みを残して、この場を去ってしまった。
 言いようのない心のわだかまりが残る。

「う〜ん......」

 聞いてしまったものは仕方がない。私も後を追おう。気持ちを切り替え、魔方陣へと飛び込んだ。
 浮遊感が消えた先に待っていたのは、見渡す限りの草原だった。所々に白色の秋桜のような花も咲いている。
 振り返ると、クラウも既に到着していた。正面へ来ると、その顔に真剣さが増した。

「自分の意思で魔法を使ったことはある?」

「うん。花とか蔦なら出せたの。でも、岩は流石に部屋の中では出せないから」

「そうだよね」

 クラウは何度か頷くと、横に来てしゃがみ込む。

「岩を出したいなら、こんな風に地面に手を翳して」

 言い終わると、息を吸い込む。
 次の瞬間には轟音を立て、大地から鋭い氷柱が何本も斜めにそそり立った。思わず感嘆の声が漏れる。

「魔法を使った後の光景をイメージしたら、こんな風になる。ミユも出来るよ」

「大丈夫かなぁ」

「心配なら、やってみること」

 クラウは私を見上げ、にこっと微笑む。
 良し、次は私の番だ。不安を抱えながらしゃがみ込み、地面に両手を翳す。息を吸い込み、天に登らんばかりの岩壁を思い浮かべた。
 「出て!」と心の中で叫ぶ。
 イメージ通り、クラウの氷柱と似通った、尖った岩壁が天を貫くか、に見えた。一瞬、岩は動きを止めると、中間地点からポキリと折れ、ガラガラと崩れ落ちてしまった。

「ええぇ......」

 何が足りなかったのだろう。分からず、がくりと肩を落とす。

「やっぱり練習が必要だね」

「う〜ん、もう一回――」

「駄目だ」

 何故か、クラウは私の動きを制する。

「何回もこんなに巨大な物出してたら、身体が持たないよ。次は明日、ね」

「え〜っ?」

 折角、やる気に満ち溢れていたところなのに。ペタンと大地に座り込むと、クラウは私の頭を優しく撫でる。

「さっきのミユの質問」

「へっ?」

 何のことだろう。上昇を続ける頬の熱を気にしながら、クラウを見上げた。その人はどこか遠くを見ると、悲しそうに目を細める。

「リエルの死因は......ただの心臓発作だよ」

 リエルは確か、あの時は二十五歳だった筈だ。病気でもなかったのに、そんなに若くして心臓発作なんて不自然ではないだろうか。

「俺は先に戻ってるよ。ミユもすぐに来てね」

 クラウはこちらを見ず、すっと瞼を閉じる。そのまま光と共に消えてしまった。
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