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連鎖するモノ2

 突き付けられた未来があまりにも過酷で、しばらくミユから手を離せずにいた。離してしまえば、また直ぐにいなくなってしまうような──そんな気がしてくるのだ。
 ようやくミユが落ち着いてきた頃、気持ちとは裏腹にそっと身体を離した。ふと目を落とした時に、ミユの足が目に映った。右脛に傷が出来ており、そこから細く赤が流れている。

「手当しなくちゃ」

 自然と口から零れていた。
 
「えっ?」

「足、怪我してるじゃん?」

 ミユは視線を右脛の方へと移すと、目を伏せる。

「これくらい、放っておいても大丈夫だよ」

 血が流れているのに、放っておいて良い筈がない。肯定は出来なかった。

「傷の跡が残るよ?」

「でも......」

「良いから、ここに座ってて。鏡の欠片を踏んだら大変だから」

 幼子を諭すように言い、ゆっくりと腰を上げた。気落ちしてしまったミユに、なんとか微笑みかけてみる。そのままくるりとミユに背を向け、廊下を目指した。この時に、既に涙が溢れていたことは、おそらくミユには気づかれていないだろう。
 背中でドアを閉め、唇を噛み締める。
 ミユはこれからどうなるのだろう。このまま影が現れれば、また彼女を死なせてしまうのだろうか。
 そんなのは絶対に嫌だ。
 いる筈もない影を睨みつけ、負けるな自分、と心を奮い立たせる。
 とりあえず、今は怪我の手当てだ。包帯やガーゼは倉庫にある。キッチンの向かい側が倉庫となっている。
 通り慣れた廊下を歩き、声を殺して咽び泣く。こんな所、アレクに見られようものなら堪ったものではない。
 運が良かったのか、倉庫内から救急箱を取り出し、ミユの部屋へと戻るまで誰にも出くわさずに済んだ。涙を左腕でごしごしと拭い、深呼吸をする。充血してしまったかもしれない目は気づかれないことを祈ろう。
 ドアを開けると、変わらずミユはそこに座り込んでいた。頭を膝に乗せている為、表情は見えない。
 歩み寄り、その傍へとしゃがむ。救急箱を置き、ミユに微笑みかけた。

「触るよ。痛くない?」

 声をかけると、ミユはそのままの状態で小さく頷いた。
 今一度、傷へと目を向けてみる。血の量に対して、傷は深くはないようだ。
 救急箱からガーゼと包帯を取り出し、傷に当てる。その瞬間、ミユの身体が小さく震えた気がした。僅かに手が止まったものの、ここで止める訳にもいかない。気づかないふりをして、手当てを進めた。最後に留め具で包帯を固定する。
 この小さな身体に、どれ程の恐怖を抱えているのだろう。俺の比ではない筈だ。いたたまれず、ミユの頭を撫でた。

「鏡も直しておくよ」

 こちらも片づけなくては、また怪我をしてしまう。鏡の枠へと手をかざし、直れと念じる。鏡の欠片はカタカタと震えながら宙に浮き、枠の中へと納まっていく。最後にヒビまでもが消え、すっかり元通りの形となった。
 この魔法を使って、ミユの身体の傷も、恐怖も取り除けたならどれ程良いだろう。残念ながら、俺はその術を知らない。
 せめて、俺だけは味方だし、恐怖の捌け口であることは伝えよう。
 ミユの隣へと移動し、腰を下ろした。揺れる緑の瞳がこちらを向く。
 
「やっとこっち見てくれた」

 少しでも、ミユの顔を見ることが出来て良かった。にこっと微笑んでみせる。微笑み返してくれなかったことは、気にしていない。
 顔を正面へと向け、視線を落とした。

「辛くなったら、全部俺に言って良いから。その気持ち、全部受け止めるから」

「私、辛いの我慢出来る程、強くないよ。もう弱音吐いてるし......」

「そっか......」

 やはり、ミユはカノンとは違う。自分の気持ちに正直でいてくれて良かった。
 それは良いのだが、この状況で話題が見つからない。時計が時を刻む音だけが部屋に響いている。頭がぼんやりとする。
 先に口を開いたのはミユだった。

「色々ありがとう。でも、ごめんね。一人で考えたいことがあるから」

 恐らく、これは方便だ。俺を追い出したいのだろう。
 今、ここで素直に部屋を出て良いものだろうか。いや、カノンのリングだけは渡してしまおう。この状況だから、余計に。
 
「......分かった。でも、これだけは言わせて欲しい」

「えっ?」

 一瞬だけミユに背を向け、ネックレスからリングを取り外し、右手に握る。
 ミユの正面に回り込むと、片膝を床について彼女の右手を取った。その小さな掌にカノンのリングを乗せ、ぎゅっと握らせた。

「これ、ミユが持ってて。今の俺には必要ないから。もう俺に返さないでね」

 少し遠回しな言い方だが、これくらいが丁度良いだろう。あまりに直接的だと、更にミユを困らせてしまう。
 もう、カノンみたいな目には遭わせないから。そう心に誓う。
 これ以上、ここに居る必要はない。踵を返し、スタスタと進み、ドアを開閉させた。胸元では、飾り気のなくなったシルバーのチェーンだけが寂しそうに揺れている。
 俺が為すべきことは何だろう。どうすれば、ミユを危険から遠ざけられるのだろう。疑問ばかりが俺の頭を占拠する。
 自室へ辿り着いても思考はまとまらず、椅子に座って頭を抱えていた。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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連鎖するモノ2

 突き付けられた未来があまりにも過酷で、しばらくミユから手を離せずにいた。離してしまえば、また直ぐにいなくなってしまうような──そんな気がしてくるのだ。
 ようやくミユが落ち着いてきた頃、気持ちとは裏腹にそっと身体を離した。ふと目を落とした時に、ミユの足が目に映った。右脛に傷が出来ており、そこから細く赤が流れている。

「手当しなくちゃ」

 自然と口から零れていた。
 
「えっ?」

「足、怪我してるじゃん?」

 ミユは視線を右脛の方へと移すと、目を伏せる。

「これくらい、放っておいても大丈夫だよ」

 血が流れているのに、放っておいて良い筈がない。肯定は出来なかった。

「傷の跡が残るよ?」

「でも......」

「良いから、ここに座ってて。鏡の欠片を踏んだら大変だから」

 幼子を諭すように言い、ゆっくりと腰を上げた。気落ちしてしまったミユに、なんとか微笑みかけてみる。そのままくるりとミユに背を向け、廊下を目指した。この時に、既に涙が溢れていたことは、おそらくミユには気づかれていないだろう。
 背中でドアを閉め、唇を噛み締める。
 ミユはこれからどうなるのだろう。このまま影が現れれば、また彼女を死なせてしまうのだろうか。
 そんなのは絶対に嫌だ。
 いる筈もない影を睨みつけ、負けるな自分、と心を奮い立たせる。
 とりあえず、今は怪我の手当てだ。包帯やガーゼは倉庫にある。キッチンの向かい側が倉庫となっている。
 通り慣れた廊下を歩き、声を殺して咽び泣く。こんな所、アレクに見られようものなら堪ったものではない。
 運が良かったのか、倉庫内から救急箱を取り出し、ミユの部屋へと戻るまで誰にも出くわさずに済んだ。涙を左腕でごしごしと拭い、深呼吸をする。充血してしまったかもしれない目は気づかれないことを祈ろう。
 ドアを開けると、変わらずミユはそこに座り込んでいた。頭を膝に乗せている為、表情は見えない。
 歩み寄り、その傍へとしゃがむ。救急箱を置き、ミユに微笑みかけた。

「触るよ。痛くない?」

 声をかけると、ミユはそのままの状態で小さく頷いた。
 今一度、傷へと目を向けてみる。血の量に対して、傷は深くはないようだ。
 救急箱からガーゼと包帯を取り出し、傷に当てる。その瞬間、ミユの身体が小さく震えた気がした。僅かに手が止まったものの、ここで止める訳にもいかない。気づかないふりをして、手当てを進めた。最後に留め具で包帯を固定する。
 この小さな身体に、どれ程の恐怖を抱えているのだろう。俺の比ではない筈だ。いたたまれず、ミユの頭を撫でた。

「鏡も直しておくよ」

 こちらも片づけなくては、また怪我をしてしまう。鏡の枠へと手をかざし、直れと念じる。鏡の欠片はカタカタと震えながら宙に浮き、枠の中へと納まっていく。最後にヒビまでもが消え、すっかり元通りの形となった。
 この魔法を使って、ミユの身体の傷も、恐怖も取り除けたならどれ程良いだろう。残念ながら、俺はその術を知らない。
 せめて、俺だけは味方だし、恐怖の捌け口であることは伝えよう。
 ミユの隣へと移動し、腰を下ろした。揺れる緑の瞳がこちらを向く。
 
「やっとこっち見てくれた」

 少しでも、ミユの顔を見ることが出来て良かった。にこっと微笑んでみせる。微笑み返してくれなかったことは、気にしていない。
 顔を正面へと向け、視線を落とした。

「辛くなったら、全部俺に言って良いから。その気持ち、全部受け止めるから」

「私、辛いの我慢出来る程、強くないよ。もう弱音吐いてるし......」

「そっか......」

 やはり、ミユはカノンとは違う。自分の気持ちに正直でいてくれて良かった。
 それは良いのだが、この状況で話題が見つからない。時計が時を刻む音だけが部屋に響いている。頭がぼんやりとする。
 先に口を開いたのはミユだった。

「色々ありがとう。でも、ごめんね。一人で考えたいことがあるから」

 恐らく、これは方便だ。俺を追い出したいのだろう。
 今、ここで素直に部屋を出て良いものだろうか。いや、カノンのリングだけは渡してしまおう。この状況だから、余計に。
 
「......分かった。でも、これだけは言わせて欲しい」

「えっ?」

 一瞬だけミユに背を向け、ネックレスからリングを取り外し、右手に握る。
 ミユの正面に回り込むと、片膝を床について彼女の右手を取った。その小さな掌にカノンのリングを乗せ、ぎゅっと握らせた。

「これ、ミユが持ってて。今の俺には必要ないから。もう俺に返さないでね」

 少し遠回しな言い方だが、これくらいが丁度良いだろう。あまりに直接的だと、更にミユを困らせてしまう。
 もう、カノンみたいな目には遭わせないから。そう心に誓う。
 これ以上、ここに居る必要はない。踵を返し、スタスタと進み、ドアを開閉させた。胸元では、飾り気のなくなったシルバーのチェーンだけが寂しそうに揺れている。
 俺が為すべきことは何だろう。どうすれば、ミユを危険から遠ざけられるのだろう。疑問ばかりが俺の頭を占拠する。
 自室へ辿り着いても思考はまとまらず、椅子に座って頭を抱えていた。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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