ホーム›神々の奇想四重奏›貴方に逢うため2
← 次の話目次前の話 →

貴方に逢うため2

 その目も、徐々に吊り上げられていく。

「ミユ、なんで教えてくれなかったのさ」

「だって、言う必要は無いって思ったし、クラウだって教えてくれなかったし」

「それは......そうだけどさ」

 一方的に責められても困ってしまう。しゅんとしていると、クラウの勢いも衰えていく。
 まさか、私以外にも自分の中に前世が住み着いている人が居るなんて、思ってもいなかった。それに、他の人にもカノンの声が聞こえるなんて想像もしなかったのだ。
 だから、誰にも教えなかったし、聞かなかった。
 此処で、ふと閃いたのだ。こうして考えてみると、誰かが近くに居る時にはカノンは話し掛けてこなかった。それどころか、二人で話している時に誰かが近付いて来ると、カノンは途中で会話を止めてしまっていた。きっと、自分の声が皆にも聞こえるという事に気付いていたのだろう。
 それならそうと、早く言ってくれれば良いのに。
 顔には出さないように、心の中でカノンに悪態を吐いてみる。
 そこへ殺気が近付いてきた。

「しぶとい奴だ! また殺られに来たのか!?」

 たちまちに氷の壁が立ち上り、漆黒の球を防いだ。氷の破片がパラパラと私たちに降り注ぐ。

「邪魔をするな!」

 クラウは怒鳴り、ルイスを制する。
 それに臆する事なく、カノンも声を上げる。

“殺されに来た筈が無いでしょ!? 私、身体無いから殺られないもん!”

 怯む事も無く言い返す。
 言っている事は尤もなのだけれど、何だか間抜けだ。
 カノンは更に話を続ける。

“それに、実結も殺させないもん! 私、頑張って地球に行ったんだから!”

 カノンが興奮するにつれて胸が熱く、苦しくなっていく。涙まで溢れてくる。
 カノンの気持ちが私に移ってしまったのだろうか。

“世界を、時を超えてでも、早くリエルに逢って謝りたかったの! くだらないなんて言わせないんだから!”

 私が泣いているせいか、カノンも涙声になっている。それに、カノンが怒りに任せて声を荒げるせいか、私の体温は上昇する。

“千年も生まれ変われないなんて......知らなかったけど......”

 たった百年で生まれ変わって来られたのは、カノンのお陰だったのだ。私が地球に生まれたのも、カノンが望んだ結果だったのだ。そう知ると、全ての事柄が腑に落ちる。
 クラウは一気に私の身体を抱き寄せた。間近には氷の障壁が出来ている。

「ミユ」

“カノン”

 腕に数滴の涙が落ちる。これは私の涙ではない。

“カノンが謝る事は無いよ。謝らなきゃいけないのは、俺の方だから......”

 ほんの少し、私を抱く手に力が加わる。

「ごめん」

“ごめん”

 クラウやリエルも涙声になっている。
 私たちよりも二人の方がずっと辛い思いをしてきた筈なのに。百年間も私を探して、寿命まで縮めて、それなのに。何故、その二人が謝らなくてはいけないのだろう。こんなのは間違っている。
 思い切り首を振った。

“何で謝るの!? 酷い事をしたのは私なのに......!”

 カノンの言葉に同意し、何度かコクコクと頷いてみせる。

「ごめんね」

“ごめんね”

 そして、待っていてくれてありがとう。思いを込め、私もクラウを抱く手に力を入れた。
 轟音が鳴り、氷の障壁が崩れ去る。その向こうには、苛立ちを隠せない様子のルイスが立っていた。

「くだらないものをくだらないと言って何が悪い! 早く消え去れ!」

「話はまだ終わってない!」

 クラウが叫ぶと、再びドーム状の氷の壁が現れた。私たちとルイスを隔てる。
 間を置き、クラウは小さく息を吸った。

「リエル。手伝って」

 囁く声がいつもよりも低い。

“やるの?”

「うん」

“......そっか”

 なんの話をしているのか全く分からない。身体を離し、小首を傾げてみせる。
 クラウは優しく微笑むばかりだ。

「ミユ、神様に何か貰わなかった?」

「羽根の事? それなら、さっきルイスに......」

 思い出すだけで涙が出そうになる。
 しかし、クラウは首を横に振る。

「違うよ。なんて言ったら伝わるかな。......そうだ、ビー玉みたいな石」

「えっ?」

 何故、クラウがその石の存在を知っていたのだろう。神に言われたから、その石は常に胸のポケットに入れて持ち歩いていた。
 訝りながらも石を取り出そうと試みる。すると、ポケットの中で、その石が淡い緑色の光を放っていたのだ。

「ひゃっ」

 思わず小さな声が漏れる。
 何が起きているか分からず、震える手で石を弄り出した。そのまま掌の上に転がすと、クラウはそれを食い入るように見詰める。
 少しの間、時間が止まったように感じられた。

「ミユ」

 私の名前を囁くクラウの声はこれまでに無い程優しく、甘い。突然の事に対応出来ず、顔は熱くなり、声が出せなかった。

「愛してる」

 なんとクラウの顔が一気に近付き、強引にキスをされてしまった。ほんの数秒の間だったけれど、私の思考力を消し去るのには十分だ。
 私が固まっている間に、クラウは緩んでしまった手の中から緑色の玉を奪い取る。
 次の瞬間には鼓膜が破れそうな程の爆音が鳴り、ルイスとの壁は消し去られてしまった。強風が吹き止むまで、目を瞑って耐え忍んだ。
 眼前には花畑ではなく、荒れ果てた大地が広がるばかりだ。魔法の凄まじさを物語っている。
 クラウはゆらりと立ち上がると、ルイスを睨み付けた。ルイスにも劣らない殺気を放っている。

「お前は俺が殺す。ミユは殺させない」

「勝手に息巻けば良い。私を殺せばミユは死ぬぞ?」

「まだ決まった訳じゃない」

「何を根拠に」

 ルイスは鼻で笑い、軽くあしらう。

「ミユ、下がってて。あいつの相手は俺がする」

「えっ? でも――」

「良いから」

 嫌だ、離れたくない。何か胸騒ぎがする。縋り付きたいのに、身体が言う事を聞いてくれない。

“実結、行こう”

 カノンが囁くと身体が勝手に動き出す。足が地に着き、身体が持ち上がり、クラウを置いて後退を始めた。

「やだ。やだ......!」

 クラウの背中はどんどん遠ざかっていく。手を伸ばしてみても、もう届かない。
 二人の絶叫を合図に、戦闘は開始されてしまった。
シェア
前の話 →
貴方に逢うため1
← 次の話
戦いの果てに1
神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
目次を見る
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません

貴方に逢うため2

 その目も、徐々に吊り上げられていく。

「ミユ、なんで教えてくれなかったのさ」

「だって、言う必要は無いって思ったし、クラウだって教えてくれなかったし」

「それは......そうだけどさ」

 一方的に責められても困ってしまう。しゅんとしていると、クラウの勢いも衰えていく。
 まさか、私以外にも自分の中に前世が住み着いている人が居るなんて、思ってもいなかった。それに、他の人にもカノンの声が聞こえるなんて想像もしなかったのだ。
 だから、誰にも教えなかったし、聞かなかった。
 此処で、ふと閃いたのだ。こうして考えてみると、誰かが近くに居る時にはカノンは話し掛けてこなかった。それどころか、二人で話している時に誰かが近付いて来ると、カノンは途中で会話を止めてしまっていた。きっと、自分の声が皆にも聞こえるという事に気付いていたのだろう。
 それならそうと、早く言ってくれれば良いのに。
 顔には出さないように、心の中でカノンに悪態を吐いてみる。
 そこへ殺気が近付いてきた。

「しぶとい奴だ! また殺られに来たのか!?」

 たちまちに氷の壁が立ち上り、漆黒の球を防いだ。氷の破片がパラパラと私たちに降り注ぐ。

「邪魔をするな!」

 クラウは怒鳴り、ルイスを制する。
 それに臆する事なく、カノンも声を上げる。

“殺されに来た筈が無いでしょ!? 私、身体無いから殺られないもん!”

 怯む事も無く言い返す。
 言っている事は尤もなのだけれど、何だか間抜けだ。
 カノンは更に話を続ける。

“それに、実結も殺させないもん! 私、頑張って地球に行ったんだから!”

 カノンが興奮するにつれて胸が熱く、苦しくなっていく。涙まで溢れてくる。
 カノンの気持ちが私に移ってしまったのだろうか。

“世界を、時を超えてでも、早くリエルに逢って謝りたかったの! くだらないなんて言わせないんだから!”

 私が泣いているせいか、カノンも涙声になっている。それに、カノンが怒りに任せて声を荒げるせいか、私の体温は上昇する。

“千年も生まれ変われないなんて......知らなかったけど......”

 たった百年で生まれ変わって来られたのは、カノンのお陰だったのだ。私が地球に生まれたのも、カノンが望んだ結果だったのだ。そう知ると、全ての事柄が腑に落ちる。
 クラウは一気に私の身体を抱き寄せた。間近には氷の障壁が出来ている。

「ミユ」

“カノン”

 腕に数滴の涙が落ちる。これは私の涙ではない。

“カノンが謝る事は無いよ。謝らなきゃいけないのは、俺の方だから......”

 ほんの少し、私を抱く手に力が加わる。

「ごめん」

“ごめん”

 クラウやリエルも涙声になっている。
 私たちよりも二人の方がずっと辛い思いをしてきた筈なのに。百年間も私を探して、寿命まで縮めて、それなのに。何故、その二人が謝らなくてはいけないのだろう。こんなのは間違っている。
 思い切り首を振った。

“何で謝るの!? 酷い事をしたのは私なのに......!”

 カノンの言葉に同意し、何度かコクコクと頷いてみせる。

「ごめんね」

“ごめんね”

 そして、待っていてくれてありがとう。思いを込め、私もクラウを抱く手に力を入れた。
 轟音が鳴り、氷の障壁が崩れ去る。その向こうには、苛立ちを隠せない様子のルイスが立っていた。

「くだらないものをくだらないと言って何が悪い! 早く消え去れ!」

「話はまだ終わってない!」

 クラウが叫ぶと、再びドーム状の氷の壁が現れた。私たちとルイスを隔てる。
 間を置き、クラウは小さく息を吸った。

「リエル。手伝って」

 囁く声がいつもよりも低い。

“やるの?”

「うん」

“......そっか”

 なんの話をしているのか全く分からない。身体を離し、小首を傾げてみせる。
 クラウは優しく微笑むばかりだ。

「ミユ、神様に何か貰わなかった?」

「羽根の事? それなら、さっきルイスに......」

 思い出すだけで涙が出そうになる。
 しかし、クラウは首を横に振る。

「違うよ。なんて言ったら伝わるかな。......そうだ、ビー玉みたいな石」

「えっ?」

 何故、クラウがその石の存在を知っていたのだろう。神に言われたから、その石は常に胸のポケットに入れて持ち歩いていた。
 訝りながらも石を取り出そうと試みる。すると、ポケットの中で、その石が淡い緑色の光を放っていたのだ。

「ひゃっ」

 思わず小さな声が漏れる。
 何が起きているか分からず、震える手で石を弄り出した。そのまま掌の上に転がすと、クラウはそれを食い入るように見詰める。
 少しの間、時間が止まったように感じられた。

「ミユ」

 私の名前を囁くクラウの声はこれまでに無い程優しく、甘い。突然の事に対応出来ず、顔は熱くなり、声が出せなかった。

「愛してる」

 なんとクラウの顔が一気に近付き、強引にキスをされてしまった。ほんの数秒の間だったけれど、私の思考力を消し去るのには十分だ。
 私が固まっている間に、クラウは緩んでしまった手の中から緑色の玉を奪い取る。
 次の瞬間には鼓膜が破れそうな程の爆音が鳴り、ルイスとの壁は消し去られてしまった。強風が吹き止むまで、目を瞑って耐え忍んだ。
 眼前には花畑ではなく、荒れ果てた大地が広がるばかりだ。魔法の凄まじさを物語っている。
 クラウはゆらりと立ち上がると、ルイスを睨み付けた。ルイスにも劣らない殺気を放っている。

「お前は俺が殺す。ミユは殺させない」

「勝手に息巻けば良い。私を殺せばミユは死ぬぞ?」

「まだ決まった訳じゃない」

「何を根拠に」

 ルイスは鼻で笑い、軽くあしらう。

「ミユ、下がってて。あいつの相手は俺がする」

「えっ? でも――」

「良いから」

 嫌だ、離れたくない。何か胸騒ぎがする。縋り付きたいのに、身体が言う事を聞いてくれない。

“実結、行こう”

 カノンが囁くと身体が勝手に動き出す。足が地に着き、身体が持ち上がり、クラウを置いて後退を始めた。

「やだ。やだ......!」

 クラウの背中はどんどん遠ざかっていく。手を伸ばしてみても、もう届かない。
 二人の絶叫を合図に、戦闘は開始されてしまった。
シェア
次の話戦いの果てに1
神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
目次
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません