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塔の住人2

 天を仰ぐと、頭上から何かが降りてきているようだ。翼の形といい、くちばしが付いているらしいことといい、鳥か何かだろうか。

「あれ、鳥......?」

“多分ね〜”

 言ってはみたものの、鳥にしては大き過ぎる。既に、鳥の影は私よりも一回り――ううん、五倍は大きくなっていた。このままでは踏み潰されてしまう。焦る気持ちはあるのに、身体が動かない。

「カノン! 私、踏み潰されちゃう! 助けて〜!」

“え〜っ!? もう実結の身体は動かせないよ!?”

「そんな〜!」

 こんな所で、私の人生は終わってしまうのだろうか。嫌だ、死にたくない。ではどうすれば――。
 思考を巡らせていると、その鳥は旋回を始めた。もしかすると、私を潰す気はないのかもしれない。
 お願いだから、踏み潰さないで。息を詰まらせながら、鳥の行方を見守る。
 鳥が地面を揺らしながら着地をしたのは、三メートル程離れた場所だろうか。着地の衝撃で、突風が吹く。私の身長はあろうかという程の大きさの黄色の爪と三本の足、緑の羽毛で覆われたコロンとした大きな身体、身体よりも深い緑の瞳――あまりの迫力に悲鳴が漏れた。

“この巨大な鳥、何......?”

 先に反応する事が出来たのはカノンだった。
 不服があるのだろうか。緑の鳥は翼をばたつかせる。目もつり上げている。

「『何』とはなんだ。失礼だろう」

“じゃあ、何なのか教えてよ”

「お前とは会話したことがある筈だが」

 カノン『とは』ということは、私とは話していない、という意味だろうか。確かに、初めて聞く声ではある。
 この場はカノンに任せつつ、鳥の様子も窺ってみる。しかし、鳥は瞬き以外に身体を動かすことはしない。
 カノンは“う〜ん”と唸った後、何かを閃いたように小さな声を上げた。

“もしかして、魔法を習得した時に、この塔で会話したのって、貴女?”

「そうだ」

“まさか、人じゃなくて鳥だったなんて”

 カノンは驚いた声で、吐息混じりに話す。
 私が会話をした他の塔の住人も鳥なのだろうか。カノンと一緒に驚愕していると、鳥の目つきが鋭くなった気がした。

「我は鳥でもないぞ」

「えっ?」

「まあ、今、ここで話すことでもないだろう。お前たちの想像に任せる」

 そこまで話すなら、正体を明かしてくれても良いのに。頬を膨らませてみたところで、鳥の表情は変わらない。

「それよりも、何か聞きたいことがあったのではないか?」

「あっ......」

 忘れかけていた事実を思い出す。
 聞きたいのに聞きたくない。怖くてぎゅっと瞼を閉じる。鳥の息遣いが聞こえてきそうだ。汗でビッショリと濡れた手で、スカートを握り締める。

「我からは、お前に何も教えられることはない」

 言われた瞬間、脳に激震が走り、心臓が妙に飛び跳ねた。心に虚無が広がっていく。もう、何も考えたくない。

“じゃあ、知ってそうな人を教えて”

「そんな人物はいない」

“なんで? なんでそんな風に言い切れるの!?”

「いないものはいないのだ」

 私の代わりに反発するカノンに、鳥はゆっくりと首を振る。

“そんなの信じないから!”

 カノンが声を張ると、鳥は深い溜め息を吐く。

「我は......この世界の創造主の一人。女神なのだ」

“えっ?”

「我は呪いを解ける術を持ち合わせていないし、仲間も同じだろう」

“⋯⋯仲間って?”

「他の塔の三人だ。彼らも我と同じく神なのだ」

 最悪の結果だった。この世界の神ですら、呪いの解き方を知らないだなんて。――鳥の言葉を信じるのなら。

「貴女が神様だって信じられる根拠は?」

 まっすぐに鳥――女神を見遣ると、女神も私に向けている瞳を細めた。

「ない。そもそもそも、それを証明する必要はあるのか? 我がお前に魔法を与えたと言うのに」

 ぐっと奥歯を噛む。言われてみるとそうなのだ。人間に魔法を与えられる人物など、そうそういない。まさに、神や神に近い人物でもなければ。
 身体の力が抜けていく。涙も勝手に流れていく。遠回しに、神に死刑宣告をされたのだ。

「詫び、という訳ではないが、これを持ち帰りなさい」

 呪いも解けないのに、何を今更――そう思っていると、女神が一粒の涙を零したのだ。雫は落下し、地面に衝突した。大地に吸収されるでもなく、球体を保ちながら私の前に転がる。
 持ち帰れとは、このことを言っているのだろうか。
 渋々指で摘み上げると、シャボン玉のように光を反射させてキラキラと輝いている。大きさはビー玉と差程変わらないだろう。
 女神を見上げると、その眼光が柔らかくなった気がした。

「そろそろ帰りなさい。仲間も待っているだろう」

“待ってよ! こんなことを聞くために、わざわざ危険を犯してここに来た訳じゃないの!”

「我に言われても、どうすることも出来ない。帰らないと言うなら、帰らせるまで」

 私が何かをした訳ではない。勝手に、地面に魔法陣が現れ、緑に発光する。

「必ず、その玉を肌身離さず持ち歩くのだぞ。必ずだ」

 浮遊感に包まれる前に、確かにそう聞こえた。

「その玉を使わずに済むことを祈る――」

 声が消えていったと思った時には、塔の中央でへたり込んでいた。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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塔の住人2

 天を仰ぐと、頭上から何かが降りてきているようだ。翼の形といい、くちばしが付いているらしいことといい、鳥か何かだろうか。

「あれ、鳥......?」

“多分ね〜”

 言ってはみたものの、鳥にしては大き過ぎる。既に、鳥の影は私よりも一回り――ううん、五倍は大きくなっていた。このままでは踏み潰されてしまう。焦る気持ちはあるのに、身体が動かない。

「カノン! 私、踏み潰されちゃう! 助けて〜!」

“え〜っ!? もう実結の身体は動かせないよ!?”

「そんな〜!」

 こんな所で、私の人生は終わってしまうのだろうか。嫌だ、死にたくない。ではどうすれば――。
 思考を巡らせていると、その鳥は旋回を始めた。もしかすると、私を潰す気はないのかもしれない。
 お願いだから、踏み潰さないで。息を詰まらせながら、鳥の行方を見守る。
 鳥が地面を揺らしながら着地をしたのは、三メートル程離れた場所だろうか。着地の衝撃で、突風が吹く。私の身長はあろうかという程の大きさの黄色の爪と三本の足、緑の羽毛で覆われたコロンとした大きな身体、身体よりも深い緑の瞳――あまりの迫力に悲鳴が漏れた。

“この巨大な鳥、何......?”

 先に反応する事が出来たのはカノンだった。
 不服があるのだろうか。緑の鳥は翼をばたつかせる。目もつり上げている。

「『何』とはなんだ。失礼だろう」

“じゃあ、何なのか教えてよ”

「お前とは会話したことがある筈だが」

 カノン『とは』ということは、私とは話していない、という意味だろうか。確かに、初めて聞く声ではある。
 この場はカノンに任せつつ、鳥の様子も窺ってみる。しかし、鳥は瞬き以外に身体を動かすことはしない。
 カノンは“う〜ん”と唸った後、何かを閃いたように小さな声を上げた。

“もしかして、魔法を習得した時に、この塔で会話したのって、貴女?”

「そうだ」

“まさか、人じゃなくて鳥だったなんて”

 カノンは驚いた声で、吐息混じりに話す。
 私が会話をした他の塔の住人も鳥なのだろうか。カノンと一緒に驚愕していると、鳥の目つきが鋭くなった気がした。

「我は鳥でもないぞ」

「えっ?」

「まあ、今、ここで話すことでもないだろう。お前たちの想像に任せる」

 そこまで話すなら、正体を明かしてくれても良いのに。頬を膨らませてみたところで、鳥の表情は変わらない。

「それよりも、何か聞きたいことがあったのではないか?」

「あっ......」

 忘れかけていた事実を思い出す。
 聞きたいのに聞きたくない。怖くてぎゅっと瞼を閉じる。鳥の息遣いが聞こえてきそうだ。汗でビッショリと濡れた手で、スカートを握り締める。

「我からは、お前に何も教えられることはない」

 言われた瞬間、脳に激震が走り、心臓が妙に飛び跳ねた。心に虚無が広がっていく。もう、何も考えたくない。

“じゃあ、知ってそうな人を教えて”

「そんな人物はいない」

“なんで? なんでそんな風に言い切れるの!?”

「いないものはいないのだ」

 私の代わりに反発するカノンに、鳥はゆっくりと首を振る。

“そんなの信じないから!”

 カノンが声を張ると、鳥は深い溜め息を吐く。

「我は......この世界の創造主の一人。女神なのだ」

“えっ?”

「我は呪いを解ける術を持ち合わせていないし、仲間も同じだろう」

“⋯⋯仲間って?”

「他の塔の三人だ。彼らも我と同じく神なのだ」

 最悪の結果だった。この世界の神ですら、呪いの解き方を知らないだなんて。――鳥の言葉を信じるのなら。

「貴女が神様だって信じられる根拠は?」

 まっすぐに鳥――女神を見遣ると、女神も私に向けている瞳を細めた。

「ない。そもそもそも、それを証明する必要はあるのか? 我がお前に魔法を与えたと言うのに」

 ぐっと奥歯を噛む。言われてみるとそうなのだ。人間に魔法を与えられる人物など、そうそういない。まさに、神や神に近い人物でもなければ。
 身体の力が抜けていく。涙も勝手に流れていく。遠回しに、神に死刑宣告をされたのだ。

「詫び、という訳ではないが、これを持ち帰りなさい」

 呪いも解けないのに、何を今更――そう思っていると、女神が一粒の涙を零したのだ。雫は落下し、地面に衝突した。大地に吸収されるでもなく、球体を保ちながら私の前に転がる。
 持ち帰れとは、このことを言っているのだろうか。
 渋々指で摘み上げると、シャボン玉のように光を反射させてキラキラと輝いている。大きさはビー玉と差程変わらないだろう。
 女神を見上げると、その眼光が柔らかくなった気がした。

「そろそろ帰りなさい。仲間も待っているだろう」

“待ってよ! こんなことを聞くために、わざわざ危険を犯してここに来た訳じゃないの!”

「我に言われても、どうすることも出来ない。帰らないと言うなら、帰らせるまで」

 私が何かをした訳ではない。勝手に、地面に魔法陣が現れ、緑に発光する。

「必ず、その玉を肌身離さず持ち歩くのだぞ。必ずだ」

 浮遊感に包まれる前に、確かにそう聞こえた。

「その玉を使わずに済むことを祈る――」

 声が消えていったと思った時には、塔の中央でへたり込んでいた。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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