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戦いの果てに3

 それと同時に大量の赤が舞う。視線を落とすと、あるべき筈の剣の姿も消えている。
 こんなことは、あってはいけない。救える筈の命も消えてしまう。
 咄嗟にクラウの身体に抱き着き、ワープを試みる。あのダイヤの会議室をしっかりと思い浮かべた筈だった。それなのに、ワープが出来ない。二回、三回、それ以上、何回も試しても駄目だった。
 百年前のあの時が思い返される。影を倒した後、ヴィクトにワープを促された。しかし、いくら念じてもワープは叶わなかった。
 きっと呪いの影響だ。確実に私を仕留める為に、魔法が使えなくなっているのだ。嫌だ。こんなの、絶対に認めない。悔しくて涙が溢れる。
 そんな時、クラウが呻き声を上げたのだ。ゆっくりと瞼を開け、私の顔を見詰める。

「ミユ......」

「クラウ!」

「無事......?」

 こんな時にまで、私の身を案じるなんて。

「私は......大丈夫だから......!」
 
 大きく頷いてみせると、クラウはにっこりと微笑むのだ。痛くて、苦しくてどうしようもない筈なのに。きっとクラウなりの、精一杯の笑顔なのだろう。

「良かっ......た......」

 何も良くなんかない。大粒の涙が私の心を表すように流れ落ちる。

「ミユ......?」

 クラウは眉をひそめると、右手をこちらに差し伸べようとしてくれる。その手は震え、心許ない。
 私も手を取ろうと左手を伸ばす。しかし、触れるか触れないかというところで、握る前に私の手を擦り抜け、力なく地面に横たえられたのだ。
 慌てて顔を見てみると、柔らかな笑みを湛えたまま、瞼は静かに閉じられていた。

「クラウ?」

 嫌だ。こんなの、認められる筈がない。

「ねえ、起きて! 起きてよぉ......!」

 クラウの身体を抱き寄せ、その胸に縋りついた。その時に、確かに聞こえたのだ。小さな呼吸音が。まだ生きている。このまま死なせる訳にはいかない。小さな希望が強い光となって私を突き動かす。

「アレク! フレア! お願いだから、来てぇ!」

 百年前のように矢が降ってくるのなら、三人を巻き込みかねない。カノンを救おうとしたリエルさえ巻き込まなかったことを忘れ、クラウから離れ、距離を置く。

「クラウはまだ助かるから! 早くダイヤに帰してあげてぇ!」

「ミユ! オマエは何しようとしてる!?」

「私は......。私は......!」

 ごめんなさい。
 私の名を呼ぶアレクとフレアに返事をすることもなく、誰もいない花畑へと走り出す。殺すなら、私だけを殺せば良い。走って、走って、数十メートル離れると、ようやく足を止めた。
 来るであろう物に怯むことなく、澄み渡った天を睨みつけた。と言いたいところだけれど、やはり怖い。足も、手も震えている。
 それから間もなくだった。空気を引き裂き、嫌な高音を発しながら矢が迫る。それは私に当たる事なく、地面へと突き刺さった。

「やだなぁ。死にたくないんだけど......」

 後退り、呟いた。
 声が震えている。両目から水が滴り落ちる。

「でも、ごめんね。私、駄目みたい」

 せめて、三人は幸せに寿命を全う出来ますように。祈りながら、堪らずにしゃがみ込んだ。
 矢が次から次へと降ってくる。そのうちの一本は右太腿を掠った。

「今度は千年......待たせちゃうのかなぁ......」

 また地球へと転生出来なければ、そうなってしまうのだろう。

「クラウ、ごめんね」

 何より、たった一人遺されるクラウが不憫で仕方がない。
 出逢ってから今までのことが思い返される。
 優しくされても、訳が分からずに突っぱねてしまったこともあった。不安や不満をぶつけてしまうことだってあった。イライラして当たり散らしてしまうことだってあった。それなのに、優しい眼差しは一切変わらなかった。
 どうして呪いなんかかけたのだろう。殺すだけでも十分なのに。嘆いても現実は変わらない。
 そして、一本の矢が私の胸を射抜いた。

「あッ......!」

 煮え滾るような熱さと壮絶な痛みが私を襲う。耐え切れずに、地面へと倒れ込んだ。
 想像していたよりも、ずっと苦しい。両手で胸を押さえつけ、必死に酸素を求める。それでも、酸素が足りない。目が霞む。
 天を仰ぎ見て、ああ、空が青いな、と思った。

 異世界に飛ばされた時は、今すぐに日本へ帰りたいと思っていました。
 でも、そんな思いは貴方のせいで搔き消されました。
 いつの間にか、胸は高鳴り、貴方の事を目で追うようになっていました。
 私も同じ気持ちです。
 貴方の事を愛しています。
 だから、どうか私の事は忘れて、幸せな千年を生きてください。
 代わりに私が貴方の事を覚えているから。
 苦しむのは私だけで十分だから――。
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手紙1
神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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戦いの果てに3

 それと同時に大量の赤が舞う。視線を落とすと、あるべき筈の剣の姿も消えている。
 こんなことは、あってはいけない。救える筈の命も消えてしまう。
 咄嗟にクラウの身体に抱き着き、ワープを試みる。あのダイヤの会議室をしっかりと思い浮かべた筈だった。それなのに、ワープが出来ない。二回、三回、それ以上、何回も試しても駄目だった。
 百年前のあの時が思い返される。影を倒した後、ヴィクトにワープを促された。しかし、いくら念じてもワープは叶わなかった。
 きっと呪いの影響だ。確実に私を仕留める為に、魔法が使えなくなっているのだ。嫌だ。こんなの、絶対に認めない。悔しくて涙が溢れる。
 そんな時、クラウが呻き声を上げたのだ。ゆっくりと瞼を開け、私の顔を見詰める。

「ミユ......」

「クラウ!」

「無事......?」

 こんな時にまで、私の身を案じるなんて。

「私は......大丈夫だから......!」
 
 大きく頷いてみせると、クラウはにっこりと微笑むのだ。痛くて、苦しくてどうしようもない筈なのに。きっとクラウなりの、精一杯の笑顔なのだろう。

「良かっ......た......」

 何も良くなんかない。大粒の涙が私の心を表すように流れ落ちる。

「ミユ......?」

 クラウは眉をひそめると、右手をこちらに差し伸べようとしてくれる。その手は震え、心許ない。
 私も手を取ろうと左手を伸ばす。しかし、触れるか触れないかというところで、握る前に私の手を擦り抜け、力なく地面に横たえられたのだ。
 慌てて顔を見てみると、柔らかな笑みを湛えたまま、瞼は静かに閉じられていた。

「クラウ?」

 嫌だ。こんなの、認められる筈がない。

「ねえ、起きて! 起きてよぉ......!」

 クラウの身体を抱き寄せ、その胸に縋りついた。その時に、確かに聞こえたのだ。小さな呼吸音が。まだ生きている。このまま死なせる訳にはいかない。小さな希望が強い光となって私を突き動かす。

「アレク! フレア! お願いだから、来てぇ!」

 百年前のように矢が降ってくるのなら、三人を巻き込みかねない。カノンを救おうとしたリエルさえ巻き込まなかったことを忘れ、クラウから離れ、距離を置く。

「クラウはまだ助かるから! 早くダイヤに帰してあげてぇ!」

「ミユ! オマエは何しようとしてる!?」

「私は......。私は......!」

 ごめんなさい。
 私の名を呼ぶアレクとフレアに返事をすることもなく、誰もいない花畑へと走り出す。殺すなら、私だけを殺せば良い。走って、走って、数十メートル離れると、ようやく足を止めた。
 来るであろう物に怯むことなく、澄み渡った天を睨みつけた。と言いたいところだけれど、やはり怖い。足も、手も震えている。
 それから間もなくだった。空気を引き裂き、嫌な高音を発しながら矢が迫る。それは私に当たる事なく、地面へと突き刺さった。

「やだなぁ。死にたくないんだけど......」

 後退り、呟いた。
 声が震えている。両目から水が滴り落ちる。

「でも、ごめんね。私、駄目みたい」

 せめて、三人は幸せに寿命を全う出来ますように。祈りながら、堪らずにしゃがみ込んだ。
 矢が次から次へと降ってくる。そのうちの一本は右太腿を掠った。

「今度は千年......待たせちゃうのかなぁ......」

 また地球へと転生出来なければ、そうなってしまうのだろう。

「クラウ、ごめんね」

 何より、たった一人遺されるクラウが不憫で仕方がない。
 出逢ってから今までのことが思い返される。
 優しくされても、訳が分からずに突っぱねてしまったこともあった。不安や不満をぶつけてしまうことだってあった。イライラして当たり散らしてしまうことだってあった。それなのに、優しい眼差しは一切変わらなかった。
 どうして呪いなんかかけたのだろう。殺すだけでも十分なのに。嘆いても現実は変わらない。
 そして、一本の矢が私の胸を射抜いた。

「あッ......!」

 煮え滾るような熱さと壮絶な痛みが私を襲う。耐え切れずに、地面へと倒れ込んだ。
 想像していたよりも、ずっと苦しい。両手で胸を押さえつけ、必死に酸素を求める。それでも、酸素が足りない。目が霞む。
 天を仰ぎ見て、ああ、空が青いな、と思った。

 異世界に飛ばされた時は、今すぐに日本へ帰りたいと思っていました。
 でも、そんな思いは貴方のせいで搔き消されました。
 いつの間にか、胸は高鳴り、貴方の事を目で追うようになっていました。
 私も同じ気持ちです。
 貴方の事を愛しています。
 だから、どうか私の事は忘れて、幸せな千年を生きてください。
 代わりに私が貴方の事を覚えているから。
 苦しむのは私だけで十分だから――。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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