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宿敵1

 これは俺の完全なる一目惚れだ。
 ヴィクトの隣に佇むあどけない少女を見た瞬間、心臓が高鳴った。
 焦茶の長い髪に、金色のくりくりとした円らな瞳――今まで見てきた、驕り高ぶった貴族の令嬢とは全く違う。アイリスも傲慢ではないが、俺の好みには当てはまらなかった。

「あ、あの......?」

 その小さな口から紡がれる声も鈴の音のように可愛らしい。

「あぁ、コイツはリエルで、こっちはカノンだ。オマエら、挨拶はなしか?」

「あっ、ごめんなさい! よろしくお願いします」

「よろしくね」

 ぺこりとお辞儀をする少女――カノンに、何とか声を振り絞った。顔も熱を持っているから、恐らく赤くなっているだろう。

「アイリスはちょっと遅れてるみてーだな。先に座って待ってようぜ」

「うん」

 俺の返事に僅か遅れて、カノンも小さく頷いた。
 二十席並ぶテーブルのうち、いつの間にか定位置となっていた中央の席へと近づく。向かいにはヴィクト、その隣はアイリスなので、必然的にアイリスの向かい側、俺の右隣の席にカノンが座ることとなった。
 嫌でも右半身が緊張で強張ってしまう。

「カノン、何か聞きてーことはあるか?」

「う~んと......。皆の誕生日はいつ?」

「あ? オレは九月八日だ」

「俺は十二月一日」

 答えると、カノンの表情はぱっと明るくなっていく。

「やっぱり! 皆、誕生日に魔導師になったんだね~」

「じゃー、オマエは三日前が誕生日か?」

「うん!」

 ニコニコと笑うカノンが太陽のように眩しい。
 ぼんやりとカノンの顔を眺めていると、その向こうで扉が鈍い音を立てて開いたのだ。

「遅くなってごめんなさい」

「いや、気にすんな。何かガーネットで用事があったんだろ?」

「うん、そうだけど......」

 アイリスは申し訳なさそうにカノンへ頭を下げた。カノンは小首を傾げる。

「貴女は誰?」

「あたしはアイリスだよ。よろしくね」

「よろしくお願いします」

 意識がぼんやりとする。
 カノンもその場でお辞儀をしたところで、はっと瞼を開けた。
 一瞬、自分自身が誰だか分からなくなってしまった。

「やっと起きましたか」

「カイル?」

 視線を天井からドアの方へと移してみる。
 ベッドの傍で苦笑いをするカイルの姿があった。

「もう会議のお時間ですよ」

「えっ!?」

 時計の針を見てみれば、十二時五十五分を指している。
 もうミユはダイヤに到着してしまっただろうか。
 昼食を食べていないことも忘れ、ベッドから跳ね起きた。

「もう行きますか?」

「当たり前だよ」

 アレクとフレアはともかく、ミユを待たせる訳にはいかない。
 カイルの次の言葉を待つ間もなく、ワープを試みる。視界は光に遮られ、そっと瞼を閉じた時だった。
 何かどす黒い邪気のようなものを感じ取ったのだ。この感じは、三日前に感じた気配に似ている。それでいて、殺気はもっと強い。
 瞼を開けると、もう既に会議室の前へと移動していた。たとえ、すぐにサファイアへ帰ったとしても、気配の主は姿を消しているだろう。気配の正体を知る術は残されていなかった。

「クラウ様、三日前におっしゃっていた気配って、今の......」

「うん、今のはそれよりももっと殺気が強い」

 この気配は、やはりカノンを殺した相手――。
 駄目だ。認めては、俺の過去だけではなく、カノンが散った意味もなくしてしまう。首を強く横に振り、片手で頭を抱えた。

「大丈夫ですか?」

「うーん......」

「クラウ様、今のことはすぐにアレク様とフレア様に報告してください。私は使い魔たちに報告してきますので」

「うん」

 言い切ると口を結び、眉をひそめる。
 カイルとはそこで別れ、会議室の扉をくぐった。
 時間ギリギリになってしまっていたから、アレクは既に到着していた。フレアの姿はない。
 俺の顔を見たアレクは、すぐに俺の身に何か起きたことを察知し、勢い良く椅子から立ち上がる。

「何があった?」

「うん、さっき――」

「きゃーっ!」

 この叫び声は、間違える筈がない。ミユだ。会議室の外から聞こえる。
 嫌だ。ミユが殺されるなんて絶対に嫌だ。考えるよりも早く、足が動いていた。床を蹴り、扉を乱暴に押し開ける。

「ミユ!?」

 そこには困惑した表情のミユと、少しだけ驚いた様子のアリアが立っていた。

「お二人とも、ミユ様は大丈夫です。ウサギの姿の私を見たのが初めてだっただけですから」

「良かった......」

 何事もなくて本当に良かった。
 腰が抜けてしまい、ストンと床に崩れ落ちた。

「何で、何で二人ともビックリしないの!? ウサギがアリアになったんだよ!?」

 ミユは両手で拳を作り、俺たちを見遣る。

「何でって言われてもなあ?」

「うん、元々アリアはウサギだし」

「え~っ!?」

 カイルがイヌの姿になる所を散々見てきた俺にとって、ウサギがアリアになることなど全く不思議ではなかった。
 その時、ミユと俺との間にフレアが現れたのだ。フレアはこちらを向き、小首を傾げる。

「アレク? クラウ? 何してるの?」

「ミユが初めてウサギのアリアを見たらしい。んで、ミユの悲鳴が聞こえて、な?」

「うん」

「成程ねぇ......」

 曖昧に返事をすると、フレアは納得したように吐息を吐き出した。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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宿敵1

 これは俺の完全なる一目惚れだ。
 ヴィクトの隣に佇むあどけない少女を見た瞬間、心臓が高鳴った。
 焦茶の長い髪に、金色のくりくりとした円らな瞳――今まで見てきた、驕り高ぶった貴族の令嬢とは全く違う。アイリスも傲慢ではないが、俺の好みには当てはまらなかった。

「あ、あの......?」

 その小さな口から紡がれる声も鈴の音のように可愛らしい。

「あぁ、コイツはリエルで、こっちはカノンだ。オマエら、挨拶はなしか?」

「あっ、ごめんなさい! よろしくお願いします」

「よろしくね」

 ぺこりとお辞儀をする少女――カノンに、何とか声を振り絞った。顔も熱を持っているから、恐らく赤くなっているだろう。

「アイリスはちょっと遅れてるみてーだな。先に座って待ってようぜ」

「うん」

 俺の返事に僅か遅れて、カノンも小さく頷いた。
 二十席並ぶテーブルのうち、いつの間にか定位置となっていた中央の席へと近づく。向かいにはヴィクト、その隣はアイリスなので、必然的にアイリスの向かい側、俺の右隣の席にカノンが座ることとなった。
 嫌でも右半身が緊張で強張ってしまう。

「カノン、何か聞きてーことはあるか?」

「う~んと......。皆の誕生日はいつ?」

「あ? オレは九月八日だ」

「俺は十二月一日」

 答えると、カノンの表情はぱっと明るくなっていく。

「やっぱり! 皆、誕生日に魔導師になったんだね~」

「じゃー、オマエは三日前が誕生日か?」

「うん!」

 ニコニコと笑うカノンが太陽のように眩しい。
 ぼんやりとカノンの顔を眺めていると、その向こうで扉が鈍い音を立てて開いたのだ。

「遅くなってごめんなさい」

「いや、気にすんな。何かガーネットで用事があったんだろ?」

「うん、そうだけど......」

 アイリスは申し訳なさそうにカノンへ頭を下げた。カノンは小首を傾げる。

「貴女は誰?」

「あたしはアイリスだよ。よろしくね」

「よろしくお願いします」

 意識がぼんやりとする。
 カノンもその場でお辞儀をしたところで、はっと瞼を開けた。
 一瞬、自分自身が誰だか分からなくなってしまった。

「やっと起きましたか」

「カイル?」

 視線を天井からドアの方へと移してみる。
 ベッドの傍で苦笑いをするカイルの姿があった。

「もう会議のお時間ですよ」

「えっ!?」

 時計の針を見てみれば、十二時五十五分を指している。
 もうミユはダイヤに到着してしまっただろうか。
 昼食を食べていないことも忘れ、ベッドから跳ね起きた。

「もう行きますか?」

「当たり前だよ」

 アレクとフレアはともかく、ミユを待たせる訳にはいかない。
 カイルの次の言葉を待つ間もなく、ワープを試みる。視界は光に遮られ、そっと瞼を閉じた時だった。
 何かどす黒い邪気のようなものを感じ取ったのだ。この感じは、三日前に感じた気配に似ている。それでいて、殺気はもっと強い。
 瞼を開けると、もう既に会議室の前へと移動していた。たとえ、すぐにサファイアへ帰ったとしても、気配の主は姿を消しているだろう。気配の正体を知る術は残されていなかった。

「クラウ様、三日前におっしゃっていた気配って、今の......」

「うん、今のはそれよりももっと殺気が強い」

 この気配は、やはりカノンを殺した相手――。
 駄目だ。認めては、俺の過去だけではなく、カノンが散った意味もなくしてしまう。首を強く横に振り、片手で頭を抱えた。

「大丈夫ですか?」

「うーん......」

「クラウ様、今のことはすぐにアレク様とフレア様に報告してください。私は使い魔たちに報告してきますので」

「うん」

 言い切ると口を結び、眉をひそめる。
 カイルとはそこで別れ、会議室の扉をくぐった。
 時間ギリギリになってしまっていたから、アレクは既に到着していた。フレアの姿はない。
 俺の顔を見たアレクは、すぐに俺の身に何か起きたことを察知し、勢い良く椅子から立ち上がる。

「何があった?」

「うん、さっき――」

「きゃーっ!」

 この叫び声は、間違える筈がない。ミユだ。会議室の外から聞こえる。
 嫌だ。ミユが殺されるなんて絶対に嫌だ。考えるよりも早く、足が動いていた。床を蹴り、扉を乱暴に押し開ける。

「ミユ!?」

 そこには困惑した表情のミユと、少しだけ驚いた様子のアリアが立っていた。

「お二人とも、ミユ様は大丈夫です。ウサギの姿の私を見たのが初めてだっただけですから」

「良かった......」

 何事もなくて本当に良かった。
 腰が抜けてしまい、ストンと床に崩れ落ちた。

「何で、何で二人ともビックリしないの!? ウサギがアリアになったんだよ!?」

 ミユは両手で拳を作り、俺たちを見遣る。

「何でって言われてもなあ?」

「うん、元々アリアはウサギだし」

「え~っ!?」

 カイルがイヌの姿になる所を散々見てきた俺にとって、ウサギがアリアになることなど全く不思議ではなかった。
 その時、ミユと俺との間にフレアが現れたのだ。フレアはこちらを向き、小首を傾げる。

「アレク? クラウ? 何してるの?」

「ミユが初めてウサギのアリアを見たらしい。んで、ミユの悲鳴が聞こえて、な?」

「うん」

「成程ねぇ......」

 曖昧に返事をすると、フレアは納得したように吐息を吐き出した。
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神々の奇想四重奏作者:七宮叶歌
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