ホームハサミが、刻んだ景色。第5話「ようこそHWCへ。」
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第5話「ようこそHWCへ。」

HAIRSTYLIST WORLD CHAMPIONSHIP
通称HWC 和訳・美容師世界選手権


大会理念・競技規程

第1章 大会理念

技術に、完成はない。
昨日の革新は、今日の標準となり、
今日の最先端は、明日の歴史となる。

HWCは、永久の世界一を決める大会ではない。
異なる文化、異なる技術、異なる美意識を持つ美容師たちが同じ舞台に立ち、
その年、その瞬間における最高の技術と創造を競う。
誰が作ったかではなく、何を作ったか。
誰に評価されるかではなく、自ら何を提示するか。
世界一とは、守られる称号ではない。
毎年、新しく証明されるものである


第1条 目的
Hairstylist World Championship(以下「HWC」という)は、世界各国および各地域を代表する美容師が、
その技術、創造性、表現力、適応力および美容文化に対する理解を競い、その年における世界最高峰の美容師を選出することを目的とする。
HWCは、特定の技法、流派、店舗、企業、国家、地域または美容文化の優劣を決定するものではない。
美容技術と美的価値は、時代、文化、生活様式および社会の変化とともに常に更新されるものである。
したがってHWCにおける世界王者とは、永久的な「世界最高の美容師」を意味するものではなく、
大会が開催されたその年、その時点において、最も高い総合評価を得た美容師を意味する。


第2条 基本理念
HWCは、次の理念を大会運営の根幹とする。
技術(Technique)
世界最高峰の美容師に求められる正確かつ高度な施術能力。
創造(Creation)
既存の様式を再現するだけではなく、新たな価値を提示する能力。
解釈(Interpretation)
与えられたテーマを自ら理解し、独自の表現へ変換する能力。
適応(Adaptability)
髪質、骨格、体格、人種的・文化的背景等の異なるモデルに対し、適切な施術を構築する能力。
革新(Innovation)
現在の流行を追うだけでなく、その先にある美容文化の可能性を提示する能力。
公平(Fairness)
国籍、人種、性別、年齢、所属、知名度、過去の実績その他作品そのものと無関係な要素を、可能な限り審査から排除すること。


第2章 参加資格

第3条 加盟国・地域
HWCへの参加資格は、HWC国際委員会が承認した加盟国または加盟地域に属する美容師に与えられる。
HWCにおける「国・地域」の定義は、国際連合その他の国際機関における国家承認とは必ずしも一致しない。
HWC国際委員会が独立した加盟地域として承認した場合、モナコ・台湾、香港、マカオ、プエルトリコ等の地域、
およびイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド等についても、それぞれ独立した代表資格を認めることができる。
HWCは、政治的国家承認ではなく、美容文化と競技機会の国際的拡大を加盟制度の基本原則とする。


第3章 世界大会への選抜

第4条 国内公認大会
各加盟国・地域は、毎年4月、6月および8月を基本として、HWC公認国内大会を計3回開催する。
3大会の総合成績上位5名に、地域大会への出場資格を与える。
単一大会のみの成績によって代表を決定しないことにより、一時的な好不調に左右されず、年間を通じて高い競技能力を示した美容師を選出する。

第5条 地域大会
国内選抜者は、以下の7地域のいずれかに所属し、地域大会へ出場する。
アジア、アフリカ、北アメリカ、南アメリカ、西ヨーロッパ、東ヨーロッパ、オセアニア。
各地域大会の上位5名、計35名にHWC世界大会本選への出場資格を与える。



第4章 世界大会

第6条 開催
HWC世界大会本選は、原則として毎年12月23日、フランス・パリにおいて開催する。
12月開催は、その年に生まれた技術、流行、文化的変化および美容表現を可能な限り反映した状態で、そ
の年の世界一を決定するというHWCの理念に基づく。
前年の世界王者であっても、翌年の優勝を保証されない。


第5章 競技

第7条 競技種目
世界大会本選は、一競技によって行う。
大会当日に発表されるテーマに基づき、抽選によって決定された実在モデルに対して作品を制作する。
世界大会本選へ進出した35名は、国内大会および地域大会を通じ、既に世界最高水準の基礎技術を有することを証明した美容師である。
世界大会では、その技術を前提として、競技者がテーマをいかに解釈し、モデルに適応し、ひとつの作品として何を提示するかを競う。

第8条 テーマ
テーマは大会当日、全競技者に対して同時に発表する。
事前公開を行わない。
テーマは、特定の完成形を要求するものではなく、競技者による解釈を必要とする抽象的表現を原則とする。
例:
「時間を止めたくなる髪型」
「1980年代と1990年代を融合させた髪型」
「希望と絶望が漂う紳士淑女の髪型」
HWCはテーマに対する唯一の正解を定めない。
テーマをどのように理解し、どのような答えとして提示したかも競技能力の一部とする。


第6章 モデル

第9条 モデル抽選
フリー競技で担当するモデルは抽選によって決定する。
競技者によるモデルの事前指定、交換および選択を認めない。
モデルは特定の人種、国籍、髪質、骨格、身長、体格等に偏らないよう大会委員会が選定する。
世界一を競う美容師には、特定の髪質または人物像に限定されない総合的な適応能力が求められる。


第7章 審査委員会

第10条 審査員
世界大会本選の審査は、9名の審査員によって行う。
審査員は毎年改選する。
7名はHWCが定める各地域から原則1名ずつ選出し、残る2名は全加盟国・地域を対象として選出する。
審査員の国籍、人種、性別、年齢および専門領域が過度に偏らないよう配慮する。


第11条 審査員資格
審査員は美容師に限定しない。
美容、美容教育、映画、舞台、ファッション、出版、芸術、デザイン、美容産業その他、
HWC国際委員会が美容文化の評価に必要と認める分野において、顕著な実績を有する者から選出する。
例として、
世界的映画作品において長年ヘアデザインを担当した者、
国際的ファッション誌の編集責任者、
HWCとは異なる国際美容競技会の複数回優勝者、
世界的に普及したカット技法を考案・体系化した者、
美容教育または美容器具・技術開発に長年携わった者、
などを含む。
知名度そのものは選考基準としない。



第8章 審査員秘匿制度

第12条 事前非公開
審査員9名の氏名は、大会当日まで競技者、観客、報道機関および一般に公開しない。
これは競技者による、
「特定審査員が好む作風」
「過去の採点傾向」
「特定地域への評価傾向」
等を利用した事前対策を防止することを目的とする。
HWCは、審査員に合わせた作品ではなく、競技者自身が最善と考える作品を求める。


第9章 匿名審査

第13条 競技者と審査員の隔離

競技中、審査員は競技会場へ入場しない。
審査員は別室に待機し、競技中継、実況、報道その他競技者を特定し得る情報への接触を禁止される。
競技終了後、全競技者が会場から退出し、指定控室へ移動したことを大会運営委員が確認した後、審査員を競技会場へ入場させる。
審査員には各作品の制作者について、氏名、国籍・地域、所属店舗、過去の大会成績、知名度その他個人を特定し得る情報を提供しない。


第14条 審査員発表
競技終了後、競技者の退出を確認したのち、審査員9名を会場の観客および公式中継視聴者に対して初めて公表する。
ただし競技者は審査終了まで隔離状態を維持する。
競技者が審査員9名の氏名および経歴を正式に知るのは、全審査終了後の表彰式を原則とする。


第10章 審査

第15条 審査時間
審査時間に一律の上限を設けない。
審査員は必要と認める限り作品を確認し、既に確認した作品へ戻って再審査することができる。
大会運営上の標準時間は設定することができるが、審査の正確性および審査員の判断を理由なく制限してはならない。

第16条 評価原則
HWCは、世界大会本選へ進出した35名について、既に世界最高水準の美容技術を有する競技者であることを前提とする。
審査員は、技術的完成度、創造性、独自性、テーマの解釈、モデルとの調和、革新性、造形、時代性その他作品を構成する要素について、総合的に審査する。
各評価項目のいずれか一つをもって、作品の最終評価を決定してはならない。
審査員は、自己の知識、経験および専門性に基づき、提示された作品について独立して評価し、その採点に責任を負う。
HWCは、特定の技法、様式、流派または美的価値観を、世界標準としてあらかじめ定めない。


第11章 得点および順位

第17条 審査の独立性
審査員9名は、それぞれ独立して採点を行う。
審査中、審査員相互による作品評価、採点、順位その他審査内容に関する意見交換を禁止する。
審査員は、他の審査員が行った採点を閲覧し、またはその内容を知ることができない。
個々の審査員による作品別採点は非公開とし、競技者、観客、報道機関その他第三者に開示しない。
採点結果の集計および管理は、大会実行委員会が行う。
審査員は、自己の知識、経験および専門性に基づいて行った採点について、自ら責任を負う。

第18条 審査監督
審査中は、大会実行委員会が任命する審査監督員を競技会場内に配置する。
審査監督員は、審査員による作品への接触、作品を損傷または変形させるおそれのある行為、
審査員相互の意見交換、採点情報の共有その他審査の独立性または公平性を損なう行為が行われていないことを確認する。
審査監督員は、審査員による作品評価、採点その他専門的判断に介入してはならない。
審査の模様は、採点情報その他秘密を保持すべき事項を除き、HWC公式映像として公開する。
HWCは、審査結果のみならず、その結果に至る手続きについても公正であることを原則とする。


第19条 採点および順位

第17条に基づき提出された9名の審査員の採点は、大会実行委員会が集計する。
9名の審査員による採点の平均値を競技者の得点とし、0.1点単位まで算出する。
得点が最も高い競技者を第1位および当該年度HWC世界王者とし、以下、得点の高い順に順位を決定する。
世界大会本選の公式順位として、第1位から第5位までを公表する。
第6位以下の競技者については、公式順位を一般に公表しない。
ただし、各競技者に対しては、本人の最終順位および得点を個別に通知する。
順位の非公表は、世界大会本選進出者が既に世界最高水準の競技者であるとのHWCの原則に基づくものであり、
採点または順位そのものを行わないことを意味しない



第20条 同点
総合得点が同点となった場合、当該競技者に2時間以上の休憩を与えた後、
延長競技を実施する。
延長競技の競技条件は、本選競技に準ずる。
HWC創設以来、世界王者の決定に延長競技を要した例はない。



第12章 表彰
第21条 公式表彰
HWCが競技者に授けるものは、その年の競技結果と三つのメダルのみである。
第1位 金メダル・世界王者
第2位 銀メダル
第3位 銅メダル
技能賞、敢闘賞、審査員特別賞、賞金、その他これらに類する副次的な公式賞は設けない。
世界大会本選へ進出した35名は、既に国内および地域大会を突破した最高水準の美容師である。
HWCは努力、健闘または参加そのものを順位とは別に評価する大会ではない。
世界一を決定することを、その使命とする。





世界大会の表彰式は、歓声と熱気に包まれていた。
眩いスポットライトが照らし出すステージの上、金、銀、銅のメダルを胸に抱いた三人の美容師が、万雷の拍手と紙吹雪を浴びている。
溢れる笑顔、涙する者、互いを称え合う抱擁。そこには、世界最高峰を掴み取った者たちだけに許された完璧な光芒があった。

その光のほんの数メートル外側、暗がりとなった舞台袖で、宮田弥生は己のハサミを握りしめて立ち尽くしていた。


「――四位、宮田弥生」

表彰台のモニターに表示されたその順位は、残酷なまでに無機質だった。


一年前の初出場。
あの時は見えない重圧に飲まれ、ハサミを持つ手すら自分のものではないように震えた。
自分本来の力量の半分も出せないまま惨敗し、負けるべくして負けた。
周囲からは「アジアのレベルの低さ」を囁かれ、叩かれ、ただただ己の無力を噛み締めるしかなかった。

だからこそ、この一年間、弥生は血を吐くような努力を重ねてきた。
国内大会を圧倒的なトップポイントで制し、アジア大会も二年連続で制覇。満を持して挑んだ二度目のパリ。

今回は緊張しなかった。ハサミは指先と一体化し、イメージ通りのラインを描いた。予定通りのカット、狂いのないタイム配分、ミスのない完璧な施術。

実力は、すべて出し切った。 逃げ道は、どこにもなかった。
「力が出せなかった」と言い訳できた一年前の方が、どれほど楽だったろう。

「4位=私は世界で4番目 」と正面から突きつけられた事実は、胸を刃物でえぐられるよりも痛かった。
表彰台に登れるのは三位まで。四位は、三十五位となにも変わらない。目の前で他人が掲げる輝かしいメダルを、ただ眺めることしかできない存在。

「弥生ちゃん、すごいじゃない! 世界で四位だよ!?」
帰国後、周りの人間は口々にそう言って祝福してくれた。
悪気がないのは分かっている。
だが、その言葉を聞くたびに、弥生の心には冷たい風が吹き抜けた。

世界一を目指す人間にとって、四位は「あと一歩」の健闘賞などではない。
「お前には世界一になるための何かが根本的に足りない」という、刻印のような証明だった。

自室の鏡の前で、弥生は何度も自分の作品の写真を見返した。
そして、今大会の優勝者、二位、三位の作品写真を並べる。

なぜだ。何が違う? 技術の精度なら負けていない。

ラインの美しさも、毛束の収まりも、自分のカットは正確だったはずだ。
ミスもなかった。
それなのに、なぜ私の前には、絶対に超えられない壁のように三人の人間が立っているのか。

「......何が、私にない......?」
闇雲にハサミを動かしても、答えは出なかった。
自分の敗北を直視し、解剖し、理由を見つけ出す作業は、己の肉を削ぎ落とすような苦痛を伴う。
だが、この悔しさを抱えたまま立ち止まることだけは、絶対に嫌だった。

弥生はハサミを持ち直し、新しいウィッグ(練習用マネキン)に向き合った。髪に刃を入れる。一筋の毛束が落ちる。

(足りないのは、技術じゃない。度胸でもない。......もっと別の、私が見落としている“何か”がある)
夜が明けるまで、ハサミの音だけが静かな部屋に響き続けた。

完璧に切れたはずのスタイルを崩し、また最初から作り直す。見つからない答えを探して、闇の中を手探りで進むような日々が、再び始まった。

アジアの頂点に立ちながら、世界の頂には届かない。 その果てしないギャップの正体を知るまでは、決して足を止めるわけにはいかなかった。



ある日、 サロンのバックヤードで、国内大会の予選に落ちて落ち込む若手美容師が、涙を浮かべて弥生に問いかけていた。

「宮田さん......私、何が悪かったんでしょうか。どこを直せば、勝てるようになりますか? 答えを教えてください......!」

弥生は静かにハサミをケースに収めると、若手美容師の目を見つめ返した。

その瞳には、かつてパリの夜に孤独と戦い抜いた者だけが持つ、深く静かな強さが宿っていた。

弥生は優しく、だが突き放すように微笑んだ。
「で、あなた自身は、自分の作品を見てどう思ったの?」

答えを教えるのは簡単だ。
だが、与えられた答えで掴んだ勝利など、世界の壁の前では簡単に打ち砕かれる。

敗北の暗闇の中で、自らの手で掴み取った光だけが、人を本当の強者へと引き上げるのだから。
三度目のHWCの国内大会の幕が、まもなく上がろうとしている。

暗闇のなかで探し続けた「答え」を携えて、宮田弥生は、三度目の世界最高峰の舞台へと歩みを進めるのだった。



第5話 完
第6話へつづく
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ハサミが、刻んだ景色。作者:夏目六華
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HAIRSTYLIST WORLD CHAMPIONSHIP
通称HWC 和訳・美容師世界選手権


大会理念・競技規程

第1章 大会理念

技術に、完成はない。
昨日の革新は、今日の標準となり、
今日の最先端は、明日の歴史となる。

HWCは、永久の世界一を決める大会ではない。
異なる文化、異なる技術、異なる美意識を持つ美容師たちが同じ舞台に立ち、
その年、その瞬間における最高の技術と創造を競う。
誰が作ったかではなく、何を作ったか。
誰に評価されるかではなく、自ら何を提示するか。
世界一とは、守られる称号ではない。
毎年、新しく証明されるものである


第1条 目的
Hairstylist World Championship(以下「HWC」という)は、世界各国および各地域を代表する美容師が、
その技術、創造性、表現力、適応力および美容文化に対する理解を競い、その年における世界最高峰の美容師を選出することを目的とする。
HWCは、特定の技法、流派、店舗、企業、国家、地域または美容文化の優劣を決定するものではない。
美容技術と美的価値は、時代、文化、生活様式および社会の変化とともに常に更新されるものである。
したがってHWCにおける世界王者とは、永久的な「世界最高の美容師」を意味するものではなく、
大会が開催されたその年、その時点において、最も高い総合評価を得た美容師を意味する。


第2条 基本理念
HWCは、次の理念を大会運営の根幹とする。
技術(Technique)
世界最高峰の美容師に求められる正確かつ高度な施術能力。
創造(Creation)
既存の様式を再現するだけではなく、新たな価値を提示する能力。
解釈(Interpretation)
与えられたテーマを自ら理解し、独自の表現へ変換する能力。
適応(Adaptability)
髪質、骨格、体格、人種的・文化的背景等の異なるモデルに対し、適切な施術を構築する能力。
革新(Innovation)
現在の流行を追うだけでなく、その先にある美容文化の可能性を提示する能力。
公平(Fairness)
国籍、人種、性別、年齢、所属、知名度、過去の実績その他作品そのものと無関係な要素を、可能な限り審査から排除すること。


第2章 参加資格

第3条 加盟国・地域
HWCへの参加資格は、HWC国際委員会が承認した加盟国または加盟地域に属する美容師に与えられる。
HWCにおける「国・地域」の定義は、国際連合その他の国際機関における国家承認とは必ずしも一致しない。
HWC国際委員会が独立した加盟地域として承認した場合、モナコ・台湾、香港、マカオ、プエルトリコ等の地域、
およびイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド等についても、それぞれ独立した代表資格を認めることができる。
HWCは、政治的国家承認ではなく、美容文化と競技機会の国際的拡大を加盟制度の基本原則とする。


第3章 世界大会への選抜

第4条 国内公認大会
各加盟国・地域は、毎年4月、6月および8月を基本として、HWC公認国内大会を計3回開催する。
3大会の総合成績上位5名に、地域大会への出場資格を与える。
単一大会のみの成績によって代表を決定しないことにより、一時的な好不調に左右されず、年間を通じて高い競技能力を示した美容師を選出する。

第5条 地域大会
国内選抜者は、以下の7地域のいずれかに所属し、地域大会へ出場する。
アジア、アフリカ、北アメリカ、南アメリカ、西ヨーロッパ、東ヨーロッパ、オセアニア。
各地域大会の上位5名、計35名にHWC世界大会本選への出場資格を与える。



第4章 世界大会

第6条 開催
HWC世界大会本選は、原則として毎年12月23日、フランス・パリにおいて開催する。
12月開催は、その年に生まれた技術、流行、文化的変化および美容表現を可能な限り反映した状態で、そ
の年の世界一を決定するというHWCの理念に基づく。
前年の世界王者であっても、翌年の優勝を保証されない。


第5章 競技

第7条 競技種目
世界大会本選は、一競技によって行う。
大会当日に発表されるテーマに基づき、抽選によって決定された実在モデルに対して作品を制作する。
世界大会本選へ進出した35名は、国内大会および地域大会を通じ、既に世界最高水準の基礎技術を有することを証明した美容師である。
世界大会では、その技術を前提として、競技者がテーマをいかに解釈し、モデルに適応し、ひとつの作品として何を提示するかを競う。

第8条 テーマ
テーマは大会当日、全競技者に対して同時に発表する。
事前公開を行わない。
テーマは、特定の完成形を要求するものではなく、競技者による解釈を必要とする抽象的表現を原則とする。
例:
「時間を止めたくなる髪型」
「1980年代と1990年代を融合させた髪型」
「希望と絶望が漂う紳士淑女の髪型」
HWCはテーマに対する唯一の正解を定めない。
テーマをどのように理解し、どのような答えとして提示したかも競技能力の一部とする。


第6章 モデル

第9条 モデル抽選
フリー競技で担当するモデルは抽選によって決定する。
競技者によるモデルの事前指定、交換および選択を認めない。
モデルは特定の人種、国籍、髪質、骨格、身長、体格等に偏らないよう大会委員会が選定する。
世界一を競う美容師には、特定の髪質または人物像に限定されない総合的な適応能力が求められる。


第7章 審査委員会

第10条 審査員
世界大会本選の審査は、9名の審査員によって行う。
審査員は毎年改選する。
7名はHWCが定める各地域から原則1名ずつ選出し、残る2名は全加盟国・地域を対象として選出する。
審査員の国籍、人種、性別、年齢および専門領域が過度に偏らないよう配慮する。


第11条 審査員資格
審査員は美容師に限定しない。
美容、美容教育、映画、舞台、ファッション、出版、芸術、デザイン、美容産業その他、
HWC国際委員会が美容文化の評価に必要と認める分野において、顕著な実績を有する者から選出する。
例として、
世界的映画作品において長年ヘアデザインを担当した者、
国際的ファッション誌の編集責任者、
HWCとは異なる国際美容競技会の複数回優勝者、
世界的に普及したカット技法を考案・体系化した者、
美容教育または美容器具・技術開発に長年携わった者、
などを含む。
知名度そのものは選考基準としない。



第8章 審査員秘匿制度

第12条 事前非公開
審査員9名の氏名は、大会当日まで競技者、観客、報道機関および一般に公開しない。
これは競技者による、
「特定審査員が好む作風」
「過去の採点傾向」
「特定地域への評価傾向」
等を利用した事前対策を防止することを目的とする。
HWCは、審査員に合わせた作品ではなく、競技者自身が最善と考える作品を求める。


第9章 匿名審査

第13条 競技者と審査員の隔離

競技中、審査員は競技会場へ入場しない。
審査員は別室に待機し、競技中継、実況、報道その他競技者を特定し得る情報への接触を禁止される。
競技終了後、全競技者が会場から退出し、指定控室へ移動したことを大会運営委員が確認した後、審査員を競技会場へ入場させる。
審査員には各作品の制作者について、氏名、国籍・地域、所属店舗、過去の大会成績、知名度その他個人を特定し得る情報を提供しない。


第14条 審査員発表
競技終了後、競技者の退出を確認したのち、審査員9名を会場の観客および公式中継視聴者に対して初めて公表する。
ただし競技者は審査終了まで隔離状態を維持する。
競技者が審査員9名の氏名および経歴を正式に知るのは、全審査終了後の表彰式を原則とする。


第10章 審査

第15条 審査時間
審査時間に一律の上限を設けない。
審査員は必要と認める限り作品を確認し、既に確認した作品へ戻って再審査することができる。
大会運営上の標準時間は設定することができるが、審査の正確性および審査員の判断を理由なく制限してはならない。

第16条 評価原則
HWCは、世界大会本選へ進出した35名について、既に世界最高水準の美容技術を有する競技者であることを前提とする。
審査員は、技術的完成度、創造性、独自性、テーマの解釈、モデルとの調和、革新性、造形、時代性その他作品を構成する要素について、総合的に審査する。
各評価項目のいずれか一つをもって、作品の最終評価を決定してはならない。
審査員は、自己の知識、経験および専門性に基づき、提示された作品について独立して評価し、その採点に責任を負う。
HWCは、特定の技法、様式、流派または美的価値観を、世界標準としてあらかじめ定めない。


第11章 得点および順位

第17条 審査の独立性
審査員9名は、それぞれ独立して採点を行う。
審査中、審査員相互による作品評価、採点、順位その他審査内容に関する意見交換を禁止する。
審査員は、他の審査員が行った採点を閲覧し、またはその内容を知ることができない。
個々の審査員による作品別採点は非公開とし、競技者、観客、報道機関その他第三者に開示しない。
採点結果の集計および管理は、大会実行委員会が行う。
審査員は、自己の知識、経験および専門性に基づいて行った採点について、自ら責任を負う。

第18条 審査監督
審査中は、大会実行委員会が任命する審査監督員を競技会場内に配置する。
審査監督員は、審査員による作品への接触、作品を損傷または変形させるおそれのある行為、
審査員相互の意見交換、採点情報の共有その他審査の独立性または公平性を損なう行為が行われていないことを確認する。
審査監督員は、審査員による作品評価、採点その他専門的判断に介入してはならない。
審査の模様は、採点情報その他秘密を保持すべき事項を除き、HWC公式映像として公開する。
HWCは、審査結果のみならず、その結果に至る手続きについても公正であることを原則とする。


第19条 採点および順位

第17条に基づき提出された9名の審査員の採点は、大会実行委員会が集計する。
9名の審査員による採点の平均値を競技者の得点とし、0.1点単位まで算出する。
得点が最も高い競技者を第1位および当該年度HWC世界王者とし、以下、得点の高い順に順位を決定する。
世界大会本選の公式順位として、第1位から第5位までを公表する。
第6位以下の競技者については、公式順位を一般に公表しない。
ただし、各競技者に対しては、本人の最終順位および得点を個別に通知する。
順位の非公表は、世界大会本選進出者が既に世界最高水準の競技者であるとのHWCの原則に基づくものであり、
採点または順位そのものを行わないことを意味しない



第20条 同点
総合得点が同点となった場合、当該競技者に2時間以上の休憩を与えた後、
延長競技を実施する。
延長競技の競技条件は、本選競技に準ずる。
HWC創設以来、世界王者の決定に延長競技を要した例はない。



第12章 表彰
第21条 公式表彰
HWCが競技者に授けるものは、その年の競技結果と三つのメダルのみである。
第1位 金メダル・世界王者
第2位 銀メダル
第3位 銅メダル
技能賞、敢闘賞、審査員特別賞、賞金、その他これらに類する副次的な公式賞は設けない。
世界大会本選へ進出した35名は、既に国内および地域大会を突破した最高水準の美容師である。
HWCは努力、健闘または参加そのものを順位とは別に評価する大会ではない。
世界一を決定することを、その使命とする。





世界大会の表彰式は、歓声と熱気に包まれていた。
眩いスポットライトが照らし出すステージの上、金、銀、銅のメダルを胸に抱いた三人の美容師が、万雷の拍手と紙吹雪を浴びている。
溢れる笑顔、涙する者、互いを称え合う抱擁。そこには、世界最高峰を掴み取った者たちだけに許された完璧な光芒があった。

その光のほんの数メートル外側、暗がりとなった舞台袖で、宮田弥生は己のハサミを握りしめて立ち尽くしていた。


「――四位、宮田弥生」

表彰台のモニターに表示されたその順位は、残酷なまでに無機質だった。


一年前の初出場。
あの時は見えない重圧に飲まれ、ハサミを持つ手すら自分のものではないように震えた。
自分本来の力量の半分も出せないまま惨敗し、負けるべくして負けた。
周囲からは「アジアのレベルの低さ」を囁かれ、叩かれ、ただただ己の無力を噛み締めるしかなかった。

だからこそ、この一年間、弥生は血を吐くような努力を重ねてきた。
国内大会を圧倒的なトップポイントで制し、アジア大会も二年連続で制覇。満を持して挑んだ二度目のパリ。

今回は緊張しなかった。ハサミは指先と一体化し、イメージ通りのラインを描いた。予定通りのカット、狂いのないタイム配分、ミスのない完璧な施術。

実力は、すべて出し切った。 逃げ道は、どこにもなかった。
「力が出せなかった」と言い訳できた一年前の方が、どれほど楽だったろう。

「4位=私は世界で4番目 」と正面から突きつけられた事実は、胸を刃物でえぐられるよりも痛かった。
表彰台に登れるのは三位まで。四位は、三十五位となにも変わらない。目の前で他人が掲げる輝かしいメダルを、ただ眺めることしかできない存在。

「弥生ちゃん、すごいじゃない! 世界で四位だよ!?」
帰国後、周りの人間は口々にそう言って祝福してくれた。
悪気がないのは分かっている。
だが、その言葉を聞くたびに、弥生の心には冷たい風が吹き抜けた。

世界一を目指す人間にとって、四位は「あと一歩」の健闘賞などではない。
「お前には世界一になるための何かが根本的に足りない」という、刻印のような証明だった。

自室の鏡の前で、弥生は何度も自分の作品の写真を見返した。
そして、今大会の優勝者、二位、三位の作品写真を並べる。

なぜだ。何が違う? 技術の精度なら負けていない。

ラインの美しさも、毛束の収まりも、自分のカットは正確だったはずだ。
ミスもなかった。
それなのに、なぜ私の前には、絶対に超えられない壁のように三人の人間が立っているのか。

「......何が、私にない......?」
闇雲にハサミを動かしても、答えは出なかった。
自分の敗北を直視し、解剖し、理由を見つけ出す作業は、己の肉を削ぎ落とすような苦痛を伴う。
だが、この悔しさを抱えたまま立ち止まることだけは、絶対に嫌だった。

弥生はハサミを持ち直し、新しいウィッグ(練習用マネキン)に向き合った。髪に刃を入れる。一筋の毛束が落ちる。

(足りないのは、技術じゃない。度胸でもない。......もっと別の、私が見落としている“何か”がある)
夜が明けるまで、ハサミの音だけが静かな部屋に響き続けた。

完璧に切れたはずのスタイルを崩し、また最初から作り直す。見つからない答えを探して、闇の中を手探りで進むような日々が、再び始まった。

アジアの頂点に立ちながら、世界の頂には届かない。 その果てしないギャップの正体を知るまでは、決して足を止めるわけにはいかなかった。



ある日、 サロンのバックヤードで、国内大会の予選に落ちて落ち込む若手美容師が、涙を浮かべて弥生に問いかけていた。

「宮田さん......私、何が悪かったんでしょうか。どこを直せば、勝てるようになりますか? 答えを教えてください......!」

弥生は静かにハサミをケースに収めると、若手美容師の目を見つめ返した。

その瞳には、かつてパリの夜に孤独と戦い抜いた者だけが持つ、深く静かな強さが宿っていた。

弥生は優しく、だが突き放すように微笑んだ。
「で、あなた自身は、自分の作品を見てどう思ったの?」

答えを教えるのは簡単だ。
だが、与えられた答えで掴んだ勝利など、世界の壁の前では簡単に打ち砕かれる。

敗北の暗闇の中で、自らの手で掴み取った光だけが、人を本当の強者へと引き上げるのだから。
三度目のHWCの国内大会の幕が、まもなく上がろうとしている。

暗闇のなかで探し続けた「答え」を携えて、宮田弥生は、三度目の世界最高峰の舞台へと歩みを進めるのだった。



第5話 完
第6話へつづく
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第6話「HWCは問う。」
ハサミが、刻んだ景色。作者:夏目六華
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